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欧州グリーン・ディールとEUの鉄道政策、その現状と課題は(EU)
共通交通圏構築とサービス自由化が焦点

2021年5月17日

2021年は、EUの「欧州鉄道年」だ。各加盟国の首都などを巡って鉄道の魅力を伝える「コネクティング・ヨーロッパ・エクスプレス」など、年間を通してさまざまな需要喚起イベントを予定している。また、鉄道は持続可能な交通手段として、EUの掲げる「欧州グリーン・ディール」(注1)でも有望視されている。

欧州鉄道年や欧州グリーン・ディールで注目の集まるEUの鉄道政策。その概要を紹介する。

欧州グリーン・ディールで、鉄道活用拡大に期待

2019年12月に発足した欧州委員会のフォン・デア・ライエン体制。2050年までの気候中立(温室効果ガスの実質排出ゼロ)の達成を目指す欧州グリーン・ディールを最重要政策に掲げ、あらゆる分野で脱炭素化に向けた政策を推進している。交通輸送は、EU全体の温室効果ガス総排出量の約4分の1を占める分野だ。それだけに、2050年の気候中立の達成に向けてこの分野の脱炭素化は欠かせない。

こうした中で、大きな期待がかかるのが鉄道の活用だ。鉄道輸送に由来する温室効果ガス排出量は交通輸送全体のわずか0.4%。自動車などによる道路輸送の72%はもちろん、海上輸送の14%や航空輸送の13%と比べて、圧倒的に低い。温室効果ガス排出などの1人当たりの環境負担を見ても、鉄道全般、特に高速鉄道は、航空機や化石燃料車、電気自動車(乗車人数が1人の場合)と比較しても優位性がある。自動車から鉄道への移行は、排出量の削減に大きく貢献すると期待できる(注2)。

欧州委は以前から、気候変動対策として高速鉄道網の整備や鉄道貨物輸送の強化を行うなど鉄道を推進してきた。2019年にはEU域内の高速鉄道の総延長距離は9,100キロを超え、2015年比で17%増加するなど設備投資が進んでいる。しかし、2015年比で2018年の鉄道による旅客と貨物の輸送量はそれぞれ2.5%と4.1%の増加にとどまる。ここ10年でも、大きな変化はない。また、2018年の陸上輸送に占める鉄道のシェアも伸び悩む。旅客輸送では7.8%で、2015年比で0.2%の微増にとどまる。貨物輸送は18.7%。0.1%とわずかながら減少した。自動車から鉄道への移行は期待通りには進んでいないのが現状だ。

また、欧州委はEU域内の鉄道の単一市場形成を目指し、インフラ面だけでなく、市場の自由化や安全規制などの制度面でも、鉄道市場の統合を推進している。もっとも、移動手段としての鉄道は、同一の加盟国内での利用がほとんどというのが現実だ。2018年の鉄道による加盟国の国境を越えた移動は、鉄道旅客全体の7%程度にすぎない(注3)。

持続可能なスマートモビリティー戦略により、目標を大幅に引き上げ

こうした中で欧州委は2020年12月、「持続可能なスマートモビリティー戦略PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(767.08KB)」(2020年12月11日付ビジネス短信参照)を発表した。欧州グリーン・ディールの一環としてまとめられた新たなEUの交通戦略だ。この戦略では、温室効果ガスの大幅な排出削減を、交通輸送業界が直面する最も重要な課題と位置づけた。他方で、欧州グリーン・ディールでは、交通輸送分野における2050年までの温室効果ガス排出削減目標を「1990年比90%」と表明していた。最重要課題の位置づけは、この目標を反映したかたちだ。

今回の戦略は、2011年に発表された「交通白書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」の後継になる。交通白書での排出削減目標は、2050年までに「60%以上」だった。新たな排出削減目標は、大幅に引き上げられたことになる。それに対応するかたちで2011年の交通白書の方向性を維持しつつ、自動車や鉄道など交通輸送の各分野の設定目標を一段と強化。欧州グリーン・ディールの実現の可否は、交通輸送分野の脱炭素化にかかっているとした。その上で、(1)化石燃料への依存を大幅に減らす対策、(2)旅行や通勤などで鉄道などの公共交通機関の利用拡大や、貨物輸送での鉄道や水路の活用強化など、持続可能な交通手段への積極的な移行に向けた断固たる施策、(3)温室効果ガス排出に関わる社会的費用に対する汚染者負担・利用者負担の原則の導入、を提言している。このように、今回の戦略で、温室効果ガスの排出ゼロに対応した自動車の普及とともに最重要視しているのが鉄道の利用拡大と、化石燃料を利用する他の交通手段から鉄道への移行だ。実際に、今回の戦略で設定した14の具体的な目標のうち、以下の5つが特に鉄道の利用促進に関連するものになっている。

