存在感を増す肉代替食品(英国)
英国の市場動向と試食レポート

2020年4月21日

英国では、健康や環境問題への意識の高まりを背景に、肉類の消費を減らそうとする消費者が増えている。こうした消費者の動きに伴い、食品業界は植物ベースの肉代替食品を次々と市場に投入している。本稿では、試食レポートも交えつつ、英国の肉代替食品についてまとめた。

進化する肉代替食品

肉代替食品は、エンドウ豆や大豆、グルテン、米・穀物といった植物由来の原料から製造されることが多い。従来から、インドネシアの伝統的な大豆発酵食品「テンペ」や同じく大豆食品の「豆腐」、グルテンベースの「セイタン」などが、肉代替食品として位置づけられてきた。もっとも、これらの食品は必ずしも肉に似せることを目的としておらず、ビーガンやベジタリアンなど、そもそも肉を食べない人々が主な消費者だった。

しかし最近では、純粋な菜食主義者だけでなく、健康や環境への配慮から意識的に肉食を減らす「フレキシタリアン」と呼ばれる人々が増えている。このフレキシタリアンの需要も取り込む狙いから、より本物の肉に近い商品が開発されるようになってきた。現在、多くの肉代替食品メーカーは、大豆やエンドウ豆から抽出したタンパク質に、香味料や脂質を加えることで「肉らしさ」を再現している。また、様々な企業が「より一層肉らしい」代替品を作るために、加工工程や原料の改善に取り組んでいる。例えば、スペインのバルセロナを拠点とするノバミート(Novameat)は、3D プリンターを用いた植物由来の肉代替食品を開発している。また、英国の大手肉代替食品メーカーのクオーン(Quorn)は、キノコの仲間である糸状菌Fusarium venenatum由来のマイコプロテインを用いた肉代替食品を販売している。マイコプロテインは栄養価が高く、より肉らしい味や食感を作り出すことを可能にしている。クオーンは、ハムやベーコン、チキンなどの肉の代替品から魚の代替品まで、幅広い商品を取り扱っており、ケンタッキーフライドチキンやピザハットなど、外食産業でも既に取り入れられている。


3D プリンターで作られた肉代替品(NOVAMEAT提供)

拡大する肉代替食品市場、英国がリード

英国ビーガン協会(The Vegan Society)によると、2019年時点で英国のビーガン人口は60万人、ベジタリアン・ビーガン向け食品の推定売上高は8億1,600万ポンド(1ポンド=145円換算で1,183億円)に上る。また、2017年時点でビーガン商品として商標登録されていたビーガン向け商品の数は6,318点だったが、2018年には9,590点に約5割増加している。2018年に英国で新たに売り出された食品の16%がビーガン向けというデータもあり、英国の菜食市場の成長の大きさがうかがえる。さらに、世界の肉代替食品市場の約4割を占める欧州の中で、英国はそのうち約4割を占めており、同市場を牽引する存在だ。

肉代替品市場の成長は、短期的トレンドにとどまらないとみられる。2019年時点で世界の食肉産業に占める肉代替食品の割合は1%に過ぎないが、2029年には10%にまで上昇すると予測されている。人々が菜食を取り入れる動機は、自身の健康への配慮や環境問題に対する危機感にあるが、こうした意識は今後も一層高まり、将来にわたる肉代替食品市場の成長をもたらすと見込まれる。2040年には世界で消費される「肉」のうち25%が植物ベース、35%が培養肉になると予測しているレポートもあるほどだ。

大手スーパーも自社ブランドで肉代替食品を展開

英国のスーパー最大手テスコ(TESCO)は、2018年3月に肉代替食品を用いた調理済み食品の販売を開始して以来、植物ベースの自社ブランド「Wicked kitchen」や「Plant Chef」の展開を通じて製品ラインナップを拡充させてきた。また、業界第2位のスーパーマーケットのセインズベリー(Sainsbury’s)も、クオーンなど肉代替食品ブランドの取り扱いに加えて、自社ブランド「PLANT PIONEERS」としてソーセージやベーコンの代替品を展開している。

外食産業における動きも急速に広がっている。2020年1月、大手ハンバーガーチェーンのバーガーキングは、大豆由来のパテを使ったベジタリアン向けのハンバーガーの販売を開始した。ケンタッキーフライドチキンも、特定の店舗でクオーン製の鶏肉代替品を使用したハンバーガーの販売を開始している。

また、英国の大手コーヒーチェーンのコスタコーヒーは、ビーガン用のハムとチーズを用いたトーストを発売している。さらに、ロンドンにある英国最大の肉卸売市場、スミスフィールド・マーケットには、肉代替食品を取り扱うテナントが出てきている。

