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新型コロナでコスト上昇も、ドバイの物流の安定性に着目/現地日系物流企業に聞く(中東)

2021年6月28日

2020年初頭から続く新型コロナウイルスの感染拡大や2021年3月に起きたスエズ運河のコンテナ船座礁事故などにより、世界の物流は大きな影響を受け、各企業はその対応に迫られた。世界物流の要衝の1つである中東・ドバイもその例外ではない。ジェトロは、日系物流大手の近鉄エクスプレスドバイ法人(Kintetsu World Express (Middle East) DWC LLC)に駐在し、中東の物流事情に精通する同社社長の岡良太郎氏とセールスマネージャーの藤井沙織氏に、コロナ以後の情勢変化による物流への影響と今後の展望についてインタビューした(2021年4月21日および5月30日)。


近鉄エクスプレスドバイ法人の岡氏(左)と藤井氏(右)(同社提供)
質問:
新型コロナの感染拡大が、ドバイを中心とする中東の物流に及ぼした影響は。感染が本格化した2020年3月ごろから時系列で教えてほしい。
答え:
まず、航空貨物について。2020年3月下旬に、アラブ首長国連邦(UAE)は国際旅客便の運航を全て停止した。諸外国も同様の対応をしたことが重なり、4~5月にかけて、ドバイ国際空港の取扱物量は通常時の約半分まで減少した(注1)。しかし、多くの航空会社が就航都市と便数を大幅に減少させ、運航停止が長期化した中で、中東のエミレーツ航空(本拠地:UAE・ドバイ)、エティハド航空(本拠地:UAE・アブダビ)は、多くの都市への就航を他の航空会社に先駆けて再開した。その結果、世界中の貨物需要が両キャリアに集中し、同空港の貨物取扱物量が6月以降に増加。12月には前年同月の水準まで回復した。ただし、取扱物量の大半はUAE発着ではなく、輸送距離が稼げて航空会社にとってメリットが大きいアジア・欧州・米国向けなどのUAEを経由(トランジット)する貨物であった。それにつられて、中東発着の運賃も上昇する結果となった。世界全体で見ても航空物流コストは上昇したが、特にアジア発のコストの上昇が、欧州・米国発に比べて大きく、欧州・米国発の物流コストはコロナ禍の前後で約2倍、アジア発(日本を含む)は約3倍となった。
海上貨物については、2020年9月までは各国のロックダウンにより、アジア圏にある製造工場の稼働率が下がったため、中東地域における輸入物量も総じて落ち込んだ。しかし、ドバイを本拠とする港湾オペレーターであるDPワールド(DP World)によると、ドバイのジュベル・アリ港のコンテナ取扱量は、第4四半期(10~12月)には前年同期比0.3%増まで回復した。世界的に海上輸送コンテナ不足が問題化する中、アジア発のジュベル・アリ港向けコンテナ輸入に関して、コンテナ不足の影響で貨物スペース確保が困難となり、物流コストの上昇が始まったのは、11月後半から12月ごろだという。ジュベル・アリ港からの輸出については2021年1月ごろに同じ状況となったが、他地域と比べれば遅く、その影響も軽微という印象だ。
質問:
日系企業をはじめ、企業の対応は。
答え:
航空貨物運賃の高騰により、従来は航空便で輸送していた貨物を、海上輸送にシフトする動きが多く見られた。多少時間がかかっても、コストとのバランスを見て、そのように判断している企業が多い。また、海上運賃も、空輸ほどではないものの上昇しているため、企業では購入のスピードを抑える(回数を減らしてまとめる)、あるいは購入を控えるという動きも見られている。
質問:
各国政府や港湾がとった対策は。
答え:
湾岸協力会議(GCC)諸国は、食糧や生活物資をはじめ多くの製品を輸入に依存しており、不安が高まった時期もあったが、物流が止まるような事態は発生していない。2020年前半には、通関・港湾のルール変更などで多少の混乱が見られたものの、物流全体が大きな影響を受けることはなかった。ただし、GCC諸国においては、港湾、空港、倉庫の作業員の多くが外国人労働者であり、彼らが生活する共同居住施設で集団感染が発生し、作業員不足や物流の遅れが一時的に生じたケースは散見された。
通関業務に関しては、コロナ禍においてデジタル化が加速した。オマーン、カタールでは、船積み書類(インボイスなど)は原本の提出が必須となっていたが、コロナ後の一時期はデータの提出のみでも輸入通関が可能となった。ドバイにおいても、デジタル化を推進する方針だ。ただし現時点では、荷主に直接かかわらない部分で一部デジタル化が行われているものの、船積み書類の原本提出は必要となっている。
質問:
現在の状況は。
答え:
ドバイ空港上屋の1カ月当たりの貨物ハンドリング量は、コロナ禍前の水準に戻っている。旅客便数は減少しているものの、その代わりに貨物便に変更して運航しているためだ。中東系航空会社によると、現在はアジア発の欧州・米国向け貨物の取り扱いに注力しているというコメントもあり、その影響でアジア発中東向けの航空運賃が高止まりしている。現地日系企業は業種に関係なく、往々にして物流で困っているが、特にスペアパーツの納期が遅れているなどの話をよく聞いている。
