日本の対中投資は引き続き増加、自動車が牽引
2019年上半期の対中直接投資動向

2020年1月21日

2019年上半期の対中直接投資額(実行ベース、以下同)は前年同期比3.5%増の707億4,000万ドルとなった。製造業は3.8%減の199億1,000万ドルと減少した一方、非製造業は6.7%増の498億7,000万ドルと投資額全体の約7割を占めた。国・地域別では全体の7割を占める香港が引き続き首位となったほか、韓国からの投資が57.6%増と急増し、2018年の4位から2位に順位を上げた。日本は8.8%増の19億8,000万ドルで5位だった。米中貿易摩擦等の不確実要素は多いものの、2020年1月の外商投資法施行によって、外資企業にとってビジネス環境のいっそうの改善が期待される。

実行額は通年で過去最高を更新の可能性も

中国商務部の発表によると、2019年上半期の対内直接投資(銀行・証券・保険分野を含まず)は、投資の先行指標とされる契約件数が前年同期比32.0%減の2万131件で、2018年までの5年連続の増加から、減少に転じた(表1参照)。一方、実行ベースの投資額は3.5%増の707億4,000万ドルと微増だった(人民元建てでは7.2%増の4,783億3,000万元)。近年の対中投資実行額の推移を見ると、2016年はドルベースで2012年以来4年ぶりに減少に転じたが、2017年と2018年はいずれもプラスの伸びとなり、2018年には過去最高額を記録していた(表1参照)。

表1:中国の対内直接投資の推移(単位:件、%、億ドル、億元)(△はマイナス値)
契約ベース 実行ベース
件数 前年
(同期・同月)比
金額 前年
(同期・同月)比
2012年 24,925 △ 10.1 1,117 △ 3.7
2013年 22,773 △ 8.6 1,176 5.3
2014年 23,778 4.4 1,196 1.7
2015年 26,575 11.8 1,263
(7,813.5)
5.6
(6.4)
2016年 27,900 5.0 1,260
(8,132.2)
△0.2
(4.1)
2017年 35,662 27.8 1,310
(8,775.6)
4.0
(7.9)
2018年 60,533 69.7 1350
(8,856.1)
3.0
(0.9)
2019年1月 4,646 △ 10.6 124 2.8
2019年2月 1,863 △ 49.0 93 3.3
2019年3月 3,107 △ 43.4 141 4.9
2019年1~3月 9,616 △ 32.9 358 3.7
2019年4月 3,423 △ 26.6 93 2.8
2019年5月 3,421 △ 31.9 95 4.6
2019年6月 3,671 △ 34.0 161 3.0
2019年1~6月 20,131 △ 32.0 707.4
(4,783.3)
3.5
(7.2)

注1:かっこ内の数値は元建ての金額および前年(同期・同月)比。
注2:銀行・証券・保険分野を含まない。
出所:商務部「中国投資指南」ウェブサイト、CEICを基にジェトロ作成

製造業は3.8%減の199億1,000万ドルと減少した一方、非製造業は6.7%増の498億7,000万ドルとなった。投資額全体に占める構成比は製造業が28.1%、非製造業は70.5%と、非製造業が投資額の7割強を占めた(注1)。

国・地域別:米国と台湾が減少、韓国は急増

国・地域別では、香港が全投資額のうち70.8%を占めて1位となった(表2参照)。投資額は500億9,000万ドルで、前年同期比1.4%増と微増であった。2位は前年4位だった韓国で、57.6%増の36億4,000万ドルだった。3位はシンガポールで、6.1%増の33億2,000万ドルとなった。4位は台湾で、15.5%減の24億ドルだった。5位は日本で8.8%増の19億8,000万ドル、6位は米国で16.4%減の16億3,000万ドルとなった。

表2:中国の国・地域別対内直接投資の推移(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)

