コロナ禍でも日本食レストラン5店舗目をオープン(カンボジア)
「カギは現地従業員が活躍する仕組みづくり」

2021年7月14日

2015年以降、丸亀製麺、牛角、元気寿司など大手の日本食チェーン店が続々と進出し、現在プノンペンの日本食レストラン数は150を超えると言われる。他方、自社単体で系列店を展開し、コロナ禍でもビジネスを拡大している事例は少ない。そうした中でFooLaBは、プノンペン内で寿司(すし)、居酒屋業態の2軸で日本食レストランを複数展開し、カンボジア人にも人気を博している。7月1日にはグループ5店舗目となる「YaKiToRi LaB(ヤキトリラボ)」をオープンした。

新規オープンの折、同社のカンボジアでの店舗運営の工夫、新型コロナウイルス禍での変化、今後の展望などについて、最高執行責任者(COO)の野村友彬氏に話を聞いた(2021年6月28日)。


FooLaBの野村COO(本人提供)
質問:
事業概要について。
答え:
FooLaBは「The Creation of New Value」をミッションに掲げ、プノンペンで日本食レストランを多店舗経営している。2016年にカウンターで本格的な寿司を楽しめるSuShi LaB(スシラボ)を開店して以降、寿司、刺し身、焼き魚などの海鮮メニューに特化したSaKaNa LaB(サカナラボ)、リーズナブルな本格カウンター寿司業態のNiGiRi LaB(ニギリラボ)、焼き鳥、串焼きから海鮮、揚げ物などバラエティ豊かなメニューを気軽に楽しめるRoBaTa LaB(ロバタラボ)と計4店舗を展開。今年7月1日に、グループ5店舗目となる焼き鳥居酒屋YaKiToRi LaB(ヤキトリラボ)をオープンするに至った。

