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中国で蓄積が進む5Gの活用事例(ユースケース)

2020年7月13日

2019年以降、世界各国で第5世代移動通信システム(5G)の商用サービスが開始されつつある。5Gがもたらすのは、スマートフォンの通信速度向上や高画質といった変化にとどまらない。新たなプラットフォームとして、運輸、医療、建設、教育など、あらゆる分野においてビジネスモデルの変化を起こすと言われる。中国は、米国と並んで5Gの推進に力を入れている。市場規模やネットワーク整備状況などで、世界の先頭集団を走る。

本稿では、5Gをめぐる中国での現状を概観する。あわせて、具体的な活用事例(ユースケース)を紹介し、日本企業のビジネスチャンスを考察する。

5Gは新たなビジネスプラットフォーム

5Gとは何か。5Gの特徴は、(1)高速・大容量通信、(2)超低遅延、(3)多数同時接続、の3点だ。移動通信システムは、1980年代のアナログ音声通話の1Gに始まり4Gに至る。これまでは、およそ10年ごとに通信規格が更新。通信速度の向上が進んできた。5Gの場合、最高伝送速度は10Gbpsだ。現行4Gの移動通信速度の10倍になる。ネットワーク上のタイムラグは現行の数十ミリ秒から、1ミリ秒程度にきわめて小さく抑えることができる(超低遅延)。端末の同時接続台数も、現行の30~40倍になる。具体的には、1平方キロメートル当たり100万台が実現される見込みだ。

超低遅延であることで、タイムラグが許されない自動運転や手術ロボットなどの制遠隔御が可能になる。また、多数同時接続により、家庭・工場内・街中の機器はもちろん、衣服や眼鏡などのあらゆる物品をインターネットに接続することができる。

5Gがもたらす変化のうち、スマートフォンの通信速度アップや高画質化はほんの一部にすぎない(図1参照)。基地局や端末を含めたネットワークの整備を担う通信事業者は、引き続き重要なプレーヤーだ。しかし、ネットワークが整備された後は、自動車、医療、教育など、あらゆる業種において、5Gというプラットフォームをいかに活用し、新たなサービスを提供できるかが勝負になる。

図1:通信速度の進化と5Gのイメージ図
移動通信システムの通信速度は、1980年代の10kbpsから10年ごとに通信規格が更新されるたびに向上し、2020年代には10Gbpsとなる5Gがスタート。5Gの特徴は、高速・大容量通信に加えて、超低遅延、多数同時接続が実現されること。それにより、自動運転、遠隔医療、IoTなど様々なサービスが実現されるようになる。

出所:総務省ウェブサイトを基にジェトロ作成

5G商用化で先頭集団を走る中国

米国と韓国では、2019年4月、スマートフォン向けの5Gサービスを開始。これを皮切りに、各国で商用サービスが始まった。中国では2019年11月から、3大通信会社〔中国移動(チャイナモバイル)、中国聯通(チャイナユニコム)、中国電信(チャイナテレコム)〕がサービスを開始した。日本の場合は2020年3月末からと、一歩遅れてのスタートになった。国際的な移動体通信関連の業界団体であるGSMAによると、2020年1月時点で、世界24の市場で46の事業者がサービスを開始している(注1)。

中国の5Gのポテンシャルは、世界の中でもトップと言ってよい。通信機器メーカーの強さ、ネットワーク整備状況、市場規模についてみてみよう。通信機器メーカーの競争力が分かる指標として、5G関連の特許数がある。ドイツの市場調査会社IPLYTICSによれば、5G関連の特許出願件数ランキングで、1位は華為技術(ファーウェイ)、3位がZTEだった。国別シェアでは、中国が3割超で首位、次いで韓国、欧州勢、米国、日本となっている(表1参照)。また、2019年の通信基地局などのネットワーク通信機器の売り上げでも、華為とZTEで世界シェアの約4割を占める(注2)。

表1:世界の各機関に出願した企業別5G関連特許数ランキング
順位 企業名 件数
1 華為技術(中国) 3,147
2 サムスン(韓国) 2,795
3 ZTE(中国) 2,561
4 LG(韓国) 2,300
5 Nokia(フィンランド) 2,149
6 Ericsson(スウェーデン) 1,494
7 QUALCOMM(米国) 1,293
8 Intel(米国) 870
9 Sharp(日本) 747
10 NTT Docomo(日本) 721

