普及が進むフードデリバリー(英国)
コロナ禍で加速、今後も中長期的に持続する可能性

2020年8月18日

英国では2020年3月末、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、持ち帰りと宅配を除き、レストランやカフェなど飲食店の営業が禁止された。その後イングランドでは、7月4日から飲食店の店舗営業の再開が認められた。しかし、ソーシャルディスタンスの確保と衛生管理措置の追加導入などの条件付きだ。このため、店舗の稼働率は平時を下回る状況が続いている。

こうした中、オンライン注文で料理を取り寄せるレストランのデリバリーサービスが改めて注目されている。本稿では、こうした英国のフードデリバリーについて、市場の概況と主要プレーヤーの動向を報告する。

拡大が続いていた英国のフードデリバリー市場

近年、英国ではウーバーイーツ(Uber Eats)やデリバルー(Deliveroo)など、オンライン注文に基づくフードデリバリー市場が存在感を増しつつある。170の業界と150カ国以上で市場調査を行うスタティスタ(statista)によると、英国内での売上高は、2017年時点で8億5,400万ポンド(1ポンド=132円換算で1,127億2,800万円)だった。それから2019年までの間に3割増加。11億4,700万ポンドとなった(図1参照)。同社は、今後もこの勢いが続き2024年には18億5,800万ポンドに達すると予想した。同様に、利用者数も、2017年の650万人から2019年には3割増加し、840万人となった。さらに、2024年には1,310万人まで増えるという。英国の全人口の5人に1人がオンライン注文でのフードデリバリーを利用することになる。また、レストランのデリバリーサービスでオンライン注文が占める割合は、2008年時点で10%未満だったのに対し、2018年には55%まで伸びた。注文の過半がオンラインで行われていたことがわかる(図2参照)。

図1:英国フードデリバリー市場の売上高と利用者数(2020.5時点)
売上高は、2017年8億5,400万ポンド、2018年9億9,200万ポンド、2019年11億4,700万ポンド、2020年14億5,400万ポンド、2021年15億9,700万ポンド、2022年17億1,100万ポンド、2023年17億9,600万ポンド、2024年18億5,800万ポンド。 利用者数は、2017年650万人、2018年740万人、2019年840万人、2020年1,050万人、2021年1,140万人、2022年1,210万人、2023年1,270万人、2024年1,310万人。

注:2020年以降は予想。
出所:statista

図2:英国のフードデリバリーにおけるオンライン注文のシェア
2008年8%、2009年12%、2010年17%、2011年19%、2012年26%、2013年32%、2014年36%、2015年40%、2017年54%、2018年55%。

出所:NPDグループ

英国には、オンライン注文でのフードデリバリーの主要プレーヤーとして、ジャストイート(Just Eat)、デリバルー、ウーバーイーツの3社がある(後述)。グローバル・ウェブ・インデックスによる英国のフードデリバリー市場に関する調査(2018年11月)(注)では、「最もよく使うフードデリバリーのアプリケーションは何か」(複数回答可能)との問いに対し、80%がジャストイートと回答した。ウーバーイーツの24%、デリバルー23%がこれに続いた。ジャストイートは比較的年配で郊外在住の利用者が多い一方、デリバルーとウーバーイーツは若年層で都会在住の利用者が多いと言われている。オンライン・フードデリバリーの利用者は、英国全体の平均年齢が31歳だ。特に若者の利用頻度が高いことが読み取れる。各社アプリケーションの認知度については、過去3年の間にデリバルーとウーバーイーツがともに伸びてきた。特にデリバルーは、ジャストイートに迫りつつある(図3参照)。

図3:フードデリバリーを行う各社アプリケーションの認知度
2017年上期ジャストイート73%、デリバルー52%、ウーバーイーツ11%、2017年下期ジャストイート75%、デリバルー62%、ウーバーイーツ18%、2018年上期ジャストイート78%、デリバルー66%、ウーバーイーツ24%、2018年下期ジャストイート79%、デリバルー70%、ウーバーイーツ31%、2019年上期ジャストイート80%、デリバルー76%、ウーバーイーツ38%。

出所:YouGov

注文する商品は、ジャストイートが主に地方都市の大衆的な中華レストランやインド料理店、ピザ店などをカバーする傾向がある。対してデリバルーとウーバーイーツは、大衆的なレストランだけでなく、大都市圏の中高級レストランもカバーする。オンラインで注文される人気メニューに関しては、男女関係なく、1位がピザ、2位がハンバーガーだ(表参照)。これらに、サラダ、フィッシュ&チップス、パスタ、カレーが続く。

表:男女別 デリバリーアプリで注文される商品(2019)(単位:%)
商品 女性 男性
ピザ 64.6 61.8
バーガー 36.9 45.3
サラダ 14.7 12.1
フィッシュ&チップス 11.5 8.8
パスタ 11.5 7.7
カレー 8.3 8.0
サンドイッチ 6.5 6.9
ケバブ 5.8 7.7
フライドチキン 4.6 7.1

