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新型コロナウイルスによる国内製造業への影響、中国製部品依存度と調達部品在庫保有量で明暗分ける(ブラジル)

2020年3月5日

新型コロナウイルスの影響は、ブラジル製造業のサプライチェーンにどのような影響を与えているのか。当地の各業界団体の発表や報道をみると、影響度を左右するキーワードは「対中部品依存度」と「調達部品在庫保有量」と言えそうだ。

中国やアジア諸国・地域への部品調達依存度が高い電気電子産業部門では、とりわけ空輸による付加価値の高い半導体などの携帯電話用電子部品の調達について、在庫の保有量が少ない。よって、メーカー各社は既に部品調達不足に見舞われ、生産中断や従業員に集団休暇を言い渡す事例が出始めている。

一方、自動車産業では、部品や材料の多くが物理的に大きく重たいことから、空輸に適さず海上輸送になり、必然的に在庫も多くなる。さらに、完成車メーカーはコスト削減などの理由から、可能な限り生産地での部材調達を増やす傾向が強く、電気電子産業に比べると中国などアジアからの輸入部品への依存度が低い。そのため、当面の影響は出ていないと考えられる。

また、過去に輸入代替工業化政策を取ってきたブラジルでは、裾野産業がそれなりに育成されてきた経緯があり、機械機器産業でも中国製部品への依存度は低い。この産業では中南米周辺諸国への輸出比率が高いため、中国からの代替供給者としてブラジル製機械機器の売り込みが有利になったと、現地業界団体会長は評している。

ブラジル保健省は3月1日現在で計2人の新型コロナウイルス感染確認を発表している。世界的な景気先行き懸念と金融不安も重なり、サンパウロ証券取引所指数(IBOVESPA)は2月に入って株価が8%低下、ブラジルの通貨レアルはドルに対して4.5%下落して1ドル=4.48レアルとなっている。

2020年2月末時点の各業界団体の発表や報道を中心に報告する。

電気電子工業会、4%の企業が生産ラインを一部停止

ブラジル電気電子工業会(ABINEE)は2月21日、「ブラジルの電気電子産業は中国を中心としたアジア諸国からの部品・材料調達に依存しており、新型コロナウイルスの影響を受けやすい」と発表した。2019年のブラジル電気電子部品輸入総額(通関ベース)の約80%はアジア諸国・地域からで、そのうち42%が中国、38%が中国以外からとなっている。アジア諸国・地域以外では、EUからが9.0%、米国が5.0%、中南米(ALADI:ラテンアメリカ統合連合加盟13カ国)(注)が4.2%だ。

ABINEEが2月21日に発表した会員企業50社へのヒアリング結果によると、新型コロナウイルスの影響を受け、会員企業の57%が中国からの部品・材料調達に問題を抱え、4%が生産ラインの一部を停止した。15%が今後生産ラインの一部停止を計画している。中国からの部材調達が正常に戻った場合、生産ラインの正常化に要する期間は「平均で2カ月」と回答している。

生産への影響については、17%が新型コロナウイルスの影響による調達不足により「2020年第1四半期(1~3月)の当初計画を達成できない」としている。また、これら企業の生産量は「平均で22%低下する」と回答している。一方で、50%の企業は「当初計画を維持できる」と回答。33%は「現時点では回答できない」とした。

携帯電話製造ラインで操業中断や集団休暇が顕在化

電気電子メーカーや家電メーカーで構成する全国電気電子製造業者協会(ELECTROS)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますのジョゼ・ナシメント会長は2月11日、ブラジルで生産される電気電子機器や白物家電、AV機器、ポータブル家電の各メーカーにとって「中国は欠かせない部品調達先であり、新型コロナウイルスの影響で調達が不安定になることを懸念している」と発表した。特に携帯電話、TV、タブレットなど機器向け半導体といった、空輸される高付加価値電子部品は10~15日分の在庫しかなく影響が大きい。一方、「海上輸送による部品在庫は90日分ある」と会長は説明している。

2月28日付「エザーメ」誌によると、携帯電話の組み立てを行うフレックストロニクス社のジャガリウーナ工場(サンパウロ州)では、全従業員3,200人のうち2,100人に対して12日間の集団休暇を言い渡した。残る1,100人は3月9~28日の集団休暇を予定している。

携帯電話を生産するLGのタウバテ工場(サンパウロ州)は、3月2~12日に全従業員450人のうち330人が集団休暇を取得することを地域の金属労働組合に通告した。

サムスンのカンピーナス工場(サンパウロ州)は2月27日、「通常どおり操業している」としながらも、3月12~14日に一時的に生産中断することをカンピーナス金属労働組合に通告した。2月20日付「イストエ・ジネニェイロ」紙によると、携帯電話やタブレット、パソコン用モニター、マウスなどを生産するムーチラゼール社のエストレーマ工場(ミナスジェライス州)は「部品調達が17%低下した」と明らかにした。同社社長は中国での生産が早期に回復しなければ生産状況が悪化すると語っている。

マナウスフリーゾーン入居企業、3月からの集団休暇実施を懸念

ブラジル北部のアマゾナス州工業センター(CIEAM)は2月28日、同州に位置するマナウスフリーゾーン(ZFM)入居企業の部品・材料調達が3月以降不足し、4月には深刻な状況になる可能性を明らかにしている。ZFM入居企業の直接雇用は8万5,000人。ZFMを中心としたアマゾナス州内の工業集積地全体の直接雇用は50万人にも達する。CIEAMは、調達不足が深刻化すると労働時間短縮や集団休暇を取得させるといった影響が出る可能性を指摘している。