2016年
順位 国・地域 金額 構成比 前年比
1 香港 87,180 69.2 △ 5.9
2 シンガポール 6,180 4.9 △ 11.3
3 韓国 4,750 3.8 17.6
4 米国 3,830 3.0 47.9
5 台湾 3,620 2.9 △ 17.9
6 マカオ 3,480 2.8 291.0
7 日本 3,110 2.5 △ 3.1
8 ドイツ 2,710 2.2 73.7
9 英国 2,210 1.8 104.6
10 ルクセンブルク 1,390 1.1 n.a.
全世界合計 126,000 100.0 △ 0.2
2017年
順位 国・地域 金額 構成比 前年比
1 香港 98,920 73.3 13.5
2 シンガポール 4,830 3.6 △ 21.8
3 台湾 4,730 3.5 30.7
4 韓国 3,690 2.7 △ 22.3
5 日本 3,270 2.4 5.1
6 米国 3,130 2.3 △ 18.3
7 オランダ 2,170 1.6 n.a.
8 ドイツ 1,540 1.1 △ 43.2
9 英国 1,500 1.1 △ 32.1
10 デンマーク 820 0.6 n.a.
全世界合計 131,040 97.1 4.0
2018年
順位 国・地域 金額 構成比 前年比
1 香港 96,010 71.1 △ 2.9
2 シンガポール 5,340 4.0 10.6
3 台湾 5,030 3.7 6.3
4 韓国 4,670 3.5 26.6
5 英国 3,890 2.9 159.3
6 日本 3,810 2.8 16.5
7 ドイツ 3,680 2.7 139.0
8 米国 3,450 2.6 10.2
9 オランダ 1,290 1.0 △ 40.6
10 マカオ 1,290 1.0 n.a.
全世界合計 134,970 100.0 3.0
2019年1~6月
順位 国・地域 金額 構成比 前年
同期比
1 香港 50,090 70.8 1.4
2 韓国 3,640 5.1 57.6
3 シンガポール 3,320 4.7 6.1
4 台湾 2,400 3.4 △ 15.5
5 日本 1,980 2.8 8.8
6 米国 1,630 2.3 △ 16.4
7 英国 1,360 1.9 △ 13.9
8 ドイツ 1,130 1.6 71.2
9 マカオ 940 1.3 9.3
10 オランダ 720 1.0 △ 1.4
全世界合計 70,740 100.0 3.5

注1:全世界合計は実行額の使用ベース、各国・地域は実行額の投入ベース。バージン諸島、ケイマン諸島、サモア、モーリシャス、バルバドスなどの自由貿易港を経由して当該国・地域から投資された金額を含む。国・地域別の対中投資(実行ベース)の発表は2009年の途中から、各国・地域のデータにタックスヘイブン経由の対中投資額が含まれるようになった。
注2:2014年以降、データは1,000万ドル以上の単位で公表されているため、構成比と前年比は実際の数値と異なる可能性がある。
出所:商務部「中国投資指南」ウェブサイト、CEICを基にジェトロ作成

日本側統計:自動車など輸送機械が牽引し増加

日本側の国際収支統計(業種別・地域別直接投資)で2019年上半期の投資フローをみると、前年同期比28.5%増の7,085億円であった(注2)。そのうち、製造業は48.9%増の5,431億円で全体の投資額に対する構成比は76.7%、非製造業は11.4%減の1,654億円で構成比は23.3%だった。

国際収支統計ベースの日本の対中投資額に占める製造業の構成比の推移をみると、2009年には71.1%であったが、2010~2016年の期間は60%前後に低下していた。その後2017~2018年にかけては再び製造業への投資の構成比が上昇した。2019年上半期においても引き続き製造業の構成比が上昇し、投資額全体の7割近くを占めた。全世界の対中投資においては非製造業が7割を占める中で、日本の対中投資は製造業が主となる傾向が続いている(統計のとり方が異なる点には注意が必要)。

