2020年工業部門500社、新型コロナ禍や通貨リラ安が影響(トルコ)

2021年7月27日

トルコのイスタンブール工業会議所(ISO)は5月26日の記者発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、2020年の工業部門売上高上位500社(以下、ISO500社)を公開した(注1)。 例年どおり、エネルギー、自動車、家電、鉄鋼の4分野が上位20社のほとんどを占めた。首位は石油精製会社のテュプラシュ、2位フォード・オトサン、3位オヤク・ルノーとなった。ISO500社の総売上高は、トルコ・リラ建てで前年比15.3%増。一方、ドル建てでは6.7%減(注2)だった(表1参照)。

テュプラシュが首位堅持も、売り上げ減

テュプラシュは、コチ財閥(トルコ最大の財閥)系の石油精製会社だ。1993年からの首位を堅持した。しかし、国内外の需要減少の影響により、ドルベースの売り上げは前年比46.1%減となった。同財閥の関連会社では、フォード・オトサン(2位)、白物家電のアルチェリッキ(7位)、自動車のトファシュ(8位)も上位10社にランクインした。

表1:ISO500社トルコ工業部門(売上高順)上位20社2020年(単位:100万トルコリラ、100万ドル、%)(△はマイナス値、—は値なし)
順位 会社名 前年
順位
売上高(生産ベース、ネット) 伸び率 外資
比率
輸出額による順位 輸出額(注2) ドル建て輸出額 伸び率
リラ
建て
ドル建て(注1) リラ ドル 2019年
1 テュプラシュ(トルコ石油精製会社) 1 58,593 8,358 △ 33.4 △ 46.1 0 5 3,527 1,799 △ 49.0
2 フォード・オトサン(自動車) 2 45,223 6,451 22.0 △ 1.3 41.04 1 5,869 4,945 △ 15.7
3 オヤク・ルノー(自動車) 4 31,242 4,457 26.8 2.6 51 3 3,633 3,047 △ 16.1
4 トヨタ・トルコ(自動車) 3 30,812 4,395 19.2 △ 3.6 100 2 4,232 3,622 △ 14.4
5 未公開 9 11
6 スター製油所 5 24,030 3,428 15.4 △ 6.7 0
7 アルチェリッキ(家電) 6 21,803 3,110 17.1 △ 5.3 0
8 トファシュ(トルコ・フィアット:自動車) 7 20,719 2,956 20.4 △ 2.6 38 7 2,354 1,544 △ 34.4
9 エルデミル(エレーリ製鉄工場)(鉄鋼) 10 16,976 2,422 20.0 △ 2.9 0 34 277 283 2.2
10 イスデミル(イスケンデルン製鉄工場)(鉄鋼) 8 16,910 2,412 3.2 △ 16.6 0 25 582 390 △ 33.0
11 アセルサン・エレクトロニク(防衛産業) 11 13,237 1,888 5.1 △ 15.0 0 113 182 123 △ 32.4
12 イチダシュ(鉄鋼) 16 12,650 1,805 29.0 4.4 0 14 857 804 △ 6.2
13 チョラクオウル金属加工(鉄鋼) 13 12,175 1,737 17.8 △ 4.8 0 19 585 526 △ 10.1
14 ヒュンダイ・アッサン(自動車) 12 11,899 1,697 9.1 △ 11.7 70 6 1,889 1,587 △ 16.0
15 メルセデス・ベンツ(自動車) 14 11,257 1,606 13.2 △ 8.4 85
16 トスチェリキ(トスヤル鉄鋼)(鉄鋼) 24 10,226 1,459 49.9 21.2 0
17 BSH(家電) 20 10,088 1,439 20.7 △ 2.4 99.98 13 934 812 △ 13.1
18 シシェジャム(ガラス製品) 10,028 1,431 0 22 451
19 グラム・アルトゥン(貴金属販売) 9,813 1,400 0
20 ベステル(白物家電) 23 9,764 1,393 40.0 13.2 0
ISO 500社合計 1,178,600 168,131 15.3 △ 6.7

注1:1ドル:7.01(中銀2020年買い平均値)で算出。
注2:輸出額を公開する企業のみのデータ。
出所:イスタンブール工業会議所(ISO)からジェトロ作成

自動車産業からは例年どおり、2位のフォード・オトサンに続き、オヤク・ルノー(3位)、トヨタ・トルコ(4位)、トファシュ(フィアット、8位)の4社が上位10社にランクインした。エネルギー部門では、首位のテュプラシュに加え、2019年に初登場で5位に付けたスター製油所が6位となった。また、ガラス工業最大手のシシェジャムが、2020年からランキングに初めて参加。18位にランクインした。

自動車・石油関連で輸出減、食品は増加

ISO500社の2020年の輸出額は、前年比12.8%減の641億448万ドルで、2014年(613億4,513万ドル)以来、初の前年比減となった。新型コロナウイルス禍の影響を受けた国外需要の低迷などにより、自動車が19.4%減、基礎金属が12.8%減、石油精製品が41.7%減、電気機器が8.8%減だった。輸出主導の産業分野が軒並み、打撃を受けたことが分かる。もっとも、輸出が好調だった産業もある。食品については18.5%増、医薬品59.3%増、その他にも木材は21.0%増、鉱業が41.7%増だった(表2参照)。

