日本産ブリにメキシコ人の9割が高評価
8,500人が初めて試食、今後のメキシコ市場開拓に期待

2021年4月7日

ジェトロは2021年2月~3月、日本産のブリのプロモーションをメキシコで初めて実施した。日本産食材サポーター店に登録済みのレストラン19店舗でブリ料理を無料で提供し、8,527人のメキシコ人客の味覚を楽しませた。また、全店舗でアンケートを実施し、合計1,054人から回答を得た。この結果を基に、日本産ブリの輸出先として未開拓のメキシコ市場における戦略を立てていく。

日本産ブリの輸出構造

農林水産省によると、2019年の日本産ブリ・ハマチの国・地域別輸出額実績は合計229億円だった。内訳は米国159億円(シェア69.4%)、中国13億円(5.7%)、香港11億円(4.8%)、その他46億円(20.1%)と、米国への偏りが大きい。政府は2025年時点のブリ・ハマチの輸出額目標を合計542億円と発表しており、内訳は米国320億円(59.0%)、中国60億円(11.1%)、香港40億円(7.4%)、その他122億円(22.5%)となっている。米国向け輸出シェアを約10ポイント下げるとしているが、依然として高い割合だ(表1参照)。

表1:日本産ブリ・ハマチの国別輸出額実績と目標(単位:億円、%)
国・地域名 2019年 2025年
輸出額
実績
シェア 輸出額
目標
シェア
米国 159 69.4 320 59.0
中国 13 5.7 60 11.1
香港 11 4.8 40 7.4
その他(東南アジア、EUなど) 46 20.1 122 22.5
合計 229 100.0 542 100.0

出所:農林水産物・食品の輸出拡大のための輸入国規制への対応等に関する関係閣僚会議(令和2年11月30日)
農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略-マーケットイン輸出への転換のために-

メキシコへの日本産ブリ・ハマチの直接輸出はほぼ実績がなく、ほとんどが米国に輸出されたものがメキシコ向けに再輸出されている。メキシコ国立地理統計院(INEGI)のデータ(関税分類コード:HS0301.11.01)によると、2019年の米国経由のブリ・ハマチ輸入額は92万1,000ドルで、米国向け輸出額のわずか0.6%だ(注1)。

日本産ブリの在庫問題とメキシコへの販路拡大

日本産ブリの輸出先の約7割が米国という状況下、2020年上半期からの新型コロナウイルス感染拡大と、それを受けた米国内でのロックダウンなどが影響し、米国内のブリ消費が激減した。そのため、米国内でブリが余り、日本からのブリの新規輸出がスローダウンした。これにより、日本国内でのブリの余剰や値崩れが長期化している。こうした状況を少しでも改善し、日本から米国向け輸出の回復に寄与する目的で、ジェトロはメキシコでブリのプロモーションを実施した。メキシコでは、ハマチは日本食レストランを中心に消費されているものの、その成長魚であるブリの認知度は低く、メキシコ人にとっては新規の商材だ。そのため、プロモーションでは、メキシコ市場におけるブリの消費拡大戦略の一助とする目的で、メキシコ人消費者向けにオンラインアンケートを行い、得られた定量的データはブリを取り扱う米国とメキシコの事業者へ提供した。

5都市・19レストランがプロモーション参加

プロモーションには、メキシコで日本産食材サポーター店に認定済みの5都市の合計19レストランが参加した。各レストランの来客者数などのデータを基に15~45キロの鹿児島産の冷凍ブリを分配し、レストランが工夫を凝らした1品を無料のおまけとして客に提供した。プロモーションを通じ、8,527人のメキシコ人客がブリ料理を楽しんだ。そのうち、1,054人がその場でオンラインアンケートに回答した。日本産食材サポーター店認定制度とは、日本国外で日本産食材や酒類を使用・販売しているレストランや小売店を「日本産食材サポーター店」として認定するもの。2021年1月末現在、全世界で5,808店舗、メキシコでは120店舗(全体の2.1%、第10位)が認定されている。ちなみに、中南米ではブラジルが147店舗(2.5%、第9位)で最多だ。

表2:日本産ブリのプロモーションに参加したレストラン
店舗数 都市 レストラン名
8 メキシコ市 Kazu's Kitchen
Asai Kaiseki Cuisine
Yamasan Ramen House
Asociación México Japonesa
ROKAI
ROKAI RAMEN
SUSHI IWASHI
Deigo & Kaito cocina tradicional japonesa
7 ハリスコ州グアダラハラ市 Restaurante Toyo(2店舗)
Suehiro
Kaneishi sushi & sake bar(3店舗)
Restaurant IRORI
2 ケレタロ州ケレタロ市 Kazu's Kitchen
Yamasan Ramen House
1 グアナファト州レオン市 Izakaya GOEN
1 ヌエボレオン州モンテレイ市 Yamasan Ramen House

出所:ジェトロ

メキシコ人客の半分以上は月に3回ほどの日本食

アンケートでは、ブリの消費のみならず、日本食レストランに来店した客に対し、日本食への習慣も質問した。メキシコ市のように所得が高く外食産業が発展している都市では、一般的に1人当たりの日本食レストラン来店や日本食の出前利用などの回数は、他の都市よりも多いと考えられてきた。しかし、今回の調査では、どの都市でもメキシコ人客が日本食を食べる回数に差がないことが判明した。また、半分以上のメキシコ人客は月に3回以上、日本食を食べるということが分かった(図1~6参照)。