グループ5店舗目となるYaKiToRi LaB(FooLaB提供)
質問:
客層や客単価について。
答え:
客層はいずれも5~6割がカンボジア人の中間所得層だ。日本人は1割程度、ほか欧米、中国、韓国など様々。味付けはローカライズしていない。日本の割烹(かっぽう)で料理人として勤めた経験も生かし、日本人である経営陣自身がおいしいと思えるものだけをメニューに採用し提供する。従業員やお客さんから「こういうアレンジを加えた方がいいのでは」とコメントをもらうこともある。しかし、さまざまな国籍の方の味覚にマッチし、かつ自身の舌で判断できる美味しさを保てるよう、味を現地好みに寄せることはあえてしない。四半期に1度、各店舗の販売データからメニューを分析し、定期的に数商品の入れ替えを行うことでメニューの改善を図っている。
また、寿司をメインに扱うSuShi LaBでは、開業からしばらく客単価を100ドル以上と高めに設定していた。しかし、この1年半ほどの間にプノンペンでは、客単価300ドルを超えるおまかせ系寿司店の開業が相次いだ。このことを受け、客単価を45~50ドルまで大幅に下げ、どこよりもリーズナブルに、質が担保された美味しい寿司を楽しめる店としてのポジションの確立と他店との差別化を図った。高級寿司店に劣らない品質のネタも仕入れており、結果として、設定価格帯とその期待値に対して提供される料理の質への満足度が高まった。お客さんからの反応は好評だ。メニューはおまかせコース(30ドル、45ドルの2コース)とアラカルトから選べる。コース注文が圧倒的に多い。カンボジアでは、日本に比べ食材の「旬」への意識やこだわりがあまりない。「脂がのって美味しい初夏にアジを食べよう」など、特定のネタを選んで注文するスタイルは定着しにくいようだ。今後も注文動向を分析し、コースのみに絞るか、メニュー検討を進めていく。
質問:
カンボジア人従業員が活躍する仕組みづくりについて。
答え:
私(野村氏)は2019年1月にアルバイトとして当社に就職。その後2019年7月に正社員になり、4店舗目となるRoBaTa LaBの出店前に経営に加わった。各店舗に日本人マネジャーを1人ずつ配置していた時期もあった。しかし現在は、全従業員90人のうち日本人は経営層の2人だけだ。
実際にカンボジア人を部下に持ち、指示が粗いと、求めていたものからアウトプットがかけ離れてしまい苦労した。例えると「魚を釣るために釣り竿(ざお)を渡すと、釣り竿で野球を始めてしまう」様な状態だった。こうした経験から、指示内容や作業工程はできる限り細分化し「出してほしい正解」までを伝える詳細な標準作業手順(SOP)を作成し展開した。そうしたところ、従業員のスキルアップと期待するアウトプットの実現を両立することができた。
就職当時はレシピを紙で管理していた。そのため、都度のアップデートの周知が徹底されなかった。変更が反映されないままお客さんに料理を出してしまうなど、情報共有の手段にも課題を感じていた。そこで、まずはレシピの電子化からはじめ、2年がたった現在までに在庫やサプライヤー、各食材の原価率、発注ごとの各店舗への食材配分数など、店舗運営に係るデータをすべてオンラインストレージ(Googleドライブ)での一元管理に切り替えた。従業員全員がいつでも最新の情報にアクセスできるようになり、情報共有の確度とスピードが格段に向上した。
また、SOPの作成と併せて、人事制度も見直した。職種ごとに技能に応じた昇給システムを導入するなど基準の明確化を行い、スキルと対応する評価を整理した。各従業員の給与の妥当性を客観的に測れるようにしたうえで、個別面談も自ら行いキャリア希望に沿ったポジション配置への配慮も欠かさないことで、従業員の不満や不公平感の軽減に努めて従業員に気持ちよく働いてもらうための組織づくりにも力を入れている。
このように、カンボジア人主体で組織が回るような仕組みやルール作りを進めたことで、従業員のハード面、ソフト面双方での働きやすさが向上した。同時に、料理の味や接客などのサービスの質も自然と磨かれ、結果としてお客さんの満足度につながる、という良いサイクルが生み出されている。
質問:
コロナの影響は。
答え:
最初にカンボジア国内で陽性者が確認された2020年3月末ごろには一時、売り上げが7割ほど落ちた。その後は海外からの渡航者を除き国内感染はほとんど確認されず、年末にはかなり客足が回復していた。ところが、2021年2月20日以降の急速な国内感染拡大により、事態は一変。
感染拡大防止策として、プノンペンにおいては4月1日から、午後8時から午前5時まで全ての飲食やアルコール類を伴う集まりが禁止され、4月15日にはロックダウンとなり原則外出禁止になった。その後、感染状況の深刻さに応じて区域ごとに緩和措置が取られたものの、5月21日まで店内飲食と酒類販売が一切できない苦しい状況が続いた。この期間中もデリバリーとテイクアウトは認められていたため、新規顧客獲得の機会ととらえ、居酒屋業態の2店舗では営業の継続を選択した。
ただし、店内飲食に比べると利益が上がりにくい。注文を受けてから配達員に渡すまでのオペレーションも煩雑だ(包装資材や調味料など、追加で必要となる在庫と手順の管理など)。また、配達員のミスによる到着遅延やこぼれといったコントロールできない要因が店舗へのクレームになってしまう。このように、デメリットも多かった。そのため、5月22日に店内飲食が解禁となって以降もデリバリーやテイクアウトは継続しているものの、店内飲食の利用を伸ばすことにより重点を置く。
客足は少しずつ戻ってはいるが、以前に比べるとまだ6割程度だ。各店舗の客単価も5ドルほど落ちた。夜間外出および店内飲食、酒類販売の禁止が一定期間続いたことで、二次会に行く習慣がなくなり解散時間が早まったり、酒類自体の消費量が減ったりと、人々の生活リズムに変化があったことも影響しているかもしれない。
質問:
今後の展望は。
答え:
将来的にはトゥールコーク、トゥールトンポン、ボンケンコンのプノンペン内主要3エリアに計15店舗を展開、年商15億円を達成し、カンボジア市場に上場することが目標だ。今はまだない焼き肉や中華などをメインメニューに据えた新店舗の出店や、セントラルキッチンを構えデリバリー注文にも対応できる体制づくりなども視野に入れつつ、可能性を模索している。ただし、事業拡大に伴って見えてきた組織づくりの重要性や、しばらくはコロナ禍で状況が急変する可能性とリスクにも鑑み、今は新規出店のスピードを落としてでも、内側に目を向け社内体制を整えながら着実に組織を成長させることに注力したい。

内装にもこだわった店内(FooLaB提供)

編集後記

「美味しい食事を提供する」ことに終始せず、従業員とお客さん双方にとって心地よいお店づくりへの配慮と工夫を追求する。そのことが、料理への単純な評価だけでなく、特別な場所としての価値を創出する。ひいては、リピーター客や口コミでの新規顧客獲得にもつながっていると感じた。「特別感」を演出するスパイスとして各店舗の内装にもこだわっており、プノンペンを訪れた際にはぜひ感じてほしい食体験の1つだ。

執筆者紹介
ジェトロ・プノンペン事務所
清島 優花(きよしま ゆか)
2017年、ジェトロ入構。農林水産・食品事業推進課を経て、2020年9月からジェトロ・プノンペン事務所勤務。