肉代替食品のおいしさは、調理方法次第か

それでは、肉代替食品は、本物の肉をどの程度再現できているのだろうか。この点を検証するため、ジェトロ・ロンドン事務所では、職員による肉代替食品の試食会を行った。試食会では、素材、調理済み食品、テイクアウトの3カテゴリーから、計12商品を試食した。試食会の参加者は20人。

まず、参加者には、「ベジタリアンまたはビーガンか」「ベジタリアン・ビーガン向けの商品を普段から生活に取り入れているか」「肉の消費を減らす必要性を感じているか」について答えてもらった。

参加者にベジタリアン・ビーガンはいなかったが、ベジタリアン・ビーガン向けの商品を普段から生活に取り入れている人が6人いた。頻度は「数カ月に一度」「たまに」がほとんどだったが、「家ではほとんど肉を食べない」という回答もあった。取り入れる理由は、「珍しいから」「肉の代わりにできるかどうか知るため」などの回答があった。

肉の消費を減らす必要性を感じている人は7人で、理由について、4人が「環境問題」、2人が「健康」、1人が「味」をあげた。環境問題などを背景とするフレキシタリアンの広がりが所内でも確認できた。


試食会の様子(ジェトロ撮影)

試食した各商品は、「味」「価格」「これからも食べたいか」「本物の肉に似ているか」の4項目について各5段階で評価してもらった。結果は点数化(1点~5点)してグラフにした。なお、価格に関しては、点数が高いほど試食者が安いと評価したことを示している。

1.素材

4商品を試食した。ハムは加熱をせず、ひき肉は塩こしょうを加えて味付けをした(表1参照)。評価の結果は図1のとおり。


試食素材食品(1)ひき肉代替品(ジェトロ撮影)
試食素材食品(2)ベーコン代替品(ジェトロ撮影)
試食素材食品(3)ハム代替品(ジェトロ撮影)
試食素材食品(4)ソーセージ代替品(ジェトロ撮影)
表1:各素材食品の詳細情報(単位:グラム、ポンド)
No 素材 メーカー 内容量 価格 主な原料
(1) ひき肉代替品 The Meatless Farm 400 3.00 大豆、エンドウ豆由来タンパク質
(2) ベーコン代替品 THIS 120 2.99 大豆、エンドウ豆由来タンパク質
(3) ハム代替品 Quorn 100 2.00 真菌由来のマイコプロテイン
(4) ソーセージ代替品 Plant Pioneers 300 2.50 キノコ、エンドウ豆粉、玉ねぎ
図1:素材の評価結果
味、ベーコン2.6、ひき肉2.0、ソーセージ2.9、ハム2.1。価格、ベーコン2.5、ひき肉2.8、ソーセージ3.1、ハム2.5。これからも食べたいか、ベーコン2.4、ひき肉2.0、ソーセージ2.6、ハム1.9。本物の肉に似ているか、ベーコン2.8、ひき肉2.2、ソーセージ3.3、ハム2.4。

出所:ジェトロ作成

すべての項目でソーセージの評価が最も高かった。次いでベーコンの評価が高かったが、「価格」に関しては「高い」という声が多かった。ひき肉が最も「味」の評価が悪く、「大豆の味が強すぎる」との声が上がった。素材は全体的に「原料の味が強い」「豆臭い」などのコメントがあった。原材料として豆類がほとんど使われていないクオーンのハムに関しては、「見た目がハムじゃない」「味がよくない」という感想があがった一方で、「一番味が肉に近い」というコメントもあった。

2.調理済み食品

5商品を試食した(表2参照)。評価の結果は図2のとおり。


試食調理済み食品(1)ナゲット
試食調理済み食品(2)チキンフライ
試食調理済み食品(3)ハンバーグ
試食調理済み食品(4)エビフライ
試食調理済み食品(5)ミートボール
表2:各調理済み食品の詳細情報(単位:グラム、ポンド)
No 調理済み食品 メーカー 内容量 価格 主な原料
(1) ナゲット Quorn 280 2.50 真菌由来のマイコプロテイン
(2) チキンフライ Plant Chef 190 2.00 大豆、小麦由来タンパク質
(3) ハンバーグ Amy's Kitchen 270 3.50 キアヌ、キノコ、玉ねぎ、セロリ、ニンジン
(4) エビフライ Linda McCartney's 180 2.59 大豆、小麦由来タンパク質
(5) ミートボール Plant Pioneers 380 1.75 大豆由来タンパク質
図2:調理済み食品の評価結果
味、ナゲット3.5、チキンフライ1.9、ハンバーグ2.8、エビフライ2.8、ミートボール3.2。価格、ナゲット3.1、チキンフライ2.9、ハンバーグ2.5、エビフライ2.9、ミートボール3.7。これからも食べたいか、ナゲット3.2、チキンフライ2.0、ハンバーグ2.6、エビフライ2.8、ミートボール3.2。本物の肉に似ているか、ナゲット3.7、チキンフライ2.5、ハンバーグ2.6、エビフライ2.6、ミートボール3.3。

