【コラム】韓国のグリーン政策を読み解く

2021年3月2日

2015年に開かれた第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)。ここでパリ協定が合意され、韓国は2016年に批准した。以降、EU全体で温室効果ガスの排出を実質ゼロとする「欧州グリーン政策」が公表され、環境と成長を同時に達成する挑戦が続いている。さらに、米国は民主党のバイデン政権発足後、パリ協定への復帰を果たした。

韓国は、国際的な潮流に歩調を合わせるかたちで、2020年7月に「韓国版ニューディール政策」を発表した。この政策は、産業構造の転換の手段としてのデジタル化、グリーン化を推進し、産業の創出や雇用の創出に重点を置く。一方、2020年12月に発表した「カーボンニュートラル推進戦略」は、温室効果ガスの削減を通じ、パリ協定を着実に履行していく総合政策の様相を示す。本稿ではこれら韓国のグリーン政策を概観し、今後の韓国の温室効果ガスの削減と産業政策の方向性を読み解く。

2030年までに温室効果ガス24.4%削減を目指す

韓国の温室効果ガス総排出量の最新値(2017年値)は、約7億910万トン〔CO2(二酸化炭素)換算、以下、CO2eq〕。産業の発展などに伴って過去最高の水準となった。2013年比で約1.7%上昇したことになる(表1参照)。

算定対象の排出源は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が作成した国際的な指針(IPCCガイドライン)に基づく。5つの分野〔(1)エネルギー、(2)工業プロセスおよび製品の使用(IPPU)、(3)農業、(4)土地利用・土地利用変化および林業(LULUCF)、(5)廃棄物〕に分類され、排出量が整理されている。

表1:韓国の温室効果ガス排出量〔単位:100万トン(CO2換算)、%〕(△はマイナス値、-は値なし)
セクター 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年
総排出量
(LULUCFを除く)
排出量 292.2 435.9 503.1 561.8 657.6 697.0 691.5 692.3 692.6 709.1
割合(%) 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
前年比 (%) — 7.9 7.1 0.8 10.0 1.4 △ 0.8 0.1 0.0 2.4
純排出量
(LULUCFを含む)
排出量 254.4 405.0 444.8 507.7 603.8 652.8 649.3 649.9 648.7 667.6
割合(%) 87.1 92.9 88.4 90.4 91.8 93.7 93.9 93.9 93.7 94.1
前年比 (%) — 9.1 7.3 1.3 11.5 2.2 △ 0.5 0.1 △ 0.2 2.9
エネルギー 排出量 240.4 352.2 411.8 468.9 566.1 605.1 597.5 600.8 602.7 615.8
割合(%) 82.3 80.8 81.9 83.5 86.1 86.8 86.4 86.8 87.0 86.8
前年比 (%) — 7.4 7.7 1.9 10.3 1.5 △ 1.3 0.6 0.3 2.2
IPPU 排出量 20.4 45.2 51.3 55.7 54.7 54.8 57.3 54.4 52.8 56.0
割合(%) 7.0 10.4 10.2 9.9 8.3 7.9 8.3 7.9 7.6 7.9
前年比 (%) — 15.6 5.1 △ 5.6 13.5 1.1 4.6 △ 5.1 △ 2.8 6.0
農業 排出量 21.0 22.8 21.2 20.5 21.7 21.2 21.3 20.8 20.5 20.4
割合(%) 7.2 5.2 4.2 3.6 3.3 3.0 3.1 3.0 3.0 2.9
前年比 (%) — 1.1 △ 2.7 0.8 1.9 △ 0.2 0.5 △ 2.4 △ 1.5 △ 0.3
LULUCF 排出量 △ 37.7 △ 30.9 △ 58.3 △ 54.0 △ 53.8 △ 44.2 △ 42.2 △ 42.4 △ 43.9 △ 41.6
割合(%) △ 12.9 △ 7.1 △ 11.6 △ 9.6 △ 8.2 △ 6.3 △ 6.1 △ 6.1 △ 6.3 △ 5.9
前年比 (%) — △ 6.0 5.5 △ 3.7 △ 4.4 △ 9.1 △ 4.5 0.5 3.5 △ 5.3
廃棄物 排出量 10.4 15.7 18.8 16.7 15.0 15.9 15.4 16.3 16.5 16.8
割合(%) 3.6 3.6 3.7 3.0 2.3 2.3 2.2 2.4 2.4 2.4
前年比 (%) — 9.2 11.7 △ 5.5 △ 2.2 0.9 △ 3.2 6.1 1.1 2.0

