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英国ファッション業界の持続可能性への取り組みの現状

2020年5月8日

英国では近年、食品・日用品を問わずあらゆる分野において、環境負荷や倫理面に配慮した持続可能な方法で商品やサービスを提供するサステナビリティー(持続可能性)を求める風潮が強い。ファッション業界は、その兆候が特に強く見られる分野の1つだ。本レポートでは、ファッション業界におけるサステナビリティーをキーワードとした環境への配慮について、英国政府の立場や業界団体による提言や英国ブランドの取り組み内容などを紹介する。

英国政府は、2018年に今後の環境への取り組み内容を示した25年プランを作成している。その一環として作成された廃棄物や資源に関する取り組みについての戦略(Our waste, our resources: a strategy for England)の中で、織物(テキスタイル)は、2025年までに処理方法を検討すべき優先度の高い5つの廃棄物(注1)の1つとされている。

また、英国政府の政策が環境問題に対してどの程度の効果をもたらしているかを監査する環境監査選考委員は、2019年2月にファッション分野に焦点を当てた報告書「ファッションの環境適応:衣類の消費と持続可能性(Fixing fashion: clothing consumption and sustainability)」を発表。政府はこれに対して同年5月に回答(Government Response: Fixing fashion: clothing consumption and sustainability)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(246.72KB)を出している。報告書は、ファッション業界で持続可能なビジネスモデルを確立することを支援するための政府への提言とそれに対する政府の回答が報告されたものだ。具体的には、ファッション業界の最低賃金履行確保の徹底や、原材料の調達・製造において現代奴隷法に違反していないことの証明の義務化といった倫理面での対応がある。さらに、環境破壊防止を期し、廃棄物・水・化学物質・二酸化炭素の排出量を製造過程全体で削減することに取り組むために原材料の調達を含むサプライチェーンのトレーサビリティー(追跡可能性)を小売業者に課すことといった、環境配慮での対応なども含まれる。

この報告書への政府による回答の中で複数回言及されているのが、「持続可能な衣類のための行動計画(Sustainable Clothing Action Plan)(以下SCAP)」だ。SCAPは、資源の持続可能な方法での利用を推奨する英国の組織「廃棄物と資源の実行計画(The Waste and Resources Action Programme、以下WRAP)」が、2013年にファッション小売企業と調印して立ち上げたプログラムだ。SCAP 2020 では、調印企業が(1)2012年比で2020年末までに温室効果ガス排出量、水の利用量、英国全土における埋め立て処理される廃棄物をそれぞれ15%削減する、(2)製品のプロダクトライフサイクル中のごみは排出量3.5%削減する、ことを目標としている。調印企業には、大手デパートチェーンであるマークス・アンド・スペンサーやファッションブランドのネクスト、プライマークなどが名を連ねる。このSCAPへの継続的な支援により、解決を図りたいとするコメントが回答書の中では多く見られ、このイニシアチブに対する政府の期待は大きい。

SCAPは、ファッション業界全体の資源利用を減らすべく、ウェブサイト上で情報提供している。提供する情報は、(1)資源を有効活用するためのビジネスモデル(生産過程での素材の効率的な利用など)、(2)洋服の着用可能期間を延ばすためのデザインについてのガイダンス(使用する素材やデザインの工夫、手入れ方法の明記など)、(3)繊維や生地の選択(繊維ごとによる製造過程における水、二酸化炭素、廃棄物の量の違いや、水の使用量の少ない染色方法の紹介など)、(4)洋服に関する消費者動向調査および消費者へのファッションに対する持続可能なアプローチの奨励、(5)再利用・リサイクル、の大きく5つの分野に分けられる。また、前述の環境監査選考委員会による報告書の中でも、繊維ごとの環境負荷の違いを企業や消費者が認識することは重要で、SCAPの(3)の情報はそれに大きく寄与していると言及している。

また、2019年12月に公開された報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(551.35KB)では、2018年時点で二酸化炭素の排出量は13.4%、水利用量は18.1%の削減を達成しており、その要因として、使用する繊維の変化が挙げられている。伝統的な原料に置き換わっている、新しい原料として代表的なものには、BCIコットン(注2)、オーガニックコットン、リサイクルされたポリエステルなどがある。従来のコットンとポリエステルは、ライフサイクルの中で環境負荷が特に大きく、かつファッションにおける利用量も多いと言われている。特に、BCIコットンの利用率は急激に伸びており、2018年は調印企業の使用するコットン総量のうち40%強がBCIコットンに置き換わった、と報告されている。

