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ロシアの実践的なIT教育を活用し、日本企業・大学生に短期留学プログラムを提供
中小企業のロシア展開事例

2020年3月17日

2016年5月に安倍晋三首相がプーチン大統領に提案した「8項目の協力プラン」などに基づき、日本とロシアの間ではデジタル経済分野の協力が動き出している。一方で、日本のIT産業では人材不足の問題が発生しており、かつ、構造的問題により国際競争力が低下しつつある。こういったことを背景に、ロシア専門商社の大陸貿易の子会社でシステム開発を行うテクノソリューション外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますはこのほど、日ロIT教育プログラムの実践プロジェクトを立ち上げた。同社やこのプロジェクトの概要、取り組んだきっかけについて、坂口憲一取締役事業部長に聞いた(2月12日)。

質問:
会社概要とロシア事業に取り組んだきっかけは。
答え:
当社はロシア専門商社の大陸貿易の100%子会社。1997年設立。社員は5人(インターン生2人)。エンドユーザーからの直接受託でシステム開発・コンサルティングサービスを提供している。主要顧客は製薬会社や製造企業、公的研究機関、大学。こういうものを作りたいというリクエストを顧客から受け、当社で要件を定義して仕様書を作成し、ユーザーの課題をどのように解決できるのかを提案するといった、システム企画・要件定義・システム設計・開発・運用サービスをワンストップで提供している。

テクノソリューションの坂口憲一取締役部長(左)(ジェトロ撮影)
私(坂口氏)は高校時代、コンピュータを専門に学ぶ情報処理科に在籍し、国家試験合格に向けてC言語、COBOL、BASIC、FOTRAN、マクロアセンブラなどでプログラミングを学んだ。高校在学中に同校の電算部が全国高校生プログラミング・コンテストで通商産業大臣最優秀賞(当時)を複数回受賞したことがある。高校を卒業して長野県松本市にある信州大学経済学部に進学した。
ロシアについては、小学生のころから興味があったが、ソ連崩壊を目の当たりにし、崩壊後にロシアの人々がどのような暮らしをしているのか関心を抱き、サンクトペテルブルク国立大学に10カ月間留学した。信州大学卒業後は、商社マンとして日ロの懸け橋となるべく、大陸貿易に入社。入社と同時に社長直轄の情報システム開発室の設立と配属が決まり、入社1年目は、財務会計や人事給与システムの移行、木材部販売管理システムの基本設計作業に従事した。2年目に社長の突然の命令で、ソフトウエア開発子会社の設立と取締役就任を命じられた。1997年11月にテクノソリューションを設立。その後は20年以上、日本国内のシステム開発業務に自らも経営者兼エンジニアとして携わってきた。
転機が訪れたのは、2018年11月に行われた総務省主催の「日ロICTビジネスミッション2018」に参加した際の約25年ぶりのロシア訪問だ。留学時代と比べ、非常に変化があり驚いた。タクシー配車アプリをはじめ、ロシアのデジタル産業は日本よりも進んでいるという印象を持ち、ロシアとITビジネスを始めるなら今しかないと思った。集中して進めるべく、2019年から本格的な事業可能性調査を開始。同年には合計すると半年程度ロシアに滞在し、モスクワやサンクトペテルブルク、ノボシビルスク、オムスク、ウラジオストクなどを飛び回ってネットワークづくりなどに奔走した。
質問:
今回立ち上げたロシアIT教育プログラムの概要と立ち上げ経緯について。
答え:
ロシアIT教育の日本市場導入に向けた「日ロIT教育プログラム」のプロジェクトをこのほど立ち上げた。具体的には、日本のIT産業の課題である「先端IT人材育成」のために、ロシアのIT教育をベースにしたプログラムを日ロ共同で開発すること。さらに、それを用いて日本の大学生がロシアの実践的なIT教育を学べるようにしたり、日本のIT企業や教育機関(大学・専門学校等)を対象にロシアでのIT教育研修プログラムを提供したりすることである(添付資料:日ロIT教育プログラムの実践プロジェクトの概要PDFファイル(121KB)(テクノソリューション提供)参照)。
現在はモスクワ州立大学や、サンクトペテルブルクにある国立IT機械光学大学(ITMO)、ノボシビルスク国立大学、ノボシビルスク工科大学などと話を進めている。ロシアの大学は日本企業との取り組みには非常に前向きだ。当社の提案にとても協力的だった。日本側の提携大学は日露大学協会加盟校を第1候補として考えている。
日本企業向けのプログラムでは、対象を20~30代のゆとり教育で育った世代の日本人ITエンジニアとし、彼らを最大4〜8週間、ロシアに短期留学させて、英語でアルゴリズム(数学)、IT〔人工知能(AI)を含む〕、ハッカソン(注)を含む徹底的な教育を施すプログラムを検討している。顧客としては、大手SIerや2次下請けなど、自社でIT人材を抱える企業が関心を示すと考えている。加えて、ロシアに行かなくても日本で受講可能なコンテンツの作成やロシア人教員によるEラーニングサービスの提供も検討しているところだ。
このプログラムのヒントとなったのは、造船分野での産学連携事例(MIT産学連携新領域創成プログラム)だ。東京大学が米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)と提携し、造船分野のプロジェクトマネジメント講座を開設している。海事関係の協会会員事業者向けのもので、東大で特別講義と演習を受講した後、MITに約3ヶ月間派遣され、システムアプローチ手法を用いたプロジェクトマネジメント(意思決定)を学ぶカリキュラムだ。受講料は高いと聞いているが、各造船会社で選抜された幹部候補がこのプログラムに送り込まれている。
当社としてはこれをIT分野でも応用できないかと考えている。造船分野での事例では、東大とMITというブランドがあってうまくいき、ビジネスとして成り立っている。一方、当社が実施する場合にはブランディング面が課題となるため、日本の大学(技術系学部)と提携を図る予定。日本の大学にも、最先端のIT教育に対して学部レベルでは産業界ニーズに応えられていないという問題意識があるためだ。
質問:
このプロジェクトを立ち上げた理由は。
答え:
本プロジェクトの立ち上げ理由は幾つかある。日本のIT業界の国際競争力低下への懸念と、海外IT留学へのニーズ拡大だ。日本では、大手SIerを頂点とする多重下請け構造と客先常駐型勤務(SES契約:システム・エンジニアリング・サービス)により、IT業界全体が疲弊しており、世界で戦える状況ではなくなっている。グローバルな競争力獲得には、最低でも英語の習得が必要で、最近では、フィリピンやインド、カナダ、英国などにIT留学する若者が徐々に増えてきている印象を持っている。当社に来ていた日本人インターン生も参加していた。
教育ビジネスに目を付けたきっかけは、2019年9月にモスクワで開催された日露大学協会総会(学長会議)に参加したことだ。学術分野で、日ロ双方が熱心に交流しているのであれば、教育分野で何かできるのではと考えた。また、当社は日本の大企業や公的研究機関向けに「教育カルテ」と呼ばれる社員の教育・研修履歴、技術者のスキル、業務履歴、取得した資格や知的財産権などを管理するパッケージ製品を有しており、技術者教育に関して一定の知見と経験が社内にもある。
質問:
IT教育分野であっても、なぜロシアと連携しようと考えたのか。
答え:
ロシアは理数系人材が豊富で、IT人材の輩出が多く、教育システムがしっかりしているためだ。国際大学対抗プログラミングコンテスト(ICPC)でも、2012年以降8年連続で世界1位を獲得しており、ITエンジニアの優秀さは有名なため、ロシアIT教育システムをうまく活用できるのではないかと考えた。
ロシアでは、ITを含む理数系教育(STEAM教育)を小学校から実施している。先日、ロシアの小学校を視察したが、プログラミングを教える際、ロボットを組み立てるだけでなく、確率・統計やコンピュータサイエンス、宇宙の基礎知識などを教えている。ロシアには「リツェイ」と呼ばれる理数系人材を育成する小中高校の一貫校があり、プログラミングの教科書も数学モデルに多数のページを割くなど、日本の薄い教科書とは大きく異なっている。