多くの日本食レストランで客の半分程度は1週間に1回は日本食を食べているということになる。このことから、レストランが売り上げを伸ばすためには、客単価を上げるか、来店したことのない新規客を獲得する、という2つの方法考えられる。だが、前者はすぐに達成できるものではないため、後者の努力が重要となる。

図1:1カ月に日本食を食べる回数(メキシコ5都市合計)
0回が2.4%、1-2回が46.2%。3-4回が32.0%、5-6回が10.9%、7回以上が8.4%。回答数は1,043。

出所:ジェトロ調べ

図2:1カ月に日本食を食べる回数(メキシコ市)
0回が2.9%、1-2回が45.7%。3-4回が29.9%、5-6回が12.5%、7回以上が8.9%。回答数は481。

出所:ジェトロ調べ

図3:1カ月に日本食を食べる回数(モンテレイ市)
1カ月に日本食を食べる回数を集計したグラフ。0回が0%、1-2回が53.2%。3-4回が27.7%、5-6回が12.5%、7回以上が6.4%。回答数は47。

出所:ジェトロ調べ

図4:1カ月に日本食を食べる回数(グアダラハラ市)
0回が2.3%、1-2回が44.9%。3-4回が37.5%、5-6回が8.3%、7回以上が7.0%。回答数は301。

出所:ジェトロ調べ

図5:1カ月に日本食を食べる回数(ケレタロ市)
0回が0%、1-2回が39.8%。3-4回が35.2%、5-6回が17.6%、7回以上が7.4%。回答数は108。

出所:ジェトロ調べ

図6:1カ月に日本食を食べる回数(レオン市)
0回が3.8%、1-2回が55.7%。3-4回が24.5%、5-6回が3.8%、7回以上が12.3%。回答数は106。

出所:ジェトロ調べ

「ブリ」という名称の認知度は「ハマチ」の半分

「ブリ」や「ハマチ」という名称を聞いたことがあるかとの設問で、「ブリだけ聞いたことがある」のは全体の8.0%で、「ハマチとブリの両方聞いたことがある」は16.9%だった。つまり、ブリの認知度は24.9%と、4人に1人は「ブリ」という名称を聞いたことがあった(図7参照)。

他方、ハマチでは、「ハマチだけ聞いたことがある」が32.9%、「ハマチとブリの両方を聞いたことがある」の16.9%と合計すると49.8%となり、2人に1人は「ハマチ」を聞いたことがあった。つまり、ブリという名称の認知度はハマチの半分であることが分かった。

図7:「ブリ」や「ハマチ」という名称を聞いたことがあるか
「ブリだけきいたことがある」と回答したのは女性が4.0%、男性4.0%。「ブリとハマチの両方ある」と回答したのは女性が5.3%、男性11.6%。「ハマチだけある」と回答したのは女性16.5%、男性16.4%。「ブリとハマチの両方ない」と回答したのは女性19.6%、男性22.6%。回答数は1,046。

出所:ジェトロ調べ

プロモーション終了後も9割がブリを注文したいと回答

次に、「プロモーションがなくとも、自身でお金を払ってブリを食べたいか」と問うた。「値段に関係なく食べたくはない」が9.8%、「値段に関係なく食べたい」が34.0%、「値段次第では食べたい」が56.2%だった。さらに、おまけで提供されたブリ料理に値付けをしてもらうと、85%が200ペソ(約1,080円、1ペソ=約5.4円)までのブリ料理を自費でも注文したいと回答した(表3参照、注2)。

表3:プロモーションがなくともお金を払ってブリを食べたいか(単位:%)
1 値段に関係なく食べたくはない 9.8
2 値段に関係なく食べたい 34.0
3 値段次第では食べたい 56.2
階層レベル2の項目3-1 100ペソまで 30.9
階層レベル2の項目3-2 101 - 150 ペソ 33.5
階層レベル2の項目3-3 151 - 200 ペソ 20.5
階層レベル2の項目3-4 201 - 250 ペソ 8.4
階層レベル2の項目3-5 251 - 300 ペソ 3.9
階層レベル2の項目3-6 301- 350 ペソ 1.5
階層レベル2の項目3-7 351 - 400 ペソ 1.0
階層レベル2の項目3-8 401ペソ以上 0.2

注1:アンケート有効回答数は1,054。
注2:1ペソ=約5.4円。
出所:ジェトロ調べ


注1:
ブリとハマチの両方とも、関税分類コードがHS0301.11.01のため、全量ハマチの可能性もある。
注2:
各レストランで提供されたブリ料理はオリジナルのため、ブリの分量などはそれぞれ異なる。
執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所
志賀 大祐(しが だいすけ)
2011年、ジェトロ入構。展示事業部展示事業課(2011~2014年)、ジェトロ・メキシコ事務所海外実習(2014~2015年)、お客様サポート部貿易投資相談課(2015~2017年)、海外調査部米州課(2017~2019年)などを経て現職。