1. サイトトップ
  2. 海外ビジネス情報
  3. 地域・分析レポート
  4. インド人エンジニアが新聞印刷会社でシステム開発(日本)

インド人エンジニアが新聞印刷会社でシステム開発(日本)
コロナ禍で、インターンシップはリモート実施

2020年8月19日

東京都に本社を置く東日印刷外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は2017年、初めてインド工科大学(IIT)出身のインド人を採用した。その後、社内で外国人材採用への関心が高まり、現在は7人の外国人材が同社で働いている。同社が新たに設立したWeb制作部門に配属され、新たな商品開発に従事。将来的には、インドへの研究開発拠点設立も視野に入れているという。

同社は、コロナ禍においても引き続き、外国人材活用に向け積極的な姿勢も見せている。例えば、従来は対面形式で実施してきたインターンシップを、リモートに切り替えている。

同社社長の武田芳明氏とT-NEXTマネジャーの岩本好司氏に、インド人材採用や新商品開発の経緯について聞いた。あわせて、日本での就職に至った経緯、日本企業に求める受け入れ体制などについては、インド人採用者2人(アガラワル・ゴパール氏、シンデー・ラブ氏)にインタビューした(7月2日)。

従来の印刷業務に加え、新たな事業部門としてWeb制作事業を開始

質問:
会社の概要は。
答え:
(岩本マネジャー)当社は、毎日新聞グループの新聞印刷会社だ。朝刊7紙、夕刊3紙など、1日で380万~400万部を印刷する。創業65年以上の歴史を持ち、新聞印刷専門会社として国内最大級の規模になる。
本業に加え、新規事業として2016年にWeb制作業務を開始した。開始後、企業向けのWeb制作サービス、アプリケーション開発、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)などの技術を駆使したソフトウエア開発をサポートしている。

インド人材の高度な開発技術が、初の外国人材採用の後押しに

当社は2016年、Web制作メンバーが通っていたWebスクールの関連会社から、IITの学生をインターンシップ採用するプログラムの紹介を受けた。IIT学生からの受け入れは、それがきっかけだ。

インターンシップを実施するころ、社内では各社員のスケジュール共有手段がなかった。各役職員のスケジュール把握に非効率な体制を敷いていいた課題の克服のため、社内でそれらを把握・共有できるシステムを求める声があがっていた。そこで、インターンシッププログラムの一環として、インド人材にスケジュール管理のWebシステムの開発を任せたところ、実務レベルで十分に活用可能なレベルの成果物の開発に成功した。「Tonichi NEXTa外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」と名づけられたこのシステムには、社内での評価も得られた。このことから、外国人材採用の機運が高まった。

加えて、営業強化の一環として、名刺管理システムについても開発を検討していた。費用面の課題がネックとなり、他社サービスの名刺管理アプリの導入には至っていなかった。しかし、「Tonichi NEXTa」の開発に成功したインド人材であれば開発ができるのでは、といった期待が社内で寄せられた。結果、インド人材が開発を任され、無事、「Tonichi NEXTa Meishi外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」の開発に成功した。

インターンシップ期間中のインド人の開発技術力を高く評価し、当社は創業65年来、初めて外国人材の採用を決定した。2017年10月にIIT出身者2人の正社員採用に至った。

質問:
IITエンジニアの特徴は。
答え:
(岩本マネジャー)常日頃、本人たちが「頭の中で考えていることはすべて開発できる」と語る通り、スキルが私たちの想像以上に高い。在学期間中から多くのプロジェクトに参画し、自分の頭で徹底的に考え抜き、実践する環境に身を置いている。このため、すぐに私たちの要望を理解し、スピーディーにプロダクトを開発することができる点が特徴と考える。
質問:
インド人採用にあたり工夫した点は。
答え:
(岩本マネジャー)中途採用が多くない当社にとって、10月入社は異例だ。しかも、初の外国人材採用になる。決してハードルの低い試みではなかった。そのため、社内で快く受け入れてもらえるよう、人事担当役員や人事部との間で協議して、慎重に進めた。
また、インターンシップ受け入れ担当部署は、インターン候補生の訪日前に相互に気になる点を、直接会って話し合うことを重要視している。このため、毎年、インドに出張し複数のIITキャンパスを訪問している。2017年3月と2019年3月には、IITロパール校(パンジャーブ州)を訪問。サリット・クマール・ダス学長と会談し、当社の取り組みを直接伝える機会を得た。なお、ロパール校からは、シンデー・ラブ氏を採用した。また、2019年3月には、IITマンディ校を訪問して学長と会談をした。このほか、IITガンディナガール校(グジャラート州)も初めて訪問し、採用検討校の拡大にも取り組んでいる。毎回の出張で、IIT学生のポテンシャルの高さを痛感している。

