第二次産業への投資が落ち込むも、大連市への日系企業の新規進出は増加(中国)
2019年の遼寧省への直接投資動向

2020年6月26日

遼寧省統計局の発表によると、2019年通年の遼寧省の対内直接投資額(実行ベース)は前年比32.1%減の33億2,000万ドルだった。前年(8.2%減)に続き、2年連続で減少した。

遼寧省:第二次産業への投資が落ち込むも、瀋陽市への投資実行額は2桁の伸び

2019年の遼寧省の対内直接投資額(実行ベース)33億2,000万ドルのうち、大連市への投資額は前年比67.5%減の8億7,000万ドルと大幅に減少した。一方で、瀋陽市への投資額は15.3%増の16億5,000万ドルと、2桁の伸びだった(表1参照)。

産業別にみると、第二次産業への実行額が18億6,000万ドルとなり、前年(33億9,000万ドル)から大きく減少した(表2参照)。通年の統計は発表されていないが、報道によると、2019年1~11月の同省の対内直接投資件数(契約ベース)は前年同期比12%増の531件となった。

表1:遼寧省の対内直接投資(単位:件、%、100万ドル)(△はマイナス値、-は値なし)
省・市 件数 前年比 金額 構成比 前年比
遼寧省 2017年 512 20.8 5,335 100.0 77.9
2018年 548 7.0 4,896 100.0 △8.2
2019年 3,320 100.0 △32.1
階層レベル2の項目大連市 2017年 185 3,249 60.9 8.2
2018年 219 18.4 2,678 54.7 △17.6
2019年 241 10.0 870 26.2 △67.5
階層レベル2の項目瀋陽市 2017年 178 34.9 1,013 19.0 24.1
2018年 1,431 29.2 41.3
2019年 1,650 49.7 15.3

注:件数は契約ベース、金額は実行ベース。
出所:「遼寧統計年鑑2019」、各省市政府発表等を基にジェトロ作成

表2:遼寧省の産業別対内直接投資(単位:件、%、100万ドル)(-は値なし)
項目 実行ベース
金額 構成比 前年比
第一次産業 2017年
2018年 10
2019年 10
第二次産業 2017年 3,090 57.9 199.8
2018年 3,390 69.3 9.8
2019年 1,860
第三次産業 2017年 2,220 41.7 13.1
2018年 1,500
2019年 1,450

注:表1と出所が異なるため、産業別の合計額が表1の実行ベースの金額と一致しない。
出所:遼寧省国民経済、社会発展統計公報を基にジェトロ作成

大連市:実行額が前年比で大幅減も、日系企業の新規進出数は増加

2019年の大連市の対内直接投資額(実行ベース)は、前年比67.5%減の8億7,000万ドルと、大幅に減少した。他方、2019年に大連市に新規に進出した外資企業数241社のうち、2019年1~11月の同市への新規進出日系企業は前年同期比15.4%増の60社だった。

自動車関連では、2019年2月に、デンソーの中国統括会社のデンソー(中国)投資と中国のIT大手の東軟グループ(NEUSOFT)傘下の東軟睿馳汽車技術(上海)が、合弁企業となる「睿馳電装(大連)電動システム有限公司」の開業式を行った。同社では、電気自動車(EV)用のモーターコントローラーや関連部品の研究開発と販売を行う。日本電産は2019年4月下旬、大連金普新区にEV用モーターの新工場を建設するための覚書を締結した。契約投資額は5億ドル(約550億円)とされる。同社の当該製品生産拠点としては、中国で2カ所目になる(2020年3月17日付ビジネス短信参照)。

機械・電子部品関連では、特許機器が防振装置などの生産を行う「拓許振動控制科技(大連)有限公司」を設立。2019年12月から操業開始した。サンケン電気は、新型のモーター周波数変換駆動用ICの生産ライン増設のために、9,200万元(約13億8,000万円、1元=約15円)を投資した。

IT関連では、楽天が2019年3月12日、楽天創研(北京)科技有限公司大連支社を開設した。中国における開発拠点の中心に据え、将来的に北京市と上海市にある同社の既存開発機能を大連市に集約する計画だ。また、野村総研は2019年5月15日、大連市で同社3カ所目の拠点となる「野村総研(北京)システム集成有限公司大連分公司」を開設した。主に、業務情報システムのデザイン、開発および運営を行う。

金融業では、オリックスが2019年3月、同社の総合不動産施設の着工式を開催した(2019年3月15日付ビジネス短信参照)。このほか、小売業では、ミニストップが2019年4月15日、大連三寰集団商業管理とエリアフランチャイズ契約を締結している。ミニストップは、大連三寰集団商業管理向けに人材派遣を含めて経営をサポートし、遼寧省では両社のダブルブランドで店舗を展開していくとした(2019年5月20日付ビジネス短信参照)。

瀋陽市:自動車・機械製造関連のほか、日系小売業の進出も

2019年の瀋陽市への対内直接投資額(実行ベース)は前年比15.3%増の16億5,000万ドルになった。自動車・機械製造業に加え、日系小売業の進出もあった。

自動車関連では、BMWが2019年4月、華晨BMW大東工場の拡張建設プロジェクトの定礎式を行った。2022年に竣工(しゅんこう)を予定している。稼働後は、同工場において従来の燃料車と新エネルギー車の同一ラインでの生産を行うとともに、生産車種を増やす計画だ。

機械製造関連では、2019年8月に、韓国斗山(とさん)工作機械と瀋陽聚星工作機械との間でOEMによる高精度デジタル制御工作機械プロジェクトが調印された。投資総額は1億ドル超で、航空・宇宙、自動車製造、専用機械など、設備製造企業に向けて製品を供給するとしている。関連部品の研究開発、生産・販売企業の誘致も予定する。

ローソンは2019年8月、瀋陽副食集団との合弁により、瀋陽市内で3店舗を同時に開店した(同社ニュースリリース8月23日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。現地報道によると、2019年12月27日までに、同市内に累計25店舗を開設した。

遼寧省政府、日韓をはじめとする北東アジア地域との協力を推進

遼寧省政府は2019年9月26日、北東アジア経済協力の推進と対外開放のさらなる推進を図るため、「遼寧省人民政府の北東アジア地域における経済貿易協力の加速推進と対外開放における新たなパイロットプロジェクト建設に関する意見外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を公布。日本、韓国、ロシアなどと連携して取り組む21項目の重点任務を制定している。また同省政府は、2020年1月の政府活動報告で、2020年の主な対外経済協力の計画を示した。この計画では、日本・韓国・ロシアとの経済貿易、教育、技術、人材などの分野における協力強化、中日博覧会・中韓投資貿易博覧会の開催などが挙げられた。とくに大連市では、日本および韓国からの投資誘致、ヘルスケア産業における中日協力の推進を対外協力の重点とする方針だ。同様に瀋陽市では、BMWを中心とする自動車、先端設備、スマート製造など重点産業における外資企業の誘致を重点方針に上げている。

執筆者紹介
ジェトロ・大連事務所
李 穎(り えい)
2007年、ジェトロ・大連事務所入所。総務・企画部、市場開拓部、経済情報部を経て、現在は、進出企業支援センターおよび経済情報部にて、調査や進出企業支援等を担当。