2019年の輸出入は過去最高を記録、対日貿易も好調(スペイン)

2020年9月8日

スペインの2019年の貿易は、輸出が9年連続で過去最高を記録した一方、輸入は原油安で増加が抑制され、貿易赤字は縮小した。対日貿易は、2019年2月に発効した日EU・EPA(経済連携協定)などの要因で好調だった。

米国向け農産品輸出、対EU報復関税で打撃

スペイン税関によると、2019年のスペインの貿易は、輸出が前年比1.7%増の2,900億8,900万ユーロ、輸入は0.8%増の3,220億6,900万ユーロと、輸出入ともに過去最高を更新した。貿易赤字は前年から24億600万ユーロ縮小し、319億8,000万ユーロとなった。

輸出を品目別にみると、最も金額の大きい資本財(自動車を除く)(構成比:20.4%)が前年比3.6%増と引き続き伸びた(表1参照)。そのうち、航空機(2.1%)が航空機大手エアバスの民間旅客機の輸出好調で15.9%伸びたほか、鉄道車両(0.7%)も大手CAFによる英国への中・長距離鉄道車両の納入により42.2%増となった。一方、風力発電機(0.2%)は、輸出向けが36.7%減と大幅に減少した。国内での新規導入ペースが前年から大幅に加速したことも影響したとみられる。スペインでは、風力発電投資が再び活発化しており、2019年には累積設備容量が25ギガワット(GW)を超えた(世界5位)。次に輸出額が大きい食料品・飲料・たばこ(16.8%)は、5.7%増となった。豚肉(1.6%)が34.4%増の大幅増で牽引した。アジアでのアフリカ豚熱(ASF)の影響による需要増で、中国向けが3.3倍に伸びたことによる。オリーブ油(1.1%)は5.6%減となったが、これは豊作続きで生産者価格が下落したためで、重量ではイタリアや米国向けを中心に17.6%増加している。また、自動車(15.2%)は0.4%減で、乗用車(10.6%)が西欧向けを中心に1.6%増と伸びたものの、台数では前年から0.3%の微減(187万台)となった。EUの排ガス規制強化で各国の生産・輸出台数が前年を大きく割り込む中、スペインは小型車生産に特化しているため、生産・輸出への影響が相対的に小さかったとみられる。反対に、自動車部品(4.5%)はEUの主要製造国における生産減が響き、4.8%減となった。化学品(14.5%)は3.9%増と堅調で、特に医薬品(4.1%)がスイスやドイツ向けをはじめとして14.3%増と伸びた。消費財(10.1%)は4.4%増となり、約半分を占める衣料品(4.6%)の好調(6.8%増)が反映された。

表1:スペインの主要品目別輸出入(通関ベース)(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2018年 2019年 2018年 2019年
金額 金額 構成比 前年比 金額 金額 構成比 前年比
資本財(自動車を除く) 57,042 59,111 20.4 3.6 66,129 68,727 21.3 3.9
食料品・飲料・たばこ 46,032 48,635 16.8 5.7 35,142 35,691 11.1 1.6
自動車 44,375 44,217 15.2 △ 0.4 40,180 40,401 12.5 0.5
化学品 40,514 42,103 14.5 3.9 48,961 51,041 15.8 4.2
中間財 30,074 29,524 10.2 △ 1.8 23,669 22,974 7.1 △ 2.9
消費財 28,143 29,392 10.1 4.4 36,830 38,702 12.0 5.1
鉱物・エネルギー 23,005 21,154 7.3 △ 8.0 47,758 44,396 13.8 △ 7.0
原材料 7,698 7,079 2.4 △ 8.0 11,474 10,183 3.2 △ 11.3
耐久消費財 4,534 4,593 1.6 1.3 8,300 8,508 2.6 2.5
合計(その他を含む) 285,261 290,089 100.0 1.7 319,647 322,069 100.0 0.8

注:EU域外貿易は通関ベース、EU域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
出所:スペイン税関

