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物価対策として、生きている豚の輸入を解禁(ベトナム)
背景に、アフリカ豚熱とベトナムの食習慣

2020年6月26日

ベトナムでは、2019年に発生したアフリカ豚熱の影響によって、国内市場で豚の供給不足が発生。これに伴う価格急騰が問題となっていた。その解決策として、ベトナム農業農村開発省は2020年5月27日、生きている豚(以下、豚生体)の輸入を認める文書を出した。この背景には、生鮮豚肉を好む現地の食文化もある。一方で、新型コロナウイルスの感染拡大が続き、動物への感染も懸念される。

今回、豚生体の輸入解禁に至った背景および施策の実態について紹介する。

アフリカ豚熱の影響により国内の豚肉の供給が減少

ベトナムでは、牛肉、鶏肉と比較し、豚肉の消費が多い。特に旧正月には、豚肉を使用したティック・コー・タウ(卵が入った豚肉煮込み)という料理を食べる習慣がある。このため、1~2月には大量の豚肉が消費される。

ベトナム国内で消費する豚肉は、基本的に国内生産で賄われる。換言すれば、海外からの輸入が少ない。農業農村開発省獣医局によると、国内企業による2018年の豚肉の輸入は4万1,185トンだった(6月3日付タン二エンニュース)。片や、同年の消費量は約281万1,000トンだ(ベトナム家畜協会傘下機関のベトナム家畜マガジン)。輸入の占める比率は、わずか1.5%に過ぎないことになる。こうした中、2019年2月以降、ベトナムでアフリカ豚熱が猛威を振るい、感染が拡大した。

2019年2月から6月にかけて、230万頭以上が殺処分された(2019年6月18日付政府決議42/NQ-CP)。結果、9~10月に豚の供給不足が始まり、11~12月には顕著に不足したという(2019年12月22日付VNエクスプレス)。

農業農村開発省の報告によると2019年を通じた豚生体の生産量は330万トンだった。前年比で13.5%減だ。12月までにベトナム全国63市・省でアフリカ豚熱の発生がみられ、豚の殺処分が595万7,460頭(約34万3,000トン、全国総重量の9%)にのぼった。

国内での豚熱感染拡大に伴う供給減に伴い、価格が高騰

2019年後半に国内で豚の供給不足が深刻化したことを受け、豚の価格が高騰した。2019年の豚生体の価格は、1月時点で地域により1キログラム当たり4万~5万ドン(約184~230円、1ドン=0.0046円)だった(ベトナムビズ2019年1月レポート)。その後、年前半までは緩やかに下落。6月には1キログラム当たり3万3,000ドンとなっていた。しかし、供給不足に伴い9月は4万2,000ドン、さらに12月には8万3,000ドン。半年で、2.5倍以上に跳ね上がったことになる(2019年12月22日VNエクスプレス、2019年12月20日農業ニュース)。

こうした国内価格の高騰を受け、農業農村開発省は2019年12月、豚生体の外国からの輸入解禁を、ヴオン・ディン・フエ副首相に提案した。国内市場の豚肉の需給バランスの維持と価格安定が、その狙いだ(2019年12月20日付農業ニュース)。

背景にはベトナム消費者の食習慣

豚生体の輸入解禁が打ち出された背景には、ベトナム人の食習慣も関係する。5月31日付タンニエンニュース によると、冷凍輸入豚肉はホテル、レストラン、食堂などで利用されているが、スーパーマーケットではほぼ取り扱われていない。このため、需要は少ないという。

2020年4月9日の財務省傘下機関ニュースによると、ベトナム人には生鮮豚肉を好む食習慣があり、店舗では輸入冷凍豚肉をほとんど販売していない。ベトナム国内の大型スーパーマーケットのビッグC代表者は、「輸入冷凍豚肉の価格は生鮮より7~9%低いが、品質も低い。消費者の嗜好(しこう)に合わせ、99%は生鮮豚肉を販売している」と述べた。同じく大型スーパーマーケットのメガマーケットの代表者も、「新型コロナウイルスの中でも消費者が購入するのは、値段の安い輸入豚肉ではなく、生鮮豚肉。それを自分で冷凍する傾向がある。輸入品の購入は、豚肉以外の牛肉や鶏肉でもほんのわずかだ」指摘。国内に100店舗超を有するスーパーマーケット、コープマートの部長(在ハノイ)も、「生鮮豚肉が足りない場合は、輸入の冷凍品でなく国産の冷凍品を販売する」と説明した。関係者のコメントをみる限り、海外からの冷凍豚肉輸入拡大は国内の生鮮豚肉の供給不足を補うための選択になりにくいようだ。

