酸化エチレン汚染食品に取り締まり強化(EU)
ゴマ製品やアイスクリームなども対象に
2021年9月24日
有機化合物の1つで、滅菌ガスとしても使用される酸化エチレン(ethylene oxide)。EUでは、突然変異誘発性と発がん性があるとして、食品への使用が禁止されている。しかし、インド産のゴマで、当該物質の残留農薬基準値が大幅に超えていたことが発覚した(ゴマにかかる基準値は本来1キログラム当たり0.05ミリグラムなのに対し、1キロ当たり30.1± 8.7ミリグラム検出)。 このため2020年9月には、ベルギー当局が、EUの食品と飼料に関する緊急警報システム(RASFF)を発動。製品のリコール(回収)に発展した。
日本では、インド産ゴマの輸入量はそれほど多くない。しかし、ゴマは大部分を輸入に頼っている。また、増粘安定剤として使用される添加物E410(ローカストビーンガム)の酸化エチレンの暴露量にも注意する必要がある。
ゴマ含有品にも検査強化が及ぶ
2020年9月のベルギー当局によるRASFF緊急アラート発動は、さらなる展開を見せる。EU加盟国内では2021年1月末までに、酸化エチレン汚染に関して477件のアラートが発動された。対象はゴマやシリアルだけでなく、ゴマを含有するチョコレートやビスケット、パン、クラッカーなどの菓子やベーグル、ゴマ油、その他の調味料、有機製品などに及ぶ。これらについて、大規模な追跡と検査が実施された。EUでは規則制定に向けた動きもある。欧州委員会は2020年10月、インド産ゴマの輸入に関する公的検査の強化に関する緊急措置を講じた。
EUは、酸化エチレンを農薬(植物保護剤)として使用することを禁止している。一方で、インドや米国、カナダでは許可されている。さらに、EU域外の幾つかの国では、ハーブ、スパイス、ナッツ、シード油、ドライフードの防除剤として使用している。揮発性が非常に高いために、最終製品にはごく少量しか残留しないことから検出が難しい。留意すべきなのは、EUでは酸化エチレンと2-クロロエタノールの総量から計算されることだ。なお、2-クロロエタノールの発がん性については、現時点で統一した見解が公表されていない。
長期的な消費による健康リスクを予防する目的で、フランス経済・財務・復興省の競争・消費・不正防止総局(DGCCRF)は2020年11月から、市場に出回るインド産のゴマや香辛料などの管理を強化。基準値を上回る酸化エチレンと2-クロロエタノールが含まれている可能性がある商品のリコールを実施していた。
添加物E410もリコール・検査対象に
さらに、2021年6月には、添加物E410が酸化エチレンに汚染されていることがRASFFによって報告された(トルコ産の安定剤を使用したスペイン製造のアイスクリームで判明)。これにより、リコールと検査対象品はアイスクリーム、ヨーグルト、チーズ、パン製品などに拡大された。
2021年7月には、基準値を超えた酸化エチレンに汚染されたE410は、これは、EU市場から排除すべきという見解が発表された。EU各加盟国代表や欧州委員会内の担当部署、欧州食品安全機関(EFSA)、アイスランドとノルウェーとの会合に基づくものだった。その結果、各国の管轄当局の管理の下、食品事業者にリコールが求められた。なお、酸化エチレンの品目別残留農薬基準値は、欧州委のデータベースからも確認できる。
2021年8月現在、フランスのDGCCRFが酸化エチレンに関連してリコール対象としている製品のロットのリストは公表されている(DGCCRFウェブサイト参照)。リコール対象は23のカテゴリーの製品(参考参照)で、合計約1万点に及ぶ。中にはゴマドレッシングなども含まれる。なお、E410はアイスクリームによく使用される。そのため、2021年夏には、大手メーカーのアイスクリーム製品がフランス市場から回収された。
参考:DGCCRFにより酸化エチレンに関連してリコール対象となっている製品カテゴリー
- ラスク(Biscottes)
- ビスケット、スナック塩菓子など(Biscuits apéritifs et salés)
- スナック甘菓子(Biscuits sucrés)
- バーガー(Burgers)
- シリアル製品(Céréales)
- サプリメント(Compléments alimentaires)
- チョコレート菓子(Confiseries et chocolats)
- デザート菓子(Desserts)
- 香辛料(Epices)
- 小麦粉、調理用製粉(Farines et aides culinaires)
- チーズ(Fromages)
- 乳製品・調整品(Fromages et préparations laitières)
- アイスクリーム・シャーベット(Glaces et Sorbets)
- 種子・粒(Graines)
- ペースト・ぬりもの(Houmous et tartinables)
- 調味料・オイル(Huiles et sauces)
- パン(Pains)
- 茶・コーヒー(Thés et cafés)
- 牛乳・飲料・植物由来の調味料(Laits, boissons et aides culinaires d'origine végétale)
- 事前準備調理品(Plats préparés)
- タヒーニ〔芝麻醤(しょう)〕(Tahin et purées sésame)
- その他のつまみ製品(Autres produits apéritifs)
- その他製品(Autres types de produits)
出所:フランス経済・財務・復興省競争・消費・不正防止総局(DGCCRF)ウェブサイト
EU残留農薬基準研究所(European Union Reference Laboratories for Pesticide Residues、EURL)は、酸化エチレンの混入理由について分析している。2020年10月に発表したレポート(2.0MB)によると、インドでは、サルモネラ菌や他のふん便細菌によるゴマへの汚染率を減らす手段として、酸化エチレンにより薫蒸処理(注)されているのではないかという。実際、インドやアフリカの一部の国(エチオピア、ナイジェリア、スーダン、ウガンダ)から輸入されるゴマについては2002年から、サルモネラ菌汚染に関するEU各国国境での公的検査を強化。2014年には、インドから輸入されるゴマのサルモネラ菌の検査率を上げていた。EUではゴマ輸入の50%以上をインドに頼っていることから、食中毒菌に重きを置くか発がん性化合物を排除すべきかが争点となっている。
日本では、インド産のゴマの輸入量は多くない。しかし、ゴマの大部分を輸入に頼っているのも事実だ。そうしてみると、原材料の輸入元や安定剤や増粘剤としての酸化エチレンの暴露量に、今後も注視していく必要があるだろう。
- 注:
- EUは1991年から、酸化エチレンの薫蒸処理を完全に禁止している。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・パリ事務所
西尾 友宏(にしお ともひろ) - 2009年、農林水産省入省。2021年7月から現職(出向)。農林水産・食品関係業務を担当。