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市場開拓の鍵、顧客の声と電光石火の試行錯誤(ベトナム)
日系スタートアップの挑戦 / STAR KITCHEN(後編)

2020年8月4日

異業種から、ベトナムでクッキングスタジオを創業。現在ベトナムの日系百貨店での洋菓子の販売のほか、日系コンビニエンスストアや大手コーヒーチェーンにも商品供給を行うスターキッチン(STAR KITCHEN)。同社の創業者兼最高経営責任者(Founder/CEO)、荒島由也氏への連載インタビュー後編では、ベトナム人の食に関するニーズやその把握手法、コロナ禍を踏まえた自身の今後の展望、今後参入を考える日本の企業への示唆について、報告する(インタビュー日:2020年3月11日、7月20日)。


スターキッチン創業者兼CEOの荒島氏(同社提供)
質問:
ベトナム人の食の好みの違い、特徴はあるか。
答え:
当社主力製品のケーキに関しては、一般的に甘さ控えめが好まれる。練乳入りのベトナムコーヒーをイメージして、ベトナム人は「甘党」と思う人も多い。だが、これは正確でない。液体ドリンクは甘くてもよいが、お菓子となると「甘さは控えめ」なのが特徴だ。また、タルトやパイなどで、クリームやバターを多く使用した濃厚なものは好まない。一方で、果物の自然な甘さは好む。しかし、マンゴーやパイナップルなど、ベトナム原産で安く買えるフルーツを使うと、日本のブランドとしては安っぽいとコメントされる。商品開発の際には、食の嗜好(しこう)だけでなく、食材に関するそういった「価値観」を意識した。味は、ベトナム人の味覚に合わせる。一方で、日本のブランドなので、日本人が食べたときにおいしくないと感じるようでは困る。このため、その中間をうまく押さえた商品開発を進めた。

人気メニューのフルーツミルクレープ(同社提供)。
いちご、キウイ、洋ナシなどの南国では高価な果物を豪華に使っている。
甘さ控えめのクリームも薄く塗ってある程度。果物を食べているのに近い。
質問:
食の好みを含めたベトナム人の嗜好、ニーズを把握するため、どのような手法を取ったか。
答え:
定番の答えだろうが、顧客の声、反応を重視した。我々日本人が外国人を相手にビジネスして、商品に対する反応が良くないと、えてして「〇〇人は日本品質を分かってない」と他責になってしまう。ベトナム人は素直な反応をしてくれる。それだけに、自分たちのこだわりなどを一切捨て、顧客の声に集中した。商品販売だけでなく、クッキングスタジオも運営していたのも幸いした。スタジオでの反応も参考になったからだ。また、顧客だけでなく、自社のスタッフもベトナム人であるため、スタッフの反応も重要で、参考にするようにした。その際に社員から本音を引き出せる関係作りも大切だ。関係ができていないと、「イエスマン」になって逆に失敗しかねない。そういう会社もよく見ている。SNSでは、同じケーキでも、どのようなデザインだと反応が良いのかなどを繰り返しテストして研究した。後は、はやっている店(ケーキに限らず)があると聞けば、食べ歩いた。そこから、ベトナム人が好きな味の最大公約数が何かということをつかめる。そこから、ケーキの味作りに生かしていった。嗜好・ニーズ把握には、このように地道な市場調査と顧客(ベトナム人)との対話の積み重ねが重要と考える。

