1. サイトトップ
  2. 海外ビジネス情報
  3. 地域・分析レポート
  4. 「自由で開かれたインド太平洋」で見直す新たな日印経済連携

「自由で開かれたインド太平洋」で見直す新たな日印経済連携
経済アジェンダのこれまでとこれから

2020年7月30日

日本政府は外交政策の1つとして、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP:Free and Open Indo-Pacific)を掲げている。この理念の下、インドとの協力促進が期待されている。もとよりインドは、この地域で成長著しい人口大国で、日本と考え方を共有する国の1つだ。

本稿では、FOIPにおける日印連携の経済アジェンダに着目し、これまでの経済・ビジネス関連事業を整理する。あわせて、今後の協力について検討したい。

アジア・アフリカで秩序ある繁栄を目指す

国際社会の安定と繁栄の鍵を握るのは、「2つの大陸」(成長著しいアジアと潜在力あふれるアフリカ)と「2つの大洋」(自由で開かれた太平洋とインド洋)の交わりにより生まれるダイナミズム。FOIPは、このように定義した上でこれらを一体として捉え、新たな日本外交の地平を切り開こうとする外交コンセプトだ。安倍晋三首相が、2016年8月にケニアで開催されたTICAD VI(第6回アフリカ開発会議)の基調講演で対外発表した。

具体的には、(1)法の支配、航行の自由、自由貿易などの普及・定着、(2)経済的繁栄の追求、(3)平和と安定の確保、という柱が立てられている(参考1参照)。

参考1:自由で開かれたインド太平洋の具体化

1. 法の支配、航行の自由、自由貿易等の普及・定着
自由で開かれたインド太平洋の基本原則や考え方を共有する各国との協力
国際場裡やメディア等での戦略的発信
2.経済的繁栄の追求
3つの連結性〔(1)港湾、鉄道、道路、エネルギー、情報通信技術(ICT)等の質の高いインフラ整備を通じた「物理的連結性」、(2)人材育成等による「人的連結性」、(3)通関円滑化等による「制度的連結性」〕の強化⇒ 東南アジア域内の連結性向上(東西経済回廊,南部経済回廊等)、南西アジア域内の連結性向上(インド北東州道路網整備,ベンガル湾産業成長地帯等)、東南アジア~南西アジア~中東~東南部アフリカの連結性向上(モンバサ港開発等)
経済的パートナーシップの強化(FTA/EPAや投資協定等を含む)およびビジネス環境整備
3.平和と安定の確保
インド太平洋沿岸国への能力構築支援⇒ 海上法執行能力や海洋状況把握(MDA)能力の強化、人材育成など
人道支援・災害救援、海賊対策、テロ対策、不拡散分野等での協力

出所:外務省資料を基に編集

その上で日本は、東アジアを起点として、南アジア~中東~アフリカに、インフラ整備、貿易・投資、ビジネス環境整備、開発、人材育成などを面的に展開し、アフリカ諸国に対し、開発面に加え政治・ガバナンス面でも、オーナーシップを尊重した国造り支援を行うとしている。

日本とインドとの関係では、安倍首相は2007年8月の訪印の際、インド国会で「2つの海の交わり」と題してスピーチ。太平洋とインド洋は、今や自由の海、繁栄の海として、1つのダイナミックな結合をもたらしており、従来の地理的境界を突き破る「拡大アジア」が、明瞭な形を現しつつあると言及した。また、これを開き、育てていく力と責任が両国にはあるとし、FOIPに通じるコンセプトをインドと共有していた。

FOIPは、中国が進める一帯一路イニシアチブへの対抗(対中封じ込めの文脈)として分析されることも多い。他方でモディ首相は、2018年6月にシンガポールで開催された第17回アジア安全保障会議(シャングリラ対話)の基調講演で、「自由で開かれた『包摂的な(inclusive)』インド太平洋地域」を強調した。露骨に対立構造と見られるのを避けようとしているように見受けられる。

2019年11月にはニューデリーで、初めての日印外務・防衛閣僚会合(2+2)が開催された。日印両国がインド太平洋のビジョンを共有することが提起された。FOIPでは防衛や安全保障面での協力が前面に取り上げられることが多いが、アジアとアフリカという世界の成長センターを包摂する同地域で、経済・ビジネスにおける協業の推進にも注目が高まっている。インドのジャイシャンカール外相も、2019年12月にニューデリーで開催された第11回デリーダイアログで、インド太平洋地域での取り組みは、概念的な議論にとどまるのでなく、連結性向上やパートナーシップ強化事業などで具体的な成果をあげていくべきとしている。特に経済面については、プロジェクトの具体的な組成に日本が関与していくことが求められていると言える。

