世界の特許出願件数増加を中国が牽引
日本の出願件数は世界3位も伸び悩みが続く

2020年1月30日

2018年の世界の特許出願件数は過去最高に達した。しかし、出願件数増加の大半は中国の寄与によるものであり、日本は出願件数が伸び悩んでいる状態だ。本稿では、世界知的所有権機関(WIPO)や日本の特許庁が公開しているデータなどを基に、世界と日本における知的財産活動の動向を概観する。

中国の特許出願件数が世界全体の半分近くに

WIPOの「世界知的財産指標(World Intellectual Property Indicators)2019」によると、世界の特許の出願件数(各国・地域知財庁の特許受理数ベース、以下同じ)は9年連続で増加を続けており、2018年は前年比5.2%増の333万件に達した(図1参照)。各国・地域における出願件数をみると、中国が前年比11.6%増の154万件と最も多く、世界の出願件数の46.4%を占める。中国は2011以降、特許の出願件数が世界最大となっており、2位の米国や、日本、韓国、欧州を大きく引き離している。各国・地域における出願件数はそれぞれ、米国が60万件(前年比1.6%減)、日本が31万件(1.5%減)、韓国が21万件(2.5%増)、欧州が17万件(4.7%増)だった。

図1:世界の特許出願件数の推移
中国の特許出願件数。2008年29万件、2009年31万件、2010年39万件、2011年53万件、2012年65万件、2013年83万件、2014年93万件、2015年110万件、2016年134万件、2017年138万件、2018年154万件。 米国の特許出願件数。2008年46万件、2009年46万件、2010年49万件、2011年50万件、2012年54万件、2013年57万件、2014年58万件、2015年59万件、2016年61万件、2017年61万件、2018年60万件。 日本の特許出願件数。2008年39万件、2009年35万件、2010年34万件、2011年34万件、2012年34万件、2013年33万件、2014年33万件、2015年32万件、2016年32万件、2017年32万件、2018年31万件。 韓国の特許出願件数。2008年17万件、2009年16万件、2010年17万件、2011年18万件、2012年19万件、2013年20万件、2014年21万件、2015年21万件、2016年21万件、2017年20万件、2018年21万件。 欧州の特許出願件数。2008年15万件、2009年13万件、2010年15万件、2011年14万件、2012年15万件、2013年15万件、2014年15万件、2015年16万件、2016年16万件、2017年17万件、2018年17万件。 その他の特許出願件数。2008年48万件、2009年44万件、2010年45万件、2011年46万件、2012年48万件、2013年48万件、2014年48万件、2015年49万件、2016年49万件、2017年48万件、2018年48万件。

注:各国・地域知財庁の特許出願受理数ベース。欧州は欧州知財庁(EPO)の受理数ベース。
出所:WIPO統計データベースを基にジェトロ作成

中国で出願される特許の大半を占めているのが、中国の居住者による出願だ。2018年に中国の居住者から中国国家知識産権局(CNIPA)に出願された特許は139万件に上り、同年にCNIPAに出願された特許全体の90%を占めた。中国の居住者による特許出願が増加している背景には、国務院が2008年に公布した「国家知的財産戦略綱要」の下で、知的財産権に関する施策が実施されていることや、多国籍企業が中国での研究開発を進めていることなどがある。WIPOは「世界知的財産報告書(World Intellectual Property Report)2019」で、多国籍企業による中国やインド、一部の東欧諸国などに対する研究開発のアウトソーシングが進展してきたと指摘している。

中国の居住者による出願が、世界の特許出願件数増加にどの程度貢献したかを示す寄与率は、2013年以降6年連続で80%を超えており、中国が世界の特許出願件数の増加を牽引し続けていることが分かる。見方を変えれば、データを分析する上では中国の影響力が大きいため、日本を含む他国の動向は中国の動向を切り離した上で確認する必要があると言える。

日本は居住者による国内出願の減少基調が続く

2018年の日本の特許出願件数は31万件と、前年の32万件から1.5%減少した。中でも、日本の居住者による出願は、2000年にピークに達して以降、減少傾向にあり、2018年は25万件(前年比2.6%減)であった(図2参照)。特許庁は「特許行政年次報告書2019」において、日本国内での「出願件数上位30社の出願が減っている(2014年8万9,000件→2018年7万7,000件)ことが影響」したと分析している。また、非居住者による出願数は6万件で、2011年以降、横ばいの状態が続いている。