また、英国のファッション業界団体である英国ファッション協議会(British Fashion Council)も「ファッションと環境」PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(4.28MB)という白書の作成・公表や、「ポジティブ・ファッション」と題して、「環境」および労働環境やフェアトレードなど「人」、伝統技術など「クラフトマンシップ」、地域経済貢献としての「コミュニティー」に配慮したブランドを盛り上げる取り組みを行っている。白書では、ファッション業界の各工程(デザイン、製造、物流、販売、着用、再利用、廃棄)の中で、利用する資源を削減する重要性を説き、各プロセスにおける取り組み方法や先進的な事例を紹介している。さらに、単独では環境配慮への取り組みを進めづらい中小企業を後押しする目的で、企業の戦略プランの中に環境配慮についても加えられるようチェックリストを公表している。「ポジティブ・ファッション」では、SWITCH to GREENと称して、英国を代表する環境配慮を打ち出すブランドのヴィヴィアン・ウエストウッドやロンドン市とともに、英国内のオフィスや小売店で利用するエネルギーを再生可能エネルギー由来のものとするよう働きかけをする活動を展開している。このほか、海洋ごみになったプラスチックを再利用して製造されたハンガーの利用を推進する活動(SWITCH to BLUEと称する)、ロンドン・ファッション・ウィークでのポジティブファッションブランドの知名度向上に焦点を当てたショールームの設置を行っている。しかし、これらの取り組みの一方で、白書の中では、現在は環境配慮の取り組みを行うことに対する企業へのインセンティブはないため、問題意識や長期的視野を持った企業だけがかじを切っているとする研究機関のコメントも掲載している。

このように政府や業界団体が、環境保護をはじめとする持続可能性への配慮の必要性を説くのと並行して、消費者からの関心も高まっている。それを受けて、オーガニックコットンや環境負荷が小さいとされる素材を使用した商品を販売するブランドはハイブランドにとどまらず、価格競争の激しいファストファッションブランドでも年々増化傾向にある。例えば、英国発のファストファッションであるエイソスのオンラインショップサイトでは、価格帯などと同じく、「Responsible(環境保護などの面で責任を果たしている)」というカテゴリでフィルターをかけることができる。その中で、「Recycled(リサイクル)」か「Sustainable materials(持続可能な素材)」を選択できる仕組みとなっていて、消費者の環境配慮への関心の高さとそれに応える形でのブランド側の対応を見ることができる。

一方で、自主的に環境への負担を真摯(しんし)に気にして取り組んでいる企業のシェアは小さく、ファンション産業全体で排出、廃棄物の削減を行うためには、より多くの企業がこうした取り組みを行う必要がある。課題としては、前述の通り、取り組みに対するブランドへのインセンティブの欠如がある。企業として利益を上げることが優先される中で、インセンティブなどがない中では企業の取り組みが本格化することは難しく、消費者へ表面的なアピール材料としての利用のみにとどまってしまっているという。

しかし、これらの取り組みが、ファッション業界での環境配慮に対する問題意識を喚起する取り組みの第一歩となっているとは言えるだろう。環境監査委員会の報告書の中の、ブランドへのトレーサビリティーの義務化に関する勧告が良い例だ。現時点ではそれに対する政府からの直接の回答はないが、今後、政府によるブランドへのインセンティブが付与されることも想定される。今後の政府や企業の取り組みの行方を注視する必要があるだろう。


注1:
テキスタイルのほか、家具などの粗大ごみ、建設資材、車両用タイヤ、漁具が挙げられている。
注2:
BCIとは、Better Cotton Initiativeの略。環境への負荷を減らした方法で綿花を生産することにより、農家の生活や福祉を改善することを目的とされたプログラムの下、環境および地域の人々が持続可能な方法で生産方法を学び、認証を受けた農家が生産する綿花。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
牧野 彩(まきの あや)
2011年、ジェトロ入構。2018年からジェトロ・ロンドン事務所勤務。

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