出所:ジェトロ作成

「味」について、ナゲットが最も評価が高く、「本物の肉に近い」という感想があった。次いで評価が高いミートボールは「価格」の面でも高評価を得た。「コストパフォーマンスが良い」「料理に取り入れやすい」といったコメントがあった。ハンバーグに関しては、その見た目から「食欲がわかなかった」という意見があった一方で、「食感がよくおいしい」という意見もあった。エビフライは、見た目が「一般的なエビフライとは異なる」という声が上がった。最も評価がよくなかったチキンフライは、味がうすく、高評価を獲得した類似商品のナゲットと比較されてしまったため、このような評価になったと思われる。「クオーンのナゲットの方がおいしい」という声が上がっていた。

3.ファストフード店

3商品を試食した(表3参照)。評価結果は図3のとおり。


試食ファストフード店商品(1)バーガーキング
試食ファストフード店商品(2)サブウェイ
試食ファストフード店商品(3)ケンタッキーフライドチキン
表3:ファストフード店商品の詳細情報(単位:ポンド)
No ファストフード店名 商品 価格 主な原料
(1) バーガーキング ハンバーガー 5.69 大豆由来タンパク質
(2) サブウェイ サンドイッチ 5.99 大豆由来タンパク質
(3) ケンタッキーフライドチキン ハンバーガー 4.29 真菌由来のマイコプロテイン
図3:ファストフード店商品試食評価の結果
味、バーガーキング3.8、サブウェイ3.0、ケンタッキーフライドチキン3.5。価格、バーガーキング2.3、サブウェイ2.4、ケンタッキーフライドチキン2.6。これからも食べたいか、バーガーキング3.0、サブウェイ2.7、ケンタッキーフライドチキン3.2。本物の肉に似ているか、バーガーキング3.5、サブウェイ3.2、ケンタッキーフライドチキン3.7。

出所:ジェトロ作成

ファストフード店の商品は「おいしい」という声が多く、「言われなければ代替品と気づかない」というコメントもあった。「価格」は高いという意見が多かったが、ファストチェーン店の他の商品の値段を知らない人が多かったことが要因の1つとなった可能性がある。

4.カテゴリー間の比較

図4は、素材、調理済み食品、テイクアウトの3カテゴリーの平均点数を比較したものである。

図4:カテゴリー間の比較

出所:ジェトロ作成

「価格」以外の項目において、加工されていないものほど評価が低く、味付けされた調理済み食品やファストフード店商品ほど評価が高くなった。実際に、「加工されたものほどおいしい」「味付けがあるものはごまかせる」といったコメントがあった。一方、味付けに関しては、「塩味が強い」といった意見も多く、「本当に健康にいいのか」という疑問の声もあった。「味」の評価が低かった素材の商品は、「調理をすればおいしくなると思う」という人もいた。また、「価格」に関しては英国のほうが日本より物価が高く、参加者の多くが英国在住とはいえ日本人だったことから、全体的に高いと判断される傾向にあった可能性もある。「味」に関しても、日本人以外を対象に調査をしたら違う結果になるかもしれない。「これからも食べたいか」に関して、肉に似ていると感じなくてもおいしければ高い評価をつける傾向にあったことから、試食会の参加者は、肉代替品としてではなく商品そのものを受け入れている人が多いと感じた。

肉代替品の動きは日本の食品産業の商機にも

英国の肉代替食品市場は、今後も成長が続くと予想されている。一方で、今回の試食体験を通じて、より多くの消費者を取り込むには、味付けや肉らしさの点で改善が求められると感じられた。また、強い塩味や過度な加工によって、肉代替食品が本当に健康にいいのかという疑問もつきまとう。塩味に関しては、例えば、みそなどの発酵食品由来のうま味で代替することもできるだろう。実際、既に英国では、みそを使うことで塩分を抑えた冷凍ハンバーガーが大手スーパーで販売されている。日本には、精進料理に代表されるように、植物に根差した食文化がある。着実に勢いを増す肉代替品市場の広がりは、日本の食品産業の技術と伝統を活かす好機かもしれない。

執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所(執筆時)
堀江 桃佳(ほりえ ももか)
2020年1月~3月、ジェトロ・ロンドン事務所にインターン研修生として在籍。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
市橋 寛久(いちはし ひろひさ)
2008年農林水産省入省、2017年7月からジェトロ・ロンドン事務所。