そこで、FOIPの「経済的繁栄の追求」で掲げられる各種連結性や経済パートナーシップの強化などに沿って、これまでの日印の経済連携を見ていきたい。

日本の技術の強みで連結性向上

まず、多くの事業が既に実施されているものに、質の高いインフラ整備を通じた「物理的連結性」向上事業がある。

代表的なのが、進行中の「ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道」建設だ。日本がインドに提供する円借款事業として、西部マハーラーシュトラ州ムンバイとグジャラート州アーメダバード間の約500キロを、日本の新幹線システムを導入してつなぐ。これが開通すると、現在約7時間かかる同区間の移動が約2時間に短縮。連結性の強化が見込める。また、鉄道網の発達や駅周辺整備で、インドの経済発展と雇用創出、貧困削減が目指される。

ミャンマーやバングラデシュに隣接し、インドから東側地域とのゲートウエーとして注目されながらも開発が遅れている北東部では、道路網の整備事業が進行している。この地域の開発は、インドが掲げる「アクト・イースト」(注1)においても重要視される。FOIPとの連携による相乗効果の増進が目指されている。さらに、2019年5月には、スリランカのコロンボ南港東コンテナターミナル(ECT)の開発で、日本、インド、スリランカ間の協力に関する覚書が署名されるなど、連携事業もある。

また、日本企業によるFOIPに通じるビジネスの増加も望まれる。NECは2018年に、大容量光海底ケーブル敷設プロジェクトのシステム供給契約を、インド国営通信キャリア、バラート・サンチャル・ニガム(BSNL)との間で締結した。これは、インド南部タミル・ナドゥ州チェンナイとベンガル湾南部に位置する連邦直轄領アンダマン・ニコバル諸島を結ぶものだ。全土の通信環境改善とデジタル化を進めるインドに対し、同地域の連結性向上に貢献する。また、きんでん(関西電力グループの総合設備エンジニアリング企業)は、インドの送電、EPC(設計・調達・建設)事業のカルパタル・パワー・トランスミッションと合弁で、2015年にケニアの送電線建設計画を受注した。インド企業との合弁で日本の技術を利用しながら低コスト化を図り、日印企業が連携して、アフリカビジネスを展開している。

人材やデジタルなどでも進む連携

また、人材育成などにおける「人的連結性」強化も推進されている。海外産業人材育成協会(AOTS)の研修スキームを活用し 、インドでアフリカの技術者向け研修などが実施されてきた。また、先述の高速鉄道事業についても、インド高速鉄道公社や鉄道省職員の訪日研修を実施するなど、人材育成による技術移転を進めている。

ほかには、各種の「経済パートナーシップの強化」や「ビジネス環境整備」が掲げられている。日本政府は2016年11月に発表した日印共同声明で、アフリカの開発、産業ネットワーク開発で日印対話を重視していくことを確認。これをきっかけに、アフリカビジネスにおける日印協力の検討が加速している。アジア・アフリカ地域での日本・インド間のビジネスプラットフォームを、ジェトロとインド工業連盟(CII)が担うことなどが約束された。

今後ますます重要となるデジタル分野では、「日印デジタル・パートナーシップ」がある。2018年に両国が合意したものだ。デジタル分野での企業間連携、IT人材、人工知能(AI)に関する研究開発、次世代ネットワーク、エレクトロニクスなどでの協力を進めている。これにより2019年、ジェトロ・ベンガルール事務所に「日印スタートアップ・ハブ」が設置され、日印のスタートアップ、企業、関連エコシステムをつなぐ機能が設けられた。このほか、日本企業のインド高度人材採用を支援するジョブフェアなどが実施されている。

「自立したインド」が目指すグローバル・サプライチェーンへの参画

今後も、時代の流れに沿った両国の取り組みが期待される。一方でインドでは、新型コロナウイルスの感染拡大が続く。こうした中、2020年5月にモディ首相が「自立したインド(Self-reliant India)」のコンセプトを打ち出した。ここでは、(1)経済、(2)インフラ、(3)テクノロジー主導のシステム、(4)人口、(5)需要、が柱として建てられた。海外投資を有効に誘致しながら、インド国内産業の競争力を高めようとする方針が示されている。化学・肥料省医薬品局は3月21日に医療機器・医薬品有効成分(API)分野のインセンティブスキームを発表した。電子情報技術省(MeitY)も同様に、4月1日に携帯電話や特定電子部品製造分野のスキームを発表している。インドで製造が盛んで輸出競争力もある医薬品、反対に産業集積がなく大部分を輸入に頼る医療機器、電子製品分野でインセンティブを設け、国内産業強化、輸出促進につなげたい意図がうかがえる。このほか、ピユシュ・ゴヤル商工相は、インドがグローバルサプライヤーとなるべき12業種を挙げた(参考2参照)。自動車部品、電子機器、食品加工やマスクなどを含むこれらの産業で、競争力強化と雇用創出を狙う。そのため、政府が検討を進めているという(「ファイナンシャル・エクスプレス」5月21日)。