家族同様に迎え入れる社内体制づくりが重要、外国人材採用で社員の意識改革も

質問:
インド人材の雇用・日本での生活面における課題は。
答え:
(岩本マネジャー)採用した2人は、一生懸命勉強してIITに入学。その後は全寮生活に入った。そして卒業後は異国の地で仕事をすることを選択したという経緯を持つ。人生を大きく左右する決断をしてくれたことを、しっかりと受け止めたい。採用前からそう思っていた。
日本での生活立ち上げで不安を感じないよう、来日時は空港まで迎えに行った。役所への住民登録も一緒に行き、引っ越しを手伝った。また、定期的に自宅に招いてパーティーを開催するなど、彼らが少しでも安心して生活できるよう、家族のような感覚で迎え入れ、付き合っていくことを心がけている。
当初は、食事や宗教の問題など、さまざまなことを心配していた。しかし、杞憂(きゆう)に終わった。
質問:
外国人材を雇用して社内で変化したことは。
答え:
(岩本マネジャー)多くのインド人学生は、就職先として欧米企業を好む。しかも、IITのコンピュータシステムエンジニアリング (CSE)専攻のエンジニアは、約1,000人に1人と言われる。そうした優秀なエンジニアが、日本企業しかも新聞印刷会社を就職先に選んでくれた。これが周囲に与えたインパクトは非常に大きかったようだ。取材なども多数受けた。
これを契機に、2018年4年には私が所属するT-NEXTという新規事業部門を設立することになった。何より当社全体で外国人材採用のハードルが下がった。現在は、インド、バングラデシュ、ロシアの3カ国から7人の外国人材を採用するに至った。うち、4人のインド人がT-NEXTに配属されている。

インドと日本でリモートでのインターンシップ実施、コロナ禍の影響を物ともせず円滑に進行

質問:
今年のインターンシップの成果、今後の事業計画について。
答え:
(岩本マネジャー)今年は新型コロナウイルスの影響により、IIT学生が日本でのインターンシップに参加できない環境にあった。しかし、5月からの約45日間、初めてリモートでのインターンシップを実施した。当社の武田芳明社長をはじめ、多くの関係者のバックアップも受けた。インターン生3人に対しては、2016年に入社したIIT出身者のアガラワル・ゴパール氏とシンデー・ラブ氏が開発した名刺管理システム「Tonichi NEXTa Meishi外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」の追加機能開発を成果目標に課した。ゴパール氏には進捗管理とインターン生3人のメンター役を担ってもらい、プロジェクトを主導してもらった。
自分は、毎週のミーティングに毎回は入らず、重要な協議事項に関わるミーティングのみ参加していた。しかし、事業の進捗管理に特段、問題はなかった。日本とインドでオンラインを中心としながら1つのプロジェクトを完遂できたことは、関係者の自信につながったと考える。
今後は、ユーザー数が2,500人程度に拡大した名刺管理システム「Tonichi NEXTa Meishi」の保守や、さらなるユーザー獲得に向けた情報発信を行う予定だ。また、将来的にはインドに進出し、開発拠点を設けると同時に優秀なエンジニアを採用できる体制を構築することも視野に入れている。
質問:
リモートでのインターンシップを実施しての感想、名刺管理システム「Tonichi NEXTa Meishi」の反響は。
答え:
(武田社長)コロナ禍で、新たな挑戦としてリモートでのインターンシップを実施した。成果を生み出すことができ、手応えを感じている。
IIT出身者の採用やWeb関連事業への進出を踏み切ったのは、将来を見据えてのことだ。開発した名刺開発システムの、AI機能を用いた名刺情報読み取り精度の高度化、そして最小限の機能提供による価格競争力といった特徴が評価された。
開発の成果は、毎日新聞社グループの企業、東日印刷のお客様、または取引企業など多くの方に利用いただいている。
質問:
今後の事業計画は。
答え:
(岩本マネジャー)今後はインターンで採用したインド人材を活用し、ユーザー数が2,500人程度に拡大した名刺管理システムの保守や、さらなるユーザー獲得に向けた情報発信を行う予定だ。
また将来的には、インドに進出することも視野に入れている。開発拠点を設けると同時に、優秀なエンジニアを採用できる体制を構築したい。