  • 高速鉄道の輸送量を2015年比で2030年までに2倍、2050年までに3倍にする
  • 鉄道による貨物輸送量を2015年比で2030年までに1.5倍、2050年までに2倍にする
  • EU排出権取引制度(EU-ETS)の交通分野への拡大など、汚染者負担・利用者負担の原則を導入する。それにより、2030年までにEU域内の鉄道や水路の利用による一貫輸送を道路輸送と競合可能なレベルにする
  • 高速接続性を確保し、持続可能でスマートな交通システムを備えた「汎欧州運輸ネットワーク(TEN-T)」計画における中核ネットワークの運行を2030年までに、包括的ネットワークの運行を2050年までに、それぞれ開始する
  • 2030年までに、高速鉄道網を含むTEN-T計画などの整備により、EU域内で500キロ以内の定期運行の旅客輸送の脱炭素化を達成する

こうした目標達成のためには、EU全域で鉄道インフラへの大規模投資が必要だ。EUレベルの鉄道インフラ整備の指針となるのがTEN-T計画だ。

TEN-T計画に基づいて共通交通圏構築を目指す

交通政策は、EUの前身・欧州経済共同体の設立当初から、共通政策として推進されてきたものの1つだ。その下で、EU域内の共通交通圏の創設に向けて、汎欧州運輸ネットワーク(TEN-T)が計画された。この計画に基づき、各加盟国が加盟国間の相互接続や相互運用を前提に、鉄道やターミナル、道路、水路、海路、港湾、空港などの複合的な交通インフラを新設、あるいは既存設備を改良する。共通交通圏を実現する上で特にボトルネックとなっているのが、加盟国間の交通インフラ相互接続に不可欠ながら未整備にとどまっている区間だ。これらは、国境部分などに多くみられる。これらについては、EUの資金提供などの支援を受けながら、各加盟国がTEN-T計画に沿った交通インフラ整備を重点的に進めている。

EUの交通政策はEUの拡大などに伴って改定を重ねてきた。現行のTEN-T計画は、主に2013年に採択したTEN-T計画の開発指針に関する規則外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます に基づく。2011年の交通白書を反映し、包括的な交通インフラ計画という性質は維持しつつ、自動車などの陸上輸送から、鉄道や内陸水路など環境負担の少ない交通手段をより重視する方針へと修正された。特に、鉄道は温室効果ガス排出量が交通輸送全体の排出量のわずか0.4%と圧倒的に少ない。このことから、旅客輸送と貨物輸送の両面で自動車などの代替手段として重要視される。TEN-T計画に沿い、加盟国間の相互接続の大幅な改善を目指す大規模なインフラ事業が進められている。

TEN-T計画の中心となるのが、中核ネットワークと包括的ネットワークからなる二重の交通網の整備計画だ。

このうち中核ネットワーク(図1参照)は、加盟国の重要な都市圏をつなぐ。戦略的価値が高く、鉄道を中心とした複数の交通手段からなる9つの回廊で構成される。2030年末までの供用開始が目指されている。大規模交通インフラ事業(図2参照)は、こうした中核ネットワークの一部をなす複数の交通手段を併用したプロジェクトだ。この事業では、鉄道インフラを中心に優先的整備が進められている。

また、包括的ネットワークはEU域内のあらゆる地域をつなぐ交通網になる。中核ネットワークへの接続を前提とし、2050年末までの整備完了を目指す。

これらの輸送ネットワーク構築のために共通の課題となる「高速海路(Motorways of the Sea)」の整備と共通の列車制御システム「欧州鉄道交通管理システム(ERTMS)」の導入も進行中だ。なお、現行のTEN-T計画は欧州グリーン・ディールに対応すべく、見直しが検討されている。欧州委は、2021年第2四半期(4~6月)にも改正案を提案する予定だ。