注:2020年1月1日時点。
出所: IPLYTICS「Fact finding study on patents declared to the 5G Standard」からジェトロ作成

ネットワークについては、2018年12月に工業情報化部が5Gの試験用周波数を割り当てた。その後、3大通信会社は最初のモデル都市を発表。北京、上海、広州などの一級都市を中心に、18の都市が選定されている(図2参照)。

図2:3大通信会社が5G通信を提供するモデル都市(2019年3月時点)
モデル都市およびサービスを提供する通信会社は、北京(中国聯通)、天津(中国聯通)、上海(中国移動、中国聯通、中国電信)、重慶(中国聯通)、瀋陽(中国聯通)、蘭州(中国電信)、鄭州(中国聯通)、南京(中国聯通)、武漢(中国移動、中国聯通、中国電信)、杭州(中国移動、中国聯通)、貴陽(中国聯通)、福州(中国聯通)、広州(中国移動、中国聯通)、青島(中国聯通)、蘇州(中国移動、中国電信)、深セン(中国聯通、中国電信)、雄安新区(中国聯通)

出所:賽迪顧問(CCID Consulting)「2019中国首批試点城市5G産業発展潜力研究白皮書」からジェトロ作成

沿海部の都市部を中心に、5Gのネットワーク基地局建設が急ピッチで進んでいる。工業情報化部の発表によると、2020年6月時点において全土で25万台の基地局建設が完了。さらに、毎週1万台ずつ新設されている。最も勢いのある中国移動は、5月末までに14万台の基地局を建設済み。2020年末までに30万台の整備を終え、地級都市以上340都市をカバーする予定という。

加えて中国は、5Gの基地局整備にあたりスタンドアローン(SA)方式を採用している。他国が4Gのネットワークと併用するノンスタンドアローン(NSA)方式を採用しているのと対照的だ。NSA方式は、4Gの設備を活用することにより早期にかつ低コストをでネットワークを構築できる。しかし、4Gがボトルネックになり低遅延などの5Gの特性が十分に発揮できない。このため、SA方式への移行の途中段階と位置付けられる。中国は、5Gの特性を最大限に発揮できるSA方式を最初から導入することで、世界をリードしたい考えだ。

市場規模は、言うまでもなく世界最大だ。5Gの基盤となる中国の4G携帯ユーザー数は5月末時点で12億7,933万に達する(図3参照)。また、5Gのユーザー数は、3月末時点で既に5,000万を超えた。GSMAは、2020年中に、5G接続数で世界の70%を中国が占めると予測している(注3)。

図3:4Gの携帯ユーザー数と基地局数の推移
4Gユーザー数、2015年3億8,600万人、2016年7億7,000万人、2017年9億9,700万人、2018年11億6,500万人、2019年12 億7,600万人、2020年12億7,900万人。 4G基地局数、2015年117万台、2016年263万台、2018年328万台、2019年544万台。

注:2019年の数値は11月末時点、2020年の数値は5月末時点のもの。
出所:工業情報化部通信業主要指標からジェトロ作成

蓄積が進む活用事例(ユースケース)

ネットワークの整備とともに、5Gの具体的な活用事例(ユースケース)の蓄積も進む。前述した通り、5Gはビジネスプラットフォームだ。すなわち、5Gを活用して、新たなサービスをいかに生み出すかがカギになる。

工業情報化部、国家発展改革委員会、科学技術部は合同で、5G推進のために、業界関係者と専門家を交えて「IMT-2020(5G)推進組 」(以下、IMT-2020 )を立ち上げた。このIMT-2020は、2018年から「ブルーミングカップ(綻放杯)」というユースケースコンテストを開催している。2019年に開催された第2回大会には、全国から1,000を超える参加者と3,731件のプロジェクトが集まった。プロジェクトの実施数では、3大通信会社(中国移動、中国聯通、中国電信)と基地局メーカー(華為、ZTE、外資ではノキアとエリクソン)が上位を占める。分野別にみると、医療健康、公共安全、スマート交通が多かった(表2参照)。