表2:ISO500社セクター別輸出額の比較(単位:1,000ドル,%)(△はマイナス値、—は値なし)
セクター 輸出額 構成比 伸び率
2019 2020 2019 2020
鉱業・採石 859,178 1,217,441 1.2 1.9 41.7
食品 4,651,859 5,512,896 6.3 8.6 18.5
飲料 105,591 90,541 0.1 0.1 △ 14.3
たばこ 402,969 400,991 0.5 0.6 △ 0.5
繊維 2,490,190 2,502,178 3.4 3.9 0.5
衣料品 1,423,562 1,285,458 1.9 2.0 △ 9.7
木材 460,186 556,870 0.6 0.9 21.0
紙・製紙 608,377 607,644 0.8 0.9 △ 0.1
石油精製品 4,357,520 2,540,406 5.9 4.0 △ 41.7
化学品 3,269,592 2,361,545 4.4 3.7 △ 27.8
医薬品 183,599 292,565 0.2 0.5 59.3
ゴム・プラスチック 2,091,031 1,942,836 2.8 3.0 △ 7.1
非金属鉱物 1,432,557 1,822,278 1.9 2.8 27.2
基礎金属 11,731,408 10,227,964 16.0 16.0 △ 12.8
金属製品 1,480,801 1,511,743 2.0 2.4 2.1
コンピュータ・電子機器、精密機器 1,466,168 1,230,972 2.0 1.9 △ 16.0
電気機器 6,514,868 5,942,280 8.9 9.3 △ 8.8
機械機器 1,670,339 1,610,667 2.3 2.5 △ 3.6
自動車 25,016,876 20,171,021 34.0 31.5 △ 19.4
その他の輸送機器 1,591,101 966,873 2.2 1.5 △ 39.2
家具 124,897 111,022 0.2 0.2 △ 11.1
その他 1,495,322 1,156,149 2.0 1.8 △ 22.7
電気・ガス・蒸気機関、空調機器 808 1,662 0.0 0.0 105.7
合計 73,515,291 64,104,481 100.0 100.0 △ 12.8

出所:イスタンブール工業会議所(ISO)からジェトロ作成

産業別の売り上げをドルベースでみると、基礎金属(ISO500社の売り上げに占める比率が18.2%)は3.8%減、自動車(同17.2%)6.9%減、石油精製品(同7.9%)39.2%減と、国内外の需要減少の影響がみられた。好調だったのは、食品(同13.6%)の3.4%増、木材の7.3%増、医薬品の9.1%増などだ(表3参照)。

表3:ISO500社産業別売り上げ(単位:100万ドル)(△はマイナス値、—は値なし)
産業 2014 2019 2020 企業数* 構成比 伸び率
鉱業・採石 11,022 4,526 4,326 10 2.6 △ 4.4
食品 65,698 22,036 22,789 109 13.6 3.4
飲料 4,613 1,665 1,297 6 0.8 △ 22.1
たばこ 3,537 1,179 1,040 3 0.6 △ 11.8
繊維 16,187 6,546 6,289 41 3.7 △ 3.9
衣料品 2,600 1,851 1,588 13 0.9 △ 14.3
木材 5,265 2,173 2,331 7 1.4 7.3
紙・製紙 4,052 2,798 2,777 15 1.7 △ 0.7
出版物 1,012 228
石油精製品 48,702 21,768 13,238 4 7.9 △ 39.2
化学品 21,792 9,802 8,822 33 5.2 △ 10.0
医薬品 2,409 1,251 1,365 7 0.8 9.1
ゴム・プラスチック 11,883 4,380 4,322 21 2.6 △ 1.3
非金属鉱物 18,144 3,734 4,949 24 2.9 32.5
基礎金属 74,386 31,764 30,557 66 18.2 △ 3.8
金属製品 7,205 3,738 4,146 19 2.5 10.9
コンピュータ・電子機器、精密機器 6,857 4,182 3,987 6 2.4 △ 4.7
電気機器 26,288 10,384 10,314 31 6.1 △ 0.7
機械機器 6,418 2,420 2,834 14 1.7 17.1
自動車 55,940 31,026 28,896 41 17.2 △ 6.9
その他の輸送機器 4,582 2,705 1,774 6 1.1 △ 34.4
家具 2,075 743 744 4 0.4 0.2
その他 4,230 3,299 4,447 5 2.6 34.8
電気・ガス・蒸気機関、空調機器 15,958 5,936 5,079 13 3.0 △ 14.4
合計 421,156 180,224 168,131 498 100.0 △ 6.7