出所:韓国外交部「2050 Carbon Neutral Strategy」

気候変動に関する枠組み条約(UNFCCC)によるデータ(2016年基準)によると、韓国は温室効果ガスの排出量が世界で第11位だ。韓国政府は、2020年12月にNDC(国が決定する貢献)を提出し、温室効果ガスを2030年までに24.4%削減する(2017年基準)目標を掲げた(図1参照)。これは、2030年時点の総排出量を5億3,600万トンCO2eqまで抑制することを意味する。抑制量は1億7,310万トンCO2eqとなる計算だ。

図1:韓国の2030年目標とセクター別削減量
韓国の2030年に2017年比24.4%の温室ガス削減目標を掲げている。これは、削減後の2030年の排出量を536百万トン/CO2eqとするものであり、2017年比で173.2百万トン削減するもの。 セクター別では、発電が60百万トン/CO2eq、産業が19百万トン/CO2eq、建物が10百万トン/CO2eq、運輸が27百万トン/CO2eq、廃棄物が8百万トン/CO2eq、CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)が10.3百万トン/CO2eq、海外プロジェクト+森林吸収が38.7百万トン/CO2eqとしている。

出所:韓国外交部「2050 Carbon Neutral Strategy」を基にジェトロ作成

韓国政府のグリーン政策とは

(1)韓国版ニューディール統合計画

韓国政府は2020年7月、新型コロナウイルス感染拡大による危機を乗り越え、経済・社会構造の変化に対応するため、新しい経済発展戦略「韓国版ニューディール総合計画」を発表した。韓国版ニューディールからは、韓国経済の構造的課題がうかがえる。すなわち、過度な輸出依存の構造から内需主導への経済構造に転換したいという意図が読み取れるのだ。

この計画は、2025年までに総額160兆ウォン(約15兆2,000万円、1ウォン=0.095円)を投資する巨大プロジェクトだ。デジタルインフラやビッグデータなどに関する産業を育成する「デジタルニューディール」と、気候変動に対応し、環境に優しい低炭素社会を目指す「グリーンニューディール」、所得格差を解消する「社会安全網ニューディール」で構成されている。さらに、2020年10月には、この3つの柱に、地域経済の活性化などを目指す「地域均衡ニューディール」を加え、4本柱の下で総合的に施策を推進していく予定だ(図2参照)。  

図2:韓国版ニューディール統合計画の全体像
韓国のグリーンニューディール政策のビジョンは、「リード国家に跳躍する大韓民国への大変革」である。そのため、韓国が追いかける経済からリードする経済に、炭素依存経済から低炭素経済に不平等社会から包容社会に跳躍する必要が求められている。 このビジョンを達成するために、2+1政策の方向性を掲げている。2つの方向性は、経済全般のデジタル革新及び力動性の促進・拡散を目的とする「デジタルニューディール」と経済基盤のエコ・低炭素転換の加速化を目的とした「グリーンニューディール」である。2つの方向性は、産業・技術・融複合・革新の下、相互に連携する。これに+1は、これを支える人材の開発をセーフティネットとして、ヒト中心の包容国家基盤を構築する。政府は、2+1の政策の方向性の達成のため、財政投資を通じ、新市場・需要創出の呼び水とし、また、制度改善を通じ、民間の革新と投資の誘致を行う予定。 韓国が抱える課題解決のため、10大代表課題を抽出し、これを「推進課題」としている。デジタルニューディール分野では、1データダム、2知能型政府、3スマート医療インフラ、デジタル・グリーン複融合分野では、4グリーンスマートスクール、5デジタルツイン、6国家安全SOCデジタル化、7スマートグリーン産業団地、グリーンニューディール分野では、8グリーンモデリング、9グリーンエネルギー、10エコ未来モビリティである。更に10大課題を28の課題に細分化しており、デジタルニューディールでは12課題、デジタル・グリーン複融合では、セーフティネットを中心とした8課題、グリーンニューディールでは8課題になる。

