新型コロナ禍でEC市場が成長(フィリピン)
SNSの活用など、消費形態に新たな動き

2021年12月15日

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、フィリピンでは、電子商取引(eコマース、EC)の成長が著しい。その拡大と、支えるプラットフォーマーについて探る。あわせて、SNS(social networking services)を活用した新たな消費スタイルについても触れる。また、SNSを活用して日本産食材のECを開始したドウ・アンド・グロッサーに、事業の狙いやECの可能性について聞いた。

2020年、小売りでEC活用が拡大

フィリピンでは、新型コロナ禍に伴って、外出規制や必需品以外の営業一時停止措置、営業時間の短縮などの措置を導入。これにより、小売市場規模は縮小した。2020年は、その規模が約2兆8,000億ペソ(約6兆4,400億円、1ペソ=2.3円)。2019年の約3兆1,000億ペソから、約10%減に落ち込んだことになる(図1参照)。特に直撃した影響を受けたのが、店舗型小売りだ。前年の市場規模約2兆9,000億ペソから、2020年は約2兆5,000億ペソへと、13.8%も減少した。

一方で、ECを活用した小売りは、2019年の約1,060億ペソから、2020年は約1,630億ペソ。50%以上も増加した。これに伴い、小売り全体の売り上げに占めるECの割合も、2019年の3.4%から2020年は5.9%に大きく伸びた。

ユーロモニターの予測によると、ECは、2021年から2025年にかけて年4.8%の成長が続く。さらに2025年には、小売り全体の売り上げの約15%を占めると見込まれている。なお、小売市場全体の市場規模がコロナ前に回復するのは、2023年以降になる見込みだ。

図1:フィリピンの小売市場売上額(単位:1億ペソ)
年々上昇し、2015年に23,708億ペソから2019年は30,832億ペソまで増加した。2020年は27,702億ペソまで減少したが、以降は2025年(35,084億ペソ)まで増加し続ける見込みだ。個別にE-commerceの売上額を見ると、2015年は248億ペソだったが、2020年は1,627億ペソまで増加した。その後も増加し続ける見込みで、2025年は5,079億ペソまで増加し、2015年の約20倍になる見込みだ。

注:「その他非店舗」には直接販売(direct selling)、宅配購買(home shopping)、販売機購入(vending)を含む。2021年以降は予測値。
出所:Euromonitor International “Retailing in the Philippines”2021を基に作成

一部プラットフォーマーでは、日本からの越境ECも可能に

フィリピンで、ECの主要プラットフォーマーとして近年マーケットシェアを急増させている外資が2社ある。1つは、アリババグループのラザダ(2012年にフィリピン進出)。もう1つは、シンガポール企業シー傘下のショッピー(2015年進出)だ。また、ザローラ(ファッション専門オンラインサイト)も、2012年のフィリピン進出後、一定のシェアを獲得してきた。英国の調査会社ユーロモニター・インターナショナルによると、2020年におけるECプラットフォーマーのマーケットシェアは、ラザダが19.2%、ショッピーが18.8%、ザローラが5.1%だ(図2参照)。

これらプラットフォーマーの最近の動きを見る。ラザダは、売り上げと注文数がコロナ前と比べて2.5倍に増加。出品者は3倍以上の12万社になった(「フィルスター」紙2021年9月6日付)。また、ショッピーは、2021年9月9日のセール期間中、購入者のうち3人に1人が新規利用者だった。この期間に、新たに800万店舗がオープンしたという。ショッピー・フィリピンのディレクター、マーティン・ユー(Martin Yu)氏は「ショッピーの調査では、過去1週間のうちにオンライン購入したフィリピン人は64%に上る。日々の必需品の購入も、オンラインショッピングに依存している」と指摘した(「ビジネスワールド」紙2021年11月8日付)。

ラザダとショッピーのいずれも、ますますサービスを拡充しつつある。例えば、両社とも、日本からの越境ECの受け入れを開始した。ザローラは2021年10月、出品者に対してデータを活用したマーケティングサービスの提供を開始。消費者の購買行動や価格設定などについて、情報提供している(「ビジネスワールド」紙2021年10月6日付)。当地のECが成長するに連れ、プラットフォーマーのサービスも質が向上していることがうかがえる。

図2:フィリピンのプラットフォーマー別マーケットシェア推移
2016年(17.0%)から2020年(19.2%)までLazadaがシェア第1位だった。2016年に0.7%しかなかったShopeeは、2020年には18.8%と第2位のシェアとなった。一方2016年に5.6%で第2位だったZaloraは2020年には5.1%と減少し、第3位となった。

出所: 「Retailing in the Philippines」(Euromonitor International、2021年)を基にジェトロ作成

政府もEC成長に積極姿勢

ECの成長に向けて、フィリピン政府はロードマップ(eCommerce Philippines 2022 Roadmap外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を策定した。例えば、2022年の目標として、ECの利用企業数を100万社にするという。2020年は50万社だったので、倍増が計画されたことになる。また、経済成長に対するECの寄与率についても、2020年のGDP比3.4%から、2022年は同5.5%を目指す。政府としても、ECをますます普及させていく姿勢を打ち出したかたちだ。

