新型コロナ禍で経済が落ち込む中、eコマースが活況(インド)

2020年7月29日

新型コロナウイルスの影響が広がり、世界中でeコマース(電子商取引、EC)が注目されている。感染状況が深刻なインドでも同様だ。インド全土封鎖(ロックダウン)措置で路上販売店やスーパーマーケットでの買物が制限された際、生活必需品を自宅まで運んでくれるECサービスは大変便利な存在として国民に重宝された。ポストコロナにおいてもさらなる成長が予測される。

本稿では、インドEC市場における今後の見通しを分析し、同業界のキープレーヤーなどを紹介する。

拡大するインドのEC市場

インド政府、商工省傘下のIndia Brand Equity Foundation (IBEF)が2020年6月に発表したレポートによると、インドでECは堅調に成長してきた。2018年の市場規模は500億ドルだ(図1参照)。さらに、2026年には2,000億ドル規模に成長し、2034年までに米国を超え、世界2位になると予測されている。現状、インドのEC市場規模は、中国や米国、日本には及ばない。しかし、巨大な人口が同国の将来性の強みとされる。

図1:インドのEC市場規模
インドEC市場規模の推移について、2018年は500億ドル、2020年は637億ドルの予測、2022年は1,500億ドルの予測、そして2026年は2,000億ドルと予測されている。

出所:IBEF資料からジェトロ作成

近年の急成長の背景には、インターネット通信基盤が国内で爆発的に普及したことがある。IBEF によると、2019年時点で、インドのインターネットユーザー数は6億6,531万人。日本の総人口のおよそ6倍に当たることになる。安価なスマートフォンを使用した通信の普及などがネットユーザー数の増加につながっているとみられる。例えばジオ・プラットフォームズは、フェイスブックをはじめとする多数の投資を集めた(2020年6月15日付ビジネス短信参照)。今後もさらなる伸長が見込まれる。

EC市場の分野別の売り上げでは、電子機器が48%と最大のシェアを占める(図2参照)。これに、アパレル29%、家具9%などが続く。

図2:インドの分野別EC売上シェア
インドEC市場における分野別売上シェアについて、電子機器48%、アパレル29%、家具9%、子供用品・美容製品8%、本3%、そしてその他3%となっている。

出所:IBEF資料からジェトロ作成

また、ECの拡大に伴い、物流市場も大きく成長している。物流はECサービスの根幹を支えるため、重要だ。ECに関わる物流市場は、2020年には25億ドル、2023年には60億ドルまで成長することが予測される。この巨大市場を目指し、地場財閥、スタートアップ、さらには外資系企業といったさまざまなプレーヤーが群雄割拠している。日系企業も、さまざまな参入の形を探っている。

インド市場を支えるキープレーヤー

インドでのインターネットの普及に伴い、2010年代にはAmazon(アマゾン)やフリップカート、スナップディールといった第1世代のEC企業がインドでサービスを開始した。開始当初の販売対象は、主に電子機器や書籍などの製品に限定されていた。しかし、次第に分野を広げ、現在ではB2C向け製品全般を扱う総合プラットフォームへと成長した。近年は、さらに各産業に特化した専門ECスタートアップ(表参照)も台頭してきている。アパレル分野ではミントラ、食品分野ではビッグバスケット、グローファーやフレッシュトゥホームなどが有名だ。こうした発展の背景には、利用顧客がECに対してさらに高い品質を求めるようになったこともある。

インド政府が、デジタル関連のスタートアップ創業を支援していることも追い風になっている。政府が提供するインセンティブスキームには、「デジタル・インディア」や「スタートアップ・インディア」があり、業界の企業数は増加基調だ。また政府は、5G(第5世代移動通信システム)技術への大規模な投資も決めている。このため、将来的なインターネット環境の充実化もEC市場拡大に寄与することが予想される。さらには、競合企業の増加に伴い、企業間の競争が促されていることから、新サービスによって顧客の取り込みを図るなど、各社のサービス向上も促されている。

