2020年は自動車生産、販売、輸出ともに減少(アルゼンチン)
リチウム・バリューチェーン構築で電動化対応目指す

2021年8月16日

アルゼンチンでは、完成車メーカー10社が自動車を生産している。生産されているのは、乗用車に加えて、国内の農業部門において一定の需要があるピックアップトラックと多目的車。完成車工場は、ブエノスアイレス州、コルドバ州、サンタフェ州の3州に集積している。

日本企業では、トヨタが1997年にブエノスアイレス州のサラテ工場を建設し「ハイラックス」の生産を開始。ホンダは、2011年から2020年まで同州のカンパナ工場で四輪車を生産し、現在は二輪車の製造に専念している。また日産も、コルドバ州に立地するルノーのサンタ・イサベル工場で、「フロンティア」を2018年から生産中だ。

自動車生産台数は2004年以来の30万台割れ

アルゼンチン自動車製造業者協会(ADEFA)によると、2020年のトラック・バスを除く自動車の生産台数は25万7,187 台。2004年以来初めて30万台を下回った(図1参照)。新型コロナウイルス感染症拡大による操業制限に加えて、資本取引規制に起因する生産財の輸入難が自動車生産に影響を及ぼした。特に前者の影響は大きく、政府が導入した厳しい行動制限措置により2020年4月の自動車生産は完全に停止。5月下旬から生産を再開したが、生産台数が前年並みの水準に戻ったのは第3四半期に入ってからだ。

図1:自動車生産台数、輸出台数の推移
2000年の生産台数は339246台で、うち乗用車は238706台、商用車は100540台。2001年の生産台数は235577台で、うち乗用車は169591台、商用車は65986台。2002年の生産台数は159356台で、うち乗用車は111299台、商用車は48057台。2003年の生産台数は169621台で、うち乗用車は109784台、商用車は59837台。2004年の生産台数は260402台で、うち乗用車は171400台、商用車は89002台。2005年の生産台数は319755台で、うち乗用車は182761台、商用車は136994台。2006年の生産台数は432101台で、乗用車は263120台、商用車は168981台。2007年の生産台数は544647台で、乗用車は350735台、商用車は193912台。2008年の生産台数は597086台で、乗用車は399236台、商用車は197850台。2009年の生産台数は512924台で、乗用車は380067台、商用車は132857台。2010年の生産台数は716540台で、うち乗用車は506342台、商用車は210198台。2011年の生産台数は828771台で、乗用車は577233台、商用車は251538台。2012年の生産台数は764495台で、乗用車は497376台、商用車は267119台。2013年の生産台数は791007台で、乗用車506539台、商用車284468台。2014年の生産台数は617329台で、乗用車は363711台、商用車253618台。2015年の生産台数は526657台で、乗用車308756台、商用車217901台。2016年の生産台数は472776台で、乗用車241315台、商用車231461台。2017年の生産台数は473408台で、乗用車203694台、商用車269714台。2018年の生産台数は466649台で、乗用車208573台、商用車258076台。2019年の生産台数は314787台で、乗用車108364台、商用車206423台。2020年の生産台数は257187台で、乗用車93001台、商用車164186台。乗用車、商用車を合わせた輸出台数は、2000年135760台、2001年155123台、2002年123062台、2003年108058台、2004年146236台、2005年181581台、2006年236789台、2007年316410台、2008年351092台、2009年322495台、2010年447953台、2011年506715台、2012年413472台、2013年433295台、2014年357847台、2015年240015台、2016年190008台、2017年209587台、2018年269360台、2019年224248台、2020年137891台。

出所:アルゼンチン自動車製造業者協会(ADEFA)

メーカー別の自動車生産台数をみると、トヨタが9万3,828台で最も多い。3万6,578台のフォード、3万3,588台のFCAがそれに続く(表1)。前年比では、トヨタ、フォルクスワーゲン(VW)、ゼネラルモーターズ(GM)の生産台数の減少が大きく、生産台数全体を押し下げた。一方、PSAの生産台数は大幅に増加した。同社は2018年に一部車種の生産を終了し、2020年から乗用車「プジョー208」の生産を開始したことから、反動増とみられる。

