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有力ローカル企業も日系企業の協業・調達先に
中・東欧のサプライチェーン、新型コロナで変わるか(後編)

2020年10月22日

中・東欧進出日系企業の連携・協業先は、進出外資系企業だけではない。中・東欧のローカル企業も連携・協業先の候補になり得る。

中・東欧の有力ローカル企業との協業も選択肢の1つ

中・東欧のローカル企業と日系企業との協業には、2020年6月にポーランドのテロプランに出資すると発表した住友商事外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの例がある。同社は、バス・鉄道チケットのオンライン販売、民間バス事業者向けシステム提供、およびオンデマンド型バスサービス(乗り降りの場所や時間など、利用者の要求に柔軟に対応するバスサービス)を手掛ける。ポーランドにとどまらず広く中・東欧で、オンデマンド型バスサービスの横展開を目指すとした。

また、日立ソリューションズ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは2020年7月、スロバキアのレスコが提供するアプリ「レスコ・モバイル」の販売を開始すると発表した。同アプリは、世界で20万人以上が利用するオフライン環境のモバイル作業を支援する。

ポーランド進出日系企業に対するアンケート調査(後述、図参照)では、新型コロナウイルスの感染拡大(以下、新型コロナ)によるビジネス見直す方策として、「ポーランド企業とのマッチング」と回答する企業がみられた。中・東欧ローカル企業との協業ニーズはほかにもありそうだ。欧州復興開発銀行(EBRD)は、中・東欧の有力ローカル企業の一部である「隠れたチャンピオン企業」を紹介した報告書を2019年12月に発表した。EBRDの報告書「中欧、東欧および南東欧諸国の隠れたチャンピオン企業調査(更新版)」(注1)(以下、報告書)によると、中・東欧など22カ国で現在および将来の「隠れたチャンピオン企業」は145社。業種別でみると、最も多いのが製造業で95社、次にICT(情報通信技術)の29社が続く。

2011年には同報告書のベースとなる研究(注2)が発表されていた。その研究での「隠れたチャンピオン企業」数は52社だった。単純に企業数だけでは比較できないものの、隠れたチャンピオン企業の数がこの8年ほどで3倍近くになったことは、中・東欧のローカル企業が力を付け成長してきたといえるのではないだろうか(表参照)。例えば、クロアチアのDok-Ing(地雷除去車や消防車の製造が主要事業)は、2010年のジュネーブ・モーターショーへの出展を皮切りに、小型電気自動車(EV)「Dok-Ing Loox」や電動スクーターの開発・製造も手掛ける。電動スクーターは、西欧などに輸出しているという。

表:中・東欧の「隠れたチャンピオン企業」(一部抜粋) (○は掲載あり)
企業 2011年
発表研究
掲載企業
事業概要
ポーランド Carlex Design 自動車、飛行機、船舶等のデザイン・製造
ポーランド Cloud Technologies インターネット広告向けのビッグデータ分析サービス
スロバキア MicroStep プラズマ、レーザー等用のCNC切断機製造
スロバキア Innovatrics 生体認証技術システム
ハンガリー CAPSYS 金融サービス向けソフトウエア
ハンガリー CycloLab シクロデキストリン(食品、医薬、化学で主に使われる)の研究開発
スロベニア ATech electronics 電子制御機器等製造
スロベニア Instrumentation Technologies IoT、スマートシティ、メドテック(医用技術)などのエンジニアリングサービス
クロアチア Dok-Ing 遠隔操作可能な地雷除去車、消防車等製造
セルビア Buck 医療用等照明のデザイン・製造
セルビア Execom ソフトウエアエンジニアリング
ボスニア・ヘルツェゴビナ Plastex 高分子材料による、産業用等包装材等製造
北マケドニア Ading 建築用化学材料の製造・販売
アルバニア Mare Adriatik アンチョビやいわしの水産加工
ルーマニア ELECTRA GROUP ドアホン、インターホンシステムのデザイン・開発・製造
ルーマニア Grapefruit ウェブサイトやアプリなどのデジタル・コンサルティングサービス
ブルガリア DIANEL LPG・ガソリンスタンドの電子システム

注:ルーマニアとブルガリアは「Potential hidden champions」、その他は「Hidden champions」。前述のリスト掲載企業は、一部抜粋したもの。
出所:EBRD「中欧、東欧および南東欧諸国の隠れたチャンピオン企業調査(更新版)」(2019年12月発表)