出所:韓国企画財政部「韓国版ニューディール政策」

(2)カーボンニュートラル推進戦略

文在寅大統領は2020年10月28日に開催された予算案施政方針演説で、「『韓国版ニューディール政策』関連事業の推進と合わせ、国際社会とともに気候変動問題に積極的に対応し、2050年までに「炭素中立(カーボンニュートラル)」の実現を目指す」と宣言した。

さらに、韓国政府は2020年12月7日の関係省庁と合同で、「2050カーボンニュートラル推進戦略」を公表した(2020年12月17日付ビジネス短信参照)。温室効果ガスの削減を中心とする「アダプティブな削減」(対応・適応型の削減)から、新しい経済・社会発展戦略の策定を通じた「プロアクティブな対応」(積極的な対応)を計ることを目的に、3+1の推進戦略を掲げている(図3参照)。

「2050カーボンニュートラル推進戦略」は、産業通商資源部や環境部、国土交通部、科学技術情報通信部、金融委員会、中小・ベンチャー企業部などが実施する31の施策から構成されている。

図3:2050カーボンニュートラル推進戦略の全体像
カーボンニュートラルの制度的基盤の強化に関しては、基本的なビジョンを積極的な温室効果ガスの削減に置き「アダプティブな削減からプロアクティブな削減」への移行と、カーボンニュートラル、経済成長、Quality of Life、生活の質の向上の3つの達成を追求する。 このビジョンの達成のため、3大政策の方向を、1経済構造の低炭素化、2新有望産業である低炭素産業のエコシステムの構築、3カーボンニュートラル社会に向けた公正なシフトに定め、3大政策の方向を達成するための10大課題として、1エネルギーシフトの加速化、2高炭素産業の構造改革、3未来モビリティへのシフト、4都市・国土の低炭素化、5新有望産業の育成、6革新エコシステムの裾野の整備、7循環経済の活性化、8脆弱産業、海藻の保護、9地域中心のカーボンニュートラルの実現、10カーボンニュートラル社会に対する国民意識の向上、を掲げている。 政府は、財政、グリーン金融、R&D、国際協力を通じ、炭素価格のシグナルの強化やカーボンニュートラル分野への投資拡大基盤の整備を行っていく。

注:Quality of Life
出所:韓国企画財政部「2050カーボンニュートラル推進戦略」

施策実施にあわせ雇用創出を視野に

韓国のグリーン政策のフレームワークを図2と図3で紹介した。他方で、「韓国版ニューディール政策」には、(1)グリーンモデリング、(2)グリーンエネルギー、(3)エコ未来モビリティー、という施策が並ぶ。また、「2050カーボンニュートラル推進戦略」は、(1)エネルギーシフトの加速化、(2)高炭素産業の構造改革、(3)未来モビリティーへシフト、(4)都市・国土の低炭素化、が盛り込まれている。両政策は重複する部分も多いことから、以下に整理した。また、当該政策の実施は多岐にわたっていることから、主要な施策を抜粋し要約してみた。

