輸送機器製造業が生み出す付加価値が全事業所の1割に(メキシコ)
「2019年経済センサス」を発表

2020年8月17日

メキシコ国立統計地理情報院(INEGI)が7月16日に発表した「2019年経済センサス」(Censo Eonomico 2019、注1)の確定値によると、自動車・同部品など輸送機器製造の粗付加価値額は2018年に1兆20億6,200万ペソ(約5兆7,520億円、1ペソ=約5.74円:2018年期中平均レート)。過去5年間で実質約2.2倍、10年間で実質3.0倍に拡大した。同産業の雇用は過去10年間で2.4倍、総固定資本形成(投資)は3.4倍となった。

経済センサスの最新データから、メキシコの産業構造の現状を分析した。

事業所数と雇用は製造業と非金融サービスを中心に増加

INEGIは、このセンサスを2019年2~7月に実施し、2020年7月16日に確定値を発表した。2019年時点で、メキシコでの事業所総数は637万3,169カ所。前回調査(2014年)から12.7%増、10年前の調査時(2009年)から23.9%増となった。雇用総数は3,604万人で、前回調査時から21.6%増。2009年比で30.0%増になる。

産業分野別の事業所数は、商業が約279万カ所(構成比43.8%)と最も多かった。前回調査から10.2%増えたが、構成比は1.0ポイント縮小している。商業の雇用数は838万人で前回調査比16.2%増。しかし、構成比は同様に1.1ポイント縮小した。雇用数では、非金融サービスが1,084万人(構成比30.1%)と最も多かった。2014年比で30.7%増えている(事業所数も同15.3%増の218万カ所)。製造業は事業所数で全体の11.5%、雇用数で同18.9%を占める。しかし、前回調査からそれぞれ21.4%、27.1%増えている。製造業のウェイトは事業所数でも雇用者数でも0.8ポイント拡大した。

図1:産業別事業所数,雇用数の推移
商業の事業所数は2004年に212万カ所、2009年に242万4,000か所、2014年に253万3,000カ所、2019年に279万2,000カ所。非金融サービスの事業所数は2004年に158万9,000カ所、2009年に205万6,000か所、2014年に188万9,000カ所、2019年に217万9,000カ所。製造業の事業所数は2004年に48万1,000カ所、2009年に58万1,000か所、2014年に60万6,000カ所、2019年に73万5,000カ所。その他の事業所数は2004年に10万カ所、2009年に8万2,000か所、2014年に11万5,000カ所、2019年に13万1,000カ所。公的サービスの事業所数は2014年に37万カ所、2019年に37万5,000カ所。なお、2009年までは公的サービスが非金融サービスに含まれていた。宗教サービスの事業所数は2014年以降にセンサスの対象となり、2014年に14万カ所、2019年に37万5,000カ所。 商業の雇用者数は2004年に594万人、2009年に720万人、2014年に721万人、2019年に838万人。非金融サービスの雇用者数は2004年に1,055万人、2009年に1,306万人、2014年に830万人、2019年に1,084万人。製造業の雇用者数は2004年に456万人、2009年に500万人、2014年に535万人、2019年に681万人。その他の雇用者数は2004年に215万人、2009年に247万人、2014年に240万人、2019年に298万人。公的サービスの雇用者数は2014年に568万人、2019年に615万人。なお、2009年までは公的サービスが非金融サービスに含まれていた。宗教サービスの雇用者数は2014年以降にセンサスの対象となり、2014年に70万人、2019年に88万人。

注:2009年までは公的サービスが非金融サービスに含まれていた。
出所:国立統計地理情報院(INEGI)「経済センサス」(2004年、2009年、2014年、2019年)からジェトロ作成

全事業所の94.0%が、従業員10人以下の零細事業者だ。11~50人の小規模企業は4.9%、51~250人の中規模企業が0.9%を占める。従業員が250人を超える大企業は、全体の0.2%にすぎない。1事業所当たりの平均従業員数は5.9人だが、零細事業者は特に商業に多い。商業の1事業所当たりの雇用数は3.1人だ。製造業では、雇用規模が大きくなる。しかし、それでも平均9.5人で、町工場的な工場が多いのが現状だ。

雇用総数3,603万8,272人の37.0%が、零細企業で雇用される。また、17.7%が小規模企業、16.1%が中規模企業、29.1%が大企業で雇用されている。もっとも、零細企業、小規模企業、中規模企業の雇用比率は、前回調査時(それぞれ38.3%、18.3%、16.5%)から縮小した。対して、大企業の比率が26.8から2.3ポイント拡大した。雇用に占める大企業のウェイトが高まったことが分かる。

