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柔軟な人事制度を整備し、慎重なビザ申請を(米国)
米国ビザ審査の最新情報についてウェビナーを開催

2020年4月9日

米国で事業を円滑に進める上で、ビザの取得は重要な要素の1つだ。トランプ政権下で米国の移民制度が厳格化されて以来、ビザの審査動向や申請条件の解釈は急激に変化しており、専門家を通して最新情報を定期的に入手していくことが不可欠となっている。ジェトロ・ニューヨーク事務所では2月13日、当地の総合法律事務所RBLパートナーズ(RBL Partners PLLC)のボアズ麗奈弁護士を講師に迎えて、米国ビザ審査の最新情報についてウェビナー(オンラインセミナー)を開催した。その内容について報告する。

米国ビザ申請の却下率は急上昇

2017年4月にトランプ大統領が「バイアメリカン・ハイヤーアメリカン(BAHA)」の強化を目指す大統領令に署名して以降(2017年4月27日付ビジネス短信参照)、ビザ申請の却下率が上がり続けている。例えば、L-1Aビザ(企業内転勤者・管理職用ビザ)の2019年度の却下率は約29%と、2015年度の16%から大幅に上昇した。H-1Bビザ(特殊技能職用ビザ)も却下率が約24%と、4件中1件は却下される状況となっている。ビザの更新も新規申請と同様に扱われるようになり、審査期間が長期化するケースが目立つ。1度でもビザ申請が却下された場合、電子渡航認証システム(ESTA)が利用できなくなるなど、今後の渡米に無期限に影響が出るため、いずれのビザも戦略を十分練って、慎重に申請する必要がある。以下、各種ビザの最新情報について報告する。

新プロセス導入でH-1Bビザ申請が容易に

H-1Bビザ(特殊技能職用ビザ)は、2019年度(2018年10月~2019年9月)の新規申請却下率が約24%と高く、更新申請でも却下率は15%(2018年10月~2019年3月までのデータ)に上っている。最も多い却下理由は「専門職」の要件を満たさないという点で、特にITスペシャリスト、プログラマー、マーケティング系の職種での却下が多く、IT業界の平均却下率は40%以上だ。なお、2019年4月からH-1Bビザの申請件数などの情報が米国移民局(US Citizenship & Immigration Service、USCIS)のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで閲覧できるようになっている。

また、2020年度からH-1Bビザの申請方法が変わった。従来は、申請者による書類の提出後に抽選が実施され、年間発給上限の8万5,000件が受理される方式だったが、2020年度からは事前に電子登録手続きをした人を対象にまず抽選が実施され、当選者のみが申請を行う方式に変更された。時間とコストのかかる正式な請願書を抽選前に作成する必要がなくなったため、以前より申請しやすくなったと言える。当選した場合も請願書を提出する義務は発生しないため、他のビザ申請をしている場合には、保険としてH-1Bビザの電子登録を合わせて行うという方法も検討すると良いだろう。

急激に厳格化したJ-1ビザ

J-1ビザ(交流訪問者用ビザ)は米国内で行われる交流プログラム参加を目的とするビザで、主に日系企業のインターンや研修生に利用されているが、大統領令以降、米国人の雇用機会を奪う可能性があるとして、審査が最も厳格化したビザの1つとなっている。特に、母国ではなく米国で研修を受ける必要があるか、研修内容が就労行為に当たらないかを厳しく審査され、期間中の研修計画について、週単位の詳細な説明が求められることがある。大使館での面接時に就労ビザを取得するよう指示されたケースも多い。なお、J-1ビザ申請者が帰国後に米国の就労ビザを改めて申請する場合、米国で習得した内容を母国で生かすというJ-1ビザの性質上、少なくとも半年以上おいて申請する方が良いだろう。

一方で、E-1ビザ(貿易駐在員用ビザ)やE-2ビザ(投資駐在員用ビザ)は、J-1ビザやL-1Bビザ(後述)ほど急激には厳しくなっていない。ただし、膨大な会社情報の電子記入が義務化されたため、取得にかかる期間は長期化している。さらに、米国内に子会社や関連会社がある大手企業については、従来、代表の1社だけでも問題なかったEビザ企業登録を全ての米国内企業ごとに行うことが必要になった。また、米国労働者の雇用割合について厳しく確認されるようになっており、今後の採用計画を面接で問われることもある。米国で十分な投資実績があっても、雇用実績がないことを理由に却下された事例もあるため、特に注意が必要だ。