製造業では、構成比が最大の自動車など輸送機械器具が88.9%増の2,284億円となった一方、一般機械器具が27.7%減の771億円、化学・医薬が17.5%減の555億円となった。一方、非製造業では、構成比が最大の卸・小売りが25.0%減の988億円、金融・保険が52.9%減の290億円だった。

日系企業の投資案件を見ると、製造業では、自動車メーカーによる中国企業との提携のほか、自動車の電動化に伴って搭載が増えると見込まれる部品の生産など、引き続き自動車関連分野の投資が目立った。自動車の車載アプリケーションソフトなどについて、外資企業と共同で研究開発(R&D)を行うなど、R&D関連の案件もあった。ほかに、工作機械分野では、中国がアンチダンピング(AD)調査を実施している立形マシニングセンタの生産拠点を設立する動きが見られた(注3)。また、非製造業では、ショッピングモールなど小売り関連で出店地域を拡大する動きが継続した。

日本以外の外国企業の投資では、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコによる遼寧省での石油化学コンビナート建設(中国国有企業2社との合弁)や、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)による安徽省での電気自動車(EV)生産〔安徽江淮汽車(JAC)との合弁〕などの案件があった。投資額が急増した韓国については、SKイノベーションによる車載電池の生産(北京汽車との合弁)やLG化学による新エネルギー車用電池の生産(吉利汽車との合弁)など、中国の新エネルギー車市場の拡大を見込んだ動きが目立った。

外商投資法施行によるビジネス環境の改善に期待

中国政府は、対外開放政策を引き続き推進する方針を打ち出している。特に注目されているのが、2020年1月1日から施行された外商投資法とその関連規定だ。同法は、これまで外資企業の投資に適用されてきた外資企業法、中外合資経営企業法、中外合作経営企業法の「外資3法」に代わる基本法として位置付けられている。

同法では、外資企業の投資に関連する法令を制定する際の外資系企業の意見や建議の聴取、政府調達への外資企業の公平な参与の保障、自由な海外送金など、日本企業が「中国経済と日本企業白書(以下、白書)」などにおいて中国政府に要望していた内容が含まれており、同法の施行により、日系企業を含む外資系企業にとってのビジネス環境のいっそうの改善が期待される。

さらに、同法で示された方針を有効に実施するための、さまざまな取り組みも進んでいる。同法の規定をより具体化した外商投資法実施条例が、外商投資法と同じく2020年1月1日から施行された。また、政府は同法施行に合わせて既存の法規の整理も進め、外商投資法と一致しないものは全て廃止か修正するとしており、2019年12月28日に公布された商務部の決定によって、外商投資法と適合しない一部の規定が廃止されるなど、方針に沿った取り組みが進んでいる。

外資の市場参入規制についても、緩和の動きが続いている。2019年6月に外商投資参入ネガティブリストの改訂が行われ、外資の投資制限・禁止分野がさらに削減された(2019年7月2日付ビジネス短信参照)。特に、新エネルギー車生産など自動車、証券・銀行など金融業について、外資出資比率規制の緩和あるいは撤廃が行われている。

前述の「白書」において、ネガティブリストに掲載されていない分野でも、他法令により参入できない事例があると指摘されているが、習近平国家主席はスピーチなどで「ネガティブリスト以外の外資参入制限は全面的に撤廃する」と述べており、上記の他法令などによる参入障壁についても改善が期待される。例えば、2019年11月には北京市が、同市で設立された外資単独資本旅行社による中国国民のアウトバウンド旅行業務(台湾を除く)の試行経営の許可など、サービス業に関する開放拡大措置を発表した(2019年12月2日付ビジネス短信参照)。同措置には、ネガティブリストには記載がないものの、各種規定によって参入が制限されていた分野における規制緩和が含まれている。