図1:TEN-T計画 中核ネットワーク

(凡例)
大西洋回廊
バルト~アドリア回廊
地中海回廊
北海~バルト回廊
北海~地中海回廊
オリエント~東地中海回廊
ライン~アルプス回廊
ライン~ドナウ回廊
スカンジナビア~地中海回廊
TEN‐T計画において中核ネットワークとして設定されている9つの回廊を示した欧州の地図。1の線は、大西洋回廊を示す。2の線は、バルト~アドリア回廊を示す。3の線は、地中海回廊を示す。4の線は、北海~バルト回廊を示す。5の線は、北海~地中海回廊を示す。6の線は、オリエント~東地中海回廊を示す。7の線は、ライン~アルプス回廊を示す。8の線はライン~ドナウ回廊を示す。9の線は、スカンジナビア~地中海回廊を示す。

注:英国は、EU離脱後の2020年12月31日の移行期間終了により、北海~地中海回廊から外れ、英国を通じて同回廊に接続していたアイルランドは今後、フランスとの海路により同回廊に接続する。
出所:欧州委員会モビリティ・運輸総局外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

図2:EUと加盟国が共同出資する10億ユーロ以上の大規模交通インフラ事業

(凡例)
No 名称 回廊(加盟国) 交通手段 工費見積り
1 レール・バルティカ 北海~バルト回廊
(エストニア・ラトビア・リトアニア・ポーランド)
鉄道 70億ユーロ
2 リヨン~トリノ線 地中海回廊 (フランス・イタリア) 鉄道 96億ユーロ
3 ブレンナー・ベーストンネル スカンジナビア~地中海回廊 (オーストリア・イタリア) 鉄道 85億ユーロ
4 フェーマルン・ベルト線 スカンジナビア~地中海回廊 (デンマーク・ドイツ) 鉄道・道路 77億ユーロ
5 バスクY・フランス接続線 大西洋回廊 (スペイン・フランス) 高速鉄道 65億ユーロ
6 セーヌ~スヘルデ運河 北海~地中海回廊・大西洋回廊 (フランス・ベルギー) 内陸水路 50億ユーロ
7 A1高速道路 ライン~ドナウ回廊 (ルーマニア) 道路 73億ユーロ
8 E59鉄道線 バルト~アドリア回廊 (ポーランド) 鉄道・港湾 22億ユーロ
EUと加盟国が共同出資する10億ユーロ以上の大規模交通インフラ事業の整備区間を示す欧州の地図。1の線は、北海~バルト回廊上で整備が進むレイル・バルティカを示す。2の線は、地中海回廊上で整備が進むリヨン~トリノ線を示す。3の線は、スカンジナビア~地中海回廊上で整備が進むブレンナー・ベーストンネルを示す。4の線は、スカンジナビア~地中海回廊上に整備が進むフェーマルン・ベルト線を示す。5の線は、大西洋回廊上に整備が進むバスクY・フランス接続線を示す。6の線は、北海~地中海回廊・大西洋回廊上に整備が進むセーヌ~スヘルデ運河を示す。7の線は、ライン~ドナウ回廊上に整備が進むA1高速道路を示す。8の線は、バルト~アドリア回廊上に整備が進むE59鉄道線を示す。

出所:欧州会計監査院PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(9.62MB)

TEN‐Tは、鉄道を中心とした複数の交通手段を含む包括的な交通インフラに関するEUレベルの整備計画だ。ただし、実際のインフラ整備の主体となるのは、加盟国になる。対してEUは、財政支援や加盟国間の調整などの役割を担う。そうした財政支援に向け、EUにはさまざまなプログラムがある。その中で、TEN-T計画に関するEUの補助金の中心となるのが、コネクティング・ヨーロッパ・ファシリティー(CEF)(2013年7月24日付調査レポート参照)だ。

