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ASEANサービス貿易協定(ATISA)のポイント

2021年1月7日

ASEANサービス貿易協定(ATISA)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(3.20MB) が2020年10月7日、署名された。ASEANで初の包括的なサービス分野の協定だ。ASEANではこれまでに、物品について「ASEAN物品貿易協定(ATIGA)」を署名済み(2009年2月)。投資については、「ASEAN包括的投資協定(ACIA)」(2009年2月署名)、データについては「ASEAN電子商取引協定」(2019年1月署名)をそれぞれ整備してきた。ATISAが署名されたことで、これらと合わせてASEAN経済共同体(AEC)を構成する主要な協定がそろったことになる。

本稿ではATISAの条文から、そのポイントについて解説する。

枠組み協定から包括的な協定へ

ASEANはこれまで、1995年12月に署名されたASEANサービス枠組み協定(AFAS)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます に基づき、10の段階(パッケージ)に分けてサービス分野の自由化交渉を行ってきた。このうち最後の交渉となった第10パッケージ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は、2018年11月11日に署名された。これと同時に、「自由化リスト」が公開された。それにより、各国で対象となる全128のサービス分野で、最大70%までのASEAN資本の受け入れ(自由化)などが約束された。ただし、AFASはあくまで「枠組み」を定めたものだ。具体的に投資を行った企業が受けることができる待遇や、サービスを提供する際の権利・義務などが規定されたわけではない。また、自由化の方式についても、各国が自由化するサービス分野を限定的に列挙する「ポジティブリスト」方式を採用。かつ、特定サービス分野の一部の業種を自由化しただけでも当該サービス分野全体の自由化義務が果たされたとみなすなど、自由化率や透明性の観点でも課題が残されていた。

それに対し、今回署名が行われたATISA(以下、「本協定」)は、全6部・38条からなる本格的な協定だ。5ページ、14条の簡素な構成であったAFASと比較すると、本協定では、第3部で内国民待遇(第6条)、最恵国待遇(第7条)、市場アクセス(第8条)などの具体的な規律が定められた。それに加え、AFASではほとんど触れられなかった国内法に基づく規制についても、第4部でサービス貿易を阻害しないよう一定の規律を入れることが規定された(表1参照)。

表1:新旧ASEANサービス関連協定の条文比較 (—は変更なし)
ASEANサービス貿易協定(ATISA) ASEANサービス枠組み協定(AFAS)
第1部 一般的規定
階層レベル2の項目第1条 目的 第1条 目的
階層レベル2の項目第2条 範囲 第2条 協力範囲
階層レベル2の項目第3条 ASEAN包括的投資協定(ACIA)との関係
階層レベル2の項目第4条 ASEAN自然人移動協定との関係
階層レベル2の項目第5条 定義
第2部 中核的義務および規律 第3条 自由化
階層レベル2の項目第6条 内国民待遇
階層レベル2の項目第7条 最恵国待遇
階層レベル2の項目第8条 市場アクセス
階層レベル2の項目第9条 拠点設置・居住要求
階層レベル2の項目第10条 上級管理職および取締役会
第3部 留保 第4条 特定約束の交渉
階層レベル2の項目第11条 自由化対象外の措置
階層レベル2の項目第12条 自由化対象外の措置のスケジュールへの移行
階層レベル2の項目第13条 セーフガード措置
第4部 規制的義務および規律
階層レベル2の項目第14条 透明性
階層レベル2の項目第15条 秘密情報の開示
階層レベル2の項目第16条 国内規制
階層レベル2の項目第17条 認証 第5条 相互認証
階層レベル2の項目第18条 支払い及び送金
階層レベル2の項目第19条 国際収支を保護するための規制
階層レベル2の項目第20条 独占および排他的サービス供給者
階層レベル2の項目第21条 ビジネス上の慣習
階層レベル2の項目第22条 一般的例外
階層レベル2の項目第23条 安全保障上の例外
階層レベル2の項目第24条 補助金
第5部 円滑化および協力
階層レベル2の項目第25条 中小零細企業のASEAN経済共同体(AEC)への参加推進
階層レベル2の項目第26条 技術的支援
階層レベル2の項目第27条 カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの参加推進
階層レベル2の項目第28条 民間部門の関与
第6部 最終規定 第14条 最終規定
階層レベル2の項目第29条 その他の協定との関係 第9条 その他の協定
階層レベル2の項目第30条 付属書および将来的な法的手段
階層レベル2の項目第31条 組織機構 第11条 組織機構
階層レベル2の項目第32条 見直し 第10条 特定約束にかかるスケジュールの見直し
階層レベル2の項目第33条 改訂 第12条 改訂
階層レベル2の項目第34条 紛争解決 第7条 紛争解決
階層レベル2の項目第35条 利益の否認 第6条 利益の否認
階層レベル2の項目第36条 ASEANサービス枠組み協定(AFAS)にかかる移行措置
階層レベル2の項目第37条 発効
階層レベル2の項目第38条 預託者

