注目高まる洋上風力、今こそ欧州企業との協業を
J-Bridgeカーボンニュートラル・洋上風力発電セミナー開催

2021年6月22日

ジェトロは5月17日、経済産業省と日本経済団体連合会(経団連)と、日本企業と海外スタートアップ企業などによる協業・連携を支援するビジネスプラットフォーム「ジャパン・イノベーション・ブリッジ(J-Bridge)」の欧州での立ち上げを記念して、「カーボンニュートラル・洋上風力発電セミナー」をオンラインで共催した。セミナーには、国内外から800人以上(関係者を除く)が参加。カーボンニュートラル、洋上風力発電などグリーン分野での日本企業と海外企業の協業・連携などについて、日欧の企業トップマネジメントらが意見を交わした。

カーボンニュートラルに向けた日欧企業の連携・協業に期待

冒頭、梶山弘志経済産業相とジェトロの佐々木伸彦理事長が主催者挨拶を述べた。梶山経産相は洋上風力発電について、大量導入の可能性やコスト低減の余地、経済波及効果の大きさの観点から、日本におけるカーボンニュートラル実現の切り札であるとの見方を披露。2020年末に官民協議会で策定した「洋上風力産業ビジョン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」で政府が掲げた、2030年までに10ギガワット(GW)、2040年までに30~45GWの洋上風力(浮体式も含む)の案件形成を目指すという目標を紹介した。同相はその上で、欧州とは異なり遠浅な海域が少ない日本で45GWの目標を達成するためには、深い海域でも導入余地が大きい浮体式洋上風力のポテンシャルも生かしていくことが重要だと続けた。「J-Bridge」については、ウィズコロナ/ポストコロナ時代に向け、次の成長をつくり出すための原動力と紹介。カーボンニュートラルに重点を置いて欧州企業との連携を進めていくと、意欲を示した。

佐々木理事長は、日本政府も2050年までのカーボンニュートラル達成目標を打ち出し、洋上風力が再生可能エネルギー比率引き上げの牽引役として期待される中、2019年に「欧州グリーンディール」を打ち出して先行する欧州とこの分野で協業・連携を進めていく価値は高いと指摘。日本でのカーボンニュートラルの実現やアジア市場などでの環境ビジネスの拡大に向け、日本企業に対し欧州企業との協業の可能性を探ってほしいと期待を述べるとともに、「J-Bridge」の積極的な利用を呼び掛けた。

経団連も脱炭素に向けたイノベーションを後押し

基調講演では、最初に経団連副会長兼環境安全委員長で、ENEOSホールディングス代表取締役会長の杉森務氏が、脱炭素に向けた日本経済界の取り組みを紹介した。経団連は2013年に「低炭素社会実行計画PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(5.27MB)」を立ち上げ、同計画の参加業種・企業における二酸化炭素(CO2)削減実績を着実に積み重ねた結果、2019年度までに2013年度比で10.7%の削減を達成。経団連として引き続き同計画に取り組み、排出削減に貢献していくとした。

杉森副会長はまた、脱炭素社会の実現に資する企業の取り組み発信とイノベーション後押しのため、経団連が政府と連携して2019年12月に「チャレンジ・ゼロ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」構想を発表したことを紹介。参加する企業・団体は、脱炭素社会に貢献するイノベーションに挑戦することを宣言し、具体的なアクションを国内外に発信する。これにより、各主体の競争促進や、イノベーション創出に不可欠なESG(環境・社会・ガバナンス)投資の呼び込みや産官学の連携を促すのが狙いだ。同副会長は、これらの取り組みを通じて経済と環境の好循環を実現したいと、日本経済界としての意欲を示した。

野心的な目標を掲げる欧州企業が日本市場にも注目

続いて、ドイツのエネルギー企業シーメンス・エナジーAG取締役、シーメンス・エナジー・マネジメントGmbH取締役のヨヘン・アイクホルト氏が登壇した。シーメンス・エナジーは、2030年までに同社の事業活動においてカーボンニュートラルを達成する目標を掲げたことを紹介。発電所の燃料を石炭からガスに移行することを支援しており、これによりCO2を最大70%削減し、続いてガスから水素混焼への移行で80%まで削減。さらに2030年までに水素専焼に完全に移行することで、100%のCO2削減が可能との見立てを披露した。

アイクホルト氏は、日本への貢献として、同社のグローバルな経験に基づいて、日本の脱炭素化に向けた方針策定を支援できると提案。日本が目標を達成するためには、新たな規制とグローバルなノウハウが必要であるとし、日本企業との協業にも意欲を示した。

基調講演の最後に登壇した、ノルウェーのエネルギー企業エクイノールASAシニア・バイス・プレジデント(ビジネス開発、新エネルギーソリューション)のイェンス・オークランド氏は、同社が2050年までにネット・ゼロ・エネルギー企業になる目標を2020年11月に発表したことを紹介。再生可能エネルギーでは、2026年までに現在の設備容量の約10倍の4~6GWに拡大し、2035年までに12~16GWの設置容量を目指しているとした。

