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マハティール政権誕生から1年、マレーシアの今(2)
マレーシアの有識者に聞く:首相交代などの不確実性が今後のリスク要因

2019年6月11日

マレーシアにとって歴史的な初の政権交代から1年が過ぎた。与党・希望連盟(PH)による5年の任期の1年目が終わった今、マレーシアの現在と今後をどうみればよいか、マレーシア人有識者2人に話を聞いた。2回目は、政府系シンクタンク・マレーシア経済研究所(MIER)のシャンカラン・ナンビア上席研究員へのインタビューを紹介する。(インタビュー日:4月18日)(1回目は6月11日記事参照)。

質問:
新政権誕生から1年が過ぎたが、現在の経済についての見解は。
答え:
マレーシア経済はやや減速気味だ。主因は、前政権における多額の政府債務を改善するための支出抑制と世界経済の減速にある。過去10年、経済成長の牽引役は内需が担っており、輸出の寄与度は伸び悩んできた。マレーシアの地場製造業も、安価な労働力を求めて生産拠点を海外に移転してきたことなどから、高度技術を導入した国内の生産性向上が実現できていないことも背景にある。マレーシアは3,200万人の市場であり、内需だけに頼った経済成長には限界がある。政府には、特に製造業における外国投資を積極的に誘致するなど、輸出増加への対策が必要だと考える。
質問:
政権交代後のマレーシアにおけるビジネス面でのメリットとリスクは。
答え:
一番のメリットは、政府が汚職のない、透明性の高い政権運営を目指している点だろう。他方、現時点の政府の方向性はやや明確ではないと感じている。例えば、政府はより魅力的な投資環境整備をしていく方針を示しているが、具体的な内容は説明されていないのが現状だ。現在、2020年から始まる第12次マレーシア計画の策定段階であり、国としての重点分野や優遇措置などの今後の方向性が明示されることを期待している。
質問:
2018年10月末にインダストリー4.0に関する国家政策が発表されたが、マレーシアにおけるインダストリー4.0導入促進の展望と課題についての考えは。
答え:
インダストリー4.0の導入については、段階的なステップを踏んでいくことが重要だ。マレーシアの現状では、インダストリー4.0を受け入れる産業の素地、市場ともに不足している。特に人材不足は最大の課題だろう。
質問:
環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)や、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に対するマレーシアの姿勢についての考えは。
答え:
所轄省庁であるマレーシア国際貿易産業省として、TPP11に関しては立場をはっきりさせることに前向きではないようだ。しかし、既に署名を完了している今、合意された協定から離脱することは信頼を損なうとして、マレーシアに与える影響の確認を行っている状態が依然続く。主な懸案事項は、知的財産保護、政府調達、投資家対国家の紛争解決(ISDS)となっている。
他方、RCEPについては、前向きに捉えているようだ。2019年中の妥結を目指しているが、他国の状況をみるとやや難しい印象もある。マハティール・モハマド首相は交渉参加国の中でも最も年長であることから、リーダーシップを取るにふさわしいと考えるが、現状では国内の課題で手一杯なのが実情だ。日本企業がマレーシアをはじめASEANを市場と捉えている点から、日本がRCEP交渉で重要な役割を果たすことを期待している。
質問:
マハティール首相は2~3年で首相を交代すると発言しているが、後継者および首相交代後のリスクは。
答え:
マハティール首相は人民正義党(PKR)党首のアンワル・イブラヒム氏を後継者とすると発言しているが、アンワル氏が次期首相となるかどうか一定の不確定要素があるようだ。また、首相交代に伴い、内閣改造が行われる可能性も高い。国家として、こうした政治の不確実性がある点はリスクとなりうるだろう。
質問:
今後2~3年のマレーシアの政治および経済の見通しは。
答え:
世界経済の減速に加え、首相交代など国内政治の動きが予測されることから、向こう数年のマレーシア経済は楽観的とは言えないだろう。また、ビジネスコストの増加による経済への影響も懸念される。マレーシア製造者連盟(FMM)が行った調査によると、物品・サービス税(GST)から売上税・サービス税(SST)に変更となってからのビジネスコストについて、企業はSSTの10%を超える負担を負ったとの結果も出ている。

透明性向上は評価、経済への対応が課題

政権交代により、汚職・不正がなく、透明性の高い政権運営を目指す政府となった点が大きな変化であり、評価されていることは、マレーシアの共通認識のようだ。しかし、GSTからSSTへの移行による税収減、任期中の退任を明言しているマハティール首相の後継など、新たな課題もある。2019年は、世界経済の減速とともにマレーシア経済もやや停滞する見通しだが、今後のマレーシア経済の牽引役として、内需強化に加えて、中長期的で具体的な産業政策、ビジネスフレンドリーな投資環境整備など、外国直接投資促進に大きくかじが切られることを期待したい。

略歴

シャンカラン・ナンビア氏
マレーシア科学大学(USM)で経済学博士を取得。政府系シンクタンク・マレーシア経済研究所(MIER)上席研究員として、マレーシア財務省、国際貿易産業省、国内取引・消費者省のコンサルタントを務め、第3次産業マスタープランなどの政策の起草に携わる。東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)の学術諮問委員会のメンバーも務め、ASEANが締結する自由貿易協定(FTA)の可能性調査を実施した。主な研究分野は、貿易政策、産業育成、競争法、貧困問題など。著作に「マレーシア経済:政策と目的の再考(The Malaysian Economy: Rethinking Policies and Purposes)」がある。

マハティール政権誕生から1年、マレーシアの今

  1. マレーシアの有識者に聞く:汚職ゼロへの取り組みが最大の変化
  2. マレーシアの有識者に聞く:首相交代などの不確実性が今後のリスク要因
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)(2010~2014年)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)(2014~2015年)、海外調査部アジア大洋州課(2015~2017年)を経て、2017年9月より現職。

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