【中国・潮流】成都で注目されるニューエコノミーの担い手、現地発のスタートアップ

2020年1月9日

中国はイノベーション主導型社会へのシフトを加速させており、ニューエコノミーに象徴される新たなビジネスの担い手としてスタートアップの動向に注目が集まる。四川省成都市では、これまでに4社のユニコーン企業が誕生するなど活発な動きがみられる。

成都発ユニコーン企業の顔ぶれ

中国の民間シンクタンクの胡潤研究院が2019年10月21日に発表した「2019年グローバルユニコーン企業リスト」によると、成都発のユニコーン企業は4社あり(表1参照)、都市別ランキングでは、アトランタやシカゴ、パリ、ベルリン、香港などと同数になっている(表2参照)。

表1:成都発のユニコーン企業
企業 企業価値
(億元)
業種 設立
準時達国際サプライチェーン管理(JUSDA) 150 物流 2010年
成都新潮伝媒集団(Xinchao) 100 メディア・娯楽 2013年
壹玖壹玖酒類平台科技(1919 Wine & Spirits) 70 新小売 2006年
四川駒馬企業管理(JUMA) 70 物流 2011年

出所:胡潤研究院「2019年グローバルユニコーン企業リスト」

表2:都市別ユニコーン企業数
順位 都市 国・地域 企業数
1 北京 中国 82
2 サンフランシスコ 米国 55
3 上海 中国 47
4 ニューヨーク 米国 25
5 杭州 中国 19
6 深セン 中国 18
7 南京 中国 12
8 パロアルト 米国 10
9 バンガロール インド 9
レッドウッドシティ 米国 9
ロンドン 英国 9
12 広州 中国 8
ボストン 米国 8
14 グルグラム インド 7
15 マウンテンビュー 米国 6
16 サニーベール 米国 5
ソウル 韓国 5
18 サンパウロ ブラジル 4
ジャカルタ インドネシア 4
サンディエゴ 米国 4
アトランタ 米国 4
サンタモニカ 米国 4
パリ フランス 4
ベルリン ドイツ 4
成都 中国 4
香港 中国 4
シカゴ 米国 4

出所:胡潤研究院「2019年グローバルユニコーン企業リスト」

成都発のユニコーン企業の顔ぶれをみると、準時達国際サプライチェーン管理(JUSDA)は、台湾大手EMS企業の鴻海科技集団(富士康:フォックスコン)の物流部門から2010年10月に独立した、B2Bの物流サービスプロバイダーである。集積回路やパネルなどの電子産業が集積する成都市高新西区に本社を置く。フォックスコンの物流部門で20年に及ぶ国際物流の経験を有し、2019年9月に設立された成都市サプライチェーン協会の発起メンバー会社の1つでもある。

成都新潮伝媒集団(Xinchao)は、成都発ユニコーン企業の第1号として知られる。同社は、中国検索最大手の百度(Baidu)や電子商取引(EC)大手の京東(JD.com)などとの連携の下、ビッグデータや人工知能(AI)などを活用し、エレベーター内広告の配信事業を展開している。中国100都市で、70万台のスマートディスプレイを設置。居住・生活エリアにおける中間層を広告の主なターゲットとし、1日当たり約2億人をカバーしている。顔認識システムと保有する独自のデータを利用して、特定の個人に特化したコンテンツを投影する技術を確立済みだが、本サービスは利用者の個人情報の扱いに関する懸念もあるため、本格的な展開はまだ行われていない。

壹玖壹玖酒類平台科技(1919 Wine & Spirits)は、ワインや洋酒、白酒などの酒類販売で、オンラインとオフラインを融合した「新小売り」ビジネスを展開している。「19」は中国語で「要酒」とも読み、「酒が欲しい」の意味。同社は、2006年に酒類小売店を成都市内の住宅地に開業。中国の500を超える都市で約1,800店舗を展開し、31 省・直轄市・自治区で自社の倉庫とトラックを保有する。こうした店舗・物流網を生かしながら、独自に開発したデジタル技術とビッグデータの蓄積を強みとして、ビジネスモデルを確立している。2018年にアリババから20億元(約320億円、1元=約16円)の投資を獲得し、アリババのオンラインプラットフォーム「天猫」「口碑」「餓了麼」と連携し、事業を拡大。主な収益源はB2C向けのネット販売だが、B2Bでも中国全土で飲食店、酒類専門店、コンビニ、スーパーに卸売りを行う。


