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多様化する消費者需要を捉え新規ビジネスを創出(マレーシア)
新型コロナウイルスによる移動制限令下の消費市場

2020年4月15日

新型コロナウイルスの感染拡大により、マレーシア政府は3月18日から4月28日まで全国規模の移動制限令を発動している。移動制限令下では、国民は不要不急の外出は禁止されている一方、食料品や医薬品の調達のための外出、テイクアウト、フードデリバリーの利用は許可されている。生活必需品の調達は各家庭の代表者1名が行うとされ、その後、移動は自宅から半径10km以内となるなど、規制と監視が段階的に強化されている。こうした中で、消費者のニーズや購買方法が多様化している。一方で、ニーズを的確に捉えた新規ビジネスも生まれている。

健康意識や衛生意識、さらに高まる

移動制限令発動当初から、生活必需品の買い出しのための外出は許可されている。このこともあり、小売店に出向いて商品を購入する消費者数は多く、増加している。一部の小売店は移動制限令のために営業時間を短縮しているものの、ジェトロのヒアリングでは、2020年3月の売り上げが前年同月比30%増となった店舗もある。

複数の小売店・輸入業者へのヒアリングによると日本食品では、(1)レトルト食品、インスタントラーメン、調味料などの保存食品、(2)乳酸菌飲料、納豆などの発酵食品に代表される免疫力向上に効果があるといわれる食品、(3)酒類、菓子、ケーキといった嗜好性の高い食品の売り上げが伸びているようだ。また自宅での食事やオンラインで友人と飲み合う「家飲み」需要に伴い、ワイン、ビール、日本酒、チューハイといった酒類も売れているという。

外国産の健康・自然派食品を多く取り扱うママミーショップのフェリシア社長によると、特に、移動制限令発動以降、「新型コロナウイルスの報道に接したことで消費者の健康意識がさらに高まり、自炊をする家庭も増えている」といい、キヌア、日本茶、日本産小麦粉やケーキミックスの注文が大量に入り既に在庫が少ない状況だという。日本からの航空便は減少しているが、4月9日の時点で日本食品の輸入手続きや検疫上の問題は発生していない。

非食品分野では抗菌関連商品や洗濯用商品の売上が好調で、抗菌ハンドウォッシュ、抗菌ウェットティッシュ、漂白剤、衣料用洗剤などが売れているという。消費者の感染予防を徹底したいという需要が背景にあるようだ。

また、マレーシアでもマスクが不足し、スーパーや薬局でも入手しづらい状況が続いている。マスクは政府の管理品目になり、卸価格と小売価格に上限額が設定され輸出は禁止されている。マレーシア国内取引・消費者省(MDTCA)によると、4月9日現在、3層タイプマスクの卸価格は1箱(50枚入)75リンギ(約1,875円、1リンギ=約25円)、小売価格1枚1.50リンギになっている。


伊勢丹KLCC店では、検温と除菌をしてから
入店するよう徹底している。(ジェトロ撮影)

「家飲み」で需要高まるアルコール飲料
(ジェトロ撮影)

好調なフードデリバリーと苦境に立たされる飲食店

小売店同様売上を伸ばしているのがフードデリバリー(宅配サービス)だ。移動制限令発動以降、ドミノ・ピザは宅配による注文が1.5倍増加、バーガーキングは宅配の売上高が2.5倍になった(2020年3月30日付「ザ・スター」紙)。注文量に対して配送員が大幅に不足しており、主要なフードデリバリー会社であるグラブ・フードやフードパンダでは連日配送員を募集している。

他方、フードデリバリーサービスに対応している飲食店は限られており、すべてが恩恵を受けているわけではない。日本食レストランでは元々フードデリバリーサービスに参加していない店舗も多く、閉店を余儀なくされていると複数の飲食店関係者はいう。

加盟している飲食店も安泰では無い。メインの商材がフードデリバリーに適さないラーメン、寿司、刺身などを看板メニューとしている店舗では、温度管理や配送員による運転の質などを不安視し、多くは簡単に取り扱えるサイドメニューだけの提供に限定している。そのためフードデリバリーだけの対応で開業しても、「店舗維持費が売り上げを上回る」「手数料として20~30%程度をデリバリー会社に取られるため、採算が合わない」といった声が聞かれる。

