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EUメルコスールFTAに見る農産物・食品分野の合意結果

2020年8月24日

欧州委員会は2019年9月、「EUメルコスール貿易協定、欧州における農民の利益を尊重するPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(155.75KB) 」と題するファクトシートを公表した。2019年6月28日に欧州連合(EU)とメルコスール(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)が通商協定で政治合意に達したことを受け、欧州委員会が同協定の交渉成果等など解説したものだ。このファクトシートで欧州委員会は、EUにおける農業・食品生産者向けに「2億6,000万人のメルコスール市場へのアクセスを獲得した」と総括した。

他方、ブラジル外務省も、2019年7月19日付で「メルコスールEU協定概要PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.50MB) 」を公表。メルコスールは、EUからの輸入農水産品について、貿易量ベースで96%、品目ベース(タリフライン)で95%について、段階的に関税を撤廃するとした。

本稿では、EU、メルコスール双方で実施される農産物の具体的な自由化措置について、両資料を基に紹介する。

メルコスール側の高関税を撤廃

欧州委員会のファクトシートでは、EUからメルコスール向けに輸出される農産物・食品の一部にメルコスール側で高関税が課されていることが指摘された。これが同市場での競争力を低下させ、輸出を阻害しているという。本協定が発効すれば、表1の産品に対する高関税が段階的に撤廃される。

表1:メルコスール側が高関税を賦課している主なEU農産品
品目 年間貿易額 輸入関税率
オリーブオイル 3億ユーロ 10%
モルト 5,000万ユーロ 14%
ワイン 1億6,000万ユーロ 27%
桃の缶詰 300万〜500万ユーロ 55%
スピリッツ 1億8,000万ユーロ 20%-35%
チョコレート 6,500万ユーロ 20%

出所:欧州委員会

欧州委員会のファクトシートとブラジル外務省資料で、表2の品目に対してメルコスール側が関税割当(無税枠)を設定していることが示された。

表2:メルコスールがEUに設定した関税割当
品目 関税割当と税率の取り扱い
チーズ 協定発効後10年間で最大3万トンまで拡大。
関税は現行の適用税率28%から段階的に引き下げられ、10年後に撤廃(無税化)される。
粉ミルク 協定発効後10年間で、最大1万トンまで拡大。
関税は現行の適用税率28%から段階的に引き下げられ、10年後に撤廃(無税化)される。
乳児用調製粉乳(フォーミュラ) 協定発効後10年間で最大5,000トンまで拡大。
関税は現行の適用税率18%から段階的に引き下げられ、10年後に撤廃(無税化)される。
ニンニク 協定発効後7年間で最大1万5,000トンまで拡大。
関税は7年後に撤廃される。
チョコレート、カカオ中間品
  • チョコレートおよびホワイトチョコレートは、協定発効後10~15年間で最大1万2,581トンから3万4,160トンまで拡大。協定発効後、枠内の関税は即時撤廃される。移行期間中(協定発効後10年~15年間)の枠外輸入の適用税率は、18%~20%。15年後に枠を撤廃。
  • カカオバター、カカオペースト、カカオ粉などのカカオ中間品は、15年間で関税が段階的に引き下げられる。15年後に撤廃(無税化)。
    脱脂カカオペーストは、10年後に撤廃(無税化)される。

出所:欧州委員会およびブラジル外務省

地理的表示(GI)の保護で、EUの高級食材の模倣を防止

欧州委員会は、ファクトシートで、「EUは高品質な食品および飲料の生産地域」とした。あわせて、GIの保護により「EU生産者がプレミアム価格で製品を輸出でき、かつブランド力向上にも貢献する」と説明。 GIとは、特定の産地と製品の品質や製法の特性が結びついた農林水産物・食品、酒類などの名称を知的財産権として保護する制度だ。

EUメルコスールFTAでは、日EU・EPAの実に5倍弱(注)に相当する350産品のEU製品の呼称がメルコスール市場で保護される(表3参照)。欧州委員会は、「過去最大規模のGIを設定した」と強調する。

表3: EUメルコスールFTAで指定されているEU側の地理的表示(GI)事例(日本EU・EPAで見られないもの)
地理的表示名 特徴
Fromage de Herve ベルギー ワロン地域のエルヴ高原で生産されるウォッシュチーズ
MünchenerBier ドイツ 1998年以来ミュンヘンの醸造所で醸造されているビール
Prosciutto di Parma イタリア 別名「パルマハム」。パルマ近郊で作られているプロシュットで生ハムの一種。
Polska Wódka ポーランド 大麦、小麦、ジャガイモ等の穀類を原材料としたアルコール度数が約40度のポーランド・ウォッカ
Tokaji ハンガリー トカイと周辺地方からなるトカイ・ワイン地区で作られるワイン