工業生産・開発省によると、ADEFAが2021年4月に同省に示した2021年の自動車生産台数見通しは、37万台から最大で49万台に達する。

表1:メーカー別自動車生産台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
メーカー 2019年
台数
2020年
台数 前年比 寄与度 シェア
ゼネラルモーターズ 24,378 11,404 △ 53.2 △ 4.1 4.4
FCA 31,907 33,588 5.3 0.5 13.1
フォード 42,288 36,578 △ 13.5 △ 1.8 14.2
ホンダ 8,542 1,938 △ 77.3 △ 2.1 0.8
PSA 8,476 21,456 153.1 4.1 8.3
ルノー 20,843 21,673 4.0 0.3 8.4
日産 10,769 10,839 0.7 0.0 4.2
トヨタ 125,060 93,828 △ 25.0 △ 9.9 36.5
フォルクスワーゲン 42,524 25,883 △ 39.1 △ 5.3 10.1
合計 314,787 257,187 △ 18.3 △ 18.3 100.0

出所:図1に同じ

7割を占めるブラジル向け輸出が大幅減

ADEFAによると、2020年のトラック・バスを除く輸出台数は前年比38.5%減の13万7,891台。2016年以来初めて20万台を下回った(図1参照)。輸出台数の約7割がブラジル向けで、その他の主な輸出先はチリ、ペルー、コロンビア、中米諸国と、中南米域内への輸出が中心になっている(表2参照)。ブラジルの景気後退を受けて同国向け輸出台数が大幅に減少し、輸出台数全体を押し下げた。メーカー別の輸出台数をみると、トヨタが6万9,403台で最も多く、2万4,542台のフォード、1万1,994台のFCAがそれに続く。 工業生産・開発省によると、ADEFAが2021年4月に同省に示した2021年の自動車輸出台数見通しは、22万台から最大で29万台に達する。

表2:仕向け地別・メーカー別輸出台数(2020年)(単位:台、%)
国・地域名 FCA フォード GM ホンダ 日産 PSA ルノー トヨタ VW 合計 シェア
ブラジル 11,894 18,120 4,258 7,159 5,724 1,912 39,574 2,503 91,144 66.1
欧州 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 0.0
メキシコ 0 2,169 0 0 0 0 170 0 549 2,888 2.1
コロンビア 0 1,085 0 0 0 0 520 4,613 513 6,731 4.9
チリ 0 1,944 0 0 0 0 0 3,858 1,097 6,899 5.0
ウルグアイ 72 111 100 0 0 362 0 574 62 1,281 0.9
パラグアイ 0 138 9 0 0 21 0 1,078 131 1,377 1.0
ペルー 10 509 0 0 0 0 0 7,330 87 7,936 5.8
中米 0 0 0 0 0 0 0 10,969 462 11,431 8.3
エクアドル 0 392 0 0 0 0 0 595 987 0.7
その他米州 18 70 0 0 0 0 0 635 118 841 0.6
ベネズエラ 4 0 0 0 0 0 177 181 0.1
オセアニア 0 0 0 0 0 0 0 0 4,807 4,807 3.5
アフリカ 0 0 0 0 0 0 0 0 1,387 1,387 1.0
合計 11,994 24,542 4,367 0 7,159 6,107 2,602 69,403 11,717 137,891 100.0

注:GM:ゼネラルモーターズ、VW:フォルクスワーゲン。
出所:図1に同じ

2020年は、アルゼンチンとブラジル間の自動車・自動車部品の貿易の枠組みに新たな動きがあった。アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイの4カ国は、メルコスールと呼ばれる関税同盟を構成している。ただしその中で、自動車・自動車部品は域内貿易自由化の例外品目だ。そのため、域内各国は個別ルールとして「自動車協定」を2国間で締結し、部分的に自由化している。

アルゼンチンとブラジル間では1990年に、自動車協定「経済補完協定(ACE)14号」が締結された。ACE14号では、両国で製造された自動車および自動車部品に課される関税は原則として無税とされた。ただし、貿易不均衡是正、つまり、ブラジルからアルゼンチンへの輸出超過を防ぐため、あわせて追加議定書により均衡係数(Flex)が定められている。2020年5月26日に発効した第44次追加議定書では、2023年6月末までの均衡係数は1対1.8。ブラジルのアルゼンチンからの輸入額1に対して、ブラジルからアルゼンチンへの輸出額1.8までは無税で輸出できるという仕組みだ。これが、2029年6月末までに段階的に1対3.0に拡大され、2029年7月1日以降は自由化される。