表:インドでの主要なEC企業
No サービス名 分野
1 Amazon India外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 総合(B to C)
2 Flipkart外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 総合(B to C)
3 Snapdeal外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 総合(B to C)
4 Shopclues外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 総合(B to C)
5 udaan外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 総合(B to B)
6 Ninja cart 外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 必需品(B to B)
7 Shop Kirana外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 必需品(B to B)
8 Dmart外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 必需品(B to B)
9 IndiaMart外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 産業用製品(B to B)
10 Dunzo外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 宅配専門会社
11 delhivery外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 宅配専門会社
12 Fresh to Home外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 生鮮食品およびノンベジ
13 Licious外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 生鮮食品およびノンベジ
14 Bigbasket外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 食品および生活必需品
15 Grofers外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 食品および生活必需品
16 Amazon Fresh外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 食品および生活必需品
17 Spar外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 食品および生活必需品
18 Paytm Mall外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 食品および生活必需品
19 swiggy外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 食品および生活必需品
20 zomato (Inc. Uber eats)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 食品および生活必需品
21 Netmeds外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 医薬品
22 Medibuddy外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 医薬品
23 Pharmeasy外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 医薬品
24 Nykaa外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 化粧品
25 Firstcry外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 子供用品
26 Myntra外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます ファッション
27 Ola 外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます ライドシェア
28 Uber外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます ライドシェア
29 Yulu外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます ライドシェア
30 Zoom Cars外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます ライドシェア
31 Urban Ladder外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 家具
32 Bookmyshow外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます エンターテイメント

出所:各種資料からジェトロ作成

活躍の幅を広げるEC企業

ECビジネスに参入した各社では、商品販売にとどまらず、サービスの幅を広げる動きがみられる。

アマゾンは、自社独自の取引決済システム「アマゾンペイ」を導入した。アマゾンアカウントを保有する顧客が簡便に電子決済を使用できる仕組みをつくり、顧客の利便性向上を図っている。また、ペイティーエムに代表されるような取引決済企業が、新たにロジスティクス分野に参入する動きもある。従来ならライバル企業とみられていなかったスタートアップ企業同士が、ECを舞台にしのぎを削っている。また、地場食品配送大手のゾマトは、ライドシェアサービスを提供するウーバーの食品デリバリー部門を買収して事業拡大をもくろむ。このように、国内におけるプレゼンスを高める例も見られる。

さらに、以前は都市圏に限定されていたサービスも、インターネットの普及に伴い、地方への拡充が進む。インドは13億の人口と広大な国土を抱えており、地理的なサービス拡大が、多くの国民の利便性向上に貢献している。

このように、業態を変化させながら、ECビジネスは成長を続けている。同時に、課題も抱えている。例えば、各地域に在庫を確保するための倉庫や、食品などの鮮度を保ち利用者の元へ届けるコールドチェーンは、整備が不十分だ。資金力に乏しいスタートアップが単独で大規模投資を行うことは難しい面もある。このため、さらなるECの普及を目指し、B2Bについて政府が外国直接投資規制を緩和する動きなどもある。

日系企業によるECスタートアップへの投資

こうした中、日系企業も自社の持つノウハウと資金力を背景とし、インド市場の獲得を目指している。

ソフトバンクによる米国・ウーバーへの出資は有名だ。インドでも、日系企業がスタートアップへ投資した事例がある。例えばニチレイは2018年12月、食肉デリバリーを手掛けるリシャスへ出資した。リシャスは、同社からの投資を受けて順調にサービスを拡大中だ。本社のあるベンガルールなどで、安全で新鮮な肉類を素早く配達することで人気が高い。ニチレイ側にとっても、将来的なインド市場参入の足掛かりとしてメリットを生んでいる。また、三井住友銀行系投資会社の三井住友海上キャピタルは、ディップタブベンチャーズに投資した。ディップタブベンチャーズは、2015年に設立された物流系スタートアップだ。ITを駆使してラストワンマイル配送を効率化する「レッツトランスポート」サービスを提供する。このサービスでは、人工知能(AI)技術を利用し、システムが最適な配送ルートを提示する。その結果として、高い配送率を実現するというものだ。なお同社は、トヨタ自動車が出資し、スパークス・グループが運営する未来創生(2号)ファンドからも、2019年7月に出資を得た。

新型コロナウイルスの影響で、世界全体で商習慣が「リアル」から「デジタル」へ変革するさなかにある。インド市場においても「ポストコロナ」「ウィズコロナ」時代において、EC市場が堅調な成長をみせることが予測される。日系企業も、こうした機会をうまく捉え、活発にインドのEC市場に参入していくことが大切だ。例えば、インドに数多く存在するEC企業のプラットフォームを利用して自社の製品をインド市場に効率的に販売することや、ECに関わるハード面での投資とすることなどが、入り口になるだろう。

執筆者紹介
ジェトロ企画部企画課
遠藤 壮一郎(えんどう そういちろう)
2014年、ジェトロ入構。機械・環境産業部、日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)、ジェトロ・ベンガルール事務所などの勤務を経て、2020年6月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ベンガルール事務所
ディーパック・アナンド
大学で日本語と国際関係論を専攻。4年間の日本での銀行勤務の後、2008年にジェトロ入構。ベンガルール事務所において調査事業と進出日系企業向けの支援を担当し、日印関係で通算約18年の経験を有する。