CIEAMのウィルソン・ペリコ会長は「電気電子製品の組み立てを行うZFM入居企業は部品在庫状況を明らかにしていないが、既に低水準だろう」とコメントしている。ただし、これら企業には最低1カ月の在庫があり、中国の旧正月(春節)前にアジア各国・地域の港を出た船舶は3月第1週にブラジル到着予定のため、「海上輸送部品の欠品は生じていない」と述べている。会長はまた、ZFM内のTVや携帯電話メーカーが生産ラインを停止することで4万8,000人の直接雇用者が影響を受ける可能性を指摘している。

ペリコ会長によると、ZFM内の二輪車メーカーは2社が中国から部品を調達しており、調達不足が深刻化すれば、直接雇用者3万7,000人が影響を受ける可能性があるとしている。2月28日付「エザーメ」誌によると、ZFNに生産拠点を構えてブラジル最大の二輪車メーカーであるホンダは、生産停止はしないが、新型コロナウイルスの影響が長引く場合は状況が変わる可能性を示唆している。

自動車・同部品工業会、3月以降に調達問題発生か

ブラジル自動車工業会(ANFAVEA)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますのマルセロ・モライス会長は2月9日、「現在のところ調達に問題はない」と強調した。中国から物理的に遠いブラジルの製造拠点は他地域と比べて在庫が多く、「3カ月分以上の在庫がある企業も多い」と付け加えている。ANFAVEAはそれ以降、正式なコメントを出していないが、現地の日系企業関係者は、ブラジルは中国から遠いためある程度の在庫を積んでおり、中国近隣の製造拠点と比較すると深刻な問題にはなっておらず、調達先変更への対応がしやすいと語る。一方、3月以降の影響には懸念を示した。

ブラジル自動車部品工業会(SINDIPECAS)の輸出入統計「2019年12月貿易バランス」(通関ベース)によると、2019年のブラジル自動車部品輸入全体に占める中国の割合は14.9%で最大の輸入先となっている。次いで、ドイツが13%、米国9.8%、日本8.8%、韓国8.1%、アルゼンチン6.7%、タイ4.4%、イタリア3.3%、インド2.4%と続く。地域別ではアジア・オセアニアが最大で、欧州28.8%、北米18.1%、南米9.9%の順で続く。2月28日付「アウトインドゥストリア」紙によると、SINDIPECASのダン・イヨシピ会長は「新型コロナウイルスの影響で一部会員企業が影響を受けている可能性はあるが、どの会社かは把握していない。国内の自動車部品生産での影響や将来予測は現時点で明らかにできない」と語っている。会長はまた、現時点では会員企業から深刻な問題は指摘されていないが、調達が深刻化するかどうかは、中国の生産回復の遅れと、イタリアや韓国での新型コロナウイルス感染拡大の影響にかかっていると付け加えている。SINDIPECASが発表した1月の自動車部品輸入統計によると、ブラジル自動車部品輸入総額は前年比6.2%減なのに対して、中国からの輸入額は同0.7%減にとどまっている。

機械機器製造業、部品調達懸念を否定、中南米市場への輸出強化に期待

ブラジル機械機器工業会(ABIMAQ)のジョゼ・ベローゾ・ディアス・カルドーゾ会長は2月27日、「新型コロナウイルスの影響による調達部品の欠品や生産停止を示すデータはない」と語った。会長によると、中国から多くの部品を輸入する電気電子産業とは異なり、機械機器産業の対中部品調達は少ないが、中国以外の代替調達先を探す予防措置を取っているようだ。機械機器業界は売り上げの4割が中南米諸国であり、中国製機械機器は競合となる。新型コロナウイルスの影響によりブラジル産機械機器の販売増加が期待される。

3月以降はブラジル製造業サプライチェーンへの影響拡大や、中国製部品を中心とした調達にやや変化が生じる可能性がある。しかし、2月までの同サプラチェーンへの影響を見る限り、各産業への影響は大きくはないだろう。日本企業がリスク分散の観点で中国やアジア諸国から遠く離れ、フルセットの産業を有してきた南米の資源大国ブラジルに製造拠点を持つ意義をあらためて考えてみる必要性もありそうだ。


注:
アルゼンチン、ウルグアイ、エクアドル、キューバ,コロンビア,チリ,パナマ,パラグアイ,ブラジル,ベネズエラ,ペルー,ボリビア,メキシコ
執筆者紹介
ジェトロ・サンパウロ事務所長
大久保 敦(おおくぼ あつし)
1987年、ジェトロ入構。ジェトロ・サンパウロ事務所調査担当(1994~1998年)、ジェトロ・サンティアゴ事務所長(2002~2008年)等を経て、2015年10月より現職。同年10月からブラジル日本商工会議所理事・企画戦略委員長、2017年1月から同副会頭。
執筆者紹介
ジェトロ・サンパウロ事務所
古木 勇生(ふるき ゆうき)
2012年、ジェトロ入構。お客様サポート部オンライン情報課(2012~2015年)、 企画部海外地域戦略班(中南米)(2016~2017年)、海外調査部米州課中南米班(2018年)を経て、2019年2月からジェトロ・サンパウロ事務所勤務。

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