新たな競争優位を確立する原動力となるか
進展するデジタル化、潮流をつかむ(日本)(2)

2020年10月19日

2回シリーズの連載第1回では、デジタル関連ビジネスが台頭する背景と現状についてみてきた。第2回は、世界で進展するデジタル化における日本の位置付けと課題から、新たな競争優位の確立に向けた取り組みについて紹介する。

日本のデジタル化は道半ば

国連が2020年7月に発表した「世界電子政府ランキング2020外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」で、日本は電子政府先進国にランクインした。しかし、2018年の前回調査の10位から14位に順位を落としている(図1参照)。このランキングは、オンラインサービス、人的資本、通信インフラの3分野の指標を基に、電子政府発展度指標(EGDI:E-Government Development Index)を算出した結果だ。日本は、人的資本、通信インフラについては前回より評価が上がった一方、オンラインサービスの数値が下がった。ウェブサイト上にある行政サービスの所在が分かりにくいことや、役所手続きの煩雑さなどが指摘される。日本の指数そのものは前回と比較して高かったものの、他国が飛躍的に行政手続きのデジタル化やデジタルIDの導入を図り順位を上がったため日本が追い抜かれた格好だ。

図1:電子政府ランキング(2020年)
デンマークは2010年7位、2012年4位、2014年16位、2016年9位、2018年1位、2020年1位。 韓国は2010年1位、2012年1位、2014年1位、2016年3位、2018年3位、2020年2位。 エストニアは2010年20位、2012年20位、2014年15位、2016年13位、2018年16位、2020年3位。 スウェーデンは2010年12位、2012年7位、2014年14位、2016年6位、2018年5位、2020年6位。 英国は2010年4位、2012年3位、2014年8位、2016年1位、2018年4位、2020年7位。 米国は2010年2位、2012年5位、2014年7位、2016年12位、2018年11位、2020年9位。 シンガポールは2010年11位、2012年100位、2014年3位、2016年4位、2018年7位、2020年11位。 日本は2010年17位、2012年18位、2014年6位、2016年11位、2018年10位、2020年14位。

出所:国際連合から作成

各国政府は、国を挙げたデジタル化に取り組んでいる。今回順位を大幅に上げたエストニアは、豊富なIT人材を武器にIT立国を目指している。「デジタルID」「データ共有」「データへのアクセス」の3つに焦点を当て、行政手続きの電子化を進めてきた。また、ノマドリモートワーカーを対象とした「デジタルノマドビザ」(注)を導入し、同国への人材確保に力を入れる。そのほかにも、各国でのユニークな取り組みがみられる(2020年10月9日付地域・分析レポート参照)。インドでは国民識別番号「アダール」を基礎とした公共デジタルインフラを確立し、民主主義的なデータ活用を推進している(2020年6月30日付ビジネス短信参照)。個人による信頼確保の上で、情報の利活用を促すアプローチが採用されており、プラットフォーマーが市場を独占するのを抑制する狙いがある。

日本でも、「経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太の方針)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(578.06KB) 」(2020年7月発表)において、デジタル・ガバメントの推進について記載された。新型コロナ禍の下では、行政の情報システムが十分に構築されていなかったことや、国・地方自治体を通じて情報システムや業務プロセスがばらばらで、地域・組織間で横断的にデータも十分に活用できないなど、さまざまな課題が明らかになった。行政サービスの質の向上を目的に、(1)デジタル・ガバメント実行計画の見直しおよび施策の実現の加速化、(2)マイナンバー制度の抜本的改善、(3)国・地方を通じたデジタル基盤の標準化の加速、(4)分野間データ連携基盤の構築、オープンデータ化の推進、などが基本方針に盛り込まれた。

急速なデジタル化には課題も

急速にデジタル化が進むことによる、弊害や課題も指摘されるようになった。総務省が2018年3月に発表した報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(4.64MB)によると、個人情報の取り扱いにおける認知度の低さや世代間格差の表面化、データ量やノウハウの不足などが深刻さを増している。日本ではとりわけ、IT人材の不足が喫緊の課題だ(図2参照)。

各企業は、IT人材獲得への取り組みを強化している。在日外国人材の活用に加え、近年では米国やインドに研究開発(R&D)機能を設けて製品開発を行うなど、エンジニアを他国から確保する事例がみられる。ジェトロは、そうした企業の支援策として、2020年10月2日にインド工科大学ハイデラバード校と共催で、イノベーション人材採用のための日本企業による説明会「JAPAN DAY」を開催した。日本企業の競争力強化に向け、世界各国の高度外国人材の採用を支援している。

