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安全・安心な国際ビジネス交流の空間を創出(シンガポール)
完全密封型国際会議・宿泊施設「コネクト・アット・チャンギ」が開業

2021年3月19日

世界中からのビジネス出張者が隔離なしで、安心してビジネス会議を行うことができる完全密封型の国際会議・宿泊専門施設「コネクト・アット・チャンギ」が2021年3月8日、最初の利用者を迎えた。多国籍企業の統括拠点が集積するシンガポールでは、新型コロナウイルスの感染予防対策を完全に施した空間をつくることで、ビジネス交流を再開し、経済活動の本格的な再開を促進することが期待されている。

世界初、隔離なしで出張者が商談できる空間

「コネクト・アット・チャンギ(Connect@Changi)」が設置されたのは、チャンギ空港に近接する国内最大の展示会・会議施設「シンガポール・エキスポ」の中だ。海外からの出張者が、施設内に宿泊し、14日間隔離なしでシンガポールに滞在できる。利用者は新型コロナウイルスの感染予防対策を施した空間の中で、安全に出張者とビジネス交流ができるという世界初の試みである。

施設内には、海外からの出張者が宿泊する客室(第1期分は150室)や会議室(同40室)のほかに、宿泊者が利用できるジム、中庭がある。また、PCR検査を行う検査室などが設置されている。宿泊料金は、食事と宿泊中の検査費用、送迎などを含め24時間あたり 384シンガポール・ドル(約3万720円、Sドル、1Sドル=約80円、注1)。出張者とシンガポール在住者間の会議を行うための会議室にはガラスの敷居があるほか、海外側とシンガポール側の入り口や空調システムも別とするなどの感染防止対策が施され、安心してビジネス交流ができる環境を整えている。

同施設は、貿易産業省が2020年12月に発表した新イニシアチブ「コネクト・アット・シンガポール」に基づく特別宿泊施設の第1号だ。同イニシアチブは、指定宿泊施設内だけで過ごし、入国時と入国後3日、7日、14日目にPCR検査を受けることを条件に、隔離なしで全ての国々からの短期の公務やビジネス出張者を認めるものである(注2)。コネクト・アット・チャンギを開発したのは、政府系投資会社テマセク・ホールディングが率いる企業連合だ。企業連合は、シンガポール・エキスポを運営する展示会・会議運営会社であるシンゲックス・スペア・ホールディングスのほか、サービスホテル運営会社のアスコット、空港運営会社のチャンギ・エアポート・グループ、都市計画コンサルタント会社のスルバナジュロン、医療専門投資会社であるシーアズ・ヘルスケアからなる。


コネクト・アット・チャンギ内の会議室、
出張者側とシンガポール側の出席者の間はガラスで仕切られている(ジェトロ撮影)

2020年に外国人来訪者が9割減、渡航規制で経済活動に打撃

同施設を開業する理由について、シンゲックスのアロイシス・アルランド最高経営責任者(CEO)は3月2日、ジェトロのインタビューで、「国際ビジネスのハブであるシンガポールは、国境が閉ざされてしまえば、経済も停止してしまう。安全で、密閉した環境でビジネス会議を行う方策を探さなくてはいけなかった」と説明した。同国を訪れる外国人来訪者(ビジネス目的を含む)は、2019年まで4年連続で過去最高を更新していた。しかし、2020年には新型コロナの感染拡大防止を目的とした全面的な渡航規制により、外国人来訪者数が一転、前年比85.7%の大幅減(274万2,208人)へと落ち込んだ。東南アジアの一大ハブ空港であるチャンギ空港の利用者も前年比82.8%減となった。4つあるターミナルのうち2つが閉鎖されている(2021年3月8日現在)。同国で開催予定だった多くの国際イベントも大半が延期もしくはキャンセルとなり、同国の国際会議・展示会(MICE)産業も深刻な打撃を受けている。