付加価値と投資で重要な製造業

2018年の産業分野別粗付加価値(注2)は製造業が32.0%を占め、最大だった。これに、小売業(12.6%)、鉱業(9.5%)が続く。粗付加価値の構成比を前回、前々回調査時と比較すると、鉱業が10年間で19.9%から9.5%へ大きく縮小した。これは、過去10年間の原油・天然ガスの生産減退が影響していると思われる。一方、製造業は、2013年比で2.98ポイント、2009年比で4.13ポイント拡大している。これは近年の自動車産業の成長などを反映した結果だ。自動車産業や航空機産業が含まれる輸送機器製造業の粗付加価値は、全体の10.0%に達した。

表1:粗付加価値額・総固定資本形成の産業分野別構成比(単位:%,ポイント)(△はマイナス値)
産業分野 粗付加価値(A) 総固定資本形成(B) 増減
18年-13年
増減
18年-08年
2008年 2013年 2018年 2008年 2013年 2018年 (A) (B) (A) (B)
漁業・養殖業 0.2 0.2 0.2 0.2 0.1 0.1 △ 0.01 △ 0.02 0.01 △ 0.10
鉱業 19.9 16.8 9.5 21.2 36.3 15.1 △ 7.34 △ 21.20 △ 10.43 △ 6.12
電気・ガス・水道 4.9 4.3 2.2 7.7 4.5 8.0 △ 2.14 3.53 △ 2.77 0.31
建設業 2.3 1.8 1.9 1.8 0.8 0.3 0.06 △ 0.51 △ 0.43 △ 1.51
製造業 27.9 29.0 32.0 21.1 26.6 26.5 2.98 △ 0.13 4.13 5.46
階層レベル2の項目輸送機器製造業 4.4 6.3 10.0 3.6 6.3 7.1 3.74 0.85 5.62 3.53
卸売業 5.4 6.4 8.8 3.2 2.6 13.6 2.36 11.00 3.38 10.41
小売業 6.4 9.1 12.6 7.2 4.4 3.8 3.48 △ 0.62 6.17 △ 3.45
運輸・郵便・倉庫 3.5 3.2 3.6 15.0 5.7 3.2 0.35 △ 2.48 0.09 △ 11.78
通信・マスメディア 3.2 2.7 2.0 10.2 4.0 18.7 △ 0.77 14.73 △ 1.28 8.47
金融・保険 11.1 9.5 8.6 3.0 3.1 3.0 △ 0.87 △ 0.16 △ 2.48 △ 0.04
不動産・賃貸 0.8 0.7 1.1 1.0 0.6 0.8 0.45 0.28 0.37 △ 0.12
専門・科学・技術サービス 1.8 1.3 1.8 0.7 0.6 0.7 0.51 0.02 0.05 △ 0.00
関連会社統括・経営 3.6 4.3 4.0 0.9 1.2 0.9 △ 0.27 △ 0.29 0.45 △ 0.06
経営・廃棄物関連サービス 3.2 4.0 4.7 1.0 4.7 0.8 0.66 △ 3.96 1.48 △ 0.27
教育(私立) 1.3 1.4 1.4 1.1 1.0 0.8 △ 0.07 △ 0.22 0.03 △ 0.25
健康・医療・福祉 0.7 0.8 0.8 0.9 1.0 0.6 0.01 △ 0.33 0.15 △ 0.24
娯楽・スポーツ 0.4 0.4 0.5 0.5 0.6 0.3 0.07 △ 0.31 0.09 △ 0.22
ホテル・レストラン 2.1 2.3 3.0 2.7 1.4 2.0 0.75 0.62 0.94 △ 0.70
その他サービス 1.4 1.6 1.4 0.6 0.8 0.8 △ 0.20 0.05 0.04 0.21
合計(注) 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 0.00 0.00 0.00 0.00

注:「経済センサス」の調査対象には農牧業関連の事業所が含まれていない。
出所:INEGI「経済センサス」(2009年、2014年、2019年)からジェトロ作成

設備投資や建設投資などの総固定資本形成の構成比でも、製造業が26.5%を占めて最大だった。これに、通信・マスメディア(18.7%)、鉱業(15.1%)、卸売業(13.6%)が続く。鉱業のウェイトが大きく減少している一方、製造業は5年前とほぼ同じだ。2018年は、通信・マスメディアと卸売業の投資が例年に比べて極端に大きかった。輸送機器製造業の投資は全事業所の7.1%と、10年前と比較すると3.53ポイントも拡大した。