日系企業の中国事業:「拡大」は減少、「現状維持」が増加

中国に進出している日系企業に対して2019年8~9月にジェトロが実施した「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(以下、日系企業調査)では、今後1~2年の事業展開の方向性について、「拡大」と回答した企業の割合は43.2%、「現状維持」と回答した企業は50.6%となった。中国における事業拡大の意向は2015年度に38.1%と、1998年の調査開始以来初めて4割を下回ったが、2016年度に40%台に戻し、2017年度は大幅に回復して48.3%となり、2018年度も48.7%と拡大意欲の回復傾向が続いていたが、今回は前年比で5.5ポイント低下した(「現状維持」の回答は5.8ポイント上昇した)。「拡大」すると回答した企業に対し、具体的に「拡大する機能」を複数回答で尋ねたところ、「販売機能」(61.8%)、「生産(高付加価値品)」(38.2%)が他の国・地域に比べ多かった。また、「研究開発」(21.2%)との回答は調査対象国・地域の中で1位、「地域統括機能(10.9%)」との回答は同3位であった。

同調査において、米中両国の関税引き上げなどの通商環境の変化がもたらす影響について聞いたところ、在中国の日系企業では「マイナスの影響がある」と回答した企業の割合が 35.4%で、「影響はない」が26.2%、「分からない」が25.7%だった。マイナスの影響があると回答した企業のうち、66.5%が現地(中国)市場での売り上げに影響があるとした。直接的な影響(輸出)よりも、中国経済の減速や中国国内のサプライチェーンなどを通じた影響への懸念が大きいことが見て取れる。

日系以外の外資系企業の中国市場に関する見方について、各国商会が2019年に実施したアンケート調査結果などからみると、調査項目が異なるため直接的な比較は難しいものの、全体としては中国からの撤退や生産移管を進めるとの回答は限定的であり、中国市場とその将来性を重視する企業が多い。米国企業は悪影響を受けるとの回答が比較的多いものの、その対応としては「中国での事業運営をより中国内で、中国向けに再編成していく」との回答が最も多く、中国市場からの撤退を検討する企業は限定的となっている。EU企業は、対応に変更はないが動向を観察しているとの姿勢を示す回答が多数であった一方、半数以上の企業が中国での投資拡大を計画しているとした。

日系企業調査によれば、在中国日系企業の4割以上は依然、事業を拡大させていく意向を示しており、中国政府による外資規制緩和やビジネス環境改善の動きも追い風となることから、自動車など今後も成長が見込まれる分野においては引き続き、一定程度の投資が見込まれる。一方、今後の米中貿易摩擦などの動向次第では、先行きの不透明感が払拭(ふっしょく)されず、日系企業の事業拡大および投資意欲に影響を与えることが懸念される。


注1:
これまで、業種別の統計は商務部の数値を用いたCEICデータベースから取得していたが、2019年以降、詳細な内訳が同データベースに反映されなくなっている(2020年1月6日現在)。
注2:
日本と中国の投資統計には乖離があるが、その大きな理由として統計範囲や作成方法の違いなどが考えられる。日本側の統計では、直接投資は(1)「株式資本」(投資企業の株式、支店の出資持ち分、その他資本拠出金)、(2)「再投資収益」(投資企業の未配分収益のうち、投資家の出資比率に応じた取り分と投資家に未送金の支店収益)、(3)「その他資本」(前述2項目に含まれない投資家と投資企業または支店との資本取引。例えば、親子間の資金貸借や株式以外の証券の売買など)からなるが、中国側の統計では日本側統計でいう株式資本の部分の比重が高くなっているのが理由とみられる。
注3:
詳細は2018年10月23日付ビジネス短信を参照。なお、2019年10月11日に商務部から公布された公告により、同AD調査の期限は2020年4月16日まで延長されている。
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所
小宮 昇平(こみや しょうへい)
2013年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課に配属。2016年3月より1年間の海外実務研修(中国・成都事務所)を経て、2017年3月から2018年8月まで中国北アジア課に所属。2018年8月より北京事務所にて調査業務等に従事。