表2:第2回ブルーミングカップでのユースケースの分野別シェア
分野 シェア(%)
医療健康 16
公共安全 13
スマート交通 12
エンターテインメント 11
工業インターネット 11
スマート教育 6
スマートエネルギー 4
スマート旅行 4
スマート農業 2
倉庫物流 2
スマートホーム 2
スマートエコ 2
都市管理 1
金融 1
その他 13

出所:IMT-2020(5G)推進組「5G応用創新発展白皮書」からジェトロ作成

決勝に残ったユースケースを、以下で紹介する。

1.医療健康

プロジェクト参加者:

東軟漢楓医療科技、中国医科大学付属盛京医院、遼寧省人民医院、中国聯合網絡通信遼寧省分公司、中国移動

内容:
重症新生児のオンライン面会、遠距離でのエコー操作および画像診断、手術の指導

東軟漢楓医療科技が、医療IoT(モノのインターネット)システムを提供する。東軟漢楓医療科技は、中国最大のソフトウエア会社である東軟(Neusoft)グループが立ち上げた企業。

重症新生児のオンライン面会では、看護師がAR(拡張現実)眼鏡をかけて看護することにより、家族が看護師の視点でよりリアルに面会を体験できる。

また、瀋陽市の中国医科大学付属盛京医院と50キロメートル以上離れた撫順市の病院を接続。瀋陽市の専門医がエコー機器を操作し、撫順市にいる患者の診断を行った。低遅延という5Gの特性を生かし、画像、音声、バイタルなどの医療データおよび機械操作をタイムラグなく遠距離で送信・制御することに成功している。

このユースケースは、第2回コンテストで優勝した。

2.公共安全

プロジェクト参加者:

中国電信、深セン市公安局、深セン市優必選科技(UBTECH)、深セン市徳特科技(vrdete)

内容:
AIロボット警備

ロボット開発のUBTECHとモバイルネットワーク開発専門のvrdeteが、深セン市黄田派出所にAI警備ロボットシステムを提供。

2020年のコロナウイルス禍でも活躍した。高速道路の検査スポットにおいて、深セン市に出入りする車両情報を24時間記録する。このほか、24時間の自動巡回および体温計測プログラムにより警備員の省力化・感染リスク低下に貢献しているという。5Gの多数同時接続を生かし、10万人の警備チームとリアルタイムの同時通話が可能だ。

3.スマート交通

プロジェクト参加者:
浙江吉利新能源商用車集団(Geely New Energy)、数源科技(SOYEA)、中国移動、華為、中移智行網絡
内容:
スマートバス

吉利新能源が提供する電気バスに、SOYEAが公共交通ネットワークシステムを提供。吉利新能源は、吉利集団の下で新エネルギー車ブランドを手掛ける企業。また、SOYEAは、液晶テレビのほか、コネクテッドカーなどのネットワーク設計を手掛ける企業。浙江省の大手電機電子機器メーカー、西湖電子集団の傘下にある。

スマートバスには、20台のカメラを搭載。低遅延、多数同時接続の特性を生かして、交通信号など道路情報と車両が相互に通信。ドライビングサポートシステムが提供される。このほか、顔認証による支払いも可能になる。

拡大する中国の5G市場は、日本企業にとってもビジネスチャンスだ。例えば2020年3月、NTTドコモと中国移動が共同でVR(仮想現実)ライブイベントを日中同時開催した。「以心伝心有灵犀-Borderless Live 5G-」と題し、日中のバーチャルアーティストが出演した。このように、5GでVRを駆使した参加型エンターテインメントも、今後さらなる発展が見込まれる。

中国では、あらゆる産業において5Gの商用化が急ピッチで進む。中国で先行するサービスが日本で参考にされるケースが増えるかもしれない。


注1:
GSMA「MobileEconomy2020」。
注2:
2020年6月26日付の日本経済新聞、データは英調査会社Omdiaによる。
注3:
GSMA「移動経済発展中国2020」。
注4:
2019年11月21日付の華為プレスリリース、2019年11月21日付の日本経済新聞。
注5:
2020年3月4日付の中国日報、2020年6月20日付の日本経済新聞。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
江田 真由美(えだ まゆみ)
2005年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課、企画部企画課海外地域戦略班、イノベーション・知的財産部知的財産課を経て、2020年4月から現職。

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