輸送機器製造業の重要性増す

ここで、製造業の粗付加価値、総固定資本形成、雇用について、主要製品が占める内訳をみる。いずれの項目でも、輸送機器が最大の構成比となった。まず粗付加価値では、輸送機器が31.4%だった。その後に、加工食品・飲料(20.1%)、化学(7.8%)、卑金属(7.0%)と続く。総固定資本形成は、輸送機器が27.0%。加工食品・飲料(14.0%)、プラスチック・ゴム製品(8.4%)、化学(6.0%)と続く。雇用の項目で輸送機器が占める比率は19.9%だった。雇用で輸送機器が最大となったのは初めてで、加工食品・飲料を抜いた。

図2:製造業の主要製品分野別構成比(付加価値、固定資本形成、雇用)
輸送機器の製造業付加価値に占める構成比は2008年に15.0%、2013年に21.7%、2018年に31.4%。加工食品・飲料が占める構成比は2008年に16.1%、2013年に25.7%、2018年に20.1%。化学が占める構成比は2008年に17.4%、2013年に13.3%、2018年に7.8%。卑金属が占める構成比は2008年に7.5%、2013年に7.2%、2018年に7.0%。金属製品が占める構成比は2008年に4.5%、2013年に4.0%、2018年に4.4%。プラスチック・ゴム製品が占める構成比は2008年に3.9%、2013年に3.1%、2018年に4.2%。その他が占める構成比は2008年に35.6%、2013年に25.0%、2018年に25.2%。 輸送機器の製造業総固定資本形成に占める構成比は2008年に17.2%、2013年に23.6%、2018年に27.0%。加工食品・飲料が占める構成比は2008年に19.6%、2013年に18.5%、2018年に14.0%。化学が占める構成比は2008年に13.5%、2013年に15.4%、2018年に6.0%。卑金属が占める構成比は2008年に5.3%、2013年に10.4%、2018年に5.6%。金属製品が占める構成比は2008年に5.6%、2013年に4.9%、2018年に4.0%。プラスチック・ゴム製品が占める構成比は2008年に5.7%、2013年に5.3%、2018年に8.4%。その他が占める構成比は2008年に33.3%、2013年に22.0%、2018年に35.0%。 輸送機器の製造業雇用総数に占める構成比は2008年に11.6%、2013年に15.3%、2018年に19.9%。加工食品・飲料が占める構成比は2008年に18.4%、2013年に20.6%、2018年に19.7%。化学が占める構成比は2008年に5.0%、2013年に5.1%、2018年に4.1%。卑金属が占める構成比は2008年に1.7%、2013年に2.0%、2018年に2.1%。金属製品が占める構成比は2008年に7.9%、2013年に7.7%、2018年に7.0%。プラスチック・ゴム製品が占める構成比は2008年に5.0%、2013年に5.9%、2018年に5.9%。その他が占める構成比は2008年に50.3%、2013年に43.4%、2018年に41.2%。

出所:INEGI「経済センサス」(2009年、2014年、2019年)からジェトロ作成

輸送機器の構成比は10年前と比較して、粗付加価値で16.33ポイント、総固定資本形成で9.76ポイント、雇用で8.31ポイント、それぞれ拡大した。経済活動に占める重要性が年々高まってきたことが読み取れる。

自動車産業の多くが大企業

事業所の特徴は、産業や製品分野別に大きく異なる。雇用規模は、全産業の全国平均で、1事業所当たり5.7人(2018年に事業を実施した事業所のみ、行政機関と宗教団体を除く)だった。しかし、輸送機器製造業では同397.7人となり、大半が大企業だ。その他、情報通信技術(ICT)や電子機器製造など、外資系企業が多い業種の雇用規模は総じて大きくなる。

従業員の平均年収は、国営企業や財閥系企業の影響が強い鉱業、関連会社統括・経営部門、通信・マスメディア、化学、卑金属、電気・ガス・水道のほか、外資系企業の影響力が強い輸送機器製造や金融・保険などで高くなっている。従業員1人当たりの固定資産は、資本集約的な産業で高い。従業員1人当たりの付加価値額は、資本集約的な産業のほか、金融・保険や関連会社統括・経営部門で高くなっている。