海上運賃は、2021年4月以降に落ち着くと見込まれていたが、3月末のスエズ運河の事故の影響もあり、最も高騰していた2021年1月ごろの時点まで逆戻りしてしまった。運賃だけでなく、貨物のスペース確保の点でも非常に大きな影響を受けている。ペルシャ湾航路にあてがわれる予定であった船舶が、物流の主要航路であるアジア発欧州向けおよび米国向けに転用されて、中東向けスケジュールのキャンセルが発生しているという話も聞いた。ただし、各国税関のルールや通関スピードという点においては、コロナ禍による影響は特に見受けられない。
質問:
こうした世界情勢の中、企業は物流網の見直しを図っているのか。また、今後の対策は。
答え:
2016年から2020年にかけては物流費の乱高下が少ない時期で、景気の先細り感もあり、企業は在庫を絞り込む傾向が強かった。しかし、コロナ禍やスエズ運河事故による物流網の危機に遭遇し、地域によっては物流費が通常の10倍にまで高騰した。これにより、各企業は事業継続計画(BCP)策定の一環で、物流網の見直しを迫られており、そのような記事も頻繁に目にする。
そうした各企業の見直しの中で、ドバイの有効活用の可能性について指摘したい。ドバイは、従来からその整備されたフリーゾーンと利便性から、中近東アフリカの在庫保管拠点として活用されてきた。今回のコロナ禍で着目できるのは、ドバイを通じた物流網が他国に比べて航空輸送、海上輸送ともに極めて安定していた点である。エミレーツ航空は、2020年3月以降に世界各地でロックダウンが行われた直後から、世界屈指の就航地数を維持し、他国に比べて多くの地域への安定的な貨物輸送を実現していた。海上輸送も、欧州、アジア、米国に比べ、安定してコンテナの供給ができていた。リスク管理の観点からも、ドバイはこうした危機に強いと言える。
グローバルサプライチェーンの主要なハブとしては、シンガポール、香港、オランダなどが挙げられるが、ドバイはこれらの地域と比較しても、費用面や港湾業務の質、税関ルールの柔軟性といった点では劣らない。加えて、質の高い港湾施設、空港上屋、倉庫が利用できる点、迅速なセットアップが可能な非居住者在庫のスキーム(注2)があるなどの点においては、他のハブより優れていると言える。今後、ドバイを活用した物流網のニーズが増加すると考えている。
各国それぞれの規格や規制があること、少量多品種のニーズの増加など、各企業における物流網の検証はますます複雑化していくが、コロナ禍やスエズ運河事故は、それぞれの事業における物流網の重要性、リスクヘッジの必要性を検討する良い機会にもなるのではないか。
今後のグローバルサプライチェーンの展望としては、AI(人工知能)の発達も受けて、世界中の拠点の在庫を把握し、かかる時間や費用を即時に計算、どこから、どの輸送手段で調達するのが最も効率的かといった判断が即時に行われるような物流改善が、さらに一般化するのではないかと期待している。
質問:
中東域内の物流状況の今後の展望は。
答え:
中東地域における近年の最大の変化は、GCC諸国とイスラエルの国交樹立や、カタールとの国交正常化だ。イラクの復興需要の話も頻繁に耳に入ってくるようになり、イランと国際社会との関係改善の可能性など、中東地域の物流にとっては大きなプラスの影響を与える要因も多いとみる。ドバイがその中心として、ますます重要な位置付けになる可能性もあるため、日々、情勢を注視していく。

注1:
多くの貨物便は運航を継続していたが、旅客便の欠航により、旅客便の床下貨物搭載スペース(ベリー)に搭載して輸送する手段が停止したため、航空貨物の輸送キャパシティは著しく減少した。
注2:
非居住者(UAEに法人を持たない、居住権を持たない)であっても、所有権を移転せずに在庫を保持できる制度。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課課長代理
米倉 大輔(よねくら だいすけ)
2000年、ジェトロ入構。貿易開発部、経済分析部、ジェトロ盛岡、ジェトロ・リヤド事務所(サウジアラビア)等の勤務を経て、2014年7月より現職。現在は中東諸国のビジネス動向の調査・情報発信を担当。
執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
山村 千晴(やまむら ちはる)
2013年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ岡山、ジェトロ・ラゴス事務所を経て、2019年12月から現職。執筆書籍に「飛躍するアフリカ!-イノベーションとスタートアップの最新動向」(部分執筆、ジェトロ、2020年)。

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