米国移民局審査のL-1Bビザの資料の追加要請率は57.5%

米国内の移民局が審査を行うL-1ビザはJ-1ビザ同様、審査が非常に厳しくなっており、特にL-1Bビザ(企業内転勤者・技術職用ビザ)の却下率は35%、資料の追加要請率は57.5%まで上昇している。審査では、これまで通常求められていた管理職要件(L-1A)や技術職要件(L-1B)に加えて、米国労働者の雇用割合までもが審査基準となっている点に留意が必要だ。なお、管理職要件を証明する資料についても、今まで以上に細かい証拠書類が求められている。例えば、管理職としてサインをした契約書や部下への評価レポートなどに加えて、部下の人数や学歴、部下との報酬額の差などが確認できる資料を要求されるようになった。

ただし、米国での事業規模が大きい企業が申請できるブランケットLビザ(米国外の米国大使館・領事館で審査されるもの)はそれほど厳しくなっていないため、大企業への影響は軽微と言えよう。

新規進出企業は新会社Lビザの特別枠を検討

新規のスタートアップや進出企業は、米国労働者の雇用実績が求められるEビザやLビザよりも、Lビザのサブカテゴリーである新会社Lビザの特別枠を利用する方が妥当だ。ただし、詳細な事業計画と、1年後には米国労働者を4~5人採用できるような人事計画の提示が求められる。ビザ取得の難易度としてはブランケットLビザの方が容易なため、米国内に関連企業があれば、そこを通じて申請できるかどうかも検討すべきだ。また、タイミングが合えば、H-1Bビザの電子登録も並行して進めると良いだろう。

ビザ申請中の企業も移民局の抜き打ち監査の対象に

厳格化しているのはビザの要件だけではない。米国移民局(USCIS)による監査訪問件数の増加も目立っている。移民局による抜き打ちの監査は、ビザの詐欺申請を防止するため2008年から行われているが、2017年度は7,200件だったものが2019年度は1万2,542件と大幅に増加した(ブランケットLビザとEビザの在日大使館・領事館に申請するビザについては、今のところ対象外)。監査の対象となるのは、無作為で抽出される企業と、ターゲット企業から選出された企業だ。ターゲット企業とは、IT業界・コンサル業界の企業や中小・スタートアップ企業、H-1Bビザでの就労者が雇用比率15%を超える企業だ。日系大企業の子会社でも、従業員25人以下の場合、中小企業として扱われ、ターゲット企業となることがある。さらに、従来は申請後の事実確認にとどまっていたが、2019年から審査中(特に追加要請中が多い)の企業も対象となっている。また、2019年秋からOPT STEM(理系分野の卒業生、注)を受け入れる企業を対象に、移民局とは別の政府機関ICE(移民税関捜査局、U.S. Immigration and Customs Enforcement)による抜き打ち監査も開始されている。

今後のビザ申請に向けて戦略的な準備を

以上を踏まえて、今後の米国ビザ取得に際しては、柔軟な人事戦略とコンプライアンス強化、最新の米国移民法情報の入手の3点を考慮していく必要があるといえる。

まずは、現状の審査の長期化や各種ビザ申請要件の厳格化を踏まえ、人事内示のタイミングや赴任者の選定方法などを見直し、前任者のビザ種別を安易に踏襲せず、より状況に合ったビザを戦略的に選択するという柔軟な人事戦略が求められる。また、監査対策や入国時の受け答え対策マニュアル、入国レターの整備などのコンプライアンス体制を強化することも重要だ。最後に、米国ビザの運用ルールは常に変更が起き得るため、定期的に専門家から最新の情報を入手しながら準備を進めてほしい。

2020年は大統領選挙がある。しかし、たとえ政権が交代しても、現行の審査基準を変更するには段階的な手続きが必要なため、米国ビザを取り巻く厳しい審査状況は続く見込みだ。

なお、今回のウェビナー資料は、「トランプ政権下の戦略的なビザ申請 -気になる米国ビザ審査の最新情報-PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(855.65KB)」(ボアズ麗奈弁護士作成)からダウンロードできる。講演の動画を視聴したい場合は、ジェトロ・ニューヨーク事務所まで。


注:
オプショナル・プラクティカル・トレーニング(OPT)とは、卒業に必要な課程(論文などは含まない)の完了後、または全ての必須課程終了後に最長12カ月間、米国で実習できる制度。科学や技術、工学、数学などの理系分野(STEM)の卒業生は24カ月の実習が認められるようになった。

(お断り)

本レポートの内容は一般情報として公開しており、特定の案件に対する個々の状況に適した法的アドバイスではありません。個々の状況に適したアドバイスを必要とする際には、必ず専門の弁護士に相談を。

執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 調査部
菊池 蕗子(きくち ふきこ)
民間企業勤務を経て2019年から現職。進出日系企業の支援事業に携わり、各種情報提供を行っている。

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