成長続けるオンラインフードデリバリー産業(インドネシア)
出店者、プラットフォーム間の競争激化、商材・場所では苦戦も
2021年5月21日
インドネシアでは、2020年3月から新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、中央政府と州政府は経済・社会活動の制限を実施。2021年5月まで、首都ジャカルタ特別州や隣接する西ジャワ州、バンテン州をはじめ、各州で出社制限や営業時間の制限などが続いている。活動制限は人の流れを抑制し、配車サービスなどへの需要を減少させた。一方で、需要が増加した産業の1つに、オンラインフードデリバリー産業がある。本稿では、新型コロナ禍の中で成長を続けるオンラインフードデリバリー産業の最新動向について、出店者へのインタビュー結果も交えて紹介する。
インドネシア、人口増を背景にASEAN市場トップに
各国の市場や消費者データを提供するスタティスタ(Statista)社のデータによると、世界のオンラインフードデリバリー産業の市場規模は、2021年に22億8,000万ドル(収益ベース)に達すると予測されている。加えて、2021年から2024年までの年間市場成長率は9.8%とされ、2024年までに30億1,800万ドルの市場に成長すると見込まれている。その中でも、専門のプラットフォーム上で注文などが可能な分野が多くを占める。この分野の2021年の市場規模は13億1,200万ドルになると予測される。
インドネシアがASEANトップの市場規模とする調査結果もある。シンガポールのベンチャーキャピタル会社モメンタムワークス(Momentum Works)社は、インドネシアが東南アジア最大のオンラインフードデリバリーサービス市場となったとのレポートを発表 した。それによると、2020年のインドネシアのオンラインフードデリバリーサービスの流通取引総額(GMV)は37億ドルで、タイ、シンガポール、マレーシア、フィリピン、ベトナム、インドネシア6カ国のGMV合計の約31%を占めたとされている(図1参照)。2020年の6カ国合計のGMVは119億ドルで、前年比2.8倍となり、2018年から2019年の成長率(91%)を上回った。
新たなプラットフォーム事業者参入で競争激化か
インドネシアで、フードデリバリーを提供するプラットフォームとして市場を牛耳っていたのが、配車・配送サービス大手グラブ(Grab、シンガポール資本)が手掛けるグラブフード(Grab Food)と、同業大手ゴジェック(Gojek、地場企業)が手掛けるゴーフード(GoFood)だ。モメンタムワークスの調査 によると、グラブフードが市場シェアの53%、ゴーフードが47%を占めており、両社による寡占状態が続いている(図2参照)。
また、2020年6月時点では、オンラインで食事を頼む際に使用されるアプリとして、ゴーフードが78%、グラブフードが73%のシェアを獲得するなど、他のプラットフォームを寄せ付けない状況だ(図3参照)。
しかし、こうした状況に対して、2021年に入り、もう1社が新たに攻勢を強めている。ECサイトのショッピー〔Shopee、シンガポールの大手IT企業シー(SEA)が運営〕が手掛けるショッピーフード(ShopeeFood)だ。ショッピーフードはもともと、2020年4月からサービスを開始していたが、2021年1月、ショッピーが公式YouTubeアカウントでショッピーフードの広告を掲載し、今後この分野に力を入れていくとみられている(「コンパス」紙1月14日)。2021年4月までにジャカルタ市内でもゴーフードやグラブフードに加え、オレンジ色のショッピーフードのドライバーが目立つようになってきた。
4月13日から始まった断食月(ラマダン)と断食明け大祭(レバラン)の時期は、1年の中でもフードデリバリーの需要が高まるといわれる。各社とも、大幅な割り引きや無料配送を実施し、顧客の囲い込み、新規顧客の開拓に必死だ。ショッピーフードが先を走るゴーフードとグラブフードのシェアを奪うことができるのか注目される。
商材と場所、激化する競争で苦戦も
このように成長と変化を続けるオンラインフードデリバリー産業について、その実態を調査するため、ゴーフードでフードデリバリー業を行う「Meat-O」の最高経営責任者(CEO)アナク・アグン氏にインタビューした(実施日:2021年4月20日)。その結果、ビジネスの展開場所や商材による難しさが浮かび上がってきた。
- 質問:
- 貴社の事業概要は。
- 答え:
- 2018年にバリで会社を立ち上げた。創業してから一貫してオンライン、主にゴーフード上でのフードデリバリー事業を続けている。牛肉を使ったスウェーデン風ミートボールを主力商品として販売している。
- 質問:
- 新型コロナ禍は、貴社のビジネスにどのような影響を与えたか。
- 答え:
- おそらく、フードデリバリー業界全体ではポジティブな影響が多かったと思うが、当社にとっては非常に厳しい1年となった。当社の主力商品は洋食で、最初にビジネスを立ち上げたバリ島では主に観光客をターゲットとしていた。しかし、新型コロナ禍で観光客が大幅に減ったことから、2019年に比べて、売上高は明らかに減少した。2020年8月には、キッチンをジャカルタに拡張し、コロナ禍の一番厳しい時期をなんとか生き残ったという状況だ。
- 質問:
- 貴社商品のオンライン販売はこれから継続的に増加すると思うか。
- 答え:
- コロナ禍によって、多くの人がオンラインで食事を注文するようになった。当社もジャカルタにキッチンを構え、需要増に対応している。ジャカルタに加えて、バリ島の観光客が戻ってくれば、今後も当社の売り上げは継続的に増加していくと思っている。
- 質問:
- オンラインフードデリバリー業界の難しい点は。
- 答え:
- 競争の激化が非常に進んでいる。これまでオンライン販売を行っていなかった有名レストランなどを含め、長引く社会制限で多くの企業や店がオンライン販売に移行した。そのため、通常の商品では他社と差別化することが難しくなっている。もう1つの難しい点は、匂いや味で消費者に訴求ができないことだ。料理を顧客に訴求する要因として、匂い、味、見た目の3つがあると考えている。しかし、オンラインでは前者2つの訴求が難しくなる。そのため、最終的には価格、見た目・パッケージング、そして顧客のコメント・レビューに頼らざるを得ない。われわれもインスタグラム(Instagram)などのSNSで消費者の声を中心に取り上げ、発信するマーケティングを行っている。
- 質問:
- 今後のビジネスの見通しと戦略は。
- 答え:
- ゴーフードだけではなく、グラブフードやショッピーフードにも出店の申し込みをしている。市場全体が伸びていく中、異なるプラットフォーム上で販売することで、まずは消費者との接点を増やすことに注力していきたい。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ジャカルタ事務所
尾崎 航(おざき こう) - 2014年、ジェトロ入構。生活文化産業企画課、サービス産業課、商務・情報産業課、デジタル貿易・新産業部 EC・流通ビジネス課を経て、2020年9月から現職。