CEFは交通やエネルギー、デジタル分野におけるEU域内のインフラ整備を目的に、2014年から2020年までの中期予算計画(MFF)の下に初めて設定された。その予算の大部分は、交通分野に振り当てられている。CEFの支援の対象となるのは、EUの共通利益となる事業だ。特に、中核ネットワークの国境を結ぶ区間や、回廊の接続性を確保するために必要な区間が優先となる。EUはCEFを通じて加盟国が実施するインフラ整備事業に共同出資する。2014年から2020年のCEFの交通分野の予算額は、結束基金からの提供分を含めて、総額241億ユーロだった。2021年から2027年までの現行のMFFでも、CEFの継続は決定しており、交通分野の予算は、結束基金からの提供分(113億ユーロ)を含め、総額258億ユーロとなる予定だ。このほかに、TEN-T計画や交通インフラ全般の整備に活用できるEUの資金には、欧州地域開発基金の補助金や欧州戦略投資基金、欧州投資銀行による融資などがあり、鉄道分野にも充てられている。さらに、復興・レジリエンス・ファシリティ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます ー(RRF、2021年2月15日付ビジネス短信参照、注4)の活用も注目される。RRFは加盟国に対して、提供する予算の37%以上を気候変動対策に割り当てるよう義務付けている。ただし、TEN-T計画に関連した鉄道インフラの整備費は、気候変動対策の割り当て分として100%計上することができるように設定されている。その結果、加盟国がRRF予算を鉄道インフラに活用することが期待できることになる。

工期遅延など、様々な課題も

このように、TEN-T計画に基づいて、EU全域で事業実施が進む。その一方で、課題も多い。

まず、2030年までの整備完了を目標としている中核ネットワークでは、多くの区間で工期遅延が問題視されている。欧州会計監査院(注5)によると、大規模交通インフラ事業(図2参照)は軒並み事業計画に遅れがみられる。鉄道分野を含む各事業の主要部分の建設だけでも、平均11年の遅れという。これにより、8つのうち6つの事業で、2030年までの完全供用開始は難しいとした。

また、工費に関しても、当初の試算より平均で47%の増加が見込まれている。欧州委は、TEN-T計画の実施により2021年から2030年までに必要な投資額は、中核ネットワークの整備だけで5,500億ユーロに上ると試算(注6)する。しかし、現行のMFFでCEF予算の大幅な増額は予定されていない。このことから、EUによる加盟国への資金面の支援は不十分との指摘も出ている(注7)。高速鉄道に関しても、欧州会計監査院は、高速鉄道網の建設は進んでいるものの、2011年の交通白書にある2030年までに高速鉄道網を3倍にするとした目標の達成は難しいと結論付けた(注8)。2011年の交通白書の後継となる持続可能なスマートモビリティー戦略に基づくと、新たな目標として、2030年までに高速鉄道輸送量を倍増させなければならない。これを達成するには、より一層の支援が必要になるわけだ。

さらに、加盟国間の調整不足も懸念材料だ。加盟国はTEN-T計画に既に合意しているものの、各国で独自に高速鉄道網の建設を進めている。国境を越える区間は、国内区間と比べ優先順位は必ずしも高くない。こうしたことから、現状では各加盟国の高速鉄道網はパッチワーク状態にある。真の意味での欧州高速鉄道ネットワークは、まだできていないのだ。加盟国間の調整不足は、欧州委の権限欠如などによるところも大きい。その能力強化も、大きな課題だろう。

第4次鉄道パッケージにより、制度的調和とサービス自由化と目指す

鉄道サービスの単一市場形成でEUが進めるインフラ面での整備がTEN-T計画だとすれば、各加盟国の鉄道市場の開放や関連規制の統合や調和といった制度面の整備を担っているのが鉄道パッケージだ。EUでは1980年代後半から、EUレベルの鉄道の単一市場創設に向けた一連の政策を実施している。この中で特に重要な政策となるのが、鉄道関連事業の上下分離と、サービスの段階的な自由化だ。

鉄道関連事業には、鉄道サービスの提供(上部)と鉄道インフラの整備・管理(下部)がある。この2つの事業は、市場で垂直関係にある。上部と下部の運営事業者を切り離すことで相互の優遇措置を防止し、自由化により民間などの新規参入事業者に鉄道サービスの提供が開放されることになる。これにより、鉄道サービスの競争を高め、価格の低下やサービスの向上を図るというものだ。

