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英国の食品業界における新型コロナウイルスをめぐる現状と「コロナ後」の見通し
オンライン販売の成長加速と販売チャネルの多様化

2020年6月5日

新型コロナウイルス感染拡大を受け、英国のボリス・ジョンソン首相は3月23日に、生活必需品の買い物や不可避な出勤などを除き外出を禁止すると発表した。これにより、持ち帰りと配達を除き、レストランやカフェなどの飲食店は営業を停止した。今般の事態は人々の行動に変化をもたらし、食品業界に中長期的な影響を及ぼすとみられる。コロナウイルスをめぐる英国の食品業界の現状と「コロナ終息後」の見通しについて、現地専門家に聞いた(2020年3月27日)

コロナウイルスをめぐる食品業界の現状と対応

英国の調査会社カンター社の報告によると、英国の日用品小売り(グロッサリー)の3月の売り上げは前年同月比で20.6%増加し、外出禁止令が出る前の3月16~19日は、買い物のための外出が急増した。また、英国の大手スーパー4社(テスコ、セインズベリーズ、アスダ、モリソンズ)の売り上げが同様に17.7%増、アルディやリドルなどの格安スーパーは24.5%増、コンビニエンスストアは30%増、小規模の独立系小売店(家族経営のローカルスーパー、コンビニ、肉屋・魚屋など)に至っては45%増となった。

外出禁止前のパニック買いによって、店頭では多くの品物が一時売り切れとなり、必需品を中心にスーパーの棚が軒並み空となる事態が生じた。しかし、品切れはその後解消に向かい、調査会社エッジ・バイ・アセンシャル社によると、最大手スーパーのテスコでは、ピーク時の3月22日には欠品率48%だったが、26日には25%まで下がり、急速な改善を見せた。さらに、大手スーパーでの一時的な欠品は消費者の足を独立系小売店へと向かわせ、大幅な売り上げ増加につながった。

また、最近ではオンライン購入が急増している。要因は実店舗での品切れと、感染対策に伴う接触回避だ。大手オンライン食品小売業者のオカドでは、通常時の10倍の需要が発生し、13万3,000人が新規顧客となった。同社サイトはアクセス困難な状態が続き、新規顧客の登録を一時停止して既存客の対応を優先させる措置まで取った。

他方、レストランなどの飲食店では、3月に入って客足が遠のき、3月23日の外出禁止措置以降は、持ち帰りと宅配を除き営業を停止したことで大幅な売り上げ減少となっている。調査会社CGAが58のレストランやパブチェーンの売り上げを追跡したデータによると、3月のレストランの売り上げは前年同月比56.2%減、パブは57.8%減、バーは60%減となっている。月内全期間にわたり閉店を余儀なくされた4月に至っては、さらに深刻な売り上げ減少となっているとみられる。政府指針では、持ち帰りと宅配による営業の継続は認めているものの、従業員や顧客の安全確保から休業を選択する事業者が多かった。新規参入者や小規模事業者への影響はより深刻で、ヤング・フーディーズ社の調査では、コロナウイルスの影響で新規または小規模レストランの47%が倒産の危機に直面すると予想している。

こうした急激な需要構造の変化に、食品卸も対応を迫られている。大手食品卸業者の中には、これまで飲食店向けに卸していた商品を、新たに立ち上げた自社オンラインサイトを通じて一般消費者に直接販売するところも出てきている。

政府や業界では、急激に増加した食品小売り需要に対応する対策を講じている。英国政府は競争法の適用を一時的に緩和し、小売り大手間での配達用車両の共有や従業員の共同確保などを認めた。また、大手スーパーでは需要の集中している商品の安定供給を優先させるため、マイナー商品の取り扱いを一時停止し、取扱商品を削減する措置を取った。併せて、仕入先である小規模事業者のキャッシュフロー確保と倒産防止のため、代金支払いを迅速化する措置も講じている。大手スーパーのモリソンズでは、これまで2週間程度かかっていた小規模事業者への支払いを48時間以内に短縮している。さらに、人員確保のため、各社店舗スタッフやドライバーなどの臨時従業員を雇用するとともに、テスコやセインズベリーズでは時間給を10%引き上げる対応を取っている。加えて、ウイルス対策の最前線で働く医療関係者や感染リスクが高い高齢者などに対しては、通常開店前に一般消費者と区別した特別な営業時間を設けたり、オンライン販売の配達スロットを優先的に割り当てたりするなどの支援措置が取られている。

コロナ終息後の英国食品業界の見通し

今般の新型コロナウイルスをめぐる一連の出来事は、上述のような一時的影響にとどまらず、より長期的な影響を食品業界に与えると見込まれる。そこで、英国の食品業界に詳しいサイモン・ウェアリング氏(注1)に、コロナウイルス終息後の同業界の見通しについて聞いた。