参考2:今後インドが競争力強化を目指す12業種

  • 食品加工
  • 有機農業
  • アルミ、銅
  • 農薬
  • 電子機器
  • 産業機械
  • 家具
  • 皮革、靴
  • 自動車部品
  • テキスタイル
  • マスク、衛生用品、人工呼吸器

出所:5月21日付ファイナンシャル・エクスプレスからジェトロ作成

FOIPの「経済パートナーシップの強化」で触れられている経済連携で、交渉中なのが東アジア地域包括的経済連携(RCEP)(注2)だ。インドは、その妥結に難色を示しRCEPからの離脱も示唆している。貿易赤字の最大の要因で脅威でもある中国の存在や、強みのあるIT人材などの人の移動面で好条件を引き出せていないこと、高い関税引き下げ目標が盛り込まれていること、などがその背景にある。2019年11月の共同声明では「インドには、未解決のまま残されている重要な課題がある」として、参加国が課題解決のために共に作業する旨が発表された。インドは、その後の交渉会合も欠席している。しかし、成長著しいアジア地域のグローバル・サプライチェーンに参画する意義は大きく、インドが目指す「自立したインド」の実現のためにも、国内産業の強化を続けながら、インドがこうした枠組みを活用できるか否かが注目される。

両国の強みを合わせ、第三国へも展開

連結性や経済パートナーシップ強化において、今後さらに期待が高まるのがデジタル分野だ。日本が持つハードの強み、インドが持つソフトの強みを生かし、両国間ではもちろんのこと、第三国でのビジネス展開も見据えられている。インドを含むアジア地域などでは、デジタルを活用した社会課題の解決が日本より速いスピードで進展している事例が見られる。社会インフラが未発達ながらデジタル技術の進展、ベンチャーフレンドリーなビジネス環境などが奏功した結果だ。これに着目し、日本の経済産業省では、アジアで先進的なデジタルイノベーションを起こしている企業と日本企業の協業を促進する「アジアDX(デジタルトランスフォーメーション)」による新規事業創造に、補助金を用意する。心電図のAI解析をするインドのスタートアップTricogは、東京大学のベンチャーキャピタルUTECから出資を受けた。世界的に評価を受ける日本のフクダ電子の心電図機器を活用し、インドのほかASEANやケニアなどでビジネス展開しているという。

インドのデジタル面での強みを象徴する1つに、「インディア・スタック」も挙げられる。これは、日本のマイナンバーに当たる国民識別番号「アダール」を基礎とした公共デジタルインフラだ。個人認証、本人確認、送金などの機能をあわせ持つ。政府が公共財として管轄しているため、その活用が企業にも広く開かれている。「アダール」には個人の生体情報、納税者番号、銀行口座情報などがひも付けられている。これにより、身分証明難や仲介人の存在などから滞っていた貧困層への効率的な補助金支給などが実現した。コロナ禍においても、政府が多数の貧困層へ早期の現金給付を達成している。この取り組みが、同様の課題を抱えるアフリカなどの各国から注目されている。インディア・スタックを他国独自方式にカスタマイズできるよう、そのアーキテクチャを公開したMOSIP(Modular and Open Source Identity Platform)が開発された。このMOSIPの各国での実装において、日本企業が持つ優れた技術の活用が期待できる。日本とインドが連携し、MOSIPの第三国での本格導入が望まれる。

新型コロナウイルスの感染拡大により、世界の状況はこれまでに増して速いスピードで変化している。新たなビジネスアプローチが求められるということでもある。この中で、利益を共有することができる各国が強みや経験を持ち合い、互いを補完しながら、成長市場でビジネスを展開していくことが重要となるだろう。日本は技術力や品質の高い製品と製造業やインフラのノウハウを強みに、インドは豊富な人材と巨大市場、豊かな発想力によるIT・デジタルやイノベーションなどを強みに、互いの成長をインド太平洋地域に広げていくことが目指される。


注1:
東アジア地域との連携を重要視する従来の「ルック・イースト政策」から、さらに一歩踏み込んだアプローチを進めるため、導入された。インドの北東部の振興、隣接国とのコネクティビティー強化を通じて、地域の経済・民生の開発と振興を図る。
注2:
Regional Comprehensive Economic Partnership。ASEAN10カ国に6カ国(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)を加えた枠組み。2012年に交渉立ち上げ。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課 リサーチ・マネージャー
古屋 礼子(ふるや れいこ)
2009年、ジェトロ入構。在外企業支援課、ジェトロ・ニューデリー事務所実務研修(2012~2013年)、海外調査部アジア大洋州課、 ジェトロ・ニューデリー事務所(2015~2019年)を経て、2019年11月から現職。

この情報はお役に立ちましたか?

役立った

役立たなかった

ご質問・お問い合わせ