農産品の高付加価値化に日本の農業技術が生きる(ミャンマー)

2020年7月9日

ミャンマーでは近年、製造業やサービス業の成長が著しい。しかし、農業では状況が異なる。人口の6割程度が農業従事者と言われているが、名目GDPに占める農業の割合は15.4%にとどまる(2017年度)。品質の高い作物の栽培、生産性向上ができていないことが要因と考えられる。作物栽培技術の向上や機械化も、周辺国に比べて遅れている。

一方で、ジェトロはこれをビジネスチャンスと捉え、2020年1月から「ミャンマー農業ビジネス拡大事業〔花卉(かき)栽培〕」を開始した。

商材だけでなく、技術もセットでアピール

ミャンマーの農業で、日本企業がビジネス機会を見つけるのは容易でない。(1)日本の商材は高価格のものが多い半面、(2)農家の所得が低いという2点がハードルになる。農家の所得が向上しなければ、日本企業のビジネス機会を創出することは難しい。今回、ジェトロが実施した事業では、日本商材を売り込む商談会という側面よりも、「品質の高い作物を作れば、高く売ることが可能」であることを農家に理解してもらい、日本品質の製品を使った栽培技術の指導に重点を置いた。

ミャンマーでは、数ある農業作物が収穫できる。その中で、今回着目したのは花卉栽培だ。ミャンマーには仏教徒が多く、供え物用の花の市場が大きい。加えて、ヤンゴンを中心に中間層や富裕層が台頭。冠婚葬祭や贈答用の花の需要が拡大傾向にある。また単純に、野菜と比べて販売単価も高い。今回の事業では、マンダレー郊外で種苗農園を展開するミヨシ・ミャンマー・ホルティカルチャー(以下ミヨシ社)に専門家就任を依頼し、現地に適合した種苗選定や技術指導を実施した。

ミャンマー農家も新たな栽培に意欲あり

今回の技術指導は、内戦から和平後の経済発展を進めるカイン州と、野菜や果物栽培に気候が適するシャン州で実施した。まず、事前の現地調査を通じて有力だったトルコキキョウ(ユーストマ)の栽培方法を現地農家に向けて紹介した。国内で現在流通するトルコキキョウは、主に中国からの輸入品だ。贈答用、仏壇用とも、一定の需要がある。また、ミャンマーで多く生産されている菊やバラの市場販売価格が1本100~200チャット(約8~16円、1チャット=約0.08円)なのに対し、トルコキキョウは1本600~1,000チャットだ。中国産トルコキキョウの代替品として国内栽培に成功すれば、農家の所得向上が見込まれる。

シャン州では、日本の総合商社、双日の孫会社TCCCミャンマー(以下、TCCC社)の協力を得て、日系ブランドの肥料の説明や使い方を指導。セミナーに参加した農家には、意欲の高いところが多い印象だった。「日本の種や肥料、栽培技術を取り入れ、所得向上に向け新たな挑戦をしたい」という声も聞かれた。当事業では、単発の指導で終わらず、SNSなどを活用して継続的に日系企業から技術指導を受けることが可能な仕組みとした。このため、農家側の関心は高かった。


カイン州でのセミナー(ジェトロ撮影)

トルコキキョウ栽培の技術指導(ジェトロ撮影)

シャン州でのセミナー(ジェトロ撮影)

肥料の使い方を相談する農家(ジェトロ撮影)

日本企業と農家の接点をサポート

ジェトロは技術指導と並行して2月にヤンゴンで、ミヨシ社とTCCC社、地場と提携する日系生命保険会社、ミャンマーの農業関連企業や農家との商談会を開催した。日本側からは種苗や肥料、農家向け保険に加え、国際協力機構(JICA)が農家・中小企業向けのツーステップローンを紹介した。農業資材だけでなく、ファイナンス面でも利用可能な制度を提示。この結果、ミャンマー企業・農家の利用実現性と関心が高まり、商談会は盛況だった。商談会を通じて、日本企業側から「普段は接点のない農家に製品紹介ができた」「保険が依然として普及していないミャンマーで、フェース・トゥ・フェースで案内することができた」との声が上がった。ミャンマー側の参加者からは「新たな作物を生産することで、収入が増えることに期待している」「農家向け保険があることは知らなかった。新たな知識を得ることができた」などの感想も聞かれた。


ヤンゴンでのセミナー(ジェトロ撮影)

商談ブースを見に行く農家(ジェトロ撮影)

農業が遅れているからこそ日系企業に勝機あり

ミャンマーは気候にも恵まれており、農業資源は豊富だ。しかし前述の通り、農業技術や機械化、品質の面では周辺国に比べて劣る。海外からの投資も少ない。2013年から2018年にかけての海外直接投資額のうち、農業は0.6%を占めるにすぎない。また、国内で流通する農産物に高い品質は求められておらず、依然として量り売りで雑然と販売されていることが多い。

現在は「品質のいい農産物=輸入農産物」という図式になっている。しかし、ミャンマーでも、中間層や富裕層が成長し始め、品質を求める消費者層も形成されつつある。これが商機を創出しつつあることも事実だ。加えて、農業機械や技術などを含めて、現地農産物の品質向上を一体的にサポートするのは、日本企業の得意分野でもある。貢献できる余地が大きいはずだ。

とはいえ、冒頭に述べた通り、ミャンマーの農家に商材を普及させることは容易でない。まずは日本商材を利用するメリットをミャンマーの農家に理解してもらうことがカギとなろう。地道に見えるかもしれないが、日本企業が現地農家との接点を増やし、技術提供を含めた支援を提供し、農家の所得を向上させることこそ、日本企業のビジネス機会の拡大へとつながる近道なのだ。

執筆者紹介
ジェトロ・ヤンゴン事務所
メイトゥーニェイン
2017年、ダゴン大学地理学科卒業。2018年1月から現職。