観光地として注目されるウラジオストクにホテル展開(ロシア、日本)
ホテルオークラに聞く

2021年3月16日

ロシアのウラジオストクを含む沿海地方では近年、観光客を中心とする外国人訪問者数の拡大が続いている。2019年は、前年比21%増の94万1,000人を記録した。中国や韓国の観光客が多い中、日本からの観光客も同70%増の3万5,000人と急増し、「日本から最も近い欧州」として注目を浴びている。2020年の外国人訪問者数は同86%減と、新型コロナウイルス禍による腰折れを余儀なくされた。しかし、ウラジオストクはロシアの主要な観光都市として、また、MICE(注1)都市の1つとして、存在感を着実に高めている。

現地デベロッパーからホテル運営を受託

コロナ禍が続く中、国内外で「ホテルオークラ」「ホテルニッコー」などでホテル運営を行うオークラ ニッコー ホテルマネジメントが1月4日、2021年下半期にウラジオストクにロシア初の日系ホテル「ホテルオークラウラジオストク」を開業すると発表した。同社によると、日系ホテルとして初めてのロシア進出になるという。

同社が開業を決めたのは、ウラジオストクでのホテル需要と、ウラジオストクが日本の若い女性を中心に観光地として注目されていること、日系航空会社による直行便開設の動き、今後の観光資源開発の見通しなどを踏まえた結果だ。現地企業との協業で運営する。

協業するのは、現地企業ゾロトイ・ログ。ホテルオークラウラジオストクに関する運営管理契約を2020年12月29日に締結した。ゾロトイ・ログがホテルを所有し、オークラが運営を受託する。アルミ生産・水力発電大手En+グループ傘下の企業で、商業不動産を運営するデベロッパーだ。


ホテルオークラウラジオストクの建物外観(オークラ ニッコー ホテルマネジメント提供)

ホテルとなる建物は、別のロシア企業が建設した2軒のうちの1軒だ。元はと言えば、2012年に当地で開催されたAPECサミットに合わせ「ハイアット」ブランドのホテルとして開業することを企図していた。もっとも、建設はサミットに間に合わなかった。その後、建屋ができたものの、2014年に計画が凍結。2017年に売りに出された。これをEn+グループ傘下の企業が2019年に買収した(現地メディア「VL.RU」2017年2月2日、2019年4月16日)。

ホテル開業の経緯や現状と展望について、「ホテルオークラウラジオストク」を運営受託するオークラ ニッコー ホテルマネジメントの広報担当者に聞いた(2021年1月28日)。

「オークラ」基準のホテルを運営

質問:
今回の運営管理契約締結に至るまでの経緯について。
答え:
2016年5月に当時の安倍晋三首相がロシアのウラジーミル・プーチン大統領に8項目の協力プランを提示した。その中で、ロシア極東地域の振興が掲げられた。それで、以前からロシアでのホテル事業展開に興味を持っていた当社も、ウラジオストクでの可能性を探ることになった。同年10月には、当社の親会社、ホテルオークラの荻田敏宏社長(2020年6月からオークラ ニッコー ホテルマネジメント社長を兼務)がウラジオストクを訪問。沿海地方政府幹部と面談し、その際に同地方政府関係者から進出の要請があった。現場視察を重ねた結果、観光やビジネス面でのホテル需要があると評価した。同時に、投資家会合の場で連邦政府幹部や当時の沿海地方知事と関係を構築。さまざまな経緯を経て、今回、パートナーでホテル所有者となるゾロトイ・ログと巡り合った。同社とホテル運営の協議を2017年から始め、契約内容が今般固まり、締結に至った。契約締結は「新型コロナ禍」によりリモートで行った。
質問:
運営管理契約の内容はどのようなものか。
答え:
運営管理契約は、ホテル経営形態の1つだ。ホテル建物の所有者から、運営だけを受託するものだ。ホテルオークラウラジオストクではこの方式でゾロトイ・ログから当社が運営を受託する。当社や当社グループからホテル総支配人と、運営に関わる幹部、日本料理レストランの料理長を現地に派遣。当社のサービス基準や運営のノウハウを提供する。現在は出張ベースで開業準備作業を支援する社員を現地に派遣している。
質問:
ホテルの開業までの準備はゾロトイ・ログとどのように進めていくか。
答え:
ホテルスタッフは、ホテル経営会社であるゾロトイ・ログが直接雇用する。ただし、人材の選考や研修指導には当社も協力する。必要な備品や資材などの調達も当社がブランド基準に沿った仕様を提示し、双方で協議した上でゾロトイ・ログが行う。
調達は、基本的に現地でと聞いている。しかし、調達が困難な場合は、当社が取引する日本などのサプライヤーを紹介する。特に、ホテル内の日本料理レストランで使う食材については、ホテルオークラの日本料理「山里」の料理人が現地で確認する。現地で調達が難しい食材は日本から輸出することも考えられる。