図2:日本での特許出願件数の推移
居住者による出願数。2000年38万件、2001年38万件、2002年37万件、2003年36万件、2004年37万件、2005年37万件、2006年35万件、2007年33万件、2008年33万件、2009年30万件、2010年29万件、2011年29万件、2012年29万件、2013年27万件、2014年27万件、2015年26万件、2016年26万件、2017年26万件、2018年25万件。 非居住者による出願数。2000年4万件、2001年6万件、2002年6万件、2003年5万件、2004年5万件、2005年6万件、2006年6万件、2007年6万件、2008年6万件、2009年5万件、2010年5万件、2011年6万件、2012年6万件、2013年6万件、2014年6万件、2015年6万件、2016年6万件、2017年6万件、2018年6万件。 居住者と非居住者による出願の合計。2000年42万件、2001年44万件、2002年42万件、2003年41万件、2004年42万件、2005年41万件、2006年41万件、2007年40万件、2008年39万件、2009年35万件、2010年34万件、2011年34万件、2012年34万件、2013年33万件、2014年33万件、2015年32万件、2016年32万件、2017年32万件、2018年31万件。

注:特許庁の特許出願受理数ベース。
出所:WIPO統計データベースを基にジェトロ作成

日本の居住者による特許出願について、国内だけでなく、国外での出願動向を見るとどうか。2018年の居住者による海外知財庁への特許出願件数は、前年比3.1%増の21万件と、データが取得可能な1980年以降で最多となった(図3参照)。各国の国内居住者による国外での出願が最も多かったのは米国(23万件)で、日本は米国に次ぐ水準であった。日本の居住者による特許出願については、海外出願の比率が増加傾向にあり、2018年には全体の44.9%と半数近くに達した。ただ、日本の居住者による海外出願件数自体は2012年以降、20万件前後で推移する状態が続いており、増加傾向に転じたと判断するには時期尚早である。特許庁は「特許行政年次報告書2019」で、「我が国企業による海外への特許出願が十分なものとなっているか点検しつつ、グローバルな知財戦略を強化していくことで、海外における事業活動をより一層充実していくことが必要」と指摘している。

日本は、居住者による国内出願が減少する一方、居住者による海外出願や、非居住者による日本での出願も横ばいとなっていることから、特許出願件数が全体として伸び悩んでいる状態であると考えられる。

図3:日本の居住者による国内外での特許出願件数と、海外出願比率の推移
国内(日本)での出願件数。2000年38万件、2001年38万件、2002年37万件、2003年36万件、2004年37万件、2005年37万件、2006年35万件、2007年33万件、2008年33万件、2009年30万件、2010年29万件、2011年29万件、2012年29万件、2013年27万件、2014年27万件、2015年26万件、2016年26万件、2017年26万件、2018年25万件。 海外出願の件数。2000年11万件、2001年13万件、2002年12万件、2003年13万件、2004年14万件、2005年16万件、2006年17万件、2007年17万件、2008年18万件、2009年17万件、2010年18万件、2011年19万件、2012年20万件、2013年20万件、2014年20万件、2015年20万件、2016年20万件、2017年20万件、2018年21万件。 海外出願比率。2000年21.7%、2001年24.7%、2002年24.5%、2003年26.1%、2004年27.8%、2005年30.6%、2006年32.9%、2007年34.4%、2008年35.3%、2009年36.3%、2010年38.1%、2011年39.5%、2012年41.5%、2013年42.6%、2014年42.9%、2015年43.5%、2016年43.0%、2017年43.5%、2018年44.9%。

注:特許庁の特許出願受理数ベース。
出所:WIPO統計データベースを基にジェトロ作成

世界各国と中国の動きには乖離も

WIPOは「世界知的財産指標」において、アジア地域の知財庁が「中国の成長により2018年に世界で出願された特許の3分の2を受理」するなど実績を上げたと評価した。中国は居住者による国内出願の増加を背景に、受理数トップを維持し、アジアにとどまらず世界の特許出願件数増加を牽引している。一方、日本や米国、韓国の特許出願件数は頭打ちの状態だ。各国の国内居住者および非居住者による、2013年以降の特許出願件数をみると、米国は約60万件、日本は約30万件、韓国は約20万件で推移しており、いずれも横ばいの傾向が続いている。そのため、2018年の世界の出願件数の伸び率(5.2%)は、中国を除くと0.2%にまで縮小してしまう。世界の特許出願件数増加は、中国の伸びを強く反映した結果であり、日本を含む他国の動向と必ずしも一致しないことに留意する必要があるだろう。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
柏瀬 あすか(かしわせ あすか)
2018年4月、ジェトロ入構。同月より現職。