インターンシップ報告会で開発した新機能に
ついて説明するインターン生
(7月2日、ジェトロ撮影)

インターンシップ報告会でインターン生に
メッセージを送る武田社長
(7月2日、ジェトロ撮影)

インド人スタッフの日本就職の動機、就職後の気づきとは?

質問:
なぜ日本で働こうと思ったのか。また、東日印刷に入社しようと思った決め手は。
答え:
(ゴパール氏)インターンシップに参加する来日前から、日本が高い技術力を擁し世界に通じる製品を多く作っていることに尊敬を抱いていた。また、日本人の謙虚で礼儀正しい姿から学ぶことが多くあるのではないか、と考えていた。インターンシップ期間中は岩本氏など、東日印刷の社員が丁寧に仕事内容を教えてくれた。多くのスタッフのサポートがあり、楽しく生活することができた。仕事内容もシステム開発を私たちに任せてくれるなど裁量権が大きく、自分の能力を発揮する機会が多いことが入社の決め手となった。
(ラブ氏)来日前から日本のアニメや寿司などの日本食に関心があった。YouTubeでアニメを視聴したり、インドにある日本食レストランを訪れたりしていた。インターンシップ期間中は、東日印刷のスタッフが家族同様に自分を受け入れてくれ、うれしかった。
他の大企業では一人に任せる仕事量があまり多くないと聞いている。しかし、T-NEXTでは日々チャレンジングな業務を行うことができる。自分の成長を実感できる点が私の価値観に合っていたと思う。

「Tonichi NEXTα Meishi」の特徴を説明する
ゴパール氏(7月2日、ジェトロ撮影)
質問:
インド人と一緒に働く上で、日本企業の受け入れ体制として何が重要と考えるか。
答え:
(ゴパール氏)東日印刷でも、インターンシップ期間中はGoogle翻訳を用いながらコミュニケーションを取る機会が日常的だった。言語の壁を少なくすることが重要ではないか。日本は、まだまだ英語で仕事をすることに慣れていない環境だ。
もっとも、現在は自分たちが日本語を勉強し、日本人スタッフとは日本語で話しているので、大きなハードルとはなっていない。
(ラブ氏)同感だ。英語でのコミュニケーション環境の整備が重要だと考える。同時に、受け入れ企業側で採用するインド人社員に対し、インドでの日本語教育機会の積極的な活用を提案することも一案ではないか。
インドでは、複数大学において1カ月間程度の日本語短期集中コースなどが実施されている。私は、来日前に受講した。あいさつや自己紹介程度のフレーズを覚えるレベルではある。それにしても、日本企業で働く上での心構えができた。
外国人から見た東京についても、少し触れたい。公共交通機関や飲食店などでの多言語対応は、着実に進んでいると感じる。新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期されてしまったが、東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けた取り組みもあっただろう。得られる情報量が日本人とできるだけ同じになれば、日本で働くことを選択するインド人が増えるのではないかと考える。

T-NEXTで働く社員。左から岩本マネージャー、ゴパール氏、ラヴ氏、
土橋副主査、キスラヤ氏、サウミャディープ氏(7月2日、ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所
丸崎 健仁(まるさき けんじ)
2010年、ジェトロ入構。ジェトロ・チェンナイ事務所で実務研修(2014年~2015年)、ビジネス展開支援部、企画部海外地域戦略班(南西アジア)を経て、2018年3月よりジェトロ・アーメダバード事務所勤務。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
谷口 晃希(たにぐち こうき)
2015年4月、山陰合同銀行入社。2019年10月からジェトロに出向。お客様サポート部海外展開支援課を経て、2020年4月から現職。

この情報はお役に立ちましたか?

役立った

役立たなかった

ご質問・お問い合わせ