事業所が支払う人件費の内訳をみると、全事業所平均で一般従業員向けの給与(年末ボーナスや休暇手当てなどの現金給付を含む)が56.7%、管理職向けの給与(同上)が23.0%だ。しかしこの割合も、業種によってかなり異なる。金融・保険や鉱業などでは管理職向けの給与支払い総額が一般職向けより大きくなっている。社会保険の雇用主負担については、大半の産業で人件費の10%前後だ。一方で、福利厚生費は業種によって大きな差がある。一般的に、国営企業や大企業が多い業種、労働組合の活動が活発な業種で、福利厚生費の比率が高くなっている。

表2:事業所の産業分野別特徴(2018年)
産業分野 事業所
数(注)(カ所)
雇用規模(人/カ所) 従業員
平均年収(ペソ/年)
従業員当たり固定資産 従業員当たり付加価値 固定資産当たり付加価値
漁業・養殖業 24,372 9.6 55,011 113,862 85,181 74.8
鉱業 3,123 61.1 569,122 6,660,970 4,952,590 74.4
電気・ガス・水道 2,961 73.0 207,984 9,155,609 1,004,826 11.0
建設業 19,501 34.7 73,739 170,598 273,812 160.5
製造業 579,828 11.2 160,976 456,866 491,882 107.7
階層レベル2の項目輸送機器製造 3,250 397.7 176,576 499,371 775,367 155.3
階層レベル3の項目自動車・トラック製造 55 1,943.8 401,532 1,836,752 4,218,504 229.7
階層レベル3の項目自動車部品製造 1,948 548.1 152,823 377,557 459,529 121.7
階層レベル3の項目航空機・同部品 127 324.0 199,970 520,192 452,733 87.0
階層レベル2の項目加工食品 204,623 5.3 126,238 331,304 416,277 125.6
階層レベル2の項目飲料・たばこ 25,235 7.5 171,470 738,633 984,313 133.3
階層レベル2の項目化学 5,417 49.5 291,565 1,069,286 929,666 86.9
階層レベル2の項目プラスチック・ゴム製品 6,130 62.3 165,375 502,507 348,765 69.4
階層レベル2の項目基礎金属 1,378 99.6 251,382 2,700,189 1,623,063 60.1
階層レベル2の項目金属製品 71,390 6.4 139,748 287,587 308,492 107.3
階層レベル2の項目ICT・電子機器 875 431.6 170,919 151,585 265,515 175.2
卸売業 155,545 10.2 121,483 803,305 554,348 69.0
小売業 2,092,770 2.8 73,369 163,322 212,799 130.3
運輸・郵便・倉庫 22,245 44.8 149,866 594,667 357,655 60.1
通信・マスメディア 8,828 41.2 336,088 2,345,687 539,488 23.0
金融・保険 26,593 24.9 391,406 268,463 1,301,677 484.9
不動産・賃貸 68,010 4.8 86,529 504,089 343,755 68.2
専門・科学・技術サービス 100,098 8.5 106,073 121,338 215,408 177.5
関連会社統括・経営 366 379.7 518,314 625,602 2,888,649 461.7
経営・廃棄物関連サービス 76,059 31.7 87,449 41,954 193,408 461.0
教育(私立) 53,524 15.3 119,868 157,064 167,080 106.4
健康・医療・福祉 196,089 3.9 96,009 147,986 109,510 74.0
娯楽・スポーツ 51,352 5.2 121,155 356,233 192,912 54.2
ホテル・レストラン 637,124 4.2 60,249 154,084 112,714 73.2
その他サービス 681,769 2.3 71,246 102,798 89,021 86.6
全国平均 4,800,157 5.7 128,258 426,938 367,959 86.2