コロナ対策の厳しい管理の下、首相指示で豚生体の輸入を承認

2020年に入り、それまで1キログラム当たり7万ドン未満に落ち着いていた豚の価格が、3月初めに各地方で急騰した。北部では約8万5,000~8万8,000ドン、南部のビンズオン省は約7万8,000ドン、ロンアン省やカマウ省では8万1,000ドンまで跳ね上がった(3月6日VNエクスプレス)。

豚の価格の上昇が続くと、消費者物価指数(CPI)全体にまで影響しかねない。危機感を抱いたグエン・スアン・フック首相は、財務省、商工省、農業農村開発省に対し、3月10日までに価格高騰について報告するよう指示した。さらに統計総局に対し、(1)関連政府機関を調整し、豚の価格上昇によるCPIへの影響を評価すること、(2)国会および政府が設定した目標(2020年社会経済計画に関する国会議決番号85/2019/QH14)に従い、2020年のCPIの管理を確実にすること、について指示した(3月6日VNエクスプレス)。

首相の指示を受けた農業農村開発省は2020年5月27日、国内市場で必要とされる豚肉の供給量を満たし価格上昇を抑制するため、豚生体を輸入するという獣医局の提案を承認した。豚の価格は、5月に3週間にわたりさらに高騰し、一時は国内各地で1キログラム当たり10万ドンに達していた。

世界では、新型コロナウイルスが猛威を振るうさなかにある。動物を通じた感染なども懸念される。そのような状況下にはあるが、首相による豚価格安定の指示を執行する必要があった。このため、豚生体の輸入を解禁するに至ったかたちだ。

2020年5月27日付の農業農村開発省の公文書3529/BNN-VP(参考仮訳を参照)に基づき、輸入された豚は当面、新型コロナウイルス感染予防のため一定期間の検疫措置がとられる。新型コロナ禍終息後は、検疫に関する通常の規則や手続き〔通達25/2016/TT-BNNPTNT(陸生動物および動物製品の検疫に関する規制)、通達35/2018/TT-BNNPTNT(通達25を一部修正する通達) 〕に従うことになる。

フォン・ズック・ティエン同省副大臣によると、ベトナムが豚生体の輸入を認めるのは今回が初めてだ。このため、国内市場に負の影響を及ぼすような大量輸入を避けるなど、経済面から厳重に管理されることになる。また、外国の市場について調査・研究し、価格安定を達成できる輸出国の企業からの輸入を認める。一方で、検疫の観点からも豚生体の輸入は厳しく管理され、国境で隔離措置を受ける。このため、食の安全面にも心配はないという。

同時に、消費者の豚肉の消費習慣を変えるため、豚肉以外の食品の利用機会を増やしたいとの考えも示した。例えば、鶏やナマズを食事に使用するよう奨励するイベントの開催が予定されている(5月28日トイチェオンラインニュース)。

獣医局の求める書類を提出できた国から輸入

外国産の豚生体は、タイ、カンボジア、ラオスから輸入されるとみられる。隔離期間を経て、当初の想定では、7月中旬ごろから市場に流通する見込みが報じられていた(5月31日付タンニエンニュース)。

この輸入は、ベトナム獣医局が求める書類(注)を全て提出できた国からだけ可能になる。ちなみにタイは、ベトナム当局の求めに対応して書類を提出済みと報じられている(6月11日付タン二エンニュース)。