輸出を国・地域別でみると、EU(構成比:65.7%)は前年比1.7%増となった(表2参照)。うち、ユーロ圏(51.5%)は乗用車や医薬品、豚肉、衣料品など全般に好調だったが、自動車部品と石油精製品などの減少により伸びが相殺され、全体では1.0%増と小幅の伸びになった。EUの非ユーロ圏(13.3%)は5.7%増と堅調で、英国(6.8%)へは前述の鉄道車両の大口納入や乗用車の増加に加え、「合意なきEU離脱」による混乱に備えた備蓄や在庫の積み増しの動きが続き、石油製品や医薬品が50%台の増加となった。

EU域外(構成比:34.3%)は、最大輸出相手国の米国(4.7%)がフォード車やセラミックタイルなどの工業製品の好調により7.5%増となった。一方、農産品・食品は、米国が、EUによるエアバスへの補助金を理由に、10月中旬から発動した対EU報復関税の打撃を受けた。特に、容器入りオリーブ油、ワイン、食卓用オリーブ、かんきつ類の2019年第4四半期の対米輸出は重量でそれぞれ前年同期比16.5%、5.5%、21.1%、95.4%の減少となり、米国でのシェアが大幅に低下した。アジア大洋州(7.0%)は6.5%増と好調を維持した。アジア最大の輸出先である中国(2.3%)は、主に前述の豚肉の供給増により8.3%増、また韓国(0.8%)は、軍用機の輸出により12.3%増の大幅増となった。中南米(5.3%)は、メキシコ向け(1.5%)が乗用車の低迷により、2.3%減となった。中東(2.6%)の減少(8.1%減)は、2018年のサウジアラビアのハラマイン高速鉄道車両の大口納入からの反動減とみられる。

表2:スペインの主要国・地域別輸出入(通関ベース)(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2018年 2019年 2018年 2019年
金額 金額 構成比 前年比 金額 金額 構成比 前年比
EU 187,527 190,720 65.7 1.7 172,360 173,321 53.8 0.6
階層レベル2の項目ユーロ圏 147,759 149,291 51.5 1.0 139,095 137,505 42.7 △ 1.1
階層レベル3の項目フランス 43,441 43,893 15.1 1.0 34,664 33,414 10.4 △ 3.6
階層レベル3の項目ドイツ 30,682 31,056 10.7 1.2 40,233 39,929 12.4 △ 0.8
階層レベル3の項目イタリア 22,833 23,214 8.0 1.7 21,184 20,567 6.4 △ 2.9
階層レベル3の項目ポルトガル 21,298 21,905 7.6 2.9 11,675 11,424 3.5 △ 2.2
階層レベル2の項目非ユーロ圏 36,481 38,561 13.3 5.7 31,336 32,118 10.0 2.5
階層レベル3の項目英国 18,581 19,666 6.8 5.8 11,516 11,808 3.7 2.5
階層レベル3の項目ポーランド 5,613 6,181 2.1 10.1 5,459 5,692 1.8 4.3
スイス 4,196 5,032 1.7 19.9 4,204 3,673 1.1 △ 12.6
トルコ 4,828 4,466 1.5 △ 7.5 7,117 7,591 2.4 6.7
ロシア 2,026 2,054 0.7 1.4 3,028 3,442 1.1 13.7
米国 12,787 13,740 4.7 7.5 13,174 15,534 4.8 17.9
アジア大洋州 18,969 20,210 7.0 6.5 49,657 52,735 16.4 6.2
階層レベル2の項目中国 6,278 6,801 2.3 8.3 26,911 29,155 9.1 8.3
階層レベル2の項目ASEAN 3,588 3,849 1.3 7.3 9,015 9,572 3.0 6.2
階層レベル2の項目日本 2,530 2,725 0.9 7.7 4,133 4,356 1.4 5.4
階層レベル2の項目韓国 2,010 2,257 0.8 12.3 3,131 3,118 1.0 △ 0.4
階層レベル2の項目インド 1,330 1,345 0.5 1.2 4,013 4,231 1.3 5.4
アフリカ 18,554 18,659 6.4 0.6 27,724 27,206 8.4 △ 1.9
階層レベル2の項目モロッコ 8,227 8,516 2.9 3.5 6,696 6,949 2.2 3.8
階層レベル2の項目アルジェリア 3,381 2,914 1.0 △ 13.8 4,666 3,906 1.2 △ 16.3
中南米 15,779 15,420 5.3 △ 2.3 18,717 16,875 5.2 △ 9.8
階層レベル2の項目メキシコ 4,563 4,296 1.5 △ 5.9 4,729 4,612 1.4 △ 2.5
階層レベル2の項目ブラジル 2,423 2,599 0.9 7.2 4,833 3,819 1.2 △ 21.0
中東 8,150 7,492 2.6 △ 8.1 10,724 8,727 2.7 △ 18.6
階層レベル2の項目湾岸協力会議(GCC)諸国 5,066 4,745 1.6 △ 6.3 6,106 5,901 1.8 △ 3.3
階層レベル3の項目アラブ首長国連邦 1,561 1,867 0.6 19.6 365 494 0.2 35.4
階層レベル3の項目サウジアラビア 2,338 1,841 0.6 △ 21.3 4,636 4,254 1.3 △ 8.2
合計(その他を含む) 285,261 290,089 100.0 1.7 319,647 322,069 100.0 0.8