注:民間企業および国営企業で2018年に事業を実施した所のみであり、行政機関と宗教団体を除く。
出所:INEGI「経済センサス」(2019年)からジェトロ作成

表3:産業別人件費の内訳(2018年)(単位:%)
産業分野 一般職員
給与
管理職
給与
社会保険
雇用主負担
福利厚生 PTU 人件費
合計
漁業・養殖業 83.0 6.3 7.8 1.1 1.8 100.0
鉱業 32.1 50.6 2.0 12.6 2.7 100.0
電気・ガス・水道 48.7 31.3 10.3 9.2 0.5 100.0
建設業 63.6 20.3 12.6 1.2 2.4 100.0
製造業 54.9 20.4 11.2 5.2 8.3 100.0
階層レベル2の項目輸送機器製造 56.2 19.1 11.9 6.8 6.0 100.0
階層レベル3の項目完成車製造 49.3 20.5 13.0 7.2 10.1 100.0
階層レベル3の項目自動車部品製造 57.9 18.6 11.7 6.7 5.1 100.0
卸売業 56.7 22.6 8.2 3.1 9.4 100.0
小売業 70.1 14.6 10.1 1.8 3.4 100.0
運輸・郵便・倉庫 63.8 21.2 10.2 2.6 2.1 100.0
通信・マスメディア 52.7 23.4 12.9 9.5 1.5 100.0
金融・保険 33.6 46.7 9.4 4.9 5.3 100.0
不動産・賃貸 60.1 24.9 9.9 1.9 3.4 100.0
専門・科学・技術サービス 56.8 30.3 8.6 1.9 2.4 100.0
関連会社統括・経営 30.9 14.6 10.6 43.7 0.3 100.0
経営・廃棄物関連サービス 66.7 20.6 7.6 2.1 2.9 100.0
教育(私立) 56.3 27.1 11.9 3.8 0.8 100.0
健康・医療・福祉 66.3 19.5 10.7 2.3 1.3 100.0
娯楽・スポーツ 69.5 18.3 8.5 2.7 1.0 100.0
ホテル・レストラン 78.6 10.6 8.2 1.5 1.2 100.0
その他サービス 76.0 13.7 7.6 1.0 1.7 100.0
全産業平均(注1) 56.7 23.0 9.9 5.4 5.0 100.0

注1:民間企業・国営企業で2018年に事業を実施した事業所のみであり、行政機関・宗教団体を除く。
注2:憲法123条IX項および労働法117条に基づき雇用主が支払う利益分配金。現行制度では税務上の利益の 10%分を役員以外の被雇用者に労働日数と給与水準に応じて機械的に分配する。
出所:INEGI「経済センサス」(2019年)からジェトロ作成

治安が最大の懸念事項、自動車産業では高い光熱費を問題視

今回の経済センサスでは、事業所の正規(フォーマル)、非正規(インフォーマル)の比率、操業上の課題、従業員の離職率、インターネットや金融サービスの利用率など、事業所の特徴についての調査項目が加わった。全事業所のうち、フォーマル部門が37.4%、インフォーマル部門が62.6%だった。経済センサス2019では、インフォーマル部門の事業所の定義について、従業員が5人以下で社会保険の雇用主負担やその他の社会給付を一切支払っておらず、会計帳簿もなく、外部の会計サービスなども利用していない企業としている。事業所数では、全体の62.6%に及ぶ。しかし、雇用は全体の18.9%しか生み出していない。州別にみると、商業やサービス業が主体の州に多く、北部より南部でインフォーマル比率が高い。

事業所が抱えている操業上の課題(複数回答)としては、治安の問題が35.4%と最も回答比率が高い。これに、高い光熱費(21.1%)、不当競争(18.9%)、需要低迷(18.5%)、材料・商品などの高い調達コスト(17.8%)、高い税負担(10.8%)が続く。進出日系企業の多くが属する輸送機器製造業では、治安がやはり最多で34.0%だ。一方で、高い光熱費を問題視する声が28.2%と多く、高い税負担(24.5%)、材料・商品等の高いコスト(24.0%)と続く。人件費以外のコストが総じて割高なメキシコの現状を表している。

