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営業戦略見直し迫られるも、対シンガポール投資は当面維持へ
ジェトロ・日本商工会議所共同調査からみる新型コロナウイルスの日系企業への影響

2020年6月26日

ジェトロは、シンガポール日本商工会議所(JCCI)の協力を得て6月8~12日に、シンガポールに拠点を置く日系企業を対象にアンケート調査を実施した。4月7日から6月1日までの職場閉鎖(サーキットブレーカー)に加え、移動規制やサプライチェーンの混乱など新型コロナウイルス感染拡大に伴う経営環境の大きな変化に直面し、同国に拠点を置く企業の多くは営業戦略の見直しを迫られている。ただ、アンケートによると、日系企業の約8割は当面、対シンガポール投資について現状を維持するとしている。

移動規制の影響、日系企業の4割に

シンガポールでは、低熟練外国人労働者を中心に急増した新型コロナウイルス感染者の増加が抑えられつつある中、6月2日から職場閉鎖(サーキットブレーカー)が3段階で解除されている。今回の調査は、3段階の事業解除の中でも第1段階(フェーズ1)における日系企業の新型コロナウイルスに対する影響や活動実態を明らかにしたものだ(注1)。

同国は3月24日から、就労パスの保有者や短期渡航者の入国を全面的に停止した。調査結果によると、この入国規制により日本から赴任または再入国できない対象者がいるという日系企業・団体は108社・団体(40%)に上った。入国規制が日本人駐在員の異動時期と学校の休みにも重なったため、新規赴任だけでなく、一時帰国の駐在員が再入国できないままとなっているケースもみられた。また、出張も含めた入国規制による影響は、シンガポールや周辺国での商談その他の営業活動(76%)、取締役会、株主総会への出席(29%)、地域統括拠点・機能としての事業活動(24%)の順で回答比率が高かった。

6月18日からは日本を含む10カ国・地域からの就労パス保有者の入国が条件付きで認められる(注2)が、就労パス保持者の再入国に当たっては、事前許可の取得と入国後14日間の自宅隔離の上、隔離期間終了前に感染テストを受ける必要がある。政府は入国後の感染テスト態勢が整うまでは段階的に入国を認めていく計画だとしており、全ての就労パス保有者の再入国と新規赴任者の入国問題が解決できるようになるまでには一定の時間がかかりそうだ。

同調査では次に、6月2日からの第1段階の出勤比率を聞いた。政府は第1段階の職場解除後も、オフィス業務については在宅勤務を強く推奨した。調査によると、日系企業・団体の従業員の平均出勤率は「0~20%」が55%と最も多く、「20~40%」が19%と続いた。なお、6月19日から第2段階(フェーズ2)へ移行し、より幅広い経済活動が再開するが、政府は在宅勤務が可能であれば自宅での勤務を続けるべきと勧告している。

3割以上が国境移動制限と外国人労働者向け宿舎閉鎖の影響を受ける

調査では、マレーシアとの国境の移動制限や、外国人低熟練労働者用宿舎の閉鎖によって、人員不足による影響を受けたかも聞いた。マレーシア政府が3月18日から移動制限令を実施したことを受けて、同国南部ジョホール州からの越境通勤者が入国できなくなったり、シンガポールで勤め先が用意した宿舎での滞在を余儀なくされたりした。調査によると、この移動制限と外国人労働者の宿舎閉鎖で、「今も影響を受けている」と答えたのは32%、「部分的に元どおり・影響を受けていたが元に戻った(4%)」と合計すると36%の企業が何かしらの影響を受けていると答えた(表1参照)。

表1:マレーシアとの国境の移動制限、外国人労働者用宿舎の閉鎖により、人員不足などを理由とした事業活動の遂行の影響の有無
項目 今も影響を
うけている
部分的に
元どおり
影響を受けていたが元に戻った 影響を
うけていない
製造業(n=114) 44% 3% 3% 51%
非製造業(n=146) 23% 1% 2% 74%
合計 32% 2% 2% 64%

注:調査は6月8~12日に、JCCI会員の822企業・団体を対象に実施。回答した267社・団体のうち、本レポートでは製造業・非製造業の分析では回答者から政府組織、団体(7社)を除いた。
出所:JCCI・JETRO『新型コロナウイルスへの対応・対策』アンケート

このうち、製造業(114社)に限ってみると、「今も影響をうけている(44%)」「部分的に元どおり・影響を受けていたが元に戻った(6%)」を含めると合計50%の製造業が影響を受けた。一方、非製造企業(146社)の74%が「影響を受けていない」と答え、「今も影響を受けている」と答えた企業は23%にとどまった。製造業は4月7日から6月1日までの事業閉鎖期間中も大半の製造活動が認められていたが、製造業が移動制限や宿舎閉鎖による人員不足の影響をより受け続けている実態が明らかになっている。