壹玖壹玖酒類平台科技の通販アプリ「1919吃喝」(左)と実店舗(右)(ジェトロ撮影)

四川駒馬企業管理(JUMA)は、中国61都市で都市物流事業を展開する。かつてはトラック販売店を経営していた創業者が、リース業に大きなビジネスチャンスを感じたのが創業のきっかけとされる。同社はトラック、運転手、荷主をオンライン上でマッチングするモデルを構築し、トラック版の「滴滴出行(DiDi)」(アプリを使った配車サービス大手)とも言われる。

目標はユニコーン企業7社以上を創出

成都市は、2022年までに、ニューエコノミー企業を10万社以上、ユニコーン企業を7社以上、ユニコーン企業予備軍(企業価値が1~10億元で過去2年間の収入の平均伸び率が20%以上)を60社以上、創出することを目標としている。同目標の達成に向けて、政府部門である成都市新経済発展委員会(以下、委員会)と、傘下でシンクタンク機能を持つ成都新経済発展研究院(以下、研究院)が推進役になっている。研究院は、政策の執行機関としてスタートアップの支援や、ユニコーンの育成を行う。

研究院の下部組織には、スタートアップ企業を会員とする成都新経済企業クラブ(以下、クラブ)がある。クラブの会員には、既に中国で知名度が高まっている医師同士の交流プラットフォームアプリを提供する成都医聯科技(Medlinker)や、英単語学習アプリ「百詞斬」などの学習アプリを提供する成都超有愛科技、スマートプロジェクターの設計や研究開発・販売を行う成都極米科技 (XGIMI)を含む、約300社が名を連ねている。研究院によると、成都のユニコーン予備軍は既に70社ほどあるという。


成都極米科技 (XGIMI)のプロジェクター販売店(ジェトロ撮影)

成長段階に応じた支援スキーム

成都市は、支援対象とするスタートアップ企業をあらかじめ選定の上、リストに登録し、登録企業の成長段階に応じた支援を行っている。シードステージと呼ばれる創業期の企業に対しては、20万元を上限に年間の研究開発費の10%を補助する。

販路拡大期にあるユニコーン企業予備群に対しては、市外での年間売上高が1億元、5億元、10億元を超えた場合に、それぞれ30万元、50万元、100万元を支給するほか、海外展開支援として、海外で開催される展示会および投資マッチングイベントに参加する場合は、それぞれ1回当たり最高50万元、100万元を補助する。

金融機関に対しては、ニューエコノミー分野の零細企業に貸し付けた金額の残高が前年比20%を超えた場合、超えた部分の1%について100万元を上限に奨励金を支給する。また、科学技術分野のマイクロファイナンス機関に対しては、スタートアップが研究開発を行うための資金を投資して損失が生じた場合、200万元を上限に投資額の20%を補填(ほてん)するなどの制度を設けている。

マッチングや会員交流の機会を提供

委員会が公開している「The City Opportunity List」には、成都での製品・サービスの調達や協業ニーズ、スタートアップが提供可能な製品・サービスなどが、利用場所やオケージョン、企業名、担当者名、連絡先とともに掲載されている。調達先や販売先、開発などのパートナーを探す、マッチングリストのようなものだ。2019年12月現在、第4版まで公表されており、第5版が2020年の第1四半期に公表される予定。クラブの会員間の交流も活発だ。研究院が中心となって、座談会やマッチングイベントを定期的に開催している。また、研究院の展示ショールームには、都市建設や家庭、工場、医療、食品安全、流通など、さまざまな活用分野ごとに、クラブ会員企業の製品やサービスが紹介されている。


成都新経済発展研究院展示ショールーム内の様子(成都新経済発展研究院提供)

研究院では、2019年から海外にも目を向けた活動を開始。会員企業とともに、6月から12月にかけて、フィンランド、ドイツ、オランダ、オーストリア、日本、韓国を相次ぎ訪問した。次回は、イスラエルへの訪問を計画している。日本では東京、大阪を訪問し、企業やスタートアップ支援を行う機関などを回った。訪日を終えて、研究院の幹部は「日本側の反応は良かった。今後、機関同士の交流や、イベントの相互連携、企業間のマッチングなど、活動の幅を広げていきたい」と、日本との連携に強い期待感を示している。

執筆者紹介
ジェトロ・成都事務所 所長
田中 一誠(たなか かずしげ)
2005年、ジェトロ入構。対日投資課、地域支援課、ジェトロ・上海事務所、企画課、ものづくり産業課を経て2018年2月よりジェトロ・成都事務所勤務。