図2:IoT導入に当たっての課題(日本、米国、英国、ドイツ)
回答企業は日本198社、米国355社、英国430社、ドイツ428社。ネットワークに接続されたモノが第三者に乗っ取られるリスクの回答率は、日本36.9%、米国33.5%、英国41.9%、ドイツ35.5%。リアルデータやプライバシー情報の保管の回答率は、日本33.3%、米国31.3%、英国37.4%、ドイツ31.5%。データの精度や正確性の担保の回答率は、日本36.9%、米国26.8%、英国36.3%、ドイツ29.7%。モノの制御に伴う安全性のリスクの回答率は、日本35.4%、米国27.0%、英国35.6%、ドイツ31.8%。既存の情報システムとの接続性の確保・統合の回答率は、日本25.8%、米国25.6%、英国27.0%、ドイツ23.8%。データを取得するまで有効なデータが得られるか不明の回答率は、日本21.7%、米国23.9%、英国28.1%、ドイツ24.1%。インフラ整備や維持管理に係るコストの回答率は、日本24.2%、米国29.0%、英国23.5%、ドイツ21.3%。IoTの導入を先導する組織・人材の不足の回答率は、日本31.8%、米国12.1%、英国8.8%、ドイツ13.6%。IoTの導入のために何をすればよいのか不明の回答率は、日本5.6%、米国5.4%、英国5.3%、ドイツ5.1%。

注:複数回答。「その他」、「課題は特にない」を除く。
出所:総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」から作成

さらには、世界大でのデジタル関連ルール形成も課題だ。現時点では、同分野の国際規範がなく、WTOやG20、OECDなどさまざまな国際機関や枠組みでのルール形成が行われている(世界貿易投資報告2020年版第4章参照)。新型コロナの急速な感染拡大により、リモートワーク拡大によるデータ移転の増加、市民追跡のためのプライバシー規制など、国際ルールの不在が浮き彫りとなった。グローバルに活躍する企業にとってデジタル活用が不可欠となる今、デジタル環境におけるリスク感覚や国際ルールに注視していく必要がある。

デジタル技術を用いた生産性の向上に期待

デジタル化の指標として、OECDは職場でのデジタル化率を発表している。企業活動にデジタル技術の導入が進展することにより、プロセスの見える化や省人化が実現し、労働生産性の向上が期待されている。OECDの発表によると、日本の時間当たりの労働生産性は46.1ドル(図3参照)。OECD平均より低く、G7で最下位だ。また、全労働者の情報通信技術(ICT)利用集約度では、日本の職場におけるデジタル化率(最大値は1.0)は0.50。米国(0.63)やドイツ(0.59)、フランス(0.54)などの諸外国に比べると、ICT利用が遅れていることがわかる。

図3:デジタル化と労働生産性の関係
時間当たりの労働生産性(USドル)は、米国72.0ドル、ドイツ82.2ドル、オランダ71.4ドル、フランス69.6ドル、フィンランド64.4ドル、英国59.9ドル、オーストラリア59.0ドル、OECD平均54.7ドル、カナダ53.6ドル、日本46.1ドル、韓国37.0ドル、ロシア26.5ドル。デジタル化率は米国0.63、ドイツ0.59、オランダ0.72、フランス0.54、フィンランド0.67、英国0.68、オーストラリア0.67、OECD平均0.51、カナダ0.65、日本0.50、韓国0.49、ロシア0.06。

注:デジタル化率は全労働者のICT利用集約度の中央値(0~1)。
出所:OECD Skills Outlook 2019、Compendium of Productivity Indicators 2019から作成

日本では、製造業分野で生産性向上の期待が高い。政府が発表した「未来投資戦略2018PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.26MB) 」では、デジタル技術を用いた製造業の労働生産性の向上やデータを収集した経営課題解決が、目標に掲げられている。工場などの製造現場ではIoT(モノのインターネット)によるデータ化や、ロボットを用いたプロセスのデジタル化が積極的に行われている。2019年には、製造データ流通フレームワークを開発するIVI(インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ)主導の下、ファナック、日立製作所、DMG森精機、三菱電機が製造プラットフォーム連携事業PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(9.49MB) を開始した。日本ではとりわけ、企業がデータ開示に消極的なため、サプライチェーン間でのデータ共有が進まないといった課題も指摘されてきた。同フレームワークは、異なるシステムやIoTプラットフォーム間で、容易かつ安全にデータ流通を実現するもので、さらなる参加を企業に呼び掛けている。

現場で生成される産業データの取得は、生産拠点を有しないオンライン・プラットフォーマーの参入障壁が高く、ものづくりに競争力を持つ日本企業が優位性を発揮できる。現場や市場の「リアル」データを蓄積し、産業間で共有することで、新たな競争優位を確立し、経済成長の原動力となることが期待される。


注:
デジタルノマドとは、就労の場所を自由に選びながらインターネットを利用して業務を遂行する新しい働き方。エストニア内務省は、同国が当該ビザの枠組みを作る最初の国の1つになるとしている。

進展するデジタル化、潮流をつかむ(日本)

  1. デジタル化進展の背景と今
  2. 新たな競争優位を確立する原動力となるか
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
伊尾木 智子(いおき ともこ)
2014年、ジェトロ入構。対日投資部(2014~2017年)、ジェトロ・プラハ事務所(2017年~2018年)を経て現職。