(1)公共施設などのゼロエネルギー化

温暖化対策やエネルギー需給の安定化のため、業務部門や家庭部門でのエネルギー消費量の削減や、太陽光を諸元としたエネルギーの創出により、建物で使用するエネルギー収支のゼロ化を目指す。定量的には、2025年までに22万5,000戸の老朽化した賃貸住宅の改修、440カ所のエネルギー効率化保育園の設置、1,148カ所の省エネ文化施設の設置を行う予定だ。事業費は総額5兆4,000万ウォンを投じ、12万4,000人の雇用創出を目指すとしている。

(2)グリーンエネルギーの導入

韓国では、電源構成のうち石炭火力発電の割合が比較的高い。そのため、カーボンニュートラルを達成する上でも、対策を講じる必要がある(表2参照)。グリーンニューディールでは、エネルギー分野の目標として、風力発電、太陽光、水素などを積極的に推進し、2022年までに4兆5,000万ウォンの投資により1万6,000人の雇用を創出。さらに2025年までに11兆3,000万ウォンを投じ、3万8,000人の雇用を創出する。特に風力発電については、大規模洋上風力発電の立地確保のため、国内13地域での現地調査(FS)を実施する。水素開発については、2022年までに蔚山広域市、全州市および完州郡(注1)、安山市の3都市を水素都市として造成し、生産から流通、利活用まで一貫した体制の構築を目指している。また、2025年までに新たに3都市を追加指定するとしている。

表2:韓国の電源別発電構成と計画 (単位:%)

定格容量ベース
年 原子力 石炭 LNG 再生可能 その他
2019年(実績値) 18.5 29.5 31.6 12.6 7.8
2030年(見通し) 11.8 18.9 32.1 33.6 3.6
発電電力量ベース
年 原子力 石炭 LNG 再生可能 その他
2019年(実績値) 25.9 40.4 25.6 6.5 1.6
2030年(見通し) 25.0 29.9 23.3 20.8 1.0

出所:韓国産業通商資源部「第九次電力需給基本計画(2020-2034)」を基にジェトロ作成

(3)グリーンモビリティー

モビリティー分野で掲げられたのは、(1)乗用車、バス、貨物車両などで113万台の電気自動車(EV)の普及や充電インフラの拡充、(2)20万台の乗用車、バス、貨物車などの水素自動車や450基の水素ステーションの整備、(3)老朽化したディーゼル車のLPGまたはEVへの転換(貨物車13万5,000台、通学用バス8万8,000台、ディーゼル車や建設機械116万台、農業機械3万2,000台)だ。これらを通じ、2022年に5万2,000人、2025年に15万1,000人の雇用創出を目指す。

制度整備や研究開発を通じロードマップ策定へ

韓国でも他の先進各国と同様、温室効果ガスの削減と産業構造の転換、雇用の創出を同時に達成するための強い意図が感じられる。既に韓国には、二次電池やEVなど、世界的に競争力を有する分野がある。その一方で、2050年にカーボンニュートラルを達成するという野心的な目標を達成するためには、再生可能エネルギーの大量導入に伴う送配電網の整備やCCU/CCUS(注2)など、必ずしも商業化になじまない施策も実施していく必要がある。最も困難とされるコストを社会全体として、いかに負担していくのかが課題だ。

韓国政府は今後、制度整備や研究開発を通じ、これら施策についても詳細なロードマップを策定していく予定だ。2050年のカーボンニュートラル達成のためには、2030年までの政策の進捗が肝心であり、その動向に注目していきたい。


注1:
1都市としてカウントする。
注2:
火力発電所などから排出される二酸化炭素を回収・利用・貯留する技術。

変更履歴
表2に誤りがありましたので、訂正いたしました。(2021年4月8日)
定格容量ベースの2019年(実績値)の数値を訂正しました。
執筆者紹介
ジェトロ・ソウル事務所 副所長
当間 正明(とうま まさあき)
2020年5月、経済産業省からジェトロに出向。同年6月からジェトロ・ソウル事務所勤務。