米電子製造受託大手ジェイビル、新型コロナウイルスがもたらすリスクをデジタルツールで管理(シンガポール)

2020年4月16日

ジェイビル(Jabil)は、消費財や電子機器、自動車などの大手メーカーから、回路設計、製造、物流までを包括的に請け負う米国の大手電子製造受託企業だ。日本を含む世界40カ国に100カ所の拠点を置くジェイビルは、シンガポールには東南アジア地域統括拠点を置く。シンガポールで東南アジア域内のサプライチェーン管理を担当するウン・キーウィー副社長に、同社の取り組み、そして新型コロナウイルス感染拡大に伴う同社の製造活動への影響について聞いた(注)。

ジェイビル・シンガポールのウン・キーウィー副社長(サプライチェーン管理担当)(ジェイビル提供)
質問:
ジェイビルの企業概要について、また他社との差別化のポイントは。
答え:
ジェイビルは製造に関する課題・要望を包括的に解決・支援する会社だ。日本を含む世界100カ所に拠点があり、世界全体で2万人を雇用している。本社は米国フロリダ州セントピーターズバーグにある。われわれは顧客に、新製品開発(NPI)から製造、製品ライフサイクル管理に至るまで全てを提供している。また、ヘルスケアから消費財、医療、エレクトロニクス、自動車、航空、電子記憶装置、サーバー、ネットワーク通信機器など数多くの分野に対応するほか、消費者を引き付け、購買意欲に影響を与える製品包装の技術者もそろえ、幅広い分野に対応できる。幅広い分野に対応できるからこそ、顧客が最新の技術を投入した新しい製品を開発したいときに、分野を超えて支援することができる。
質問:
製造、サプライチェーン管理拠点としてのシンガポールをどう位置付けているのか。
答え:
シンガポールが各国と結んだ貿易協定を活用できることから、サプライチェーンの域内の拠点をシンガポールに置くのは自然な判断だ。シンガポールには2002年に進出した。製造拠点としては決してコストが安い国ではなく、何を製造するかは取捨選択する必要がある。多品種少量生産を行うことで効率的な生産活動ができるほか、3Dプリンティング・センターを設置したことで非常にユニークな製造もできる。ジェイビルはマレーシアのペナン、ベトナムのホーチミン、インドネシアのバンドンに拠点があ。これら拠点の活動を支えるハブは当然、シンガポールだ。
質問:
ジェイビルは資材調達などのサプライチェーン管理やリスクの可視化など、どのように顧客に提案しているのか。
答え:
世界にはサプライチェーンを管理する上でさまざまなディスラプション(混乱)がある。それはあらかじめ予想できるものではなく、できることはサプライチェーンをできるだけ柔軟にすることだけだ。われわれのデジタルツールは、顧客が特定の製品について、必要な部品をどこで調達しているかを可視化するものだ。地震や津波など大災害が起こりうる場所で生産されている調達先がどこかを可視化し、代替調達先を検討することが可能になる。
例えばある顧客の場合、その部品調達先を見直した結果、268品目のうち160品目は単一の調達先しかなかったものが、そのうち74品目について代替調達先を見つけることができた。残りについては代替調達先を見つけたが、仕様変更が必要なことがわかった。これは、可視化の1つの例だ。このような可視化ができないと、サプライチェーンを柔軟にするための話し合いもできない。
質問:
ジェイビル社の製造活動に、今回の新型コロナウイルスの感染拡大が与えた影響は。
答え:
中国の状況は安定化しつつある。しかし、世界の他の国々では混乱がさらに広まっている。われわれは、感染の拡大につれ変化していくサプライチェーンに応じて戦略を常に変えている。東南アジアでは各国政府がロックダウンや移動規制に踏み切った結果、われわれの一部の製造活動や倉庫、配送も止まった。また、労働力も減り、幹部も自宅勤務で対応せざるを得ない状態となった結果、全体の労働生産性に影響を及ぼし、資材の不足ももたらしている。
質問:
新型コロナウイルスが与えている製造活動への打撃に対し、ジェイビルとしてどう対応しているのか。
答え:
(ジェイビルが開発した)インテリジェント・デジタル・サプライチェーン(IDSC)は、新型コロナウイルスのような新しい問題による変化がもたらすサプライヤーへのリスクを監視するツールとなる。このツールにより、自社工場や顧客への配送と品質の水準を守るため、調達の状況やリードタイム(発注から納品までに要する期間)長時間化の実態を把握するとともに、材料確保などに余裕を持たせ、予備在庫を通じて体系的なリスク回避が期待できるようになる。
質問:
新型コロナウイルスというリスクを回避していく上で、今後取り組むことは。
答え:
中国では改善の兆しが見え始めたことから、これからも引き続き警戒を強めながらも、向こう数週間、数カ月は、よりバランスの取れたサプライチェーンを構築していくことに取り組みたい。ジェイビルは世界中で週7日24時間、製造活動をサポートしている。顧客の要求に応えるためにも、われわれのサプライヤーとは常時、オープンに対話している。常に事態が流動的というダイナミックな状況下では、最新の状況の頻繁なアップデートが必要だ。オープンな対話を保つことで、最新の出来事を把握し、ギャップを埋め、未来に起こりうるリスクを予測できるようになる。

注:
本稿は、新型コロナウイルス感染拡大の状況を受け、2019年11月19日に実施したインタビューに2020年4月7日に書面で追加情報収集した結果を加筆したもの。
執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所 調査担当
本田 智津絵(ほんだ ちづえ)
総合流通グループ、通信社を経て、2007年にジェトロ・シンガポール事務所入構。共同著書に『マレーシア語辞典』(2007年)、『シンガポールを知るための65章』(2013年)、『シンガポール謎解き散歩』(2014年)がある。