注1:アジア大洋州はASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港・台湾を加えた合計値。
注2:EU域外貿易は通関ベース、EU域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
出所:スペイン税関

自動車輸入、ディーゼル車とハイブリッド車・EVの代替進む

輸入を品目別にみると、資本財(自動車を除く)(構成比:21.3%)は底堅い景気と輸出の堅調を背景に通信・半導体機器、船舶、電気機器などが牽引し、前年比3.9%増となった(表1参照)。特に、ソーラーパネルは国内の太陽光発電投資の回復を反映し、3.1倍の大幅増になった。2019年は単年で4.2GWが新規導入され、累積設備容量は前年比89.2%増となった。化学品(15.8%)は、有機化学品や医薬品の増加で4.2%増加した。自動車(12.5%)は0.5%の微増。うち完成車(6.3%)は、ガソリン車と、ハイブリッド車(HV)および電気自動車(EV)がそれぞれ8.1%増、42.9%増と伸びたが、乗用車の約4割を占めていたディーゼル車が15.5%減と大幅に減少したことが響き、0.2%増にとどまった。2019年の乗用車の新車登録台数は、4.8%減の126万台となった。2018年9月の新燃費測定基準導入を背景に、ディーゼル車が2019年はさらに25.9%減と激減した。自動車部品(6.3%)は、小型ガソリンエンジンの増加により0.9%増となった。消費財(12.0%)はファストファッション大手インディテックスなどによる縫製国からの再輸出用を含む衣料輸入が伸びた影響で、5.1%増となった。食料品・飲料・たばこ(11.1%)は1.6%増で、主に再輸出向けの多い水産品(2.2%)、青果・豆類(1.8%)はそれぞれ1.5%減、2.0%増となった。

輸入を国・地域別にみると、EUからの輸入(構成比:53.8%)は、医薬品を含む化学品の増加をディーゼル車の13.3%減が相殺し、0.6%の微増にとどまった(表2参照)。EU域外(46.2%)も1.0%の微増。アジア大洋州(16.4%)からの輸入は6.2%増と引き続き拡大した。ドイツ、フランスに次ぐ第3位の輸入相手国である中国(9.1%)は、携帯電話や衣料の堅調に加え、ソーラーパネルが約4倍に増加し、8.3%増となった。スペイン企業が中国からの生産シフトを進めるASEAN(3.0%)も、携帯電話や衣類・靴が増加し、6.2%増加した。韓国(1.0%)は、タンカーやソーラーパネルの増加を自動車、自動車部品の減少が相殺し、0.4%減となった。米国(4.8%)の17.9%増は、天然ガス価格の下落に伴う液化天然ガス(LNG)の輸入増が背景にある。なお、資源価格の低下により、原油・天然ガスの主要調達先であるアフリカ(8.4%)、中南米(5.2%)、中東(2.7%)は減少した。