出所:欧州委員会

EU側の市場開放に慎重さも

ブラジル外務省によると、EU側は、メルコスールの農水産品に対し、貿易量ベースで82%、品目(タリフライン)ベースで77%を自由化する。ブラジル側が特に関心を有する農水産品目についてEUが設定した関税撤廃スケジュールは、表4のとおり。

表4:ブラジルが関心を有する主要農水産品目のEU側関税撤廃スケジュール
撤廃スケジュール 品目
即時 植物性油、生食用生鮮ブドウ、魚類(大半の品目が即時)
即時あるいは4年間 エビなどの甲殻類
4年間 コーヒー豆ロースト、インスタントコーヒー、タバコ、アボガド
7年間 タバコ加工品、レモン、メロン、スイカ
10年間 リンゴ

出所:ブラジル外務省

一方EU側は、欧州委員会の資料で、センシティブな農水産品目に関しては域内農業者の利害などが考慮に入れられていることを示した。「関税割当を設定し、EU市場へのアクセスを制限して慎重に管理する」という。関税割当のパターンをみると、協定発効から5年間で割当量を漸次拡大させていくものが大半だ。適用される税率については大きく分けて3つのパターンがある。協定発効と同時に無税が適用されるもの、低減税率が適用されるもの、協定発効後5年間で段階的に引き下げられていくものだ(表5、表6参照)。

EUの農業生産者にとって深刻な市場の混乱を引き起こす輸入急増が生じる場合、EUは域内農業生産者を保護するためにセーフガード措置を発動できる。セーフガードは関税割当が設定されるセンシティブ品目だけでなく、全製品に適用可能だ。

欧州委員会はさらに、市場の混乱が発生した場合に、「セーフティネットとして農業生産者の収入を支援する最大10億ユーロの財政支援パッケージを用意している」と説明している。

表5:EU側が設定した関税割当と同割当設定の考え方
品目 関税割当 設定の考え方
牛肉
  • 協定発効後5年間で最大9万9,000トンまで拡大。(枠内の適用税率は7.5%)
  • 割当量の55%が「生鮮」、残り45%が「冷凍」。
  • 1トンの高級カット肉(ヒルトンクオーター)は、無関税割当を設定。
EUでの牛肉の生産と価格は、過去5年間で安定している。EUの牛肉輸出は2019年に15%増加し、純輸出国としての地位を確立。
EUは、メルコスールから毎年約20万トンのカット牛肉を輸入。メルコスール産輸入牛肉は、欧州産の高付加価値産品と棲み分けがなされている。EUの消費者の需要が増加しており、メルコスール産カット牛肉輸入量の4分の1以上相当(生鮮牛肉約4万5,000トンと冷凍牛肉1万トン)は、40~45%の高関税がかかっているにもかかわらずEU市場に参入している。左記の割当量9万9,000トンは、欧州産牛肉の総消費量(年800万トン)の1.2%に相当する。ブラジルでは、毎年1,100万トンの牛肉を生産しており、割当量9万9,000トンはメルコスール4か国で分割されるため各国の牛肉生産量の大幅増加にはつながらない。
鶏肉 無関税輸入枠を、協定発効後5年間で最大18万トンまで拡大。割当枠の半分は骨付き鶏肉、残り半分が骨なし鶏肉。 EUの鶏肉消費量は、2005年の1,100万トンから2018年には1,400万トンに成長した。年平均23万トン以上の伸び率になる。EUの鶏肉輸入量80万トンのうち、半分以上がメルコスールからの輸入。EUの鶏肉輸出量は年160万トンで、80万トンの貿易黒字。左記、輸入割当枠は長期的な年平均消費成長量より少なく、EUの現消費量のわずか1.2%相当。
EU消費者は胸肉を強く好むが、他地域の消費者は太ももを好む。輸入と国内生産の間には顕著な補完関係あり。EUの鶏肉生産者は生産性向上と技術革新により、新たな市場にも適応し競争力を強化している。
砂糖 パラグアイ産砂糖のみ、年間1万トンの無関税輸入枠を設定。スペシャリティシュガーは協定から除外。 EUは、2018年に210万トンの輸出を行う砂糖の純輸出国。ブラジルからの砂糖に対しては現在、年間18万トンまでの無関税輸入枠が設定されているが、協定発効後は同輸入枠を撤廃。
エタノール 化学産業用途のものについては、無関税輸入枠を協定発効後5年間で最大45万トンまで拡大。なお、燃料用を含む他用途のものについては、関税割当を協定発効後5年間で最大20万トンまで拡大。(枠内の適用税率は現行税率の3分の1とする) 化学産業用途の無関税輸入枠設定は、EUにおける燃料用途のための生産で、バイオ燃料生産の主原料となるバイオエタノールの調達が不足。現在、欧州のバイオ化学産業やバイオプラスチック産業が生産拡大に苦慮している。
はちみつ 協定発効後5年間で最大4万5,000トンまで拡大。枠内の適用税率は段階的に撤廃。 EU市場では、ここ数年はちみつの消費量が大幅に増加し価格が着実に上昇。国内生産は大幅に成長したものの、域内需要を満たすためには外国産に依存せざるを得ない状況。現在域内消費量の約45%を輸入。EUのメルコスールから輸入量は現在約3万5,000トン。
コメ 協定発効後5年間で最大6万トンまで拡大。枠内の適用税率は段階的に撤廃。 現在メルコスールからのコメの年間輸入量は年平均約10万トン。無関税輸入枠の6万トンは、EUの既存輸入量よりも大幅に少なく、EUにおける消費量270万トンの2.2%に相当。一方で、EUのコメ輸入量の半分強に相当する。
メルコスールではインディカ米を生産。EUのコメ消費市場は生産量の約75%をジャポニカ米が占め、競合しない。EUのインディカ米消費量の80%は輸入品。無関税輸入枠は、メルコスールの既存供給量を維持するに過ぎない。

