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不安定な情勢も「ミドルリスク」の定常化と捉える視点が必要(UAE、イラン、イラク、サウジアラビア、トルコ、中東)
2020年政治経済展望セミナー(中東編)報告

2020年3月2日

ジェトロは2月14日、在英日本商工会議所の後援で「2020年政治経済展望セミナー(中東編)」をロンドンで開催した。ドバイ、テヘラン、リヤド、イスタンブールの事務所長・所員がそれぞれの政治・経済動向について説明した。以下、概要を紹介する。

「ミドルリスク」が定常化するも、人口増で市場は拡大

中東地域全体としては、米国の影響力減退、各国のパワーバランスの変化、湾岸地域を中心とした為政者の世代交代と改革、が焦点となっている。米国によるイラン革命防衛隊カセム・ソレイマニ司令官の殺害や、各地で発生するデモなど、現在の不安定な状態が早急に改善する見通しは立ちにくいが、本格的な戦争状態への移行については関係各国が意識的に避けているとの見方がある。このような状態が長期化する恐れはあるものの、一方で中東地域におけるビジネスチャンスを逃さないためには、この「ミドルリスク」を定常状態と受け止め、不安定な情勢にあっても決定的な事態には至らない状態として捉えることが必要との説明があった。

資源国(石油・ガス)では、資源価格に依存しない他産業での自国民の雇用・所得確保が安定に向けた急務である。また、経済・社会の広範囲な改革を目指して、日本政府や日本企業など改革への協力者を切望しており、新分野でのビジネス展開の好機となっている。中東・北アフリカ(MENA)地域の人口は過去20年で55.8%増加し、2021~2022年には5億人を突破、2024年にはEUを上回る見込みである。平均年齢も28.9歳とASEANより若く、就労層人口のピークは2030年頃と予測され、その前後、長期にわたり力強い消費が見込める。

経済面では、原油価格下落に伴い2015年以降、ほとんどの国で財政赤字に転落した。2017年以降は原油価格の回復や財政支出の抑制により赤字幅は縮小傾向にあるが、産油国の財政は油価に大きく左右されている状態である。投資環境においては法制度の未整備・不透明性、手続きの遅さが課題となっており、一方で、市場規模・成長性、対日感情の良さが日系企業にとっての魅力となっている。

イラン・イラクでは情勢が不安定化

各国の状況を情勢面から見ると、イランでは、米国との対立や反政府デモなど不安定な情勢が続いており、イラク、シリアなど、イラン国外の動向にも注視する必要がある。

イラクでは、ソレイマニ司令官の殺害を受け、イラン側がイラク国内の米軍駐在基地に対してミサイル攻撃を行うなど、イラク国内の情勢は緊迫しており、2020年2月現在、イラク全土を対象に退避勧告が継続されている(注)。

アラブ首長国連邦(UAE)は、テロ・紛争の影響はなく、治安についても日本と同等以上の水準を保っており、直近の米イラン間の緊張の高まりによる大きな影響も、これまでのところ出ていない。

サウジアラビアでは、イエメン、イラン、カタールなどとの二国間関係の悪化が続いている一方で、ロシア、中国との関係を強化している。

トルコでは、2017年から実権型大統領制が導入され、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領に権力が集中しているが、国内では大統領派と世俗主義勢力との分極化が見られる。