自動車販売台数も2004年以来の低水準に

ADEFAによると、2020年の自動車販売台数(自動車販売代理店への卸売り台数)は前年比16.0%減の31万2,789台だった(図2参照)。また、アルゼンチン自動車販売代理店協会(ACARA)によると、2020年のトラック・バスを含む新車登録台数(速報値)は、前年比26.1%減の33万4,254台だった。

2020年の国内の自動車販売は、新型コロナ感染拡大によるロックダウンの影響を大きく受けた。一方、30%を超える高インフレ率を背景に換物需要が高まり、外貨にアクセスできる消費者の購買意欲が刺激され、第4四半期の自動車販売は前年同期を上回った。

図2:自動車販売台数の推移
2000年の販売台数は306945台で、うち国産車が186283台、輸入車が120662台、国産車比率は60.7%。2001年の販売台数は176667台で、うち国産車が93833台、輸入車が82834台、国産車比率は53.1%。2002年の販売台数は82345台で、うち国産車が46294台、輸入車が36051台、国産車比率は56.2%。2003年の販売台数は155666台で、うち国産車が64868台、輸入車が90798台、国産車比率は41.7%。2004年の販売台数は311961台で、うち国産車が108572台、輸入車が203389台、国産車比率は34.8%。2005年の販売台数は402690台で、国産車が143282台、輸入車が259408台、国産車比率は35.6%。2006年の販売台数は460478台で、うち国産車は188479台、輸入車は271999台、国産車比率は40.9%。2007年の販売台数は564926台で、うち国産車は234354台、輸入車は330572台、国産車比率は41.5%。2008年の販売台数は611770台で、国産車は238465台、輸入車は373305台、国産車比率は39.0%。2009年の販売台数は487142台で、うち国産車は198732台、輸入車は288410台、国産車比率は40.8%。2010年の販売台数は698404台で、うち国産車は262532台、輸入車は435872台、国産車比率は37.6%。2011年の販売台数は883350台で、国産車は324795台、輸入車は558555台、国産車比率は36.8%。2012年の販売台数は830058台で、うち国産車は347997台、輸入車は482061台、国産車比率は41.9%。2013年の販売台数は963917台で、うち国産車が358582台、輸入車が605335台、国産車比率が37.2%。2014年の販売台数は613848台で、うち国産車は272605台、輸入車は341243台、国産車比率は44.4%。2015年の販売台数は613267台で、うち国産車は290337台、輸入車は322930台、国産車比率が47.3%。2016年の販売台数は721411台で、うち国産車は281659台、輸入車は439752台、国産車比率は39.0%。2017年の販売台数は883802台で、うち国産車は259008台、輸入車は624794台、国産車比率は29.3%。2018年の販売台数は681816台、うち国産車は197827台、輸入車は483989台、国産車比率は29.0%。2019年の販売台数は368806台、うち国産車は103282台、輸入車は265524台、国産車比率は28.0%。2020年の販売台数は312789台で、うち国産車は121059台、輸入車は191730台、国産車比率は38.7%。

出所:図1に同じ

国産・輸入車別では、自動車販売実績の上位を国産車が占めている。ADEFAによると、2020年の自動車販売台数に占める国産車の割合は38.7%と、前年比で10.7ポイント増加した。これは、資本取引規制により国外から資本が流入しにくい状況下で、中央銀行の外貨準備高が減少。輸入代金決済用外貨の確保が困難な状況から、自動車の輸入台数が減少しているからだ。その結果、納車に時間を要し、新車の購入希望者がいても車をすぐに提供することが困難な状況となっている。

また、自動車には内国税(Impuestos Internos)と呼ばれる奢侈(しゃし)税が、車種により20~35%課税される。課税対象となる小売価格には下限が設けられ、下限を下回る場合には奢侈税は課税されない。そのため、自動車販売代理店は一部の車種について課税を避け、購買意欲を刺激するために小売価格を抑えている。これが経営を圧迫し、苦しい状況にある。

ACARAによると、ブランド別では5万5,725台のフォルクスワーゲン、車種別では1万9,064トヨタ・ハイラックスの登録台数が最も多かった(表3、4参照)。日本車のうち、ブランド別、車種別ともに10位以内に入ったのはトヨタだけだ。