実際、6月12日にタイから子豚317頭が中部のクアンチ省ラオバオ国境から初輸入され、隔離のためドンナイ省の農場に運搬されたようだ(6月14日付ドアンニャンサイゴンニュース)。この輸入にあたり、獣医局はこれらの豚に関する記録と健康状態を確認した。輸入した地場企業トゥイ・ズオン・ファット(Thuy Duong Phat)は、6~8月にかけてさらに12万頭の輸入を予定する。6月14日には、500頭の食肉処理用の豚がドンナイ省に持ち込まれた。

現時点では、タイの8社がベトナムへの輸出を認められている。いずれも、タイの「畜産に関する農業生産工程管理TAS 6403-2009」で管理された企業だ。8社合計で500万頭の豚を取り扱う規模だ。6月12日現在、そのうち100万頭が輸入のため登録されている。タイからの輸入が認められるため、輸入者は3つの条件を満たす必要がある。すなわち、(1)タイ獣医局を通じて、ベトナム獣医局に登録されたタイ企業から豚を輸入すること、(2)豚を運送する専用車と規定の要件を満たす検疫施設を所有すること、(3) 豚の隔離施設を所有し、その施設は国家基準QCVN01-99:2012/BNNPTNTの基準を満たすこと、だ。輸入者は獣医局と一緒に検疫措置を行うことが義務付けられる。輸入割り当て(輸入量の制限)はない。成熟した豚は5日間隔離された後に検査を受け、アフリカ豚熱に感染していなければ即座に食肉処理される。子豚は14日間隔離し、陰性であればワクチン接種を行い、養豚のため別の場所に運搬される。

豚生体の輸入開始を経て、豚生体の価格は1キログラム当たり8万7,000ドン程度に落ち着いている。5月時点と比べ、1万ドンほど下落したことになる(6月14日付ドアンニャンサイゴンニュース)。

今後の注目点は、講じられた対策の効果だ。新型コロナへの対応を含む厳しい管理が行き届くのか、ベトナム消費者が輸入豚に満足し、CPI全体への影響をどの程度まで抑えることができるかなどが問われていると言えそうだ。

参考:2020年5月27日付文書3529/BNN-VP(Công văn 3529/BNN-VP)の仮訳

「外国からベトナムへの生きている豚の輸入について」
今も世界的なCOVID19の感染が続き、拡大傾向にある。2020年第1四半期の国内市場の価格オペレーター委員会会議の結論と豚肉の提案価格について、首相指示通知178/TB-KL号(2020年5月12日)を実施する。それとともに海外からベトナムに生きる豚を輸入する提案通知807/TY-HTQT号(2020年5月22日)を検討し、農業農村開発省は、以下の通り意見を述べる。
  1. 農業農村開発省は、輸出国から提供した書類に基づき生きている豚を輸入することについて、獣医局がリスク分析する提案に同意する。
  2. 書類評価の完成後、獣医局と輸入会社は、輸入検査証明書の書式、獣医衛生条件交渉、輸入リスク分析過程を完成し足りない情報を収集する。そのために、輸出国の企業とのオンライン会議などを通じて情報を収集することにする。
  3. 輸入企業は、生きている豚の輸入に関して法令が決めた規則に基づき、輸入検査、国内の家畜産業の安全の確保および30日間の検査隔離を実施する。
COVID19の抑制後は、生きている豚を海外からベトナムに輸入する際の検査に関して、現行通りに法律の規定・過程を実現する。獣医局が関連の各機関と協力して所与の施策を実施することを、農業農村開発省は要求する。

注:
病気診断、監視・管理の研究施設、国際獣疫事務局(OIE)により承認された口蹄疫(こうていえき)予防プログラム、食品安全検査および管理結果、豚生体の獣医衛生基準、トレーサビリティシステム、輸出検疫証明書のサンプルなど
執筆者紹介
ジェトロ・ホーチミン事務所
小林 亜紀(こばやし あき)
1997年、財務省東京税関入関。2017年よりジェトロ・ホーチミン事務所勤務(出向)。
執筆者紹介
ジェトロ・ホーチミン事務所
ダン・ティ・ゴック・スオン
2011年よりジェトロ・ホーチミン事務所に勤務。

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