販売戦略見直しに迫られる日系企業、デジタル加速化も

さらに、日系各社は新型コロナウイルス感染拡大に伴う急激な事業変化で、事業の見直しや営業戦略の見直しを迫られている。事業戦略やビジネスモデルの「見直し中」、または「見直しを予定している」と答えた日系企業は148社(57%)だった。このうち、製造業の69社(61%)が見直し中・見直し予定と答えている。製造業で見直しに着手した比率が高いのは、新型コロナウイルスだけでなく、先に米中貿易摩擦の対応を迫られていたためでもある。製造業を対象に事業・ビジネスモデルの見直しの理由を聞いたところ、新型コロナウイルス問題だけでなく、米中貿易摩擦問題などその他を含めた複合的な理由を選択した企業は41社(59%)だった。製造業で見直しを行っている企業のうち、16社(23%)が調達先の見直しに着手、または見直しを予定している(表2参照)。

表2:進出日系企業の事業戦略、ビジネスモデルの見直し項目
項目 新型コロナを受けて事業戦略、ビジネスモデルを見直し中、または見直し予定の割合 具体的な見直し内容
調達先 生産地 販売戦略 雇用・雇用条件 人材現地化・駐在員の削減 財務・ファイナンス 新規ビジネス開拓 その他
製造業(n=69) 61% 23% 7% 61% 43% 20% 10% 30% 3%
非製造業(n=79) 54% 9% 4% 54% 46% 28% 13% 46% 5%
合計 57% 16% 5% 57% 45% 24% 11% 39% 4%

*複数回答
注:調査は6月8~12日に、JCCI会員の822企業・団体を対象に実施。回答した267社・団体のうち、本レポートでは製造業・非製造業の分析では回答者から政府組織、団体(7社)を除いた。
出所:JCCI・JETRO『新型コロナウイルスへの対応・対策』アンケート

ただ、製造業、非製造業ともに見直しの内容で最も多かった項目が「販売戦略 (57%)」と「雇用・雇用条件(45%)」だ。販売戦略の見直しの自由記述では、「ITによる営業方式、Service方式の開発」「オンライン販売・デジタル化の導入」「リモートワーク、業務のデジタル化」と挙げ、事業閉鎖と移動規制によりデジタル化を加速させる日系企業の姿も浮き彫りになっている。

一方、事業戦略やビジネスモデルの見直しをしていないと答えた日系企業112社(43%)にその理由を聞いたところ、「すぐに判断ができない(様子見)」と答えた企業が82社(73%)と最も多かった。今回の新型コロナウイルスの影響を見定められない企業が多いことが分かった。

製造業も、非製造業もシンガポール国内投資を維持

ただ、日系企業の大半が対シンガポール投資を現状維持としている。調査によると、日系企業にシンガポール国内の投資見通しを聞いたところ、203社(78%)が「現状維持」と答え、「縮小」が46社(18%)、「拡張」が12社(4%)だった。「撤退」と答えた日系企業はいなかった(表3参照)。

表3:シンガポール国内での投資の見通し
項目 製造業 (%) 非製造業 (%) 合計 (%)
現状維持 91 80% 111 76% 203 78%
縮小 20 18% 26 18% 46 18%
拡張 3 2% 9 6% 12 4%
撤退 0 0% 0 0% 0 0%
合計 114 100% 146 100% 260 100%

注:調査は6月8~12日に、JCCI会員の822企業・団体を対象に実施。回答した267社・団体のうち、本レポートでは製造業・非製造業の分析では回答者から政府組織、団体(7社)を除いた。
出所:JCCI・JETRO『新型コロナウイルスへの対応・対策』アンケート

アンケートの自由記述には、移動制限が続けば東南アジアの地域統括拠点としてのシンガポールの位置付けに疑問を示す意見が製造分野の企業3社から上がった。しかし全体としては、シンガポールにおける拠点の営業のあり方の見直しには取り組んでも、現時点では地域統括拠点を移転させるような抜本的な動きはみられないようだ。


注1:
調査は6月8~12日に、JCCI会員の822企業・団体を対象に実施。回答した267社・団体のうち、本レポートの製造業・非製造業の分析では回答者から政府組織、団体(7社)を除いた。ジェトロウェブサイトのアンケート回答集計結果PDFファイル(1.64MB)参照。
注2:
ビジネス目的の短期渡航者の入国については、シンガポール政府は中国との間で一部ビジネス渡航を解禁し、6月8日から申請受け付けを開始した。同措置では、渡航前に訪問先企業や政府機関がインビテーションレターを発行し、承認後、渡航の48時間前にPCR検査を実施し、到着後も検査を行うものとしている。
執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所次長
藤江 秀樹(ふじえ ひでき)
2003年、ジェトロ入構。インドネシア大学での語学研修(2009~2010年)、ジェトロ・ジャカルタ事務所(2010~2015年)、海外調査部アジア大洋州課(2015~2018年)を経て現職。現在、ASEAN地域のマクロ経済・市場・制度調査を担当。編著に「インドネシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2014年)、「分業するアジア」(ジェトロ、2016年)がある。
執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所 調査担当
本田 智津絵(ほんだ ちづえ)
総合流通グループ、通信社を経て、2007年にジェトロ・シンガポール事務所入構。共同著書に『マレーシア語辞典』(2007年)、『シンガポールを知るための65章』(2013年)、『シンガポール謎解き散歩』(2014年)がある。

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