新型コロナ禍で食品Eコマースが急成長(スイス)

2021年3月30日

スイスでは、欧州各国と同様、新型コロナウイルスの感染拡大状況は深刻で、2021年3月29日時点で累計感染者数は約60万人。感染拡大防止のためにレストランの閉鎖や外出自粛などの感染防止措置が実施される中、オンラインショッピングの利用が増えている。特に、これまでオンラインで購入されることが少なかった食品分野での利用が急増しており、大手食品小売店は需要に応じるため、サービスを拡充している。

新型コロナ禍以前のオンラインショッピングの傾向

連邦統計局が2019年に実施した調査によると、スイスは欧州諸国の中で2番目にオンラインでの購入の割合が多い国だ。欧州30カ国の18~74歳の人口のうち、過去3カ月間に最低1回インターネットで商品を購入した人の割合をみると、スイスは75%で、英国の80%に次いで割合が高く、EU加盟国(同年当時、英国を含む28カ国)の平均53%を上回っている(図参照)。

図:インターネットを通じた商品購入・販売の割合(2019年)(単位:%)
英国は購入が80%、販売が31%。スイスは購入が75%、販売が25%。デンマークは購入が74%、販売が28%。ドイツは購入が71%、販売が30%。オランダは購が入70%、販売36%。スウェーデンは購入が70%、販売25%。ノルウェーは購入が67%、販売33%。フランス は購入が58%、販売が22%。ベルギーは購入が55%、販売が24%。オーストリアは購入が54%、販売が12%。EU28ヵ国は購入が53%、販売が20%。スペインは購入が47%、販売が14%。チェコは購入が43%、販売が12。ポルトガルは購入が28%、販売が9%。イタリアは購入が28%、販売が8%。

注1:18歳~74歳の年齢層が過去3カ月間にインターネットで商品を購入・販売した割合。
注2:スウェーデンの数値は2018年のもの。
出所:連邦統計局資料を基にジェトロ作成

同調査は2008年に初めて行われたが、2008年にはスイス(37%)は英国(49%)、デンマーク(47%)、ノルウェー(46%)、オランダ(43%)、ドイツ(42%)、スウェーデン(38%)に次いで7位だった。2014年に英国(72%)、デンマーク(66%)に次いで3位に浮上し、2017年以降は英国に次ぐ2位となった。なお、2019年の調査によると、スイスでは男性(79%)の方が女性(73%)よりわずかにインターネットショッピングの利用頻度が高く、若年層(15~24歳90%、25~34歳91%、35~44歳91%)が高齢者(65~74歳54%、75歳以上では31%)に比べて高い。教育水準別でみると、大学卒業者が89%と最も利用頻度が高く、次いで高校卒業者(70%)、義務教育終了者(51%)と続く。

オンラインショッピングの利用は欧州各国と比べて多い一方で、支出額はそれほど高くない。2016年の1世帯当たりの月額平均支出額は5,310.15スイス・フラン(約62万1,288円、CHF、1CHF=約117円)だが、このうちインターネットによる支出は207.64CHFで、支出額全体の3.9%にすぎない(表1)。インターネットでの支出割合が高いのは航空券(43.2%)や情報関連機器(23.5%)、旅行(21.2%)で、食品・ノンアルコール飲料(1.2%)の利用は低かった。

表1 : 1世帯、1カ月当たりのインターネットでの支出の傾向(2016年)(△はマイナス値)
項目 支出額合計
(単位:CHF)
インターネットでの支出額合計
(単位:CHF)
インターネットでの支出の割合
(単位:%)
2016年のインターネット支出の伸び率(2007年比、単位:%)
航空券 52.33 22.6 43.2 110.8
情報関連機器 26.74 6.39 23.9 △ 4.9
旅行(ホテル) 250.47 53.01 21.2 125.4
ビデオ・カメラ関連機器 26.54 5.32 20.0 7.7
書籍 17.53 2.83 16.1 135.8
チケット(劇場、コンサート、
映画、博物館)
25.96 3.67 14.1 138.3
通信 183.58 20.93 11.4 310.4
交通機関(航空券以外) 121.41 9.98 8.2 289.8
衣料品・靴 210.50 12.32 5.9 298.7
新聞・文具 39.38 2.21 5.6 132.6
家具 233.51 11.8 5.1 312.6
その他個人消費(ギフト含む) 3,490.11 48.98 1.3 243.7
食品・ノンアルコール飲料 632.09 7.61 1.2 145.5
合計 5,310.15 207.64 3.9 157.7

出所:連邦統計局資料を基にジェトロ作成

また、2016年のインターネットによる支出合計額は、2007年と比べると約2.6倍に増加した。最も増加したのは「家具」と「衣料品・靴」だ。「衣料品・靴」については、ドイツの衣料品専門の電子商取引(EC)サイト「ザランド」が2012年にスイスに進出して以降、オンラインでの購入が普及した。

2018年にスイスでの売り上げが最も高かったECサイト上位10社をみると、衣類、家電などを扱うサイトが上位を占めていたことがわかる(表2)。一方、食品を扱うサイトは7位、9位にランクインしているが、年間売上高は1億CHF台にとどまっていた。

また、スイス発のECサイトが多いことも特徴だ。スイスにはアマゾンの拠点がないこともあり、地元企業によるオンラインショップ参入の余地が大きい。特に、スイスの小売業界のシェア7割を占めるMIGROS(ミグロ)とCOOP(コープ)の存在は大きく、2位のデジテック、7位のルショップ、8位のギャラクサスはミグログループ傘下、6位のマイクロスポット、9位のコープドットシーエイチはコープグループ傘下だ。