会社設立7周年イベントでの集合写真(同社提供)。
パートタイムを含めて現在約50名の従業員が働いている。
質問:
自身のビジネスについて今後の展望は。新型コロナウイルスがベトナムに与えている影響も踏まえ、おうかがいしたい。
答え:
ビジネスは一定の軌道に乗った。しかし、ベトナムのスイーツ市場は、まだ規模としては小さい。全体感として、現状の事業モデルで大きくビジネスをスケールさせるには時間がかかる。また、モノの販売は、必ず価格競争に巻き込まれる。そのため、モノを売る勝負でなく、ブランドを通した「体験」を売ることに集中したい。
ベトナムは、いち早く新型コロナウイルスの感染拡大を収束させた。しかし、外国投資が鈍り、輸出や観光産業も低調で外貨が稼げない。このため、国内経済がコロナ前までに戻るにはまだ時間がかかると予想している。それに伴い、消費者の財布のひもは硬くなっている。特に「高い買い物」に関してはよりハードルが高くなっていると感じる。そのため、モノを売るだけでなく顧客の体験を高め、「サービス」を売る努力を実施していく。当社のスローガンは「Make Your Life Sparkling」だ。顧客に「キラキラした経験」を提供することが企業価値なのだ。したがって、顧客のニーズに合わせ、既存のクッキングスクールや洋菓子販売の概念にとどまらず、商品・サービスを発展させていきたい。近年の新しい取り組みとしては、クッキングスクールが法人向けに提供するクッキングイベントがある。ベトナムでは、会社は家族という認識だ。日本以上に、会社の結束を大事にする。社員旅行や季節のイベントなどが大いに盛り上がり、社員の士気に影響する。そういった会社向けに、クッキングイベントとパーティーのケータリングを提案している。今までなかったタイプのイベントだ。共同作業を通して社員同士がコミュニケーションするイベントなので、サービスリリース後、引き合いが多くきている。単に料理を教えるのではなく、「社員同士が仲良くなる体験を通して、強いチームを作る」お手伝いをしている。このことが、このサービスのとしての付加価値と考えている。イベント後に、スターキッチン特製のケーキで誕生日が近い社員のお祝いをすることもできる。
個人としては、日本でのコンサル経験と自身のベトナムでの経営経験を生かして、2018年からマーケティング事業を立ち上げた。日系企業のベトナム進出を支援している。また、ジェトロ・ホーチミン事務所の食品・農林水産分野のコーディネーターとして、日本企業の進出支援にも携わっている。自らの持つ経験やノウハウを駆使し、日本に還元していくビジネスにも取り組んでいきたい。

法人向けクッキングイベント開催の様子(同社提供)
質問:
今後、ベトナムの食品・サービス産業への参入を考える日本の企業にアドバイスはあるか。
答え:
ベトナムは成長市場だ。競合も少なく、長期的にはリターンが大きい。しかし、現時点の利益の規模は、その国のGDP、市場規模に比例する。このため、日本の感覚で言う「利益」を出すまでには時間がかかる。そのため、一般的には体力のある大企業向けの市場と考えている。飲食などは、成功できれば短期で投資回収、利益も出すことが可能ではある。とはいえ、いわゆる製造、加工、小売りなどの事例をみると、10年間赤字の覚悟が必要だ。コンビニ向けの販売も、販売店舗数が少ないため、売り上げが限られる。数万店舗もある日本とは、状況が違う。
一方、ベトナムでは近年、グラブフードといったフードデリバリーサービスが日本以上に発達してきた。例えば、人気の屋台から新鮮かつ安価な食べ物をすぐに届けてくれる。伝統的な屋台や小規模ビジネスなどをテクノロジーが後押しし、強力な競合として残っていくはずだ。日本のような小売りの成長発展はたどらないと思う。その点では、スタートアップにもチャンスがあるだろう。 選択するマーケットもポイントになる。資金も限られるスタートアップにもかかわらず当社がビジネスを拡大できた理由は、マーケットがニッチで小さかったからというのも1つの要因だ。大企業は、この規模ならもうからないので参入してこない。
中小企業や、スタートアップなど新規でビジネスを始める際は、初期段階でお金はできるだけかけない方がよい。失敗する要因としてよくあるのは、最初にお金を使いすぎることと、しつこさが足りないことだ。初期投資を最小限にしてリスクヘッジし、頭を使って顧客の需要にあったものを提供できるよう何度もトライすることだ。
日本から持ち込んだ商品が売れることはほぼない。現地向けに開発した商品が最初からヒットすることもまずない。これらは、経験から言える。だからこそ、電光石火の試行錯誤が大事だ。その際、前述の通り、顧客の反応が重要であることは言うまでもない。「日本のモノであるから品質が高い、だから評価される」とか「日本と同様の設備でモノ作りしなければいけない」などの思い込みは一度捨て、目の前の顧客の反応をきちんと読み解くことが重要だ。

日系スタートアップの挑戦 / STAR KITCHEN

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
三木 貴博(みき たかひろ)
2014年、ジェトロ入構。展示事業部海外見本市課、ものづくり産業部ものづくり産業課、ジェトロ岐阜を経て2019年7月から現職。

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