大手フランチャイズチェーンを含む約400店舗を会員企業に持つマレーシア飲食経営者連合(Malaysian F&B Operators Alliance)によると、移動制限令下のマレーシア国内の飲食店の売上損失が3月18日~4月17日の1カ月間で合計約1億リンギ(約26億円、1リンギ=約25円)に達し、通常売り上げの80%減になることが予想されるなど苦境に立たされているという。同連合は、このような状況を受けた救済措置として、移動制限令解除後の6カ月間、従業員給与の50%を国が負担することと店舗賃貸料を無償化することを、政府に要請している(3月26日付「ザ・ラックヤット・ポスト」紙)。

表:3月18日~4月17日の飲食ビジネスへの影響(推計含む)
項目 大企業 中小企業 零細企業
売上損失 (リンギ) 82,820,000 14,974,000 7,645,900 105,439,900
従業員損失 (人) 9,941 798 420 11,159
従業員賃金損失 (リンギ) 11,813,900 3,414,850 1,948,880 17,177,630

出所:Malaysian F&B Operators Allianceの資料を基にジェトロ作成


平常時は車と人で混み合うツインタワー前の交差点も閑散(ジェトロ撮影)

産地・店舗と消費者をオンラインで繋ぐ新規ビジネス

マレーシア・デジタル協会外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、食料品や日用品の主要なEコマースサイトにおいて、移動制限令発動前の2週間(3月1日~14日)と発動後の1週間(3月15日~21日)を比較したところ、主要サイトでデータ取扱量が大幅に増えていることが分かった。ハッピーフレッシュ(食品のオンライン代行購買サービス)は6倍増、ジャヤグローサー(スーパーマーケット)は6倍増、マイディン(ハイパーマーケット)は5.4倍増、テスコ(同)は4.5倍増となっている。政府の取り締まりが厳しくなる中で、外出を極力避けオンラインショッピングを利用する消費者の動きが確認できる。しかし、オンライン注文の急増に店側の供給体制が追い付かず、一時的にオンライン注文を停止している店舗もある。

また、移動制限令下での消費者ニーズを捉えた新しいビジネスも生まれている。例えば、産地や店舗と消費者をオンラインでつなぐサービスだ。Eコマース大手のラザダでは、取引先の休業により国内の主要産地で大量の野菜・果物・水産物が廃棄される現状を受け、自社サイトを通じ産地から消費者への直接配送を受け付けるサービスを開始した。野菜詰め合わせセットは、30リンギ (約750円、1リンギ=25円)から販売している。これまで生鮮品を扱っていなかった同社にとって初の試みとなる。ショッピーやパンダマートなど、他のEコマースサイトも追随する動きを見せている。

日系IT企業のTKインターナショナルでは、休業を余儀なくされている飲食店を救済するため、売上が減少しかつ食材も余っている日系飲食店と、自宅での調理や食材調達がままならない消費者をつなぐサービスをLINE上で構築し運営を開始した。利用は無償ということもあり4月9日現在で約12店舗が参加し、一日の売り上げが平常時を上回る飲食店も出ているという。このサービスは、今後も拡充していく予定だ。


食事時にコンドミニアム前に見られるフードデリバリー(ジェトロ撮影)

安定した経済成長と消費者意識の高度化とともに、2015~2019年の4年間で、日本からマレーシアへの日本産食品の輸出は年々増加し、日本食を始めとする飲食店などサービス業の進出も増え、マレーシアの日本食市場は拡大の途上にあった。そのため、新型コロナウイルスによるビジネスの制限は、飲食店を中心としたサービス産業関係者にとっても大きな痛手となっている。他方、このような時期に需要が高まっている商材やオンラインサービスを活用した新規ビジネスも生まれていることは注目に値する。ピンチをチャンスに変えて販路を見出せる可能性もありそうだ。

執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
重松 広美(しげまつ ひろみ)
本部、ジェトロ神戸、ジェトロ徳島での勤務を経て、2015年11月から現職。

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