観光・ビジネス需要取り込みに関心

質問:
ホテルオークラウラジオストクでの利用客は、どのように想定しているか。ホテルのアピールしたい点は何か。
答え:
観光客とビジネス客両方だ。観光客については、ウラジオストクは近年、日本でも特に女性に人気が出ていることに注目している。日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)が2020年3月に成田~ウラジオストク間の直行便を開設し(2019年8月1日付ビジネス短信参照、注2)、日本からのアクセスが容易になった。日本よりも多いとされる中国や韓国からの観光客や、地元客も取り込みたい。
また、ウラジオストクは国際会議が数多く行われる都市でもある。ホテルオークラは数多くの国際会議を受け入れており、豊富な経験を持つ。国際会議の運営を受託するとともに、多くのビジネス客を受け入れたい。
当社が創設以来掲げている理念として「親切と和」がある。お客様に最高のおもてなし、本格的な日本料理を提供することで、日本のホテルのオークラのサービスは違うという認識を根付かせたい。ホテルを経営するゾロトイ・ログも、オークラのサービスを提供できることに大きな期待を持っている。
質問:
ウラジオストクの観光資源をどう評価するか。
答え:
ウラジオストクは1992年まで外国人を含む一般人の立ち入りが制限されていた。そのため、乱開発が行われておらず、欧州風の街並みや景観を楽しめる。日本から飛行機に乗って2時間半程度で行ける「最も近い欧州」と呼ばれ注目されている。観光資源の開発も進んでおり、マリインスキー劇場の分館があるほか、エルミタージュ美術館の分館も開設される予定だ(注3)。
質問:
ウラジオストク以外でのロシアでのプロジェクトはあるか。
答え:
2019年6月に、現地デベロッパーであるアエオンと、モスクワのシェレメチェボ空港近くにアエオンが建設するホテルの運営受託に関する基本合意書を締結した。今は「新型コロナ禍」により建物の建設工事にも影響が出ていると聞いている。基本合意は消えておらず、この事業のスケジュールを見直しているところだ。ロシアでのホテル市場の成長性を高く評価しており、ほかにも進出機会があれば検討する。

注1:
企業などの会議(Meeting)、企業などが行う報奨・研修旅行(Incentive Travel)や国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字。多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称。
注2:
「新型コロナ禍」により本稿掲載時点ではいずれも運休中。ロシアのシベリア航空(S7)が週1便、羽田~ウラジオストク間で運航している。
注3:
マリインスキー劇場はサンクトペテルブルクにあるオペラとバレエ専用の劇場。ウラジオストクの分館は2013年に開館した。エルミタージュ美術館もサンクトペテルブルクにあるロシアの代表的な美術館の1つ。分館は2024年までに開設する予定。このほかにも、ロシアを代表する美術館や博物館の分館を設置する計画がある。
執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所 次長
浅元 薫哉(あさもと くにや)
2000年、ジェトロ入構。2006年からのジェトロ・モスクワ事務所駐在時に調査業務を担当したほか、農水産輸出促進事業、知的財産権保護事業にも携わる。本部海外調査部勤務時に「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。2017年7月から再びジェトロ・モスクワ事務所勤務。