インドで急成長する日本式コンビニ「エッセンシャルズ」
日本ブランド食品の販売プラットフォームに

2020年4月8日

インドの小売市場の約9割は、伝統的な零細店舗だといわれている。こうした伝統的な小売店を近代化させ、インドの小売市場を活性化させようと取り組むのが、地場大手カフェチェーンとタッグを組んだ日系コンビニエンスストア「エッセンシャルズ」だ。2019年3月からインド各地でコンビニ業態の店舗を展開している。「エッセンシャルズ」を運営するインパクトホールディングスの代表取締役社長・福井康夫氏、取締役・村松篤氏、アジア事業部の井口康孝氏、向本正志氏に、ビジネスの概要や展望を聞いた(3月10日)。

地場大手カフェチェーンと協力、店舗を拡大

質問:
進出までの経緯と現在の状況は。
答え:
インパクトホールディングスは、セブンイレブン・ジャパン出身のメンバーが中心となってできたコンサルティング会社だ。海外事業も積極的に行っており、ローソンの中国展開における支援や、インドネシアの財閥企業によるコンビニチェーン展開に対するコンサルティングも手掛けた。
インドでは、2014年から「トゥエンティ―フォーセブン(24Seven)」というデリーに拠点を置く現地財閥系のコンビニのコンサルティング業務を担っていた。そして、そこから得たインドにおける事業展開のノウハウやネットワークをさらに活用する形で、地場大手カフェチェーンのカフェコーヒーデイ(CCD)との共同出資により、2019年3月にエッセンシャルズブランドを立ち上げた。
当初、現地パートナー候補として10社ほどの会社を検討していたが、当時のコーヒーデイのVGシッダールタ会長と縁があり、最終的にはCCDとの提携を決定した。2020年2月現在、大きく3つの形態で合計42店舗を展開している。小規模店舗型の「エッセンシャルズ2ゴー」が31店舗、比較的広めの店舗の「エッセンシャルズ・プレミアム」が10店舗、企業のオフィス内にキヨスク型店舗を設置する業態が1店舗(ベンガルールのJP モルガンのオフィス内)という内訳だ。2020年3月には、ベンガルール市内に薬局を併設した「エッセンシャルズ2ゴー」店舗を開店したばかり。カルナータカ州政府の規則上、薬局は24時間営業が認められるため、薬局と併設することで、コンビニ店舗も24時間オープン可能となることを狙ったものだ。

店内の様子(ジェトロ撮影)

店内の様子(ジェトロ撮影)

プロモーション用の立て看板(ジェトロ撮影)

24時間営業の薬局併設店舗(ジェトロ撮影)
質問:
各店舗の従業員数は。
答え:
小規模店舗では1日当たり3~4人、広い店舗は10人程度の人員で運営している。1時間あたり2~3人を雇用する日本のコンビニと比べると、雇用人数は少ない。インドでは新しい形態のサービス業ということもあり、店舗従業員の教育は重要だが、トレーニングはCCDの社員研修センターを利用している。

インド進出には、提携先選びがカギ

質問:
今回のインド進出における最大のポイントは。
答え:
CCDグループは、インド全国に約2,000のカフェ店舗を持ち、そこで提供される食材のための独自の食品加工工場や提携工場、製品を運ぶ物流ネットワークを持っている。こうした全ての商流をカバーするインフラを活用できることが、スムーズな店舗拡大の後押しになっている。特に、広大なインドをカバーして小売りを始めるには、(CCDが物流ネットワークなどを築いてきたように)ある程度大規模な投資が必要なため、単独で一から進出するのは障壁が大きいと感じた。そういう意味でも、自社が持っていないアセットを有する提携先を吟味することが非常に重要だ。

ターゲットはアッパーミドル層

質問:
ターゲット顧客とそのニーズは。
答え:
年収300万円以上の「アッパーミドル層」をターゲット顧客としている。インド全体では、約3億5,000万人がこれに該当するといわれており、総人口が1億2,000万人の日本市場に約6万店舗のコンビニがあることと比較すると、インドでは約20万店舗まで拡大が可能だと考えている。
ターゲットとするアッパーミドル層のイメージとして、ベンガルールで働くITエンジニアがあげられるが、市内のITパーク内に設置する店舗では、アイスクリーム、たばこ、輸入品の菓子などが売れ筋になっている。またデリーの店舗では、客単価600ルピー(約900円、1ルピー=約1.5円)を超える店舗も見られ、想定よりも顧客の購買力は高い。一方で、小規模店舗では、カップコーヒーの持ち帰りが多く、ここでもCCDと提携していることによる強みを生かすことができている。ベンガルールでの展開が100店舗を超えれば、ブランドも定着し、客単価もさらに上昇すると期待している。
質問:
従来の小売店舗との競争に勝つための工夫は。
答え:
キャッシュレス化が進んでいる現状を踏まえて、独自のアプリを開発し対応している。決済事業者との提携により、アプリ内で決済が完了する仕組みや、デリバリー対応、アプリから事前に注文し、店舗での待ち時間無しで買い物ができるシステムなどのサービスを準備している。さらに、人工知能(AI)を活用して、顧客に最適なポイント還元やクーポンを提供できる仕組みも作る。将来的には、500万人のアプリ会員基盤を持っているCCDと連携し、サービスの充実を図っていきたい。こうしたアプリ開発には、ベンガルールにあるIT企業を活用している。ベンガルールはIT産業の集積地であるため、良いソフトウエアの発注先を見つけてコストを低く抑えることができるのも魅力。日本で同様の作業を発注する場合の10分の1程度のコストで済んでいる。
質問:
今後の展望は。
答え:
出店数の目標としては、インド全土で2020年末までに425店舗、2023年までに2,000店舗を目指す。地域的には、現在のデリーとベンガルールに加えて、ムンバイ、チェンナイ、ハイデラバードといった都市へ広げていく。インドの各都市はいずれも不動産価格が上がってきていることもあり、小さい店舗を中心に広げていく。小型店舗が8割、大型店舗が2割くらいのバランスを想定している。また、CCDはインド全土で2万カ所のオフィスにコーヒーベンディングマシンを導入しているので、こういった既存のネットワークに小規模タイプのコンビニ店舗を加え、社員のちょっとした日用品の買い物にも対応する形態を増やしていく予定だ。
また、オリジナルブランドの食品開発や日本食材の活用も増やしていきたい。大塚フーズインディアが2018年からインドで展開するボンカレーパンも、エッセンシャルズでの販売が始まっている。まだインドに進出していない日本の食品会社とのさらなる提携にも関心がある。製品開発と、エッセンシャルズ店頭での試験販売などを共同で取り組むことで、新たな日本ブランドの食品展開にも貢献できると考えている。

大塚フーズインディアの「ボンカレーパン」
(ジェトロ撮影)

アプリ機能の概要(エッセンシャルズ提供)
執筆者紹介
ジェトロ・ベンガルール事務所
遠藤 壮一郎(えんどう そういちろう)
2014年、ジェトロ入構。機械・環境産業部、ものづくり産業部、 日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)などの勤務を経て、2019年9月から現職。