こんなところに!? 意外なところで使われている日本食材(英国)
菜食・高級市場を中心に現地化する英国の日本食材

2020年5月25日

日本食の普及とともに英国に浸透してきた日本食材は、今や日本食の文脈を離れ、スーパーマーケットや飲食店で思いもよらないかたちで活用され始めている。本稿では、英国で見つけた日本食材が使われている「非日本食」の食品や飲食店を紹介する。なお、飲食店については現在、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、持ち帰りや宅配を除き、営業停止措置が取られており、政府は7月の措置緩和を目指している。

英国における日本食材の広まり

英国では、「wasabi」や「itsu」などのリーズナブルで気軽に入ることができる日本食チェーンが普及している。スーパーマーケットでもすしやカツカレーなどの持ち帰り食品が数多く販売されており、手軽に日本食を食べられる環境が整っている。例えば、英国の高級スーパーのウェイトローズでは、「Sushi daily」というフランチャイズが店内にすしカウンターを設けており、店内で作られた新鮮なすしを購入することができる。


ウェイトローズ、Sushi dailyのカウンター
(ジェトロ撮影)

Sushi dailyの商品(ジェトロ撮影)

こうした日本食の浸透とともに「日本食材」も英国に広まってきた。英国スーパーマーケット大手のセインズベリーでは、自社ブランドでみそやみりんを販売している。また、Miso Tastyという現地企業は、日本産みそを原料に、インスタントみそ汁やみそラーメンなどの自社商品を展開している。


Miso Tastyの白みそ(左)と赤みそ(右)(ジェトロ撮影)

その広がりに伴い、さまざまな商品や料理にも、日本の食材が利用されるようになりつつある。以下では、日本食以外の食品や日本食レストランを除く飲食店で活用されている事例を紹介する。

こんな小売食品にも日本食材が

食材1:みそ

「非日本食」に進出している日本食材の代表格として、みそが挙げられる。特にベジタリアン・ビーガン向けの食品で、肉類に代わるうまみ成分としてみそが利用されているケースが多い。

M&S:PLANT KITCHEN スパゲティ―・ボロネーゼ

商品のパッケージ(ジェトロ撮影)

価格:3.75ポンド(約488円、1ポンド=約130円)
「プラント・キッチン(PLANT KITCHEN)」は、高級スーパーMarks & Spencer(M&S)のビーガン向け自社ブランドだ。M&Sは自社ブランドの商品を中心に衣料品や雑貨、食品などを販売しており、特に食品の品質の高さには定評がある。この商品は白みそを加えることで、より深みがある濃厚な味わいを実現しているという。

M&S:マッシュルーム & ロースト・ガーリック

商品のパッケージ(ジェトロ撮影)

価格:2ポンド
また、本商品は、同じくM&Sのキノコを使ったビーガン向けソース(パスタやスープ用)で、赤みそが主な材料として使われている。

ウィキッド・キッチン:キング・マッシュルーム・メダイオン

商品のパッケージ(テスコ提供)

価格:4ポンド
「ウィキッド・キッチン」は、英国小売り最大手テスコのビーガン向けブランド。この商品は、肉の代替品としてエリンギを用いたステーキで、ここでも味付けにみそが使われている。

PROBIOS:アーティチョーク入りリゾット

商品のパッケージ(PROBIOS提供)

価格:3.73ポンド
イタリア企業PROBIOSの製品で、湯を加えるだけで作ることができるベジタリアン向けインスタントリゾット。みそを入れることで風味を豊かにし、栄養価も高くしているという。

I AM NUT OK:G.O.A.T. イタリアン・ハーブ

商品のパッケージ(ジェトロ撮影)

価格:7.99ポンド
英国発のビーガンチーズメーカー「I AM NUT OK」のチーズにも、味付けにみそが使われている。本商品は、英国デパートのセルフリッジ(Selfridges)やビーガン向けの専門店などで購入できる。

アイスランド:2 アルティメット5oz ステーキバーガー

商品のパッケージ(ジェトロ撮影)

価格:2.25ポンド
みそは、ベジタリアン・ビーガン向けの商品に限らず、旨味調味料として幅広く利用されている。これは冷凍食品を中心に取り扱う格安スーパーマーケット、アイスランドの冷凍バーガーで、塩分を控えつつコクを出すために、みそパウダーが使われている。アイスランドが手掛ける商品の中でも高級路線をうたう「Luxury」シリーズの商品として売り出されている。

ウェイトローズ:Easy to Cook Sesame & Miso Half Chicken

商品のパッケージ(ジェトロ撮影)

価格:5.99ポンド
高級スーパーのウェイトローズで販売されている鶏肉のローストにも、味付けにみそが使われている。

食材2:たまりじょうゆ

しょうゆの中でも小麦を使わない「たまりじょうゆ」は、グルテンフリーというその特徴が「非日本食」への進出に一役買っている。

Clive’s:ナッツ・ロースト

(ジェトロ撮影)

価格:5.25ポンド
英国オーガニック食品メーカーのClive’sが販売しているグルテンフリー、ビーガン向けのナッツを使ったケーキ。隠し味にたまりじょうゆが使われている。Clive’sの商品は、ウェイトローズやオンラインスーパーマーケット「オカド」などで購入できる。

Bonsan:シーザー・ドレッシング

(ジェトロ撮影)

価格:3.39ポンド
英国でビーガン向けのドレッシングやソース、調理済み食品などを作っているBonsanが販売しているグルテンフリーのシーザーサラダドレッシング。ここにもたまりじょうゆが使われている。オーガニック食品を取り扱うスーパーマーケットやセルフリッジなどで購入できる。