農産品・食品の対日輸出が急増、EPAも追い風

スペイン税関によると、対日貿易は、輸出が前年比7.7%増の27億2,500万ユーロ、輸入が5.4%増の43億5,600万ユーロで、対日赤字は前年から2,800万ユーロ増の、16億3,100万ユーロとほぼ前年並みとなった(表3参照)。対日輸出を品目別にみると、全体の3割を占める農産品・食品が、2019年2月に発効した日EU・EPAによる関税撤廃・削減の恩恵も受け、急増した。最大品目かつ官民連携による活発な輸出促進が展開される豚肉(構成比:18.1%)は前年比17.8%増、重量でも12.2%増の13万2,000トンと統計が入手可能な1995年以降の最高になった。日本への豚肉供給国としては3位で、冷凍肉に限ると1位となっている。ワイン(3.5%)も、関税撤廃による消費の盛り上がりで22.1%増と急増した。オリーブ油(5.4%)は、関税ゼロ品目のためEPAの影響はないものの、価格低下と日本国内での普及拡大が追い風となり、金額で19.1%増、重量で45.4%増とともに過去最高を記録した。工業品で日EU・EPAによる関税削減の恩恵が大きいとされる革製バッグ・小物類(1.7%)は、10.1%増と引き続き順調な伸びを示した。一方、構成比2位の医薬品(11.8%)は前年の急増からの反動減で10.4%減、続く自動車部品(7.8%)も14.4%の減少となった。一方、乗用車(5.0%)は、欧州ブランドによる新型モデル投入もあり、75.4%増と極めて好調だった。

日本からの輸入は、自動車(構成比:54.9%)、資本財(30.5%)、中間財(9.9%)が95%以上を占め、日EU・EPAによる関税削減撤廃の恩恵を受けた。最大品目の乗用車(39.8%)は17.4%増と好調で、うち4割近くを占めるHVは、燃費規制や大都市での従来車乗り入れ規制による需要増を背景に、53.4%増と大幅に伸びた。2019年に新車登録されたHV(プラグインHVを含む)の半分以上が日本車だった。資本財も、航空エンジン部品(2.1%)が2.2倍に伸びたほか、エアコン・空調機器(1.4%)、整流器(1.2%)はそれぞれ23.2%増、36.0%増と好調だった。食品は全体の0.3%と割合は小さいが、ソース類やしょうゆ、ウイスキーが引き続き好調だった。

表3:スペインの対日主要品目別輸出入(通関ベース)

輸出(FOB)(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 2018年 2019年
金額 金額 構成比 前年比
豚肉 419 493 18.1 17.8
医薬品 358 321 11.8 △ 10.4
自動車部品 248 212 7.8 △ 14.4
灰および残留物 122 148 5.4 20.9
オリーブ油 123 147 5.4 19.1
乗用車 78 136 5.0 75.4
ワイン 77 95 3.5 22.1
複素環式化合物 40 56 2.1 38.9
石油精製品 1 52 1.9 4,752.5
女性用衣類 50 51 1.9 1.9
合計(その他含む) 2,530 2,725 100.0 7.7

出所: スペイン税関

輸入(CIF)(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 2018年 2019年
金額 構成比 前年比 伸び率
乗用車 1,476 1,732 39.8 17.4
自動車部品 320 316 7.2 △ 1.3
自動二輪車 146 139 3.2 △ 4.7
航空機エンジン部品 42 90 2.1 115.9
集積回路 81 72 1.6 △ 11.4
自動車・産業用ディーゼルエンジン 73 69 1.6 △ 5.2
オートバイ・自転車部品 59 68 1.6 16.5
印刷機器 61 68 1.6 11.7
エアコン・空調機器 51 63 1.4 23.2
分析機器および器具 55 62 1.4 12.7
合計(その他含む) 4,133 4,356 100.0 5.4

出所: スペイン税関

執筆者紹介
ジェトロ・マドリード事務所
伊藤 裕規子(いとう ゆきこ)
2007年よりジェトロ・マドリード事務所勤務。