フランスの大手メゾンで高まるエコ素材へのニーズ

2020年1月7日

9月にフランス・パリで開催された国際テキスタイル見本市「プルミエール・ヴィジョン」は、テキスタイルにおける環境責任を強く打ち出した。プルミエール・ヴィジョンとフランスモード研究所(IFM)が6月に、フランス・ドイツ・イタリア・米国の消費者5,000人に対して行ったアンケートの結果PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(228KB)(10月24日公表)によると、欧州の消費者の約半数、およびフランスの消費者の45.8%が2019年に環境に優しいファッションアイテムを購入している。有名メゾン(ブランド、メーカーなど)による素材の買い付けにおいても大きな変化が見られ、エコ素材はもはやトレンドにとどまらなくなってきている。欧州の大手アパレルメゾンに素材を提供する日本のテキスタイルメーカーは、エコ素材の開発に注力する必要があるだろう。

食品からファッションへ、消費者の関心の広がり

フランスでは、オーガニック食品の浸透度が高く、アジャンス・ビオ(Agence Bio)の統計外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、2018年にはフランス人の75%がオーガニック食品を1カ月に1点は購入し、12%が恒常的に購入している。健康はもちろんのこと、地球環境を考えた上での消費行動である。

この食品分野における消費傾向が、ここ数年でアパレル分野にも表れてきた。IFMが行った先述のアンケートによると、2019年にフランスの消費者がサステイナブルなファッションアイテムを購入した割合は45.8%、古着を購入した割合は38.7%であった。同アンケートにおけるサステイナブルの定義は、(1)リサイクル繊維からなる商品、(2)オーガニック素材からなる商品、(3)国産の商品、(4)中古品など。フランスの消費者が製造時に環境に悪影響を及ぼすと回答した素材は、回答率が高い順にポリエステル(51.4%)、アクリル(40.3%)、ポリアミド(34.8%)、レザー(26.1%)、ビスコース(レーヨンの一種、22.1%)で、回答が少なかったのはリネン(8.4%)やヘンプ(8.8%)だった。消費者が考える「サステイナブルなファッション」の定義は、環境の保護(41.6%)、使用されている素材(28.2%)、製造現場での労働環境(17.2%)、製造場所(13.0%)の順に多く、洋服の製造環境よりも、使用されている素材が重視された。食品と比較して、単価が高く、個人の趣味が反映されるアパレル製品の購入におけるサステイナビリティーに対する関心度はまだ低いが、今後はこの傾向がさらに広がることが予想される(図参照)。

図:フランスの消費者にとって、持続可能性の観点から
ファッションアイテム製造時に最重視されるべきこと
回答割合は、多い順に、「環境に悪影響を与える有害な化学物質を使わない」が64.1%、「肌に悪影響を与える有害な化学物質を使わない」が50.3%、「動物を虐待しない」が40.4%、「温室効果ガスの排出を抑える」37.3%、「輸送による空気汚染を抑える」が33.0%、「水の消費量を抑える」が32.1%だった。

出所:プルミエール・ヴィジョン/フランスモード研究所(IFM)

サステイナビリティーを牽引するケリング

消費動向に先駆けて、グッチやサンローランなどの大手メゾンを傘下に収めるケリング・グループは、2003年に持続可能性に対応する部署を設立し、2011年に公表した環境損益計算書(EP&L)で、サプライチェーンも含めた事業活動全体が環境へ与える影響を金銭的価値で示した。大気汚染度、温室効果ガス排出量、土地の利用(店舗、オフィス、輸送)、廃棄物排出量、水の消費量、水質汚染度、などのテーマを対象に集めたデータを、貨幣価値で換算するものだ。同計算書の導入により、環境負荷のテーマ別、国・地域別の可視化が可能となった。例えば、2013年のEP&Lによると、再生ポリエステルの環境負荷価値は0.17ユーロ/kgで、ポリエステル(1.40ユーロ/kg)と比較すると、89%も環境負荷を削減できる。

2019年8月には、マクロン大統領の要請により、ケリング・グループのフランソワ=アンリ・ピノー会長兼CEO(最高経営責任者)が、ファッション・テキスタイル産業の主要企業による環境負荷減の目標設定「ファッション協定」をG7で発表。アディダス、シャネル、バーバリー、H&M、インディテックス、エルメスなど32社が署名、その後10月までに24社が加わり、現在までに56社が同協定に署名をした。同協定は、地球温暖化の阻止、生物多様性の復元、海洋環境保全の3本柱からなる。

LVMHはブランドごとの戦略プランの制定を指示

外部の専門家と協力して、サステイナビリティーを推進するケリング・グループと異なり、LVMHグループは2012年にLIFE(LVMH Initiatives For the Environment)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますと称する環境イニシアチブを導入、経営戦略プランに組み込まれ、傘下ブランドごとの執行委員会により実施されている。2016年にはLIFE2020という、各メゾン共通の2020年に向けた4つの目標を設定した。

  • 製品目標: 製品創造のエコロジカル・フットプリントを緩和するため、LVMHグループは2020年までに全製品の環境パフォーマンスを向上し、生活環全体を網羅すること。
  • サプライチェーン目標: 特別な製品の製造に使用される原材料のトレーサビリティおよび適合性をさらに注意深く監視するのと同時に、天然資源を保護し、プロキュアメントチェーンの70%で最高水準の環境基準を適用すること。
  • CO2目標: 2020年までにCO2排出量を25%削減し、気候変動に対処するために導入されたイニシアティブを遂行すること。
  • 製造拠点目標: すべての製造拠点において水とエネルギーの消費量および廃棄物産出量を含む環境パフォーマンス指標で、少なくとも10%向上すること。各メゾンもエネルギー効率の15%向上すること。

LVMHグループは、ケリングに環境対策を喚起したデザイナーで現在は独立したステラ・マッカートニー氏を、2019年7月に持続可能性に関するベルナール・アルノーCEOらの特別顧問として起用するとともに、同ブランドとパートナーシップを締結した。

テキスタイル・バイヤーのニーズが変化

グループ全体で、ケリングもLVMHも環境に取り組んでいるが、現場で働くテキスタイル・バイヤーが求める生地にも変化が表れてきた。毛皮の代わりにフェイクファーを使用するブランドは以前から多くあったが、ここ1年ほどでほとんどのバイヤーから再生ポリエステル、有機コットンが要求されるようになった。テキスタイルに特化した認証機関のエコテックス(OEKO-TEX®)が発行する、エコテックス認証(注)まで求められることはないまでも、1年後までにエコ素材を全体の半分にする目標を掲げるブランドもある。以前から、化繊の使用を控える大手メゾンはあったが、日本が得意とする機能性と独特な風合いを併せ持つ化繊に対する評価は高く、バイヤーからは、機能と風合いを兼ね備えた再生ポリエステルのリクエストが増えている。もはやエコ素材は当然のこととして、さらに各メゾンのスタイルに合った生地、差別化を図れる生地、付加価値のある生地が求められている。


注:
繊維関連製品に、身体に対する有害物質が含まれていないことを証明するもの。日本ではニッセンケンが、エコテックスの認証機関として認められている。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
後藤 尚美(ごとう なおみ)
ジェトロ・パリ事務所に1995年から勤務。日本企業の対仏輸出促進担当としてファッション、テキスタイル、デザイン関係の展示会出展支援、バイヤー招聘サポートを行う。