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SDGsに意欲を示す政府と企業(英国)
さらなる政策展開と官民協業が課題

2020年9月9日

欧米主導で持続可能な開発目標(SDGs)に関する議論が進む。その中で英国は、策定に中心的な役割を果たしてきた。その達成に向けて役割を果たす必要があると考える企業は多い。その目指す方向そのものは官民で一致している。英国のSDGsをめぐる動きについて、事例を交えながら紹介する。

政府のVNR報告で、国連目標の継続的な達成を強調

欧州では世界のSDGsを先導する機運が高まっている。このため、EUや域内主要諸国はSDGsに関する国際標準の設定を主導してきた。中でも、英国のSDGsに対する使命感は、他の欧州諸国に比べて高いといえる。

英国政府は、SDGsを「戦略的な国際開発のキープレーヤーとなるための継続的な取り組みの一環」と位置付ける。2019年6月に発表した自発的国家レビュー(VNR)(注)の報告でも、英国は国外でのSDGs推進の一環として、国民総所得(GNI)の0.7%を援助に充てるという国連目標を毎年継続して達成していると強調した。さらに、英国はSDGsの17の達成目標の1つに「ジェンダー平等」を盛り込むことに尽力してきた。この経緯を踏まえ、この分野で世界を牽引する存在だと自任している。加えて、この分野の取り組みを進めることで、英国の国際的地位を守ることができるとした。このようにSDGsにおいて中心的な役割を果たし、世界で英国のプレゼンスを高めることが、SDGsへの取り組みを盛り上げる要因の1つと言えそうだ。

こうした意欲は、政府だけではない。英国の民間企業も同様だ。2019年に欧州13カ国を含む世界35カ国で実施したHSBCの調査報告書によると、英国企業の75%がSDGs達成に向けて自社が役割を果たす必要があると回答した。また、38%がその役割は重要(Significant)と回答。いずれも欧州で最大となった(図参照)。

図:SDGs実現に向けて役割を果たすべきと考える企業(n=3,677)
欧州企業3,677社に対するアンケート調査で、 SDGs実現に向けて役割を果たすべきと回答した企業の割合は 英国で75%、オランダ、スペイン、フランスで58%、スウェーデンで55%、アイルランドで53%となった。 また、その役割が重要と回答した企業の割合は英国で58%、オランダ、スペインで17%、フランス、スウェーデンで16%、アイルランドで23%となった。

出所:HSBC ナビゲーターレポート 2019 、エネルギーライブニュース

技術を生かしSDGsへの貢献を目指す

では、英国企業はSDGs達成に向けて具体的にどのような取り組みを行っているのだろうか。先述のHSBCの調査報告書では、英国企業の31%が今後5年間に持続可能な生産活動のために技術やインフラ、イノベーションのための投資を拡大すると回答した。そんな中、自社の技術力を生かして国外でSDGs推進に貢献する企業や、地域の産業や社会に寄り添って社会課題の解決に挑む企業がある(表参照)。