オークランド氏は、同社が日本の洋上風力発電業界で確固たる地位を築く準備ができているとコメント。日本には浅瀬が少ないため、今後の洋上風力発電の導入量の80%は浮体式としなければならず、浮体式洋上風力発電の世界的企業である同社が貢献できると意気込みを示した。同氏はその上で、日本政府が浮体式洋上風力発電を優先し、具体的なロードマップを作成することも提案した。

日本企業との取り組みでは、2020年12月に三菱重工業と、石油・ガス事業におけるCO2排出を抑制する低炭素化技術の高度化に向けた協業のための覚書を締結したことなどを紹介した。

続くパネルディスカッションでは、バイワ・アール・イー・ジャパン(BayWa r.e. Japan、本社ドイツ)のリビイエ・ジョン-フランソワ代表取締役(COO)、ユーイ(juwi)自然電力(日独合弁)のヤン・ヴァルツェヒャ代表取締役、イデオル・ジャパン(IDEOL Japan、本社フランス)の山田睦カントリーマネージャーが、国境を越えたパートナーシップの重要性や、プロジェクトを成功に導く秘訣(ひけつ)などについて議論した。

リビイエ氏は「パートナーは2社間とは限らず、それぞれの強みをしっかりと発揮でき、相乗効果を得られることが重要だ」とコメント。ヴァルツェヒャ氏は「国際パートナーシップは、双方のバックグラウンドや強みが違うこと、また言葉や仕事の進め方も違うことを理解し、時には協力関係を再定義することも必要だ」とした。山田氏は「プロジェクトを成功に導くためには、対等なパートナー関係、日欧の違いを認識しプロジェクトに何が必要かを考えることが重要だ」とした。


パネルディスカッション画面:
バイワ・アール・イー・ジャパンリビイエ・ジョン-フランソワ代表取締役(COO)(右上)、
イデオル・ジャパン 山田睦 カントリーマネージャー(右下)、
ユーイ自然電力 ヤン・ヴァルツェヒャ代表取締役(左下)、
ジェトロ 河田美緒 対日投資部長(モデレーター、左上)(ジェトロ撮影)

日本の洋上風力関連法整備と海外企業との提携が進む

海外企業向けのセミナー第2部では、日本企業からのピッチに先立ち、日本風力発電協会(JWPA)の安茂副代表理事が、日本における洋上風力発電の現状を紹介した。関連する法律整備については、公安区域における洋上風力発電導入促進のために2016年に公安法が改正され、2018年には一般海域における洋上風力発電導入促進のための再エネ海域利用法が成立したことに言及。再エネ海域利用法における案件形成の状況は、促進区域が4カ所、有望な区域が4カ所、既に一定の準備段階に進んでいる区域が6カ所指定されていることを説明した(図参照)。

図:再エネ海域利用法に基づく促進区域の指定と有望な区域の選定に係る現状
促進区域として長崎県五島市沖、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖(北側・南側)、千葉県銚子沖、有望な区域として青森県沖日本海(北側)、青森県沖日本海(南側)、秋田県八峰町・能代市沖、長崎県西海市江島沖、一定の準備段階に進んでいるほかの区域として青森県陸奥湾、秋田県潟上市・秋田市沖、新潟県村上市・胎内市沖、北海道岩宇・南後志地区沖、北海道檜山沖、山形県遊佐町沖が選定。

出所:経済産業省資料に基づきジェトロが一部改変

日本企業と海外企業の提携状況について、数年前までは一般海域の入札に向けた事業者間のコンソーシアムが多く、最近では海底地盤調査や工事用船舶などの施工に向けたより具体的な提携に進んでいるといった傾向を紹介。安氏は2021年5月11日に発表された東芝とGE(ゼネラル・エレクトリック)の戦略的提携契約にも触れ、前述の「洋上風力産業ビジョン」で日本政府が掲げている2040年までに国内部品調達比率を60%にするという目標に向けた大きな一歩であり、引き続き経験のある海外企業の参入が望まれると、期待を示した。

第2部後半には、三菱電機外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます石橋製作所外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますハマックス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますユニタイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの日本企業4社がピッチを行い、参加した欧州企業参加者らが熱心に耳を傾けた。

ジェトロは、日本企業と海外スタートアップ企業などとのオープンイノベーションを支援している。今般、欧州でも立ち上げた「J-Bridge」では、会員登録をした日本企業に、海外有望企業情報の提供や面談アレンジ、専門家を通じた戦略策定・ビジネス開発支援などを提供している(J-Bridgeの詳細と会員登録は、公式ページ参照)。

執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
宮口 祐貴(みやぐち ゆうき)
2012年東北電力入社。2019年7月からジェトロに出向し、海外調査部欧州ロシアCIS課勤務を経て2020年8月から現職。