新型コロナウイルスでデリバリー、生活に必要不可欠なサービスに(シンガポール)
EC専門物流スタートアップのニンジャ・バン

2020年5月12日

シンガポール本社のニンジャ・バン(Ninja Van)は、2014年創立の電子商取引(EC)専門の物流スタートアップだ。東南アジアのEC市場の成長の波に乗って事業を拡大させ、域内6カ国でラザダやトコペディアなど大手EC会社の配送を手がけ、このほど2億7,900万米ドルの新たな資金調達をして注目を集めている。新型コロナウイルス感染拡大でECの需要が一層高まっているが、一方で、航空運賃上昇や移動規制の課題もある。同社の北アジア・中国事業のディレクター、ハン・ペイイ氏に、新型コロナウイルス流行下での配送サービスの現況と、日本と東南アジア間の物流サービス計画について聞いた(当インタビューは、2020年4月27日に書面で実施)。


EC特化の物流スタートアップ、ニンジャ・バン(同社写真提供)
質問:
2014年に設立後、短期間で東南アジア6カ国に展開したが、それを可能にした理由は。
答え:
ニンジャ・バンの創業者が2014年にシンガポールで起業したのは、東南アジア地域で電子商取引(EC)が台頭する一方、それを支える専門の物流ビジネスが不足していたことに、ビジネス機会を見いだしたからだ。この2~3年における東南アジアのEC産業の急速な拡大は、我々のビジネスにとっても追い風となった。2014年の創業直後に、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナムで事業を展開できた。
事業を急拡大できた大きな理由に、テクノロジーを活用したシステムとプロセスがある。これによって、柔軟に、取扱量の拡大にも対応できた。例えば、配達センターを設置するのに、必要なのはインターネットのコネクションと、ラップトップパソコン、ハンディスキャナーと運転手だけであり、それらがあればすぐに稼働できる。
質問:
新型コロナウイルス感染拡大により、どのような影響を受けているのか。
答え:
各国政府は依然、新型コロナウイルス感染拡大への対応に追われ、それぞれ感染防止のために異なる対策を講じている。このため、市場ごとにその状況は異なる。例えば、フィリピンでは厳しい広域隔離措置を導入しているため、配送は限定的だ。他の域内の国々では、小売業者がデジタル化を試みる一方、自宅にとどまっている消費者がオンラインでの買い物を選択しており、そうした市場では配送ニーズが急増している。
ただ、我々にとって、従業員の安全と健康が最優先だ。各国の政府の規制に基づき、毎日の体温検査、一部チームの自宅勤務、防護器具の提供などの感染防止策を導入している。そうした対策を取ることで、コスト負担が増え、一部では労働生産性の低下や、配送時間が多少長くかかるなどの影響はある。
しかし、我々のチームは、変化に速やかに対応している。シンガポールでは、お客様からのフィードバックを受けて、直接手渡しをしなくてもよいコンタクトレスな配送サービスを開発し、提供を始めた。お客様がコンタクトレスな配送を望む場合には、ニンジャ・バンのプラットフォーム上で設定できる。他の国々でも、その国の文化や好みに合わせて、同様なサービスを提供している。
質問:
事業展開をしている6カ国の中には移動規制している国もあるが、どう対応しているのか。
答え:
これまでのところ、フィリピンの広域隔離措置によって、同国内での必需品以外の配送サービスが停止した。我々は感染防止のための地元政府の規則を順守しており、それが長期的にはそのコミュニティーと従業員のためになると思う。
しかし、シンガポールのような国々では、住民が特に生活必需品などを手に入れられるように、配送サービスの提供が認められている。
(新型コロナウイルス流行で)ヘルスケア関連の製品や、在宅勤務向けの商品、食品や自宅用の商品の需要が高まっている。我々の配送サービスは今や、単なる便利なサービスではなく、必要不可欠なサービスであり、このパンデミック下において地元コミュニティーに誇りをもって貢献している。
質問:
日本市場への進出計画はどうか。日本市場にどのようなビジネス機会を見いだしているのか。
答え:
日本と東南アジアとの間には長い貿易の歴史がある。ユニークな品ぞろえと高い品質の日本の商品には、東南アジア地域の企業や消費者からの一定の需要がある。日本と東南アジアとの間の越境配送ができるよう最近、日本の物流会社ともパートナーを組んだ。
日本の企業からは、リスクが低く、便利なオンライン販売を通じて事業を国際化したい、というニーズがあると理解している。我々は日本の物流会社とともに、東南アジアで日本の商品を求めている消費者や企業向けに荷物を届けたいと考える日本企業を支援したい。今年はより多くの日本の企業との付き合いを深めることで、日本企業の東南アジア市場での計画やニーズを理解していきたい。
執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所 調査担当
本田 智津絵(ほんだ ちづえ)
総合流通グループ、通信社を経て、2007年にジェトロ・シンガポール事務所入構。共同著書に『マレーシア語辞典』(2007年)、『シンガポールを知るための65章』(2013年)、『シンガポール謎解き散歩』(2014年)がある。