表:海外展開や地域密着によりSDGsに取り組む英国企業の例
企業名 概要 進出先、対象地域 該当するSDGs17の目標
エアリアル・パワー ドローンを利用した水を使わないソーラーパネル洗浄技術により、砂漠地帯での太陽光発電の普及に貢献。 主に北緯15度~南緯15度の間の砂漠地帯 7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに
9:産業と技術革新の基盤をつくろう
マクレボー 廃プラスチックごみを再利用してアスファルトを製造し、強度や耐久性の優れた道路に作り変える。 米国、オーストラリア、 トルコ、バーレーン、
スロバキア、ニュージーランドほか
9:産業と技術革新の基盤を作ろう
12:つくる責任、つかう責任
ペイブジェン 人が歩く運動エネルギーを動力源とする発電装置を開発。歩行データを解析して各種ビジネスに活用も。 米国、韓国、香港、インド、UAEほか 7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに
9:産業と技術革新の基盤を作ろう
11:住み続けられるまちづくりを
ケルティック・ リニューアブルズ 地場の主力産業であるウイスキーの副産物でバイオブタノールを生産。 英国・スコットランド 7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに
9:産業と技術革新の基盤を作ろう
12:つくる責任、つかう責任
グロー・ブリストル 屋内垂直農場設備を用いて農産物を生産。都市密着型の次世代農業を提唱し、ブリストルの持続可能な成長に貢献。 英国・ブリストル 9:産業と技術革新の基盤を作ろう
11:住み続けられるまちづくりを
12:つくる責任、つかう責任
(2:飢餓をゼロに)
(13気候変動に具体的な対策を)
レタス・グロー モジュール式気耕栽培設備で垂直農法の課題である
生産性向上や投資利益率の向上に貢献。
英国・ブリストル 9:産業と技術革新の基盤を作ろう
11:住み続けられるまちづくりを
12:つくる責任、つかう責任
(2:飢餓をゼロに)
(13気候変動に具体的な対策を)

注:「該当するSDGs17の目標」は筆者による分類
出所:各社ウェブサイトなどを基にジェトロ作成

エアリアル・パワー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、水資源が限られる砂漠地域でドローン技術を使って太陽光発電を支える企業だ。1年を通して安定して日差しが強い砂漠地帯は、太陽光発電の有効性が期待されている。その一方で、砂ぼこりがたまりやすい環境は、発電装置の故障や生産性低下の原因となっていた。そこで同社は、太陽光発電所の課題となっていたソーラーパネルの洗浄コストに目を付け、ドローンを活用し水を使わない洗浄プロセスを開発した。これにより、水資源が乏しい乾燥地帯でも効率的にソーラーパネルを洗浄することを可能にした。この結果、必要な人件費や水の運搬費用も最低限に抑えられる。故障頻度の減少や生産性の向上にもつながる同社の技術力は、砂漠地域の太陽光発電をさらに推進する可能性を秘める。

マクレボー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、通常ならリサイクルされない大量のプラスチックごみを再利用し、アスファルトを製造する企業だ。ペットボトル68万4,000本に相当する廃プラスチックで、道路1キロ分に要するアスファルトを製造できる(「BBC」2019年3月5日)。同社のアスファルトは天候の変化に耐性があることから、時間経過に伴う亀裂の可能性を低減できる。このため、道路状態が悪い地域のインフラ改善策としても効果的という。英国のほか世界各地で特許を出願中で、既に米国やオーストラリア、トルコ、バーレーン、スロバキアなどの道路で同社技術を利用した道路が建設されている。この技術は、世界で道路事情の改善に貢献することだろう。

都市部ならではのクリーンな発電とデータ収集を同時に行うのが、ペイブジェン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますだ。創設者のローレンス・ケンボール・クック氏は、建造物が密集した都心部では風力や太陽光などの再生可能エネルギーを導入するのは難しいと考えた。その一方で、毎年約7,500万人が利用するロンドンのビクトリア駅に着目。歩行者の運動エネルギーを電力に変換することを思いついた(「インパクター」2018年3月14日)。その上を踏むことで発電できるパネルを開発し、人が歩くだけでクリーンな電気を生成するだけでなく、アプリで人々のスマートフォンに接続することで、パネルを踏み発電に貢献した者がリワードを得られる。企業は歩行データを分析して訪問者の行動分析やデータ収集を行うことができるため、さまざまなビジネスに利用できる。この発電装置はロンドンだけでなく、香港やバンコク、アブダビ、ワシントン、ブカレストなど世界各都市の商業施設や空港などで導入された。都市における新たな発電モデルとして注目を集めている。