ロシアで用いられているプログラミング教育の教科書(テクノソリューション提供)
他国との比較では、日本企業の間ではITエンジニア獲得先としてインドやベトナム、ミャンマーが脚光を浴びているが、ロシアはそれらの国々と異なり、国民全体の教育レベルが高く、数学・物理人材に厚みがあることが挙げられる。例えば、インドは地域的にムラがあり、IT人材はごく一部の地域に固まっているが、ロシアでは全土に分散している。コンピュータやシステム教育が科目横断的なため文系理系の融合があり、概念・サービスが生まれやすい土壌になっていることが特徴だ。
質問:
日本国内ではIT人材不足が叫ばれており、これに外国人材を活用しようという動きがみられるが、こういったビジネスはどのように考えているか。
答え:
日本ではIT技術者派遣ビジネスが一般化しているが、ここにロシア人エンジニアを連れてきて、日本のIT業界の仕事に組み入れても、うまくいかないのではないかと考えている。ロシア人エンジニアは自分がスキルアップしたいという意欲が高いので、定着は難しいと思われる。
このため、当社としては、技術者派遣ではなく、自社でエンジニアを雇用し、自社もしくは自社製品のシステムを開発する、あるいは、自社開発を行う企業に人材を紹介するかたちを考えている。日本企業が必要としているIT技術を学ぶ教育プログラムをロシア側に提供して、まずは5~10人程度のロシア人エンジニアを日本に連れてきたい。私(坂口氏)は人工知能学会に所属しているが、会員企業が年々増えるなど、AI活用への関心が高まっており、この分野のプロジェクトを進めるべく、日本企業は高度なIT人材の青田買いを始めている。このため、優秀な学生とマッチングできるのであれば、日本企業も関心を示すと考えている。

注:
プログラマー、エンジニア、デザイナー、マーケティング担当者などがチームをつくり、短期間に集中してサービスやシステムを開発し、成果を競うイベント。

変更履歴
文章を修正しました。(2020年3月17日)
第1段落
(誤)…日本とロシア間ではデジタル経済分野が動き出しつつある。
(正)…日本とロシアの間ではデジタル経済分野の協力が動き出している。
執筆者紹介
海外調査部欧州ロシアCIS課 リサーチ・マネージャー
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸、ジェトロ・モスクワ事務所を経て、2019年2月から現職。編著「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。

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