同報告書は、これら「隠れたチャンピオン企業」に共通する特徴として、「グローバルにビジネス展開し、地元に貢献(Act globally, impact locally)」や「輸出志向」などを指摘する。また、ほとんどの掲載企業が、首都から離れた都市を拠点にしているという。これらの「隠れたチャンピオン企業」は中・東欧の有力ローカル企業のほんの一部にすぎない。進出日系企業にとってもローカル企業にとっても、新規の相手との商談はいきなりオンラインではなくリアルの場がふさわしい、と通常は考えるだろう。ただ、アクセスしづらい地方都市に点在する中・東欧の有力ローカル企業との接触は、新型コロナで従来にも増してオンライン商談に馴染みやすい状況となってきた。有望な取引候補が見つかるようなら、一度オンラインでアプローチを試みてもいいかもしれない。

進出日系企業の現地調達拡大は加速化するか

技術力を高めるなど、成長してきた中・東欧の有力ローカル企業は、進出日系企業の調達先の候補にもなり得る。世界各地の日本商工会やジェトロ海外事務所が実施主体となり、進出日系企業に対して、新型コロナの影響に関するアンケート調査を実施した。中・東欧の回答企業数は少ないため、他国・地域とそのまま比較はできないかもしれないが、進出日系企業の調達先見直しの回答比率をみると、ポーランド、ハンガリー、チェコではやや高めに出ている(図参照)。進出日系企業からは「原材料調達先(国)の複数ソース化」(ハンガリー)との声が上がっている。中・東欧のローカル企業からの調達比率がそれほど高くない進出日系企業も、新型コロナ禍を機に、今後、同ローカル企業からの調達を拡大あるいは加速化させる可能性がある。

図:進出日系企業の調達先見直し企業の回答比率
ポーランド(n=12) 33.3 、チェコ(n=33) 30.3 、ハンガリー(n=10) 30.0 、中国・華東(n=354)28.2 、メキシコ(n=81) 25.9 、 ブラジル(n=68) 25.0 、インドネシア(n=265) 21.9、(参考)日本(n=81) 21.0 、UAE(n=58) 17.2 、シンガポール(n=151)15.2 、ロシア(n=53) 9.4

注1:調査実施時期は中国・華東(6/28-7/2)、シンガポール(6/9-6/12)、インドネシア(6/8-6/16)、メキシコ(6/25-6/29)、ブラジル(6/12-6/22)、チェコ(5/28-6/5)、ハンガリー(6/8-6/19)、ポーランド(6/5-6/24)、ロシア(5/20-5/29)、UAE(6/2-6/4)、日本(5/29)。
注2:設問内容や選択肢数はアンケートにより異なるが、そのうち「調達先の見直し」を選択した企業の回答比率(複数回答)。他の選択肢は「販売戦略の変更」「生産地の見直し」「雇用・雇用条件の見直し」「人材の現地化」「財務・ファイナンスの見直し」など。進出先以外のビジネスを含めて回答している場合があるため、調達先は必ずしも調査実施国とは限らない。
注3:いずれも対象業種は製造業、非製造業を含む。
出所:各地日本商工会やジェトロ海外事務所が実施主体の新型コロナの影響に関するアンケート調査、ASEANオンラインセミナー(5/29、ジェトロ本部実施)アンケート結果から、ジェトロ作成

コロナ禍に加え、今後のEUと英国との関係性がまだ揺れており、欧州内では不確実な状況が続く。ただ、英国がEUから離脱したことで、従来のEU加盟国間でのパワーバランスが崩れ、EUの「重心」は以前よりも確実に東側に移ってきた。中・東欧進出日系企業だけでなく、西欧進出日系企業にとっても、コロナ禍を契機によりビジネスを見直す企業にとっては、販売先ならびに調達先の両面において、中・東欧をターゲット候補地の1つとして検討するにふさわしい時期なのかもしれない。


注1:
同報告書では、「隠れたチャンピオン企業」(Hidden champions)(105社)と、その候補企業の「将来の隠れたチャンピオン企業」(Potential hidden champions)(40社)の2段階に分けて整理。2011年発表の研究では、それぞれ45社、7社。対象国は、アルバニア、ベラルーシ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルガリア(※)、クロアチア、エストニア、ハンガリー、カザフスタン、コソボ(※)、ラトビア、リトアニア(※)、モルドバ(※)、モンテネグロ(※)、北マケドニア、ポーランド、ルーマニア、ロシア、セルビア、スロバキア、スロベニア、トルコ、ウクライナの22カ国。※は、2011年発表分では調査未実施だった国。
注2:
D. Purg and M. Rant (eds.) (2011). “Hidden Champions in CEE and Dynamically Changing Environments”

中・東欧のサプライチェーン、新型コロナで変わるか

  1. 新規調達先を探すドイツ系企業、日系企業の商機にも
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執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく)
2002年、ジェトロ入講。欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)。

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