表3:ブランド別登録台数(上位40ブランド中・日本車)(単位:台)
順位 ブランド 2019年 2020年
1 フォルクスワーゲン 68,636 55,725
2 トヨタ 65,086 43,617
3 ルノー 63,417 42,843
4 フィアット 42,408 37,685
5 シボレー 51,015 35,288
6 フォード 49,956 32,017
7 プジョー 29,131 21,968
8 日産 16,531 12,489
9 シトロエン 14,778 11,506
10 ジープ 10,902 9,818
11 ホンダ 8,669 5,237
25 スバル 438 202
28 レクサス 146 174
30 三菱 96 156
39 いすゞ 8 23

出所:アルゼンチン自動車販売代理店協会(ACARA)

表4:車名別登録台数(上位50車名中・日本車)(単位:台)
順位 ブランド 車種名 2019年 2020年
1 トヨタ ハイラックス 25,128 19,064
2 シボレー オニキス 16,545 16,569
3 フィアット クロノス 11,082 16,558
4 フォルクスワーゲン ゴル トレンド 13,636 14,571
5 フォルクスワーゲン アマロック 12,675 12,929
6 フォード レンジャー 11,638 11,341
7 プジョー 208 12,113 10,488
8 フォード KA 16,643 10,217
9 トヨタ エティオス 15,750 9,947
16 トヨタ ヤリス 10,053 6,594
21 日産 キックス 4,578 4,938
26 トヨタ カローラ 9,079 4,336
30 ホンダ HR-V 5,354 3,743
31 日産 フロンティア 2,756 3,639
37 トヨタ SW4 3,084 2,521
45 日産 ベルサ 2,400 1,538

出所:表3に同じ

自動車産業振興を期し、新たなインセンティブを導入へ

自動車機械労働組合(SMATA)とADEFAが中心となり、2019年、自動車産業の成長戦略「アルゼンチン自動車部門の社会的・生産的合意2030」が策定された。策定の背景には、(1)大都市でのモビリティーの社会問題化と環境保護の動き、(2) 世界の自動車産業で起きている変化、(3) アルゼンチン自動車産業の域内競争力低下、などがあるとみられる。このうち(2)は、インターネットに常時接続するコネクテッドカーやカーシェアリングなど新しい交通形態(modality)の登場、人工知能(AI)、ビッグデータ、3Dマップを含む新技術の出現などを契機とするものだ。また(3)は、ブラジル・メキシコ自動車協定などの通商協定がもたらしたものでもあり、大きなリスクと捉えられている。

これを受けて自動車業界と政府は、自動車産業とそのバリューチェーン振興のための法案を制定することで2020年12月に合意した。もっとも2021年7月現在、法案は国会に提出されていない。ADEFAによると、自動車業界が掲げた成長戦略に沿う形で、新規投資への優遇措置導入と官民参加型のモビリティー研究所創設の2つを柱とした内容となるという。このうち前者は、国内に拠点を置く自動車、自動車部品製造会社が将来行う投資に対する優遇措置を定め、自動車部品の原産地比率を高めるのが狙いだ。また後者は、自動車産業の競争力強化を目的としている。

また政府は、リチウムのバリューチェーン構築も目指す。電気自動車(EV)の国内生産も視野に入れ、新たなインセンティブの導入を検討している。アルベルト・フェルナンデス大統領は2021年3月、通常国会初日の施政方針演説で、電気自動車の生産を含むリチウムに関連するバリューチェーンなど、持続可能なモビリティー向けのインセンティブ導入に関する法案を策定と発表した。リチウム電池を用いた電気自動車や水素を用いた燃料電池車の導入が世界的に進む中、「アルゼンチンもその道を徐々に進んでいかなければならない」と述べた。これまでのところ、中国のリチウムイオン電池製造大手の国軒高科(Gotion High Tech)の関係会社、江蘇建康汽車(Jiankang Automobile)が、電気バスとリチウムイオン電池の製造工場設立を検討している。

執筆者紹介
ジェトロ・ブエノスアイレス事務所
西澤 裕介(にしざわ ゆうすけ)
2000年、ジェトロ入構。ジェトロ静岡、経済分析部日本経済情報課、ジェトロ・サンホセ事務所、ジェトロ・メキシコ事務所、海外調査部米州課、ジェトロ沖縄事務所長などを経て現職。