出所:ビヨンド・データ

オンラインでのフードデリバリーを利用する動機に関しては、調理をしないことで自分のためにぜいたくが可能といった「自分へのご褒美」が47%と最多だった。「家でレストラン品質の食事が可能」(41%)、「家では調理できない料理が食べられる」(39%)が続く(前出のグローバル・ウェブ・インデックスの調査)。フードデリバリーを利用する頻度については、「1週間に1回」が26%、「2週間に1回」が20%、「1カ月に1回」が23%となっている。フードデリバリーは、日常的な食事というより外食に準じる位置づけで、少し特別な機会に利用されているとみられる。忙しくて時間がない時に利用されると思われがちなフードデリバリーだが、そうした動機よりも、多くの場合は家でくつろぎながら特別な時間を過ごすことに主眼があることがわかる。

新型コロナ禍がフードデリバリーの利用を加速

コロナウイルスの流行に伴うレストランの営業規制は、オンライン注文でのフードデリバリーにどのような影響をもたらしただろうか。マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査(注2)によると、コロナウイルスの流行開始後、フードデリバリーの利用が増えたと回答した人の割合は16%。また、新たにフードデリバリーを利用し始めたと回答した人は5%だった。日常的な食品の買い物についても、スーパーマーケットなどに出かけることを避けて、オンライン・スーパーを利用する消費者が増えている。

この動きは、一過的なものにとどまらず、中長期的に持続すると見た方がよいだろう。実際、オンライン・スーパー最大手のOCADOは、外出規制の導入直後に爆発的に需要が増加した。それから3カ月以上がたち、外出規制が大幅に緩和された。そうした今でも、高い需要が持続し、いまだにサイトへのアクセスが制限されている。コロナ禍を契機に初めてオンラインサービスを利用してその利便性に気づき、継続的に利用している消費者も少なからず存在すると考えられる。結果として、衣類などと比べてオンライン・ショッピングの普及が遅れていた食品やレストランの部門のオンライン化が大きく前進したといえるだろう。

フードデリバリーやダークキッチンが一層普及する可能性も

参考:フードデリバリーの主要3社の業容

1. ジャストイート
2001年設立のジャストイートは、オンライン注文によるフードデリバリーサービスを提供する主要3社の中で最も老舗だ。今でも、最大のシェアを誇る。英国内の売上高は3億8,560万ポンド(2018年時点)、提携レストラン数は2万9,000店舗。2018年にジャストイートが処理した注文数は1億2,280万件にのぼり、2013年からの5年間で4.2倍伸びている。
ジャストイートは、2017年に英国の同業ライバルのハングリーハウス(Hungry House)を買収し、国内シェアを伸ばした。さらに、2020年4月にはオランダを本拠とするテイクアウェイドットコム(Takeaway.com)と合併して、世界最大級のオンライン注文によるフードデリバリーグループ「ジャストイート・テイクアウェイドットコム(Just Eat Takeaway.com)」を形成している。
2. ローフーズ(Roofoods)(デリバルー)
デリバルーは、2013年に英国で設立されたオンライン注文でのフードデリバリー事業者だ。英国内の提携レストラン数は約3万店舗(2019年12月時点)、利用者数600万人(2018年末時点)、売上高4億7,620万ポンド(2018年時点)にまで成長している。他方、投資先行のビジネスモデルによる成長を続けており、まだ事業の黒字化は実現していない。また、2018年に500万ポンドの「イノベーションファンド」を立ち上げ、提携先レストランのブランド育成をサポートするなど、レストランの支援にも積極的だ。
そのほか、食事を作る事業者に調理施設を提供し、店舗を持たないデリバリー専門施設として機能する「ダークキッチン」を展開するなど、さまざまな新しい取り組みを進めている。
3. ウーバーイーツ
米国を本拠とするウーバーイーツは、2016年から英国での事業展開を開始した。現在では、全英60以上の都市をカバー。約2万店舗のレストランと提携するに至る。同社のグループ会社で配車サービスのウーバーは、ロンドンを中心に英国内で広く普及しており、ウーバーアプリの利用者を取り込む形で、ウーバーイーツは市場シェアを伸ばしていると見られる。

オンライン注文によるフードデリバリービジネスは、採算の確保が難しい。いまだ黒字化を実現できていないデリバルーが象徴しているとおりだ。他方で、今般の新型コロナウイルスの流行に伴う一連の制限措置が、各部門でオンライン化を大きく前進させたことは間違いない。このことは中長期的に見てフードデリバリービジネスにとっても追い風になるだろう。裏返しとして、対面のサービスを前提とするビジネスの新たなリスクが、コロナ渦で露見したことにもなる。このため、飲食スペースを持たずにデリバリーに特化したダークキッチンが、一段と普及していくことになるのかもしれない。いずれにしろ、今まさに英国のレストラン業界が大きな転換点を迎えていることは間違いない。


注1:
グローバル・ウェブ・インデックスは、英国に本社を置き、40カ国以上で消費者動向を調査している企業。当該調査の対象は、英国でフードデリバリーを利用する1,640人。
注2:
マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査時点は、2020年4月30日から5月3日。対象は約1,000人の英国人。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
高橋 萌(たかはし もえ)
2020年5月~7月、ジェトロ・ロンドン事務所にインターン研修生として在籍。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
市橋 寛久(いちはし ひろひさ)
2008年農林水産省入省、2017年7月からジェトロ・ロンドン事務所。