迅速かつ厳格な対策で感染拡大の抑制に努める(サウジアラビア)

2020年4月24日

サウジアラビアでは3月2日に国内初の新型コロナウイルス感染者が確認されて以降、感染拡大が続いている。広大な国土で人口密度は高くないものの、経済を底支えしているともいえる外国人労働者間で感染が拡大中とみられている。感染拡大の抑制に向けた政府の対応は当初から非常に迅速かつ厳格だったが、同時に保健省が国民一人一人の行動が重要だとの意味を込めたスローガン「We are all responsible」を定めるとともに、手洗い、うがい、人混みの回避など、感染防止の基本的な方法を広く啓蒙し、感染拡大抑制に努めている。

国民にスローガンで呼びかけ、啓蒙も

サウジアラビアでは、イランからのバーレーン経由での帰国者の感染が判明したことを皮切りに大都市での感染が続き、4月23日時点での感染者累計数は1万3,930人にのぼっている(図参照)。最初の感染確認から約10日間は感染者数が倍増し続けたが、これを受けた政府の対応は非常に迅速だった。

図1:サウジアラビアにおける新型コロナ感染者数(累計)の推移
3月2日に国内初の感染者数が確認されてから、感染者の拡大が続いている。4月23日時点での感染者累計数は1万3,930 人。4月17日以降は人口密度の高い都市部の特定地区での能動的な集団検査が実施されており、感染者数の増加が高い割合で推移している。

出所:保健省からジェトロ作成

表の通り、学校の一時休止、政府機関の一時閉鎖、民間企業の在宅勤務、13州間の移動禁止、外出規制などの対策が相次いで出され、国民もその規制内容についていくのが精一杯だったほどだ。違反者への罰則も設けられている。例えば、外出禁止時間帯の外出や居住区外への外出の違反の場合は1万サウジリヤルの罰金外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (約30万円、1リヤル=約30円)、外出違反3回目で禁固、意図的な外出禁止違反の様子をSNS上に掲載した場合には5年の禁固および300万リヤルの罰金外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます など、その内容は厳しく、罰金も高額だ。警察や治安当局の権力が強い当地においては、こうした強制力をもって人の往来を規制することで高い効果が見込めるのは確かだ。

表:新型コロナウイルス感染拡大防止に関する政府の規制・政策
日付 規制・施策内容など
2020年2月27日 観光ビザ、商用ビザでの入国を一時停止
3月2日 国内で初の新型コロナウイルス感染者を確認
3月4日 メッカ、マディーナの巡礼を一時停止
3月6日 陸路の国境を一時閉鎖(除く物流)
国際線の発着を、リヤド、ジェッダ、ダンマンの3都市に限定
3月7日 日本人の入国を制限
東部のアルカティーフ地区を閉鎖
3月9日 全国の小中高大学を一時閉鎖
3月15日 国際線を一時停止
3月16日 政府機関を一時閉鎖
ショッピングモールを一時閉鎖
レストラン、カフェをテイクアウトに限定
3月18日 民間企業の本社勤務を禁止(支店における出社は従業員の4割以下に)
モスクでの集団礼拝の一時停止
3月19日 サルマン国王が国民に向けたメッセージを発表
3月21日 公共交通機関の停止、国内線の停止
3月23日 夜間(19時~翌朝6時)の外出禁止
3月26日 リヤド、メッカ、マディーナの外出禁止時間帯を15時以降に変更
13州間の移動禁止
3月30日 自国民、外国人(不法滞在者含む)に対する新型コロナ感染治療費を無料にする旨発表
4月6日 リヤド、タブーク、ダンマン、ダハラン、ホフーフ、ジェッダ、ターイフ、カティーフ、コバールにて24時間の外出禁止(地区内の食料品調達や通院は朝6時から15時まで)
4月10日 マディーナの特定6地域を24時間の完全外出禁止
4月11日 発令中の外出禁止令の無期延期
4月14日 居住区外への外出時の通行許可証を内務省発行のものに限定
4月17日 マッカ、マディーナ地域内の人口密集地での集中的な検査開始(これにより、今後しばらく感染者増加の傾向が続くと保健省が定例会見)
4月17日 ジャザーンのサームタとアルダーイル地域に24時間の外出禁止令を適用
4月18日 アルアハサーのファイサリーヤおよびアルファドゥリーヤ地区を新たに24時間外出禁止対象地区に
4月21日 2大モスクの総務管長であるシェイク・アルスデイスが、新型コロナウイルスの拡散防止策として、ラマダン期間中も2大モスクでの礼拝を引き続き一時停止する旨発表

出所:サウジアラビア国営通信(SPA)などからジェトロ作成

しかし、週末には家族・親戚同士で行き来し、集う習慣があるサウジアラビア人にとって、こうした行動規制は非常に厳しく感じられる可能性があった。そのため、外出規制が敷かれたタイミングと時期を同じくして、保健省は3月下旬に「国民一人一人の行動が重要」との意味を込めたスローガン「We’re all responsible」を策定。各個人の携帯電話には、このスローガンとともに保健省から「私たちがともに直面する困難は、私たちを強くする」、「偉大な我が国の安全のためには、私たち一人ひとりに責任がある」「家にいることで団結を見せよう」という熱いショートメッセージが送られてきた。前述の行動規制(罰則)だけではなく、国民の団結と愛国心に訴える手法もうまく取り込み、国民への協力を仰いだかたちだ。保健省はまた、手洗い、うがい、人混みを避けるなど、基本的な感染防止方法を連日アラビア語と英語の双方で発信するなど、啓蒙にも余念がない。


保健省から届いたショートメッセージ(ジェトロ撮影)

外国人を対象に積極的な感染拡大防止

保健省は、非サウジアラビア人(外国人)の新規感染者が増加していると発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます しており、人口の3割を占める外国人向けの対策強化にも乗り出している。斬新な取り組みとして、3月30日、自国民のみならず、不法滞在者を含む外国人が新型コロナに罹患した場合にも、無料で治療外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます することを決定したことが挙げられる。

また4月17日以降は、イスラム教の聖地マッカ、マディーナを含む大都市の人口密集地域(外国人労働者居住区)において集団検査が開始された。感染者を早期発見することで、感染の拡大を未然に防ぐことが狙いだ。保健省は、この集団検査を実施したことにより、4月17日以降の感染者数がしばらくは高く推移すると見積もっている。当地英字紙の「サウジ・ガゼット」紙は4月20日、新型コロナウイルスの症状が見られた場合には最寄りの病院において無料で治療が受けられる旨、ヒンドゥー語でも情報を発信し、外国人への周知に貢献している。

この未曾有の感染症にとりうる対応策は、人口動態や経済構造などによって国ごとに異なってくるだろう。また、現在の感染抑制策の効果が出るのがいつ頃なのかを的確に推測するのは困難だが、サウジアラビア政府は、感染拡大を短期間で抑え込もうと懸命な対策を続けている。


注:
記事内のリンク先は全てサウジアラビア国営通信(SPA)。
執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所
柴田 美穂(しばた みほ)
2004年、ジェトロ入構。海外調査部(中東アフリカ課)、企画部(中東・アフリカ担当)、農林水産・食品部を経て2018年8月より現職。