なお、アマゾンの調査によると、フィリピンでは、約7割の企業がECを国内取引に限って活用している。その割合は東南アジア域内の中で最も高い。裏返すと、越境ECを拡大させる余地が大きいと分析された。調査を担当したアマゾンのバーナード・テイ(Bernard Tay)氏は「フィリピンで、ECは比較的歴史が浅い。しかし、急速に成長している分野でもある」と述べた(「フィルスター」紙2021年10月19日付)。ウィーアーソーシャル(注)が公開する「デジタル2021」によると、フィリピンでは1日当たりのインターネット利用時間が10時間56分。FacebookやYouTubeなど、SNSの利用時間は4時間15分だ。いずれも、世界最長になっている。また、新しいブランドを見つけるチャネルとして50.2%が「SNSの広告」を挙げた。この比率は、「テレビの広告」の46.3%よりも高い。SNSが消費に与える影響が拡大したことが分かる。

このような状況下、SNSを通じたEC取引件数が2021年1~6月、前年同期比2.3倍に拡大。過去最高の伸び率を記録した。この伸び率は、マレーシア、シンガポール、タイを上回る(「フィルスター」紙2021年10月15日付)。フィリピンは、2062年まで人口ボーナスが継続すると予測されている。これも、ASEAN域内で最も長きに及ぶ期間だ。そのため、ITに高い親和性を持つ世代や、デジタル・ネイティブ世代の人口が増加すると見込まれる。今後、SNSを活用したECが、ますます一般的な消費スタイルとして生活に組み込まれていくものと考えられる。

新消費スタイルを取り入れて日本産食材を販売する事業者も

このように、フィリピンではSNSを活用したEC消費が拡大している。このことを受け、日本産食材を専門に扱うウェブページを立ち上げる事業者も出てきた。ドウ・アンド・グロッサーもその1つだ。同社で専用ウェブページの立ち上げプロジェクトを担当するアリアナ・ウイ(Alyanna uy)氏(事業部長)、小室健爾氏(仕入れ担当)、目野宏之氏(シェフ)に、その狙いや日本産食材販売の可能性について聞いた(インタビュー日:2021年10月29日)。

ちなみに、ドウ・アンド・グロッサーは、2018年に設立。グループとして、日本食レストランなど30店舗を運営する。店舗には、食材の卸売事業を実施している。2020年7月から、新型コロナウイルスの感染拡大を受けオンラインストアを開始。ECで消費者に直接販売している。2021年9月には小売店舗も出店した。今後さらなる出店を計画しているという。取り扱う商品は、肉や海鮮、加工食品や調味料など、いずれも高品質な食材だ。現地の富裕層を中心にリピーターも多い。2021年には、ジェトロ・マニラ事務所から、日本産食材のプロモーション事業を受託。目指すところは、フィリピンでの一層の日本産食材普及と販売促進だ。

質問:
ドウ・アンド・グロッサーは、どのようなきっかけでECを開始したのか。
答え:
新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、人々は旅行や外食ができなくなり、外出も厳しく制限されてしまった。こうした状況でも、旅行しているような感覚やレストラン品質の料理を人々に味わってほしいと考えた。
同じような経験を提供できるものとして開始したのが、高品質な輸入品食材をメイン商品とするECだった。開始した当初は、どの商品を対象とするかで悩んだ。また、(1)フィリピン人がオンラインデリバリーにまだ慣れてない、(2)実物を確認もしないで買うことに対する信用がなかった、(3)ロックダウンの環境下ではデリバリー業務を行うこと自体が難しい、など多くの困難があった。その後、徐々に色々な小売店がオンラインデリバリーを開始した。その結果、フィリピン人がECに慣れてきたと感じている。
質問:
本プロジェクトでは、日本産食材をどのようにアピールしていくのか。
答え:
Facebookに日本産食材を紹介する専用ページ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを立ち上げている。消費者に日本の良い食材を届けることで、日本の品質を理解してもらいたい。このFacebookページを通じて、日本の生産者とフィリピンの消費者が直接結びつくことができる。このことで、日本の生産者にもフィリピンの良さを知ってもらいたい考えだ。さらに同ページでは、日本のリンゴやナシなどの食材と相性の良い酒を組み合わせるペアリングを紹介していきたい。色々な食べ方を知ってもらいたいためだ。
また今後、ドウ・アンド・グロッサーが新規オープンする予定の小売店にはキッチンも設置する。実演調理を通して、楽しみ方を知ってもらうこともできる。
質問:
日本産食材はどのような人たちに求められているのか。
答え:
日本産食材の主な客層として、日本に旅行したことのあるフィリピン人富裕層や、日本人駐在員が想定される。また、今回、Facebookページを活用してEC販売することで、より幅広い層にアプローチが可能と考えている。フィリピン人中間層の購入も期待している。
質問:
フィリピンで日本産食材の市場は今後も拡大していくと思うか。
答え:
日本産食材を購入するお客様のほとんどは、パンデミック前に日本に旅行したことがある。そのため、例えば北海道産といえば、海産物や新鮮な野菜といったイメージを持っている。
日本産品質に対する信用・信頼は非常に高い。有名な商品ではなくても、日本産であるというだけで安心感が得られる。そのため、日本産であることが分かるロゴシールを付けるといった取り組みがとても大事。日本酒や焼酎のマーケットも伸びている。
全体として、日本産食材の市場は今後も拡大していくと考えている。

左から、小室氏、Alyanna氏、目野氏(ジェトロ撮影)

注:
ウィーアーソーシャルは、英国ロンドンを本社とする広告会社。
執筆者紹介
ジェトロ・マニラ事務所
須藤 真(すどう まこと)
2012年、経済産業省入省。内閣府原子力被災者生活支援チーム、経済産業政策局調査課などを経て、2021年6月から現職。