*表に革・革製品と、出版物セクターの非公開2社が表示されておらず、合計企業数は498になっている 。
出所:イスタンブール工業会議所(ISO)からジェトロ作成

外資の数は過去10年間で最低、日系企業数は1社増

ISO500社のうち、外資系企業の数は2009年の153社をピークに減少傾向が続いている。2020年は前年から7社減の110社で、過去10年間では最低となった。他方、総売上高に占める外資の売上比率は約31%と横ばいで推移している。

産業別にみると、例年どおりに自動車セクターの企業数が23社で最も多い。食品18社、化学製品9社、ゴム・プラスチック8社、電気機器8社と続く。

110社のうち、外資出資比率が50%超の企業数は79社(前年比4社減)で、25.01~50%が23社(前年比2社減)、0.01~25%が8社(前年比1社減)となっている。

ISO500社のうち、日系企業数は19社で、前年から1社増加した。19社のうち10社が前年から順位を上げ、8社が下げた(1社は不明)。トヨタ・トルコは3位から4位に順位を下げた。逆に、トスヤル・トーヨー、サルテン、べテック・ボヤ、矢崎自動車部品、ダイキン・トルコ、タト食品、関西アルタン・ペイント、日東ベント、サンケミカル、パナソニック・ライフソリューションズが順位を上げた(表4参照)。

表4:ISO500社ランキングにおける日系企業の順位
社名 ISOランキング順位 出資比率
2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年
トヨタ・トルコ 12 15 15 6 3 3 3 4 トヨタ90.0%、三井物産10.0%
ブリサ 54 57 53 57 56 56 54 55 ブリヂストン43.63%
トスヤル・トーヨー 72 73 64 東洋鋼鈑49%
ホンダ・トルコ 188 199 209 103 60 66 未公開 73 本田技研100%
JTI 104 89 66 64 92 82 75 78 JTI 100%
サルテン *123 *118 100 112 111 108 102 84 三井物産15%
ベテック・ボヤ *108 *110 *102 *98 *106 *130 165 115 日本ペイント96%
矢崎自動車部品 148 166 133 113 101 118 273 139 矢崎100%
ダイキン・トルコ 488 307 291 216 175 152 ダイキン工業100%
タト食品 105 105 110 106 137 180 194 185 カゴメ3.7%、住友商事1.5%
インジGSユアサ *263 *234 229 311 265 207 183 200 GSユアサ50%
住友ゴムAKOタイヤ 281 178 203 住友ゴム80%
トヨタ紡織トルコ 316 367 405 194 157 170 187 206 トヨタ紡織欧州90%、三井物産10%
関西アルタン・ペイント 296 293 280 283 254 259 262 257 関西ペイント51%
アナドル・いすゞ 179 150 111 150 170 202 180 284 いすゞモーターズ16.99%、
伊藤忠商事12.74%
日東ベント 337 354 352 150 356 330 368 333 日東電工100%
サンケミカル 446 426 415 377 362 341 342 334 DIC米子会社サンケミカル100%
ポリサン関西ペイント *282 *266 *281 317 301 342 299 351 関西ペイント50%
パナソニック・
ライフソリューションズ
*318 *344 374 367 398 490 リスト外 482 パナソニック 100%

*日系企業投資前の順位。
出所:イスタンブール工業会議所(ISO)からジェトロ作成

ISO500社全体で、研究開発(R&D)に取り組む企業は2019年の262社から271社に増えた。R&D支出はリラベースで前年比4.9%増となった。ただし、売り上げにおけるR&D支出の割合は2019年の0.58%から減少して0.53%となった。

欧州共同体経済活動統計分類(NACE、注3)をベースにISO500社の技術レベルをみると、「中の下」と「中の上」の技術レベルに分類される企業の割合は2019年に比べて上昇した。一方で、「高」レベル技術に分類される企業の割合は、2017年から2019年まで続いていた上昇傾向が止まった。2019年に6.9%だったのに対し、2020年は6.4%だった。

工業会議所は「インフレ低下が喫緊の課題」と発言

イスタンブール工業会議所(ISO)のエルダル・バフチュバン会頭は記者発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで「新型コロナ禍がもたらした変化は、一過性のものではないことは明らかだ」と発言。生産からロジスティックス、消費など幅広い分野で新しい習慣やアプローチが始まっているとした。一方、工業部門はトルコ経済を大きく支えているという認識を示した上で、昨今のインフレやローンの金利上昇などを例示。企業にとっての投資環境が悪化しているとして、インフレ率を低下させることが喫緊の課題と述べた。


注1:
ISO500社ランキングには、工業セクターで希望する企業が参加する。年によって参加しない企業や、参加しても名称を未公開にする企業もある。
注2:
2020年のドル為替レート平均値をベースに計算した。
注3:
NACEは1970年にEUが開発した分類法。さまざまな経済活動を指標化するために利用される。
執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所 国際貿易専門家
エライ・バシュ
2009年6月にトルコのチャナッカレ・オンセキズ・マルト大学教育学部日本語教育学科を卒業。その後、大阪大学に留学し、2014年3月に言語文化研究科言語文化専攻博士前期課程を修了。2015年3月からジェトロ・イスタンブール事務所で調査担当として勤務。