出所:AFAS、ATISA条文よりジェトロ作成

このうち、本協定の第2部(中核的な義務および規律)で定められた主な条項の内容は、以下の通り。

  • 内国民待遇(第6条):締約各国は、他の締約国のサービス事業者に対し、自国内の同様のサービス事業者に与えている待遇と同等以上の待遇を行わなければならない。
  • 最恵国待遇(第7条):締約各国がその他特定締約国のサービス事業者に付与する待遇は、その他の締約国、もしくは非締約国に与えている水準を下回ってはならない。ただし、本協定署名前に締結・署名された協定などがある場合にはその対象とならない。また、金融サービスについては別途、金融サービス付属書の第11項(最恵国待遇)の規定が適用されるとした。また、インドシナ半島部では隣接国との間でさまざまな形態の国境貿易が行われているところ、それらのサービスを阻害するよう解釈されてはならない。
  • 市場アクセス(第8条):WTOのサービスの貿易に関する一般協定(GATS)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます で規定された「政府が取るべきでない措置」に準じた条項を、維持または採用してはならない。なお、GATSでは、(1) サービス提供者の数の制限、(2) サービスの取引総額・資産総額の制限、(3) サービスの総算出量、(4) サービス分野やサービス提供者の雇用者数の制限、(5) 特定の企業形態をとることの制限または要求、(6)外国企業の出資制限、の6類型が規定されている。
  • 拠点設置・居住要求(第9条):越境でのサービス提供〔サービス貿易の「第1モード」(注)〕を行う要件として、当該国での駐在員事務所や法人の設立、または居住者であることを求めてはならない。他方、本条項のただし書きとして、本条項が国内サーバーの利用を義務付けるような国内規制の維持または導入を阻害するものではないとした。
  • 上級管理職および取締役会(第10条):各締約国は、その国の法人に対し、特定の国籍保有者を上級管理職に任命するよう要求してはならない。ただし、投資家の支配力の行使を阻害しない範囲内で、取締役会の過半数を特定の国籍者とするよう要求することは可能とした。

また、その他の協定との関係についても第3条、第4条、第29条で整理された。例えば、ASEANで既存のASEAN包括的投資協定(ACIA)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.57MB) は、拠点を設立してサービスを提供する場合(第3モード)に深く関係する。このため、ACIA第11条(投資の待遇)、第12条(争乱の場合の補償)、第13条(資金の移転)、第14条(収容と補償)、第15条(代位)およびセクションB(投資家と加盟国の間の紛争解決)を準用すると規定。また、混乱を避けるため、同様の条文は本協定では規定しないことを定めた(第3条)。同様に、技術者などが越境してサービスを提供する場合(第4モード)は、同様に既に発効しているASEAN自然人移動協定PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(6.54MB) の規定が適用される。また本協定上の条文と齟齬(そご)が生じた場合には、同協定の規定が優先されることを定めた(第4条)。さらに、本協定が既に締結済みのあらゆる国際約束上の権利・義務を侵害しないことも明記されている(第29条)。

当面はAFASの規定が適用

これら主要な規律の整備に加え、本協定の大きな特徴の1つは、サービス貿易の自由化方式として、自由化の対象としない分野(留保する分野)だけを記載する「ネガティブリスト」方式が採られたことだ。具体的には、付属書I(現在存在する法令に基づいて自由化対象から除外する分野を記載)、付属書II(自由化対象から除外しておき、将来的に規制の設定や強化を行うことができる分野を記載)の2つのリストを作成。それらの付属書に記載のあるサービス分野については、上述の第6条から第10条までの措置の適用が任意に留保できる形となっている。

なお、今回署名されたのは協定の本文で、これら2つの付属書については、第12条〔自由化対象外の措置(Non-conforming measures:NCM)のスケジュールへの移行〕に基づき、継続してASEAN各国で作成が行われることになる。具体的には、カンボジア・ラオス・ミャンマー(CLM諸国)は本協定発効後13年以内に、ベトナムは同7年以内に、それ以外のASEAN各国は同5年以内に、ASEAN事務局に対しそれら2つのスケジュール表を付属書として提出しなければならないと規定。さらに付属書を作成してから2年以内であれば、それらスケジュール表は改定が可能である旨を定めた。

また、既存のAFASとの関係も規定。本協定に基づくスケジュール表作成・改定の際、AFASで定めた自由化の水準を下回ってはならないとした。これにより、自由化の質の担保が図られた。このほか、第36条ではスケジュール作成および改定の最長期間(CLM諸国で発効後15年間、ベトナムで9年間、それ以外のASEAN各国で7年間)を移行期間とした。移行期間中はAFASの規定・約束内容を有効とし、協定の間で空白期間が生じないよう配慮されている(表2参照)。なお移行期間中は、本協定で定められるスケジュール表と、AFASでの約束内容が共存することになる。第12条ではその内容に齟齬が生じる場合には、AFASでの約束内容が優先されることが定められた。すなわち、当面はAFASの約束内容に基づいた自由化措置が続くことになる点には留意が必要だ。

表2:留保表作成スケジュールとAFASとの関係
項目 ベトナム カンボジア・ラオス・ミャンマー(CLM諸国) 前述以外のASEAN諸国
付属書IおよびIIの作成期限 (第12条) 本協定発効後7年以内 本協定発効後13年以内 本協定発効後5年以内
付属書IおよびIIの修正期限 (第12条) 付属書作成後2年以内 付属書作成後2年以内 付属書作成後2年以内
付属書I・IIとAFASにおける約束表の
併存期間(第12条)
本協定発効後9年以内 本協定発効後15年以内 本協定発効後7年以内
AFASの有効期間
(第36条)
本協定発効後9年以内 本協定発効後15年以内 本協定発効後7年以内

出所:ATISA条文からジェトロ作成


注:
世界貿易機関(WTO)は、サービス貿易を第1モード(国境を越えたサービスの提供)、第2モード(国外でのサービス消費)、第3モード(現地拠点を通じたサービスの提供)、第4モード(国境を越えた移動を伴うサービス提供)の4つに分類している。このうち、第3モードは国外への投資を伴うもので、その投資を行う際の条件(出資比率など)や待遇などが論点となる。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
蒲田 亮平(がまだ りょうへい)
2005年、ジェトロ入構。2010年より2014年まで日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)事務局次席代表を務めた後、海外調査部アジア大洋州課リサーチマネージャー。2017年よりアジア地域の広域調査員としてバンコク事務所で勤務。ASEANの各種政策提言活動を軸に、EPA利活用の促進業務や各種調査を実施している。

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