出所:欧州委員会

表6:EU委員会が設定したその他の関税割当等
品目 関税割当等
豚肉 協定発効後5年間で、最大2万5,000トンまで拡大(枠内の適用税率は、重量税でトン当たり83ユーロ)。
トウモロコシ(スイートコーン) 協定発効後5年間で、最大100万トンの無関税輸入枠を設定。
オレンジジュース 重量100キロ当たり30ユーロ超のオレンジジュースについて、付加価値に応じて(1)現行税率12%の品目は協定発効後7年間で関税撤廃、(2)同15%の品目は協定発効後10年間で関税撤廃、(3)同34%の品目は協定発効後10年間で関税撤廃。
100キロ当たり30ユーロ以下のオレンジジュースについては、付加価値に応じて、(1)15.2ユーロに50%優遇を講じる一方、重量100キロ当たり20.6ユーロを賦課、(2)33.6ユーロに50%優遇を講じる一方、重量100キロ当たり20.6ユーロを賦課。
カシャッサ(サトウキビ蒸留酒) 2リットル未満のボトル入りカシャッサは、協定発効後、4年間で関税撤廃。バルク物については最大2,400トンの関税割当を設定。協定発効後5年間で現行関税率(8%)から段階的に関税撤廃。

出所:ブラジル外務省

EUの厳格な食品安全基準を維持

欧州委員会は、EUメルコスール協定では、EU食品安全・動植物健康基準は交渉対象となっておらず、「EUの厳格な食品安全規則を変えるものではない」と強調した。

欧州委員会によると、欧州に到着する製品はすべてEUの厳しい食品安全基準を順守する必要がある。動植物健康保護基準は交渉対象外で、ホルモン獣肉やEUにおいて未承認の遺伝子組み換え作物(GMO)がEU市場に入ることはない、と説明している。EUはまた、残留農薬の最大許容レベルを設定する権利を維持している。引き続き、EUの食品安全・健康基準は国産品、輸入品にかかわらず、EUで販売される全製品に適用されることになる。

EUメルコスール協定には「予防の原則」が含まれる。これにより、相応の科学的根拠や情報が決定的でなくても、人間と動植物の健康を保護するための措置を採用できる。

EUの食品安全規則では、対象商品のリスクレベルに基づき、(1)EUへの輸出を希望するオペレーターの監査と事前承認、(2)EUにおける輸入通関での書類管理と商品検査、(3)EU域内で販売されている輸入品サンプリング、を行う。EU各国当局は、同管理を行う上で中心的な役割を果たす。欧州委員会と域内各国当局は、あらゆる未承認製品の警戒システムを確立しており、未承認製品をEU市場から排除できる、とも言及している。


注:
日EU・EPAで指定対象になったEU産品の数は、71。
執筆者紹介
ジェトロ・サンパウロ事務所長
大久保 敦(おおくぼ あつし)
1987年、ジェトロ入構。ジェトロ・サンパウロ事務所調査担当(1994~1998年)、ジェトロ・サンティアゴ事務所長(2002~2008年)等を経て、2015年10月より現職。同年10月からブラジル日本商工会議所理事・企画戦略委員長、2017年1月から同副会頭。

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