さらに、EU全域で有効な鉄道事業の免許制度の創設や、各加盟国の規制当局の独立性の確保、EUレベルの規制当局の設立、各加盟国間でばらばらな鉄道インフラや規制の調和などの政策も、掲げられた。これらは、加盟国間の国境を越えた鉄道サービスや、他の加盟国への参入促進が狙いだ。

こうしたEUの鉄道政策により、2001年に採択された第1次鉄道パッケージ以降、第3次鉄道パッケージまでに、国際・国内貨物サービスの自由化や、国際旅客サービスの自由化、各加盟国の鉄道システムの互換性や共通の安全規制などを統括する欧州鉄道機関(ERA)の設立、運転士免許の調和などが実現に至っている。

6つのEU法令で構成する最新の第4次鉄道パッケージ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は、鉄道サービスの単一市場を完成させる法整備という位置づけになる。2016年の成立を経て段階的に適用され、2020年12月から完全適用を開始した。目玉となるのが国内旅客サービスの自由化だ。それまで、その自由化は一部の加盟国でしか実施されてこなかった。しかし第4次鉄道パッケージにより、全加盟国で原則として自由化される。これにより、鉄道旅客サービスの事業者は設立地の加盟国だけでなく、他の加盟国の国内旅客サービスも含め、EU全域で鉄道サービスを提供することが可能となった。また、ERAの権限も強化された。EU全域で有効な車両認可や安全証明書の発行ができるようになるなど、安全規制面での統合も進んでいる。加盟国ごとの申請が必要なくなったため、鉄道サービス事業者の手続き面での負担やコストの軽減により、民間事業者などのさらなる新規参入が期待される。

いまだに数多くの国内規制が残存

第4次鉄道パッケージの完全適用により、鉄道の単一市場は一応の完成に近づきつつある。しかし、課題がないわけではない。例えば、欧州委が当初想定していた厳格な上下分離の義務化は、一部加盟国の強い反対により頓挫している。インフラの整備・管理会社の経営上の独立性を確保することなどを条件に、上部と下部の両者を同一の持ち株会社の下に置くことを容認するなど、完全な上下分離には至っていない(注9)。また、いまだに多くの国内規制が残っており、今後もこれらの調和を進めていくことが求められる。さらに、欧州委によると、各加盟国内の旅客サービスに占める新規参入業者の市場シェアは、加盟国間で大きなばらつきはあるものの、2018年で平均10%程度にとどまる。2015年から2ポイントほどしか増加してないことになる。

EU全域での国内旅客サービス自由化は、まだ始まったばかりだ。それだけに、その効果を判断するのは時期尚早ではある。国内旅客サービスへの新規参入がEU全域でどこまで進むのか。今後の注目点だろう。


注1:
「欧州グリーン・ディール」とその関連戦略については、ジェトロ調査レポート「新型コロナ危機からの復興・成長戦略としての『欧州グリーン・ディール』の最新動向」(2021年3月)を参照。
注2:
欧州環境機関(EEA)の報告書「Transport and environment report 2020: Train or plane?外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」(2020年)を参照。
注3:
欧州委員会の報告書「Seventh monitoring report on the development of the rail marketPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(725.70KB)」(2021年)を参照。
注4:
RRFは、新型コロナ危機対策のために設けられた復興基金の中核でもある。加盟国への補助金(3,125億ユーロ)と融資(3,600億ユーロ)から成る。
注5:
欧州会計監査院(ECA)の報告書「EU transport infrastructures: more speed needed in megaproject implementation to deliver network effects on timePDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」(2020年)を参照。
注6:
欧州委員会のCEF影響評価書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (2018年)を参照。
注7:
欧州議会の報告書「The trans-European transport network: State of play in 2020PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(932.47KB)」(2020年)を参照。
注8:
欧州会計監査院(ECA)の報告書「A European high-speed rail network: not a reality but an ineffective patchworkPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(8.84MB)」(2018年)を参照。
注9:
欧州議会の報告書「The fourth railway package: Another step towards a Single European Railway AreaPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.65MB)」(2016年)を参照。
執筆者紹介
ジェトロ・ブリュッセル事務所
吉沼 啓介(よしぬま けいすけ)
2020年、ジェトロ入構。

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