図3:操業上の主要な課題(複数回答)
治安が問題だと指摘した事業所の割合は全事業所で35.4%、製造業全体で23.4%、輸送機器製造業で34.0%。高い光熱費が問題だと指摘した事業所の割合は全事業所で21.1%、製造業全体で18.7%、輸送機器製造業で28.2%。不当競争が問題だと指摘した事業所の割合は全事業所で18.9%、製造業全体で15.8%、輸送機器製造業で9.6%。需要低迷が問題だと指摘した事業所の割合は全事業所で18.5%、製造業全体で14.0%、輸送機器製造業で11.7%。材料・商品等の高調達コストが問題だと指摘した事業所の割合は全事業所で17.8%、製造業全体で21.2%、輸送機器製造業で24.0%。高い税負担が問題だと指摘した事業所の割合は全事業所で10.8%、製造業全体で8.5%、輸送機器製造業で24.5%。非正規ビジネスとの競争が問題だと指摘した事業所の割合は全事業所で9.8%、製造業全体で6.6%、輸送機器製造業で5.8%。資金不足が問題だと指摘した事業所の割合は全事業所で7.9%、製造業全体で7.7%、輸送機器製造業で5.8%。腐敗・汚職が問題だと指摘した事業所の割合は全事業所で6.4%、製造業全体で4.4%、輸送機器製造業で7.4%。行政手続き過多が問題だと指摘した事業所の割合は全事業所で6.0%、製造業全体で4.3%、輸送機器製造業で13.1%。その他の問題を指摘した事業所の割合は全事業所で32.3%、製造業全体で46.7%、輸送機器製造業で43.3%。特に問題なしと回答した企業の割合は全事業所で0.1%、製造業全体で0.2%、輸送機器製造業で0.1%。

出所:INEGI「経済センサス」(2019年)からジェトロ作成

進出日系製造業が悩まされていることの1つが、高い離職率だ。今回のセンサスでは、その離職率についてのデータも発表されている。国全体では22.2%、製造業全体で24.9%、輸送機器製造業では34.8%に達する。州別にも開きがある。日系企業が多い州では、コアウイラ州、グアナファト州、チワワ州、サカテカス州、サンルイスポトシ州などで高くなっている。

図4:主要州の産業別離職率(2018年,注)
全国平均では全産業で22.2%、製造業全体で24.9%、輸送機器製造業で34.8%。アグアスカリエンテス州では全産業で22.8%、製造業全体で27.2%、輸送機器製造業で28.7%。バハカリフォルニア州では全産業で25.6%、製造業全体で29.4%、輸送機器製造業で25.3%。コアウイラ州では全産業で29.1%、製造業全体で35.5%、輸送機器製造業で42.5%。チワワ州では全産業で29.8%、製造業全体で35.3%、輸送機器製造業で37.1%。メキシコシティーでは全産業で21.8%、製造業全体で17.7%、輸送機器製造業で17.8%。グアナファト州では全産業で22.3%、製造業全体で26.7%、輸送機器製造業で38.3%。ハリスコ州では全産業で21.1%、製造業全体で21.9%、輸送機器製造業で18.4%。メキシコ州では全産業で21.1%、製造業全体で21.7%、輸送機器製造業で31.1%。ヌエボレオン州では全産業で26.1%、製造業全体で27.8%、輸送機器製造業で31.6%。ケレタロ州では全産業で26.9%、製造業全体で28.5%、輸送機器製造業で28.7%。サンルイスポトシ州では全産業で23.0.8%、製造業全体で27.7%、輸送機器製造業で35.0%。タマウリパス州では全産業で22.2%、製造業全体で27.4%、輸送機器製造業で34.3%。サカテカス州では全産業で21.6%、製造業全体で28.5%、輸送機器製造業で35.2%。

注:1月には勤務していたが12月末までに退職した者の1月に勤務していた全従業員に占める比率。
出所:INEGI「経済センサス」(2019年)からジェトロ作成

インターネットの利用率については、大企業で92.7%、中小企業でも83.7%に達する。その一方でネット販売を実施している企業は、大企業でも24.0%、中小企業だと18.7%にとどまる。金融機関からの融資を利用した企業の比率については、大企業で30.6%、中小企業で25.7%、零細企業では11.4%にとどまっている。しかも、2014年調査と比べると、利用比率がそれぞれ1.3ポイント、2.2ポイント、4.2ポイント縮小した。メキシコでは金融機関の企業向け融資の普及率が依然として低く、状況が改善していないことが改めて確認できた。


注1:
農牧業以外の事業所を対象とする5年に1回の全数調査。事業所数や雇用数は2019年調査時点のデータを用い、出荷額(生産額)などの金額データは2018年時点のデータを用いている。2014年調査から行政機関の事業所や宗教団体の数も計上している。
注2:
調査対象の事業所が2018年中に生み出した粗付加価値を意味する。
執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所 次長
中畑 貴雄(なかはた たかお)
1998年、ジェトロ入構。貿易開発部(1998~2002年)、海外調査部中南米課(2002~2006年)、ジェトロ・メキシコ事務所(2006~2012年)、海外調査部米州課(2012~2018年)を経て2018年3月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『FTAガイドブック2014』、共著『世界の医療機器市場』など。