シンガポールは、新型コロナの感染者の急増を受け、2020年4月7日から6月1日まで、製造活動や必須サービスを除く職場を閉鎖する部分的ロックダウン「サーキット・ブレーカー」に踏み切った。シンガポール・エキスポは、新型コロナの感染者数がピークに向かう最中の4月10日から、感染軽症者を受け入れる臨時施設「コミュニティー・ケア施設」の1つとなり、一時は数千人もの患者を収容していた。コネクト・アット・チャンギの運営には、こうした患者を収容した際の経験が生かされている。病院大手のパークウェイは数千単位の患者の対応に協力した。また、企業連合に参画するスルバナジュロンは感染患者受け入れの際の施設設置にかかわった。アスコットも、運営するサービスアパートが海外からの渡航者の隔離施設に指定された。シンゲックスのアルランドCEOは、今回の専門施設の設置と運営にあたっては「(企業連合に参画する)パートナーのこれまでの経験を結集している」と指摘する。

その後、同国では2020年6月2日以降、3段階に分けて経済活動を再開し、12月28日からは経済活動再開への最終段階の第3段階(フェーズ3)にある。しかし、2020年末にかけて、世界各国で新たな感染拡大や変異株の感染拡大が起こったことにより、再び入国規制の強化へと転じている。2021年3月8時点で、入国時にPCR検査を受ける代わりに、検査結果後の隔離が免除されているのは、オーストラリア、ブルネイ、中国、ニュージーランドと台湾からの短期渡航者に限られている。また、同様に、公務・ビジネス上で必須の出張について隔離が免除されるスキームである「相互グリーンレーン(RGL)」が認められているのは、ブルネイと中国の一部都市(重慶、広東、江蘇、上海、天津、浙江省)だけだ。従来、RGLは日本、インドネシア、ドイツ、マレーシア、および韓国とも結んでいたが、各国の新型コロナの感染拡大により、一時停止中である。このように、一部を除く国からの渡航者に隔離を求める中、コネクト・アット・チャンギは、隔離義務が課されている国々からの出張者でも、隔離をせずに一堂に会し、顔を合わせて安心して会議ができるように開発されている。

施設のターゲットは法人向けビジネス会合

コネクト・アット・チャンギの最初の利用客の1人となったのは、3月8日にフランスから到着した通信会社オアシス・スマートSIMのオリバー・ラルー社長兼CEOで、5日間の滞在の間、同社のシンガポール拠点の社員のほか、取引先などと話し合いを行った。同CEOのほかにも、日本、ドイツ、インドネシア、マレーシア、アラブ首長国(UAE)からの出張者が利用する予定だ。このほか、同施設では3月中にも、テマセクの医療機器子会社アドバンスド・メッドテック・ホールディングスが、地域内の幹部約30人を集めた国際会議を行う。同施設は当面、同社のような多国籍企業向けのビジネス会合を主に対象とする。アルランドCEOは「シンガポールに多くの多国籍企業が統括拠点を置くが、この1年にわたり各国の拠点長がオンラインでしか顔を合わしていない状況が継続している。コネクト・アット・チャンギでの会議は、実際に皆で集まる良いタイミングになる」と語った。同CEOによると、このほかにも「堅調な(施設利用の)問い合わせが寄せられている」という。同施設は需要に応じて段階的に拡張する予定で、2021年中にも施設の収容能力を1,300人までに拡大する見通しだ。


利用客は施設内の中庭で過ごすこともできるが、
食事は基本的に中庭を取り囲む部屋の中ですることになる(ジェトロ撮影)

このほか、同施設では、新しいテクノロジーの実証実験の場としての利用も期待されている。同施設の開業にあたっては、施設のスタッフと利用客との接触を最小限にするため、宿泊室や会議室、フードデリバリーや、そしてジムの予約や手配などができるアプリが開発された。このほか、利用客の安全を確保するための新たなテクノロジーの導入も近く発表する予定だ。施設内には、シンガポールのスタートアップである「ゼロ2.5・バイオテック(Zero2.5 Biotech)」が開発した、室内の空気をイオン化し、清浄化するという植物も置かれている。アルランドCEOは、同施設内で「様々な新しい技術の実証実験もしてきたい」との抱負も述べた。


注1:
宿泊料金は1時間単位で課金、最低24時間。
注2:
コネクト・アット・シンガポール(Connect@Singapore)のイニシアチブに基づく具体的な入国申請手続きについては、移民局のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。
執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所 調査担当
本田 智津絵(ほんだ ちづえ)
総合流通グループ、通信社を経て、2007年にジェトロ・シンガポール事務所入構。共同著書に『マレーシア語辞典』(2007年)、『シンガポールを知るための65章』(2013年)、『シンガポール謎解き散歩』(2014年)がある。

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