表2:スイスのECサイト売り上げ上位10社(2018年)
順位 サイト名 国名 分野 年間売上高
(100万CHF)
1 ザランド ドイツ 衣類 785.1
2 デジテック(注1) スイス 家電 774.9
3 アマゾンドイツ 米国 総合 466.4
4 ネスプレッソ スイス コーヒー 350.0
5 ブラック スイス 総合 308.1
6 マイクロスポット(注2) スイス 総合 242.0
7 ルショップ
(注1、2020年にミグロオンラインに改名)
スイス 食品 183.0
8 ギャラクサス(注1) スイス 総合 175.0
9 コープドットシーエイチ(注2) スイス 飲食 150.9
10 ズールローズ スイス 美容・薬 132.0

注1:ミグログループ傘下。
注2:コープグループ傘下。
出所:EHIリテイルインスティテュート のデータを基にジェトロ作成

新型コロナで食品分野のオンライン購入増加

スイスでは2020年3月以降、新型コロナウイルス感染拡大による行動制限措置が実施された。この措置は2020年4月以降に3段階にわたって解除されたが、その後も、人口当たりの新規感染者数は欧州内でも高い水準が続き、特にリスクの高い高齢者や慢性疾患を持つ人の外出自粛が続いた。秋以降には第2波が到来し、2021年1月からレストランや一般店舗の閉鎖措置が再び取られた。3月になってようやく一般店舗の営業が再開した。

このような状況下、ECサイトの利用率が高まり、これまでオンライン購入比率が低かった食品を購入する動きが増えている。スイス通信販売協会によると、2020年の食品のオンライン購入金額は前年比で33%増加したという。食品小売り大手のミグロとコープは、両社ともに急増するオンライン需要への対応策を講じている。

ミグロによると、グループ全体のオンライン売上高のシェアは2020年に初めて10%を超えた。食品を扱うECサイト「ミグロオンライン」は特に利用の増加が顕著で、同サイトの売上高は前年比40.0%増の2億6,600万CHFを記録した。

急増する需要に対応するため、ミグロはユニークな取り組みを行っている。かつて同社が実施していた従業員らによる食品の宅配サービス「アミーゴ」を社会福祉団体と協力して復活させた。本サービスの利用者は、高齢者や慢性疾患を抱える人などの高リスクグループに属する人に限られる。高リスク者の買い物を支援したいミグロの顧客は、自身を配達員として同サービスに登録することができる。高リスク者が「アミーゴ」のオンラインサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます で欲しい商品を選ぶと、近隣に住む配達員とマッチングされ、配達員が代わりにミグロの店舗で注文商品を購入し、依頼者の自宅ドアの前まで届けるシステムだ。購入代金は配達後に依頼者の口座から引き落とされ、配達員には購入額が振り込まれる。配達はボランティアで、物理的な接触がないように行われるが、依頼者はオンライン上でチップを贈ることもできる。

顧客同士の助け合い精神をうまくシステム化することによって、特に高リスク者を対象としたオンラインショッピングの配達能力を増やした。ミグロによると、現在までに2万7,000人がボランティアの配達員として登録し、2万人の顧客が同サービスを利用したとのこと。


ミグロのウェブサイトに掲載されている「アミーゴ」サービスの説明(同社提供)

加えて、ミグロはジュネーブに拠点を置くスタートアップ「Smood.ch」と連携したデリバリーサービスも行っている。Smood.chはもともとレストランのデリバリーを行うスタートアップだったが、ミグロの食材をSmood.chのウェブサイトに掲載し、注文を受けた食材をデリバリーするサービスをミグロ・ジュネーブと2019年10月に立ち上げた。同社によると、注文数はコロナ禍の期間に急激に増え、現在でも多くの人にサービスは利用されているという。

もう1社の小売り大手コープも同様にオンラインでの販売が増え、同社の食品ECサイト「Coop.ch」の2020年の売上高は前年比45.5%増の2億3,200万CHFを記録した。需要が大幅に増えたロックダウン中には、スイスポスト(スイス郵便)と提携し、「TOP100」という宅配サービスを提供した。これは、コープで最も人気のある非冷蔵食品100品の中から欲しい商品を顧客が購入し、スイスポストが数日以内で配達するシステムだ(現在は停止中)。

また、新型コロナ禍での食品のオンラインショッピングの普及は、生産者と消費者との直接のつながりもより容易にした。地域の生産者の有機食材をオンライン販売するECサイト「ファーミー」の2020年の売り上げは前年比3.6倍を記録した。

このように、スイスはもともと、欧州各国との比較でオンラインショッピングの利用割合は高かったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、これまでオンラインの利用が少なかった食品分野の利用も飛躍的に伸びている。

執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
城倉 ふみ(じょうくら ふみ)
2011年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部知的財産課、ジェトロ鹿児島の勤務を経て、2018年9月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
マリオ・マルケジニ
ジュネーブ大学政策科学修士課程修了。スイス連邦経済省経済局(SECO)二国間協定担当部署での勤務を経て、2017年より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
ナタリー・コルニエ
2001年からジェトロ・ジュネーブ事務所勤務。日本食のプロモーションや対日投資促進事業等に従事