質問:
コロナ終息後の英国の食品市場をどう見るか
答え:
まず、今回のパニック買いで大手スーパーの棚から多くの商品が消えた中、ローカルの独立系小売店は大手スーパーよりも商品を維持することができた。これは、独立系小売店は大手と比べて仕入れのオペレーションがシンプルで、在庫状況に応じて柔軟に仕入先を切り替えることができたことが要因だ。今回の騒動を通じて、消費者もローカルな小売りの利便性を再認識しており、独立系小売店が獲得した需要はコロナ終息後も一定程度は残るとみられる。
また、オンライン販売の需要増加も一時的な動きにとどまらないだろう。コロナ発生前も食料品全体の7%程度を占め、年平均10%以上の勢いで成長していたが、コロナ発生がその成長をさらに後押ししたと言える。大手オンライン小売業者のオカドでは、パニック買いの影響で一時的にサイトがクローズしたものの、今回の経験を通して多くの消費者がオンラインで食品を買う利便性に気づいたことは間違いない。今回のコロナショックは「週に1回、車で大手スーパーに買い出しに行き、足りないものをローカル小売りで買い足す」という多くの消費者の習慣から、「時間に関係なく必要なときにオンラインで購入する」という新しい習慣へと変革させる引き金となった。食品を手に取って鮮度を確認したいという消費者の中にも、今回の経験を通じて、オンラインでの食品購入を通し鮮度に問題がないと気づいた消費者や、コロナ終息後も身体的接触を避けるためオンラインでの買い物を選択する消費者もいるだろう。
今まで飲食店向けを専門としていた食品卸の中にも、飲食店閉鎖を受け、消費者向けのオンライン販売事業に参入するところが出てきている。これまでオカドなどの大手オンライン小売業者経由で食品を販売していたサプライヤーも、自社サイトからの販売を始めている。先日も、アマゾンが近日中に生鮮食品などの高速宅配サービスを始めるという報道があった。オンライン市場への新規参入やサービス拡大は、市場の成長を支える要素となるだろう。
今回、食品業界が最も学んだことの1つは、ビジネスの形態を多様化する必要があるということだ。飲食店のみに商品を卸す一点集中的なマーケティング手法ではなく、小売りやオンラインでも売れるような戦略が求められる。また、持ち帰りと宅配に限って飲食店の営業が認められたことから、これまで同サービスを提供してこなかった店の中でも、ミシュランで星を獲得した高級レストランなども参入している。フィッシュパイやシェファーズパイなど、庶民的な英国のソールフードの宅配を始めた高級店もあり、ここでもビジネス環境への順応と多様化がみられる。

Green Seed UKの創立者で代表取締役の
サイモン・ウェアリング氏(同氏提供)
質問:
日本産の食品に求められる対応は何か
答え:
現在、日本産食品の大部分は、日系の卸業者を通して飲食店向けに販売されている。今後、日本の食品メーカーが英国で着実に成果を出したいのなら、商品を小売り向けにも順応させることが必要だろう。例えば、英国人が好んで食べる代表的な料理の1つに、チキンティッカマサラ(注2)がある。これはもともと外国料理だが、どこのスーパーでも惣菜・冷凍食品として売られており、英国料理と言えるほど国民に定着している。
最近では、将来的に英国の国民食になる可能性を秘めた人気の日本食にチキンカツカレーがある。しかし現状では、この料理は英国の小売市場で売り出されている商品が少なく、そのポテンシャルがまだ十分に発揮されていない。
質問:
現在、小売業者は新商品の採用に慎重になっているが、今後の見通しは
答え:
パニック買いが始まったころは、取扱商品の種類を減らす傾向が見られたが、私自身が多くの小売業者と話した中では、既に商談を始めている商品については、多少の変更はあってもおおむねスケジュールどおりに進めるという声が大半だった。パニック買いも落ち着き、新商品の採用にも大きな関心があると多くの関係者が言っている。
同業他社との差別化のためにも、目新しい商品を自社の棚に並べたいという小売店の思いに変わりはない。小売業において新商品の導入は常に大きなトピックであり、これを契機に恒常的に商品レンジを減らす傾向になるとは考え難い。
コロナ終息後の経済状況は想像がつかず、実際のところ私自身も心配だ。消費者は現在、最低限の生活を余儀なくされているが、コロナ終息後には、新しい商品やぜいたく品にも手を伸ばすようになるのではないか。多くの消費者がピザや日本食を食べに行くことを待ち望んでいるだろう。経済的苦難を強いられている人も一部いるが、そうではない人も多い。コロナによって押さえつけられていた欲望が人々を日本食などのぜいたくな食事に向かわせることは必然のように思う。
質問:
コロナの終息後、流通経路や企業戦略の変更、それらに伴う新しいビジネスチャンスはあるか
答え:
食品関係者の予想をまとめると、コロナ終息後も、当面は多くの事業者が打撃を受けるだろう。多くのレストランやカフェがビジネスを再開する価値があるかどうか苦慮している。事業の収益性を再検討した結果、ビジネスを再開する価値がないという結論に至り、想定以上に多くのフードサービスが廃業するのではないかとみられる。多くても再開するのはこれまでの70~80%程度ではないか。今までレストラン向けに事業を展開してきた食品メーカーは、同時に小売市場に向けた戦略なども考えることが必要だろう。また、小売りやオンライン販売向けに商品を卸す新たなパートナーを探す必要も出てくるだろう。コロナ終息後もしばらくは熾烈(しれつ)な状況が続くと考えられる。
日本食に関しては、英国人の日本食好きや、新しいものを試したいという根本的な部分は変わらないだろう。ただ、食品メーカーに向けて言えることは、飲食店以外の市場でもビジネスの選択肢を持っておくことが重要ということだ。上述のとおり、飲食店向けの卸業者も小売事業に参入しており、これらはコロナ終息後も同事業を継続するとみられるので、ここに新たな小売商品の需要と販路が発生すると考えられる。

注1:
食品コンサルタント会社「Green Seed UK」の創立者で代表取締役。同社は欧州各国と米国で、外国企業の小売り・フードサービス市場への参入支援、国際的なビジネス戦略の立案などに関するコンサルタントを提供している(www.greenseedgroup.co.uk外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )。
注2:
英国発祥のインド風カレー料理で、英国全土で食べられている国民食。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
尾崎 裕子(おざき ゆうこ)
2008年よりジェトロ・ロンドン事務所勤務。

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