地域に密着してSDGsを推進

地域に根差してSDGs達成に貢献するユニークな英国企業もある。ケルティック・リニューアブルズ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、ウイスキー生産の際に生じる副産物を独自に組み合わせてバイオブタノールを生産する。スコットランドのエディンバラ・ネピア大学発のスピンアウト企業でもある。スコットランドを象徴する伝統産業のウイスキーと持続可能なバイオ燃料の生産を掛け合わせた取り組みは、スコットランドエンタープライズ(当地域の経済開発機関)から有望スタートアップとして認められた。このほか、スコットランドウイスキー協会や政府の支援も受けている。

イングランド西部の主要都市ブリストルで、屋内垂直型小型植物工場で農産物を生産し地産地消を推進するのが、2014年設立のグロー・ブリストル外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますだ。農業には通常適さない都市空間で、屋内設備を使って農産物を生産する垂直農法を推進する。これによって次世代の都市型農業を確立させ、ブリストルの持続可能な成長に貢献することを目指す。また、食育や地元の雇用機会を増やす取り組みにも力を入れている。

同じくブリストルで2015年に設立されたレタス・グロー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、モジュール式気耕栽培設備を開発・販売。垂直農法の課題である生産性向上や投資利益率の向上に寄与することを目指す。完全自動式、農薬なしでの栽培が可能だ。しかも洗浄が容易なため、ランニングコストを大幅に削減できる。通常の水耕栽培に比べ、作物の成長は平均で70%促進されるという。屋内垂直農業を普及させることで、食糧問題や気候変動などの世界的課題に貢献するのが目標だ。

政策の連動や企業との協業が課題

先述の通り、SDGsには官民ともに積極的な姿勢を示している。その一方で、英国政府の取り組みは不十分だという指摘もある。SDGs達成に向けて国内のさまざまな団体の協働を目指すプラットフォーム「持続可能な開発を推進する英国のステークホルダー」(UKSSD)は2018年7月、SDGsに対する英国の実情を示すスコアカードを公表した。これによると、143の関連目標のうち、適切な政策が取られているとされたのは24%にとどまる。57%は「政策の適用範囲や実績が不十分」、15%は「政策がほとんどなく全く対応していないか実績が乏しい」と評価された。

ボンド(国内の国際開発団体のネットワーク)も、2019年6月に公表した報告書で、英国の開発援助が人間開発や女性のエンパワーメント、社会的平等といった課題に十分な資金を投じていないと指摘した。SDGs実現に向けた英国政府の公約を実行に移せていないという言及もある。「かつてほど貧困撲滅を重視しなくなったことで、英国がSDGsに与え得る影響力をそいでいる」などと、政府を批判している。

これらの指摘を踏まえると、政府はSDGs達成に向けて一層効果的な政策と行動計画を策定する必要があることになる。その際には、民間企業の能力を積極的に活用することが望まれるだろう。2017年1月の世界経済フォーラムに先立ち、UKSSDの取りまとめの下、テスコやHSBC、コカ・コーラ、富士通といった大手英国企業や多国籍企業の英国法人80社以上が英国首相に公開書簡を送った。その中で各社は、「英国内外でのSDGs達成のため、その責任を果たし、政府と協業する用意ができている」と呼び掛けた。具体的には、SDGs達成に向けた明確な指標や透明性のある報告の枠組みを設定することなどで、政府が支援できる余地もあるとしている。

英国では、先に紹介した新興企業からこれら大企業まで、役者がそろっている。政府は一層の協業を進めるべきだろう。


注:
VNRは「UK’s Voluntary National Review of the Sustainable Development Goals」の略。英国機関が持続可能な開発目標に向けて進捗状況をレビューしたもの。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所(執筆時)
中川 礼子(なかがわ れいこ)
慶應義塾大学文学部社会学専攻。2020年5~7月、ジェトロ・ロンドン事務所にインターンとして在籍。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所 次長
宮崎 拓(みやざき たく)
1997年、ジェトロ入構。ジェトロ・ドバイ事務所(2006~2011年)、海外投資課(2011~2015年)、ジェトロ・ラゴス事務所(2015~2018年)などを経て、2018年4月より現職。

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