日本食のくふ楽、コロナ禍で新たな取り組みを開始(インド)
チェンナイ店では、弁当配達サービスと冷凍食品を提供

2020年12月4日

くふ楽インディアは、焼き鳥レストランを中心に、インド全土で現在6店舗を展開している。インドでは、新型コロナウイルス感染拡大の初期段階から厳格なロックダウンが実施された。厳しい状況の中、くふ楽チェンナイ店は、新たなサービスを開始した。例えば、弁当の店舗受け取り、zomatoによる弁当配達、冷凍食品販売、などだ。

コロナ禍での厳しい経営環境の変化や、その中での新たな取り組みなどについて、くふ楽インディアの本多康二郎取締役に聞いた(2020年11月12日)。

質問:
くふ楽チェンナイ店開店の経緯とコロナ前までの状況は。
答え:
くふ楽インディアは、日本やカナダなどで焼き鳥レストランを展開している、くふ楽グループと、インドでレンタルオフィスやホテル事業を手掛けるヒロハマ・インディアとの合弁で、2013年に設立した。現在、焼き鳥レストラン「くふ楽」を中心に、インド全土で6店舗の飲食店を展開している。
くふ楽チェンナイ店は、2017年に開店。元々、南インドの人たちは食の慣習が保守的であると考えていた。しかし、事前調査を通じて、ベジタリアンだけでなく、ノンベジタリアンの人も多いことがわかった。また、チェンナイは港町でかつ映画の町であることから新しい文化が入りやすいと考え、出店を決めた。開店から2年目には黒字化を達成。新型コロナ前は、インド人の顧客が4割ほどだった。なお、インド人に人気があるのは、巻きずしとラーメンだ。
質問:
コロナ禍でのレストラン営業再開までにどのような取り組みを行ったか。
答え:
新型コロナの感染拡大に伴うタミル・ナドゥ州政府の規制により、3月22日からレストラン営業を休業。3月25日に、弁当の店舗受け取りサービスを始めた。4月中旬には、フードデリバリーアプリzomatoを通じた弁当の配達、7月に冷凍ギョーザの販売を開始。その後、州政府のロックダウン措置緩和により、9月上旬にレストランの限定営業、10月下旬に通常営業を再開した。多くの日本人の一時退避で弁当の注文は減ったが、レストラン営業を再開した後、日本人利用者から「くふ楽があって良かった」「くふ楽に助けられた」といった声をたくさんいただいた。コロナ禍でも営業を続けてきてよかったと感じている。
感染対策については、州政府が定める標準作業手順(SOP)を順守している。利用者が入店する前に手指の消毒や検温などを行い、座席数を通常時の50%に減らした。また、非接触での注文と支払いに対応し、全ての客席に消毒液を設置した。全スタッフがマスクを着用する。またキッチンスタッフは、エプロン、衛生キャップ、マスク、手袋を着用し、調理している。
顧客の減少で余剰時間が発生した際には、その時間を日本人店長による現地従業員の日本語教育に充てた。

感染対策をした従業員の様子
(くふ楽チェンナイ店提供)

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(くふ楽チェンナイ店提供)
質問:
コロナ禍で苦労した点は。
答え:
売り上げの減少や食材の調達などが挙げられる。売り上げは、コロナ前の水準を100%とすると、ロックダウン措置が最も厳しかった頃に10%程度まで落ち込んだ。レストラン営業再開後も45%程度にとどまり、コロナ前の水準には戻っていない。そのため、店舗賃料を2021年3月まで通常の半額にしてもらえるよう、入居先ホテルと現在、交渉している。
食材は元々、しょうゆなどの一部の例外を除きインド国内で調達していた。しかし、物流が止まり野菜、肉、米、調味料などがこれまでどおりに購入できなくなることが予想された。そのため、3月下旬に7月分まで発注した。もっとも、現実にロックダウン(第1期)が始まると物流が停止し、値段が高騰。仕入れが困難な食材も出てきた。例えば、北インドから仕入れていたギョーザシートは、店舗での手作りに切り替えた。また、弁当の容器や紙袋の欠品も急きょチェンナイで対応したりした。5月に入ってからも、州境の検査で貨物を積んだトラックが止められるなど、州をまたぐ食材などの仕入れには時間がかかった。9月以降は物流が安定し、仕入れや発注ができるようになってきた。 また、北東州出身の従業員の中には、地元州政府からの帰宅命令を受け、退職し、実家に帰った者もいた。
質問:
顧客の意識に変化は見られるか。
答え:
当店を利用するインド人顧客は富裕層が多い。そういった方々は、衛生観念や感染予防への意識が高い。そのため、人が集まるところには行かない傾向にある。よって、土日を中心に少しずつ客足が戻りつつあるものの、レストラン営業は厳しい状況がしばらく続くと予想する。
そのため、冷凍食品や加工食品にも販路を広げ、自宅でも当店の料理を食べられるようにと考えた。7月には冷凍ギョーザ販売を始めた。従来の顧客に加え、遠方に住む日本人や、チェンナイ在住の台湾人の方々からも冷凍ギョーザの注文があった。日本人とインド人以外の顧客から注文があるのは、他の店舗では見られないチェンナイ店独自の特徴だ。

7月に提供を始めた冷凍ギョーザ(くふ楽チェンナイ店提供)
質問:
今後のインド事業戦略や方向性は。
答え:
まずはコストを削減し、既存の事業を最適化する。くふ楽インディアはこれまで、同一エリアに複数の店舗を構えていた地域があった。しかし、北部グルガオンの麵屋くふ楽と、チェンナイのイタリアンレストランPICCANTEは、今後当面の回復が見込めないため閉店し、資本、人員および食材の管理などを同じエリア内のくふ楽に集約した。また、デリバリーが可能な弁当や冷凍食品の販売にも注力していく。
そして今後は、新型コロナの感染収束後を見据え、インド人の方々に、日本の文化から日本食に興味を持ってもらえるようにしていくことが重要と考える。日本食がおいしいとアピールするだけでは、インド人の方々にこれまで食べたことがない異国の料理を食べてもらうのは難しい。そのため、店舗にエンターテインメント性を持たせ、日本文化や日本食の魅力を発信していく。具体的には、一部店舗を改装し、タミル映画「Sumo」(新型コロナで公開延期)に出演した元力士の日本人タレントとコラボレーションする。このような取り組みを通じて、店舗またはオンラインで日本食をPRすることを考えている。
執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所
浜崎 翔太(はまさき しょうた)
2014年、財務省 関東財務局入局。金融(監督、監査)、広報、および財産管理処分に関する業務に幅広く従事した。ジェトロに出向し、2020年11月から現職。