食材3:豆腐・おから

みそと同様に、豆腐もベジタリアン・ビーガン向けの食材として市民権を得ている。現地製造のさまざまな豆腐ブランドがスーパーマーケットや自然食品店で販売されており、その多くがスモーク味やホットチリ味など、調理せずにそのまま食べられるよう、現地消費者向けに味付けている。さらに最近では、豆腐を原料として、より加工度の高い商品が登場している。例えば、英国の豆腐メーカーClearspotは、豆腐とおからを使ったグルテンフリーの冷凍バーガーを販売しており、オーガニックスーパーマーケット「Planet Organic」やビーガン向けオンラインショップなどで購入できる。

Clive’s:Lentil & Kale タルト

(ジェトロ撮影)

価格:3.49ポンド
上述のClive’sのビーガン向けタルトには、原料におからを使っている。原材料の英語表記もそのまま「okara(soya)」だ。

食材4:カレー(原料にみりんとみそ)

また、日本の食材として現地の人気を確立しているものにカレーがある。カレーを日本食材と呼ぶことには違和感があるかもしれないが、少なくとも英国では、日本式の「カツカレー」はれっきとした日本食と認識され、インドカレー、タイカレーに続く第3のカレーとして人気を博している。そのカツカレーも、英国ではベジタリアン・ビーガンの消費者を取り込む狙いから、独自の進化を遂げている。例えば、高級スーパーのウェイトローズでは、肉の代わりにサツマイモを使った「スイートポテト・カツカレー」(3.75ポンド)が販売されている。大手スーパー・アスダの「Plantivore Kicking カツカレー」(3ポンド)というビーガン向けカツカレーは、原料にみりんとみそを使っている変わり種だ。

Waitroseのスイートポテト・カツカレー(ジェトロ撮影)

飲食店でも、思いがけない日本食材利用例

飲食店でも、日本食とは縁遠い思いがけないところで日本食材を目にすることがある。英国に56店舗を構えるパブチェーンのALL BAR ONEでは、ビーガン向けの商品としてみそソースを使ったサラダやリゾットを提供している。


ALL BAR ONE(ジェトロ撮影)

英国の健康志向のファストフードチェーンLEON(英国全体で61店舗)では、カレーやミートボールなどの商品に使われる米を、たまりじょうゆで味付けして提供している。


LEONの店舗の様子(ジェトロ撮影)

たまり醤油が使われている商品(ジェトロ撮影)

非日本食の高級レストランでも、日本食材を積極的に取り入れているところがある。

Four Seasons Hotel London内にあるミシュラン2つ星のフレンチレストラン「La Dame de Pic London」のメニューには、しそのクリームを使ったヨークシャールバーブ(ショクヨウダイオウと呼ばれる野菜で、独特の香りと酸味があるため、ジャムやケーキに加工されることが多い)のデザートや、山椒を使ったパスタ、昆布の佃煮を使った鹿肉料理などが並ぶ。

モダンヨーロッパ料理を提供している「Social eating house」では、フォアグラの前菜に塩昆布、かつおだしを使っているほか、日本のナスやダイコン、カブも料理に取り入れている。


La Dame de Pic LondonのYorkshire Rhubarb(Four Seasons Hotel London提供)

また、ミシュラン1つ星を獲得しているイギリス料理レストランの「The Five Fields」では、みそを使ったチョコレートやさんしょうとホワイトチョコレートを使ったデザートなど、日本食材を使ったメニューを数多く提供している。


海苔としそを使ったフォアグラの前菜
(The Five Fields提供)

ゆずを使った白桃のデザート
(The Five Fields提供)

しめじを使った前菜
(The Five Fields提供)

酒を使ったデザート
(The Five Fields提供)

さらに、South place hotelに構えるイギリス料理レストラン「ANGLER」でも、日本のカブやキノコに加え、しそやワサビ、だしなどが料理に使われている。

そのほか、ロンドンに4店舗を持つベジタリアン・ビーガンレストラン「mildreds」は、バーガーに七味マヨネーズを使ったり、レモンみそのソースやふりかけを使った料理を提供したりしている。


しそを使ったサバの前菜
(South place hotel提供)

日本のキノコとだしを使ったカレイのメイン料理
(South place hotel提供)

サンドイッチ専門店の「Sons + Daughters」でも、みそを使ったサンドイッチや「みそミルク」というみそを使ったドリンクを提供している。チキンサンドイッチとタマゴサラダサンドイッチに、みそマヨネーズのかたちでみそが使われている。チキンサンドイッチには、英国で栽培されたワサビクレソンという変わったクレソンも使われている。


チキンサンドイッチ
(Sons + Daughters提供)

タマゴサラダサンドイッチ
(Sons + Daughters提供)

みそミルク
(Sons + Daughters提供)

今後、非日本食での利用がさらに進む可能性も

英国では、日本食材がさまざまな料理の材料として取り入れられつつある。特に、健康志向やベジタリアン・ビーガン向けや、高級レストランや高級スーパーなどのハイグレード商品に使われる傾向がみられる。その背景には、英国人の間に「日本食材=ヘルシーで付加価値のあるもの」という認識が根付きつつあることがある。もっとも、スーパーマーケットや気軽に入れるチェーンの飲食店で「非日本食」に用いられる日本食材は、現在のところ、みそやたまりじょうゆなど一部に限られてはいる。しかし英国では、菜食主義者や健康志向の勢いが年々増している。そうしてみると、今後、日本食材が日本食を離れて利用される機会が一層増えていくかもしれない。

執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所(執筆時)
堀江 桃佳(ほりえ ももか)
2020年1月~3月、ジェトロ・ロンドン事務所にインターン研修生として在籍。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
市橋 寛久(いちはし ひろひさ)
2008年農林水産省入省、2017年7月からジェトロ・ロンドン事務所。