ドバイ万博やサウジアラビアG20など重要イベントが開催予定

ビジネス・経済面などから各国を見ると、アラブ首長国連邦(UAE)は、中東最大の港湾ジュベル・アリ港、ドバイ国際空港など、ハブならびにショーケース機能を担っており、MENA地域、湾岸協力会議(GCC)、イスラム市場、アフリカ市場への入り口となっている。また、UAE全体で約37のフリーゾーン、ドバイだけで約27のフリーゾーンが立地しており、多様なフリーゾーンが日系企業にとって最大の魅力となっている。政府は、物理的なハブに加え、知識ハブをも目指し、世界のイノベーションの出合い・実験場となるべく、外国企業出資規制やビザ制度など、技術のある企業や人材の誘致を強化している。UAEの1人当たりGDPは日本より高く、ドバイでの外国人観光客による年間消費額も世界一で、消費市場にも注目が集まる。その中でもeコマースが拡大しており、日本企業では紀伊国屋書店が電子商取引(EC)サイトを開設した。また、日本食の人気が高く、今後日本食レストランも大きく発展すると期待される。2020年10月には、会場面積、参加国数ともに過去最大規模となるドバイ国際博覧会の開催が予定されており、国内外から約2,500万人が来場する見込みである。また、ドバイでビジネスを行うに当たって、適切なパートナーを選定することが成功の鍵だと説明があった。

イランでは、GDP成長率は2016年以降、右肩下がりであり、2018年および2019年はマイナス成長が予想されている。2018年5月の米国による対イラン制裁再開を契機に、イランへの輸入全体は減少傾向にあり、日本からイランへの輸出も激減した。国別貿易の動向としては、輸出入いずれも中国が第1位の取引相手国となっている。イランのGDPにおける石油・ガス分野の割合は2割強で、国内に資源・製造業・市場を有する多様な産業構造となっている。一方で、輸出は石油部門に依存しているため、石油・ガスに次ぐ輸出産業の育成が急務となっており、資源・立地を生かした輸出生産拠点としての地位の確立、歴史遺産を生かした観光ビジネス振興などを目指している。

イラクでは、14歳以下の国民が約40%を占め、今後も人口増加が期待されている。世界屈指の原油埋蔵量を誇り、豊富な地下資源に恵まれている一方で、精製能力が低く高付加価値化が急務となっている。またイラク戦争後、不安定な情勢下でインフラ整備が不十分であり、膨大なインフラ需要が期待されている。

絶対君主制であるサウジアラビアでは、経済面では油価下落の影響を受け、GDP成長率は低成長になる見込みだが、次期国王とされるムハンマド・ビン・サルマン皇太子が若者を中心に人気が高く、王家サウード家は安泰であると見られる。2020年11月には、アラブ初となるG20サミットが開催される予定で、同国にとってはG20の成功が最大の課題となっている。また、大規模な社会・経済改革を目指す「ビジョン2030」が進行中であり、社会改革の面では映画館・各種エンターテインメントの解禁や、女性の運転解禁、観光ビザの解禁、ドレスコードの緩和が行われた。これにより、サービス、観光、エンタメ分野における国内需要の増加、女性の社会進出による女性向け消費財への需要の増加など、新たなビジネスチャンスが到来している。

トルコは、欧州・中東・北アフリカなどの主要市場の中間に位置し、飛行機直行便で4時間以内に13億人、24兆ドルの市場にアクセスできる地理的な優位性を有する。毎年100万人のペースで人口が増えており、経済規模は世界19位、欧州7位と巨大な国内市場もポテンシャルの1つである。ただし、幅広い産業を有しているものの、高付加価値化の遅れ、輸入依存の高さから恒常的な経常赤字を抱えている。国内のスタートアップ投資額は中東ではイスラエルとドバイに次ぐ規模であり、工科大学ではエンジニアを輩出するなど、優秀な人材も増えている。また、日本・トルコ経済連携協定の交渉が進行中であり、日系企業にとって期待が高まっている。


講演する安藤雅巳ドバイ事務所長(ジェトロ撮影)

注:
2月21日より、一部地域の危険レベルは引き下げとなっている。

変更履歴
注を追記しました。(2020年3月4日)
注:2月21日より、一部地域の危険レベルは引き下げとなっている。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
近藤 亜美 (こんどう あみ)
2020年、ジェトロ・ロンドン事務所インターンシップ。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
木下 裕之(きのした ひろゆき)
2011年東北電力入社。2017年7月よりジェトロに出向し、海